25 響き合う力

 「大丈夫か!」
 海に落ちたテーテュースに念話を送ると、サポートシステムが、
 「こちらの損傷はありません。乗員も無事です」
と伝えてきた。

 海竜王リヴァイアサンが現れたことにも驚いたが、どうやらミルラウスの人魚たちも応援にやってきたようだ。
 戦いが終わったらゆっくり話をしたいところだが、まずは呪恨の天災フォラスとムシュフシュをどうになしなくてはならない。
 俺の横にノルンとフェリシアがやってきた。その時、リヴァイアサンのブレスを受けたフォラスが、
 「面白くなってきたところで邪魔な奴が来たな。……この場は失礼しよう。相手はこいつに頼んでおくから、楽しんでくれ! ふはははは!」
と笑い声を上げ、
 「瘴呪!」
 フォラスからひときわ濃い瘴気の塊がムシュフシュめがけて放たれた。ムシュフシュが瘴気を浴びて、不気味に赤黒く脈動しながら光る。
 あの現象は……、フルール村のオークキングの時と一緒か?
 慌ててノルンが二つの魔方陣を空中に作り上げると、即座に、
 「逃がさないわ! ……メギドフレイム!」
 銀光を帯びた真紅の炎が上空のフォラスに飛んでいくが、炎が到達する直前に、フォラスは姿をすっと消えた。
 「ふははははは」
 虚空こくうに笑い声だけが響き渡った。

 いまだに吹き荒ぶ風の中を、俺とノルンはムシュフシュと対峙した。
 眼下の海では、海竜王リヴァイアサンが再び海に潜り、人魚たちの光を率いて南方へと遠ざかっていった。
 って、まだ敵がいるんですが? ……まさか俺たちに任せたってことか?
 そう思いながらフレイムエレメントソードを構え直して、ムシュフシュに向き直った。
 カッ!
 ムシュフシュから黒い光が周囲に放たれ、その咆吼ほうこうが音の波動となって響き渡る。
 「くるっ!」
 黒い瘴気を口から吹き出しながら、顎を開けて俺たちの方へと突進してくる。俺とノルンとフェリシアは左右に分かれてそれをかわす。
 フレイムエレメントソードに聖石の力をまとわせ、切りつけるが斬撃がことごとく鱗で跳ね返される。
 「どんだけ固いんだよ!」
と悪態と付きながら距離を取る。反対側ではノルンが魔法を連発しているが、こちらも衝撃は与えるが思いのほかダメージは与えられていないようだ。
 一端距離を取り、少し高いところまで昇った。
 「もっと力を!」
 フレイムエレメントソードにまとわせた力を、さらに一段階上げた。全身からあふれ出る光が剣に集約していく。
 ピキッ。パリンッ。
 次の瞬間、剣が粉々に砕け散り粉々になって空に散っていった。
 くそっ。耐えきれなかったか! ……どうする? 
 動きを止めた俺の脇を、フェリシアが炎の矢となって突進してムシュフシュの後頭部に襲いかかり、そのままルーネシアの上空から海上まで押し込んでいった。
 隣にノルンがやってくる。
 「ジュン。海神セルレイオス様の言葉を思い出して」
 「セルレイオス様の言葉?」
 そう聞き返すと、ノルンは、
 「――聖石の力を共鳴させて、と」

 目の前では海面のテーテュースから、魔法の対空ミサイルが次々に発射されムシュフシュに襲いかかる。爆風が次々に上がり、その煙に紛れてフェリシアが四方八方から攻撃を加えている。

 「しかし、どうすれば……」と言いよどんだ俺だったが、ノルンが俺の左手をとって、
 「私にもわからないけれど、やってみましょう!」と言った。
 ノルンと向かい合って浮かび、両手をつないで目を閉じる。
 俺の中の聖石の力がまばゆい光を放っているのが見える。そして、同じ光が向かい側のノルンからも感じられる。
 俺の中の聖石とノルンの中の聖石が互いを照らす。神力が波動となってあふれ出すと、同じようにノルンの聖石も波動を放つ。互いの波動と波動とが重なり合う度により強い波動となって増幅する。無数のさざ波が集まり、重なって大きなうねりとなっていく。
 ゆっくりと目を開けると、俺とノルンを中心に光の波紋が幾重にも広がっていた。
 長い時間そうしていたように感じたが、一瞬にも満たない時間しか過ぎていない。
 「世界が輝いて見えるわね」
 ノルンがつぶやいた通り、空や海、雲に島々……、あらゆる存在が光り輝いて見える。その光の中で一箇所だけ黒い染みが広がっている。ムシュフシュだ。
 ……これが、聖石の共鳴。

 俺は右手をノルンから離してムシュフシュの方へ差しのばす。ノルンが左手を同じように差しのばした。
 「「浄化せよ!」」
 ノルンと異口同音に世界に命じる。俺の右手とノルンの左手から増幅された聖石の力がらせんを描く光線となって巨大なムシュフシュの体を覆い尽くす。
 黒い染みのように見える瘴気がどんどん浄化され薄くなっていく。
 「ギョ、ギョイィィ……」
 ムシュフシュの鳴き声が徐々に消えていき、その姿が消えると同時に完全に途絶えた。

 俺とノルンは光の放出を止めて、もとのように手をつなぐ。
 向かい合って微笑みながら、
 「「世界に祝福を」」
と宣言すると、光の波動が俺とノルンから周りの天地に広がって行った。

 空の暗雲は消え去り、雨上がりのように空気がキラキラと輝いているなかを、俺とノルンはフェリシアとともにゆっくりとテーテュースに帰還した。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です