21 海洋王国ルーネシア

 次の日の朝。俺たちはテーテュースに乗り込んで、いよいよ海洋王国ルーネシアに向けて出航することになった。
 この島にはノルンの手で転移魔方陣が設置されており、もういつでも来ることができる。将来、エストリア王国アルにある俺たちの拠点ホームからあちこちへ転移することを考えて、この島に楽園パラディーススと名前をつけた。もちろん転移可能なのは俺たちのチームだけだ。
 サポートシステムが用意した指輪を仲間に配った。ナビゲーションで「サポートリング:テーテュース」とあるこの指輪は、テーテュースの操船者の証でもあり、サポートシステムとリンクしている指輪だ。これを利用してサポートシステムに念話を送り指示を出すことができる。
 なおこの船にも転移魔方陣を設置してあるので、船に乗りながらエストリア王国アルへもパラディーススへも行くことができる。オート航行システムとあわせれば実に快適な船旅ができるだろう。

 ノルンたちも昨日のうちに船を確認にきて、さっそく船室キャビンの割り振りをしていた。俺は昨日の船の確認で妙に精神的に疲れてしまって、正直、早く誰かに癒やしてもらいたい。……ちなみにみんなには詳しい機能はそれほど説明はしていない。特に武装関係は。

 朝から暑く湿った風が吹いているが、気持ちが良い青空の下で、俺たちはお世話になったこの島、パラディーススを出航した。

 早速、オート設定でルーネシアに向かう。
 「目的地設定海洋都市ルーネシア首都。主動力を魔力、サブ動力を風力に設定。海流を利用し、到着予想十三日後の二三時です」
 船長室で俺と一緒にいるセレンが驚いて、
 「へぇ。結構な速度が出るのね。ここからルーネシアって七〇〇キロぐらいあったはずよ」
と言うと、サポートシステムが、
 「セレン様。その通りです。急ぎであればワープ機能で一瞬で行くことも可能です」
 「は? ワープ機能?」
 俺は苦笑いしながら、
 「長距離転移のことさ」
と言うと、目を丸くして、
 「さすがは海神様の船ね」
とつぶやいた。

 まあ、十四日間の海の旅だ。優雅にクルージングと行こうじゃないか。

――DAY-01 14:00

 デッキにベンチを出して、みんなで海を眺めている。
 濃い青の空には太陽が輝き、遠くに白い雲が浮かんでいる。吹き抜ける風がとても心地よい。
 「あっ! 見て見て!」
 ノルンが指を指した先を見ると、イルカの群れが波間をジャンプしていた。
 回転ジャンプ、数匹で一緒にジャンプ。まるで波と戯れるようにくるくる回転しながらジャンプを繰り返している。
 ヘレンたちは初めて見るイルカのジャンプに興奮しながら見ている。
 「また跳んだ!」「かわいいわ」「くるくるって気持ちよさそう!」
 その様子をセレンが優しく見守っている。
 「イルカたちね。ジージー。キュキュキュキュ。ミミミミ……」
 セレンがイルカの鳴き声をまねる。
 「セレン。それは?」
とノルンが聞くと、セレンはウインクしながら、
 「イルカの鳴き声よ。見てて」
としばらく鳴き真似をした。
 「あっ! こっちに来るみたい!」
 イルカを見ていたサクラが叫ぶ。すると、イルカの群れが確かにこっちに向かっていて、船と平行するように泳ぎだした。
 「ふふふ。良い子たち」
 セレンも立ち上がってイルカたちを見てそういった。
 なるほどね。セレンが呼んでくれたのか。

――DAY-02 10:30

 今日もおだやかな天気で、昼間はサポートシステムに相談して釣り具を創造した。
 そう。トローリングだ。
 サポートシステムの助けを借りながら、ルアーを海に放り込みタックルを流す。
 仕掛けが小さなしぶきを上げながら海面を走り出す。
 みんなは後ろで俺が何をするのか興味津々の様子で見学をしていた。

 少しすると、グインッと魚がかかる。
 「来た!」
 ギュイィィとラインがどんどん持って行かれる。グリップエンドを腹に当てて竿を立てる。リールを巻きつつ、魚が弱るのを待つ。
 「結構重いな」
 魚との駆け引きをすること約一時間三〇分。ようやく魚も力なくリーリングするのが楽になってきた。俺は、ノルンに、
 「網を頼む!」
と言うと、柄の長いタモを持ってノルンが俺の隣にやってきて、海面を見下ろした。
 ようやく魚が見えてきた。……って、あれはカジキか?
 「ちょ、ちょっと! この網じゃ入らないわよ?」
 ノルンが焦ったように言うが、確かにその通りだ。むむむ。どうする?
 困っていると、どこからかモリを見つけてきたセレンがやってきて、
 「えいっ」
とカジキに刺す。それを見てノルンがハルバードを取り出して、斧の部分をカジキにたたき込んだ。
 「「重いぃぃ。……よいしょっと」」
 二人とも身体強化をして、息を合わせてカジキを船縁から甲板に取り上げた。
 「「「うわ! でかっ!」」」
 カジキを見たヘレンとサクラとシエラが驚きの声を上げた。
 俺は額の汗をぬぐいながら釣り上げたカジキを見下ろす。取り上げてくれたノルンとセレンと一緒に「よしっ」とガッツポーズをした。
 全長約三メートル三〇センチ。胴回り約一四〇センチ。重量約二三〇キロ。文句なしの大物だと思う。
 ヘレンがしみじみと、
 「すごいね。こんなのが釣れるなんて」
とカジキを見てつぶやく。サクラが目をキラキラさせながら、
 「さすがはマスターです! にひひ。お刺身! お刺身! うっれしいな!」
と叫ぶ。確かに旨そうだ。ベルトニアでロンギさんから醤油とわさびをゲットしておいて良かったぜ。

――DAY-03 18:30

 船の後部にあるダイニングデッキにみんなが集まっている。

 ゆったりと穏やかな時間。
 遠く海の彼方には雲が出ており、その雲の向こう側に太陽が沈もうとしている。そのダイナミックな光景を見ながら俺たちはゆったりとお酒を飲んでいた。
 ワインの入ったグラスをかたむけ、ある人物の準備が整うのを待つ。
 「皆様。そろそろ準備ができたようです」
 サポートシステムのアナウンスが聞こえて、みんなで船室に通じるドアを見ると、白い生地に銀糸をあしらった美しいナイトドレスを着たセレンがやってきた。手には金色の竪琴を持っている。
 「おまたせ」
と言いながらセレンは俺たちの正面のイスにゆったりと腰掛ける。大きく開いた胸元からなめらかなバストがのぞいて見え、ドレスの裾からは白くしなやかな足が伸びている。
 「それではまず一曲」
 ポロロンと竪琴を弾き鳴らし、セレンの美しい歌声がつむぎだされる。
 最初の一曲はのどかな船乗りの歌、バルカローレ(舟歌)。本来は野太い太陽のような印象を受けるはずの歌も、歌姫セレンの美しい声と旋律では透き通った月のような印象を受ける。
 つづいてミルラウスに伝わる恋の小夜曲セレナーデ。バラッド。そして、アリアとつづいていく。
 サンセットを背に、美しい歌声が体を通り抜け海風に乗ってどこまでも響いていく。
 ワインを飲むことも忘れ、じいっと聞き入っているうちに自然とセレンが愛おしくなっていく。
 歌が終わりみんなが拍手をすると、セレンはにっこり笑いながら俺のそばにやってきた。
 「私の歌はいかが?」
 少し紅潮した頬をしているセレンを見上げながら、
 「魅了されたよ。美しすぎてなんて言ったらいいかわからないよ」
と言うと、うれしそうに微笑んだ。そこへノルンがイスを持ってきてくれて、セレンも座った。
 俺はセレンにグラスを渡してワインをついだ。
 そこへノルンが、
 「まさか本当に魅了の効果を乗せてくるとは思わなかったわ」
というと、セレンはいたずらがばれたように小さくホホホと笑い。
 「あら? ばれた? これで今晩はご寵愛をいただこうかと」
 ……え? 本当に魅了を受けてたの?

 こうして俺たちのクルーズは穏やかに過ぎていった。

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