28 パトリス国王との謁見

 朝食を採っていると、突然、宿の娘さんが慌てたようにやってきた。
 「ジュンさん! 王宮から使者が来ています!」
 「お、王宮から?」
 俺達は突然の知らせに思わず腰を浮かせる。
 「はい! 一緒に馬車にのって来て欲しいそうです。」
 昨日、入国管理局で説明したばかりというのに、思ったより早いな。驚きながらも、娘さんの後ろからやってきた男性を見上げると、
 「ジュンさんですね? ルーネシア王宮の侍従長をしております。ニフラムと申します。恐れいりますが、ギルドカードを確認させてください」

 俺たちはギルドカードを提示すると、ニフラムさんの案内の通りに馬車に乗り込んだ。
 本格的な復興は今日からだろう。いまだに惨状の生々しい街なかを馬車が進んでいく。
 俺は不安になって、ニフラムさんに、
 「謁見なんて初めてなんですけど、こんな服装でいいんですか? ……それに礼儀作法もさっぱりですが、大丈夫ですかね?」
 ニフラムさんは微笑みながら、
 「ああ。大丈夫ですよ。ルーネシアの王族の方々は、そういうことを気にされないというか、フレンドリーですので」
 「そうですか。それならありがたいですね」

 そうして俺たちはルーネシアの王宮に案内された。
 どうやら王宮内には結界が張ってあったようで――ノルンが感知した――、街とは対照的に王宮内は美しいままだった。
 南国ムードのただよう美しい中庭を見ながら、ニフラムさんの後について回廊を歩く。
 とはいえ、謁見を控えて緊張に包まれた俺たちには、王宮の景色や調度品を味わう余裕など無く、まっすぐ歩くだけで精一杯だ。

 大きな扉の前に来ると、ニフラムさんが衛士に合図する。
 「それでは……これから陛下と謁見します。私と同じように膝をついてください」
 「わかりました」

 外の衛士が中に合図すると、内側で待機していた衛士が、
 「冒険者ジュン殿の一行が入ります!」
と言っているのが聞こえた。
 目の前で、扉がゆっくりと開いていく。ニフラムさんが一礼して部屋に入っていき、俺たちもそれにならって中に入った。
 謁見の間の王座には一人の壮年の男性が座っており、その隣には同じくらいの年頃の美しい女性が座っていた。
 手前でニフラムさんにしたがって、俺たちも膝をつく。

 「陛下。ランクC冒険者ジュン殿の一行です。……さ、ジュンさん。お一人ずつ、お名前を申し上げてください」

 「はい。お初にお目にかかります。リーダーのジュン・ハルノです」
 俺は膝をついたまま顔を上げて言上する。つづいてノルンたちが一人ずつ挨拶を申し述べた。
 一通りの挨拶を終えると、国王が、
 「うむ。よく来てくれた。私が国王のパトリス・ルーネシアだ。こっちは妻のサマンサ。……時にセレン殿はもしやトリトン王家の者では?」
 やはりこの方がトリスタン船長の兄だ。あの船長が年を取ったらこのような顔になったのだろう。
 それに、セレンの名前を聞いただけでミルラウスの姫と看破かんぱするとは、この王様はなかなかするどい。……いや、同じく海の国だ。知っていてもおかしくはないか。
 セレンは優雅に微笑み、
 「はい。そうですわ。陛下」
 「やはりそうであったか。この出会いを海神セルレイオス様に感謝しよう。……我が国を苦しめていたあの化け物を、海竜王様とミルラウスの軍が退治したと報告が来ている。ありがとう」
 そう言って国王はわずかに頭を下げた。それを見たセレンが慌てて、
 「いいえ。私は姫の一人にすぎません。陛下が頭を下げられる理由はございませんわ」
と申し上げるが、国王は笑いながら、
 「いや。これはそなただけでなく、ミルラウスの全ての方に対する私の率直な気持ちだ。……あのままだと我が国が滅んでいたかもしれぬ。本当に感謝しているよ」
 「陛下。海に生きる者は互いに助け合うものです。ですが、そのお気持ちはありがたいと思います」
 セレンの言葉に、「うむ」とうなづいた国王は俺の方を見て、
 「今日呼んだのは他でもない。入国管理局より報告があり、是非とも我が弟トリスタンの話を直接聞きたかったのだ」
と述べられた。俺は、
 「かしこまりました。あれは私どもがエストリアのベルトニアで鮫退治に出発した後のことです。――――(説明中)――――最後に私どもは、殿下よりイリーシャに殿下の日記を渡すように依頼を受けてございます」
 経緯を申し述べると、パトリス国王はまるで黙祷するかのように、目をつぶってしばし沈黙した。
 やがてゆっくりと口を開き、
 「そうか。そうであったか。トリスタン……。三十三年もお前は海を漂っていたのか」
と寂しそうにつぶやいた。
 ノルンが、アイテムボックスから日記を取り出し、
 「陛下。トリスタン殿下の日記はこれでございます」
と言って、ニフラムさんに日記を渡した。
 ニフラムさんは日記を押し戴き、ぱらぱらっと中を確認してから、壇上の陛下のところへ持って行った。
 パトリス陛下は目を細めて、大切そうに表紙をなで、
 「確かに、この日記帳は私とトリスタンが子供の頃に母よりもらったものだ」
とつぶやき、そっと中を開いた。
 しばらく日記に目を通されているうちに、陛下の目から涙があふれる。
 「トリスタン……。私たちは待っていたのだ。お前がイゾルデ嬢を連れてくるのを。……だが、まだ終わってはおらぬ」
 陛下は日記の最後を読むと、再びニフラムさんに手渡し、ニフラムさんがノルンに日記を渡した。
 「その日記は、そなたたちがトリスタンより預かったものだ。……どうか、そのイリーシャという方に渡してくれ。そして、イリーシャ殿にルーネシアに来ていただきたい」
 陛下は、そばの侍従に何事かを告げ、俺たちに依頼をした。
 「そなたたちに私たちからも依頼をしよう。明日までに手紙を預けるので、それをイリーシャ殿にお渡しして欲しい」
 俺は頭を下げ、
 「陛下。謹んでお受けいたします。……我々もトリスタン殿下とイゾルデ様の物語を、最後まで見届けたく思います」
と申し上げた。国王は微笑みながら、鷹揚ようようにうなづき、
 「うむ。頼んだぞ。……おっと、そうだ何か報酬を渡さねばならないな」
 報酬。その言葉を聞いて、俺達は思わず隣に並んでいるみんなの顔を見た。小さい声でノルンがつぶやく。
 「ジュン。遺跡にある壁画」
 ノルンの声が聞こえたのだろう。みんなも小さくうなづいている。
 「陛下。一つお願いがあります。この王宮の北側に遺跡があると聞きます。そこにある壁画を拝見したいのです。」
 「む? 北側? 海神様の洞窟か? ……あそこは王家の聖地とされていて、立入禁止となっているんだが……、よかろう。それほど広い遺跡ではない。ニフラム。後ほど案内せよ」
 「はい。かしこまりました」
 「うむ。ではな。よろしく頼んだぞ」
 「ありがとうございました」
 俺たちはパトリス陛下にお礼を申し上げると、ニフラムさんの後について謁見の間から退出した。

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