23 嵐の主

 ルーネシア本島に近づくにつれ、嵐と雷が激しくなっていく。
 結界の外に見える世界の終焉しゅうえんのような光景に、船長室に集まったみんなは言葉もなく、ただ荒れ狂う海と空を見つめている。
 フェリシアもノルンの肩に止まって、じっと外の風景を見ている。

 「本島の上空に敵影を発見しました」
 「敵影? 映し出してくれ」
 「了解しました」

 舵を握りながら指示をすると、正面のスクリーンにルーネシア本島上空の分厚い雲がアップで映し出された。雲間から黒い蛇身がうねるように蠢いている。
 「なんだあいつは?」
 「該当生物を検索します。――――、該当0件。正体不明です」
 俺はうなりながら船長室の正面の窓から、遠くにかすかに見える黒い何かを見つめる。

――暴風竜ムシュフシュ――
 黒い鱗をした、この世のものならざる巨大な蛇の魔物。嵐を呼び、不幸をもたらす。
 神話クラスの怪物。瘴気に犯されている。
 ランク:――

 「ムシュフシュだと……」
 シュメール神話に出てくる神獣ともいえる巨大な化け物。そんなのが一体なぜここに?
 サポートシステムの音が聞こえたのだろうか。ノルンが船長室にやってきた。
 「ジュン! あれは人の手には負えないわ。……あなたと私でないと!」
 ……おいおい。いくら聖石の力があるからって、俺たちの手に負えるのか?
 俺はスクリーンをじっと見つめた。いや、あれは無理だろ……。

 その時、突然、ピピピピッとアラーム音が鳴りひびいた。
 「なんだ?」と問いかけると、サポートシステムが、
 「時限式メッセージの開封時間です」
 時限式メッセージって何だ? いや文字面からなんとなくわかるが、なんでこんな時に?
 そんな疑問を横に置いておいて、「内容を教えてくれ」と指示をすると、
 「かしこまりました。『聖石の力を共鳴して退治せよ。――海神セルレイオス』」
 なに? セルレイオス様から? ……まさかこの事態を予測して?
 メッセージを聞いたノルンがすぐさま封印術式を解除する。まばゆい光がノルンを覆い、その肩のフェリシアの全身が赤く光り始める。前より強力な波動。これは海神の聖石のせいだろうか。
 そうだな。何を弱気になっているんだ、俺は! 海神からも力をもらったじゃないか。倒せなくともルーネシアから追っ払うくらいはできるだろう。
 俺はヘレンたちの方を向く。
 「みんな。俺はノルンと行って大蛇退治をしてくる! みんなは危険だから待避して欲しい」
 ヘレンたちが心配そうな顔で、
 「本気であれと戦うの?」「そうですよ! いくらマスターだって、あんな化け物をどうにかできるんですか?」「さすがに無理があるんじゃ……」
ただ一人セレンだけが真剣な目で何も言わずに俺とノルンを見ている。
 俺は安心させるように笑いかけ、
 「大丈夫だ。海神様より力もいただいた。さっきのメッセージは俺とノルンなら倒せるからセットされていたんだろうさ」
と言いつつ、封印術式を解除する。内部から激しい力が光りの奔流となってあふれ出て、体に満ちる。二つ目の聖石を取り込んでより強くなった力にまだ慣れない。
 ただ一人セレンだけが真剣な目で、
 「海神様からの使命。私は行くなとは言わないわ。……だけどやばそうだったら絶対に逃げてきて。二人とも私たちにとって大切な人なんだから!」
と言うと、ヘレンたちもうなずいた。
 俺とノルンはうなずいて、
 「「じゃあ、行ってくる」わ」
と行って船長室から甲板に出た。

 二人でルーネシア本島上空の暗雲を見上げる。
 ノルンの方に左手を掲げ、
 「行くぞ!」
と言うと、ノルンがハイタッチし、
 「ええ!」
と返す。俺とノルンが甲板から空に浮かびながら、抑えていた力を少しずつ解放していく。ノルンの肩から飛び立ったフェリシアが赤く光りながら徐々に大きな鳥の姿へと変化していった。
 二人を中心に風が渦巻き光りの衣がはためく。俺はフレイムエレメントソードを鞘に入れたまま左手に持つ。ノルンは力の解放によってまばゆく輝くハルバードを両手に持った。
 グンッと二人でテーテュースの結界の外に出て、そのまま荒れ狂う雷雨を切り裂き、一条の光となって本島の上空へと突き進んでいく。

 (雲が邪魔だ。……ノルン。頼む)
 ノルンに念話を送ると、ノルンはすぐにハルバードを前に突き出した。その先端に巨大な火球が生まれ、まっすぐに雲の中へと飛んでいった。
 一瞬の後、凄まじい閃光とともに雲が吹き飛ばされ、その中から翼を持った巨大な黒い蛇の姿が現れた。爆風におくれてズズズンと音が聞こえる。蛇は火球に焼かれあちこちから煙を立ち上らせたが、あまり効いていないようだ。
 俺とノルンを敵と認識した蛇が鎌首を俺たちに向ける。その身をくねらせ、鞭のように尻尾が飛んでくる。
 俺とノルンは上下に分かれてぎ払いをよけ、俺はそのままフレイムエレメントソードに聖石の神力を込める。剣身から神炎ともいうべき炎が立ち上った。
 ムシュフシュのかみつき攻撃をよけて、頭の後ろに斬りかかる。
 ギャリギャリギャリ。
 剣がムシュフシュの鱗の上を滑った。
 「ちぃっ。まだ力が足りないか!」
 悪態をついてムシュフシュから離れると、背後で四方八方からムシュフシュに向かって光弾が放たれた。
 ボゴォッと、一発一発が当たる度に鈍い音を立ててムシュフシュを打ち据える。
 「ギョイィィィィ」
 痛みにのたうつムシュフシュだったが、その目が赤く光るとその身から凄まじい雷撃を放った。
 バリバリと空気を切り裂いて雷撃が迫る。瞬時に気を張り巡らすと、俺の体が薄い光のベールに包まれた。雷撃がその表面を流れるように後方へと通り過ぎていくが、俺には何の痛痒つうようもない。
 ノルンの方はと見ると、光の防護魔法ライトウォールでフェリシアともども雷撃を防いだようだ。

 (ジュン! 仕掛けるから時間を稼いで!)
 (わかった!)
 魔力と聖石の神力を高めるノルンを感じながら、俺は分身二十四身と共にムシュフシュに斬りかかる。
 「ミラージュ・スラッシュ!」
 ガガガガと斬りつける度にムシュフシュが踊るようにのたうつ。かみついてくるムシュフシュをかわし、今度は頭を殴りつける。
 ドゴンと音を立てて、ムシュフシュが吹っ飛んでいった。
 空中で体勢を立て直したムシュフシュが口を開くと、そこから紫のブレスが放たれた。
 ――毒の息アシッド・ブレスか?
 俺はフレイムエレメントソードに再び神炎をまとわせると、その炎で紫のブレスを切り裂いた。散り散りになった紫のブレスが神炎に焼き尽くされていく。
 (準備できたわ)
 その時、ノルンの念話が届く。……見ると、周囲の空域にいくつもの魔方陣が浮かんでいた。巨大な立体魔方陣だ。
 後は、ムシュフシュに一撃を与えて気をそらすだけ――。
 俺は一気にムシュフシュに近づき、その横っ面を思いっきりぶったたいた。
 「ギイイィィ」
 ムシュフシュは、きしんだような鳴き声を上げながら、口からよだれを出しながら頭をふらつかせる。
 俺は待避しながら、
 「今だ!」
とノルンに向かって叫んだ。
 ノルンが魔法のトリガーを引く。
 「神雷業火ケラウノス
 ムシュフシュを囲んだ魔方陣から雷や炎が吹き出して、内部で荒れ狂う。ムシュフシュはなすすべもなく叫びながら雷や火に焼かれていく。
 これでどうだ!
 しかし、思わず、
 「倒したか?」
と言った言葉がフラグになったように、さらなる上空から一条の黒い光が魔方陣を貫いてムシュフシュに届き、瘴気が流れ込んでいく。
 「なんだ?」
 思わず上空を見上げると、そこに黒いぼろのローブに身を包んだ人物がいた。
 「グラナダか?」
と叫ぶと、
 「ふはははは! 邪魔な奴らめ!」
と良いながら、瘴気を集めた黒い槍を放ってきた。

――呪恨の天災フォラス――
 種族:?? 年齢:??
 称号:?????
 加護:??の加護
 スキル:???????????

 「ちぃ。呪恨の天災だと? グラナダの仲間か!」
 グラナダではないようだが、天災の一派。名前しかわからない。空に渦巻く瘴気をその体に集めていやがる。
 奴に斬りかかろうとすると、
 「気を取られていていいのかな?」
と馬鹿にしたように言われる。
 「何を――!」
 言い返そうとした時、ムシュフシュの尻尾が横殴りにおそってきた。慌てて両手でブロックするが、俺の体ははね飛ばされた。
 「ぐわぁ!」

翼のある蛇だとケツアルコアトルのイメージが強く、あんまりムシュフシュのイメージはありませんが、ヴァルガンドのケースとお考え下さい。
(名前を流用しました)

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