06 少年と時計台

 店を飛びだした俺は左右を見渡した。が、すでにヘレンの姿は見えない。
 「くそ!」
 ノルンがサクラとシエラに指示を出す。
 「いい? サクラは私と、シエラはジュンと! 何かあったら念話で連絡! フェリシアは空から探して!」
 「はい!」「わかりました!」(了解です! マスター!)
 二手にわかれて俺たちは町の中へと駆け込んでいく。

 それから一時間ほど、必死に声をかけながら走る。
 「ヘレェン! どこだ!」
 その時、ノルンの念話が届いた。
(ジュン……。見つかった?)
(いいや。駄目だ。ノルン。そっちも駄目か……。フェリシアは?)
 上空のフェニックス・フェリシアは、
(申しわけありません。これだけ人が多いと……)
 だめか……。くそ! なぜ! こんなことに!
 悪態をついたとき、頭にひらめいた。
 「あ! そうか! ナビゲーションだ!」
 なんで大事なときに忘れていたんだ。慌てて、
 「探索 ヘレン」
とつぶやいてユニークスキルのナビゲーションを起動する。
 脳裏にピコーンという音が鳴り、目の前に青い矢印が表れた。距離は……。は? 1キロメートルからどんどんと離れていく。
 視界の端に映るヘレンのいる方向を示すナビゲーションの表示を見ると、どんどんと左手の方へと移動している。かなり早い。……乗り物か!
(ノルン! ナビゲーションだ! 何か乗り物に乗っているみたいだ)
(あっ! その手があったわ! なんで気がつかなかったのかしら。……本当ね)
 俺は上空を飛ぶフェリシアを見上げた。
(フェリシア、11時の方向。急速に離れている乗り物を探してくれ!)
 指示を出すと、すぐにフェリシアから、
(ここから見えるのは、10台くらいつながった細長い鉄の箱の乗り物が見えます。東へむかっていますね)
 「それだ!」
 俺の声が叫ぶと、ノルンの念話が重なった。
 (大陸横断鉄道だわ!)
 そうか。とにかく捕まってはいないようだな。俺たちもすぐに追いかけなければ……。
 俺はすぐに大陸横断鉄道の駅の近くにある、大きな時計台の下で集合するように伝えた。

――――。
 王都マキナクラフティにある時計台は、ロンドンのウェストミンスター宮殿にあるビッグベンのように、王都を代表する建築物だ。
 塔を見上げると、大きな時計盤の上に展望台が有り、そのさらに上に大鐘がつるしてあるそうだ。
 まずは駅で路線を確認し、ヘレンの行き先や様子を聞き込み調査をし、それから追いかけるつもりだ。
 そこへ一度、宿へ戻って宿泊をキャンセルしたノルンとサクラが合流した。
 どの顔もヘレンを心配しているのがありありとわかる。
 俺はみんなを見回して、
「ヘレンは大陸横断鉄道に乗った可能性が高い。まずは駅でそれを確認するともに、行き先を確認する。そして――」
 その時、突然、脇から、
「お兄ちゃん! ちょっといいかな?」
と一人の猫人族の男の子がやってきた。ハーフパンツにベストをしていて、頭にはベレー帽にゴーグルをしている。
 あまり余裕のない俺は、
「なんだ? 悪いけど、今は「だから、そのことだよ」……え?」
 みんなが男の子を見る。男の子は、
「僕はクロノ。お兄ちゃんたち。赤い髪のお姉ちゃんを探してるんだよね?」
 俺は思わず、
「知ってるのか?」
と、乱暴にその小さな肩をつかんだ。クロノは苦笑しながら、
「うわっ! びっくりさせないでよ。知ってるといえば知ってるのかな?」
「クロノ。頼む。そのお姉ちゃんは大切な人なんだ。……きっと、今ごろ一人で色々抱え込んで困っているはずなんだ。……今こそ、俺たちが助けてやんなきゃいけなくって、どんなことでもいい。知っていることを教えてくれっ」
 クロノはつぶらな瞳で俺の目をじっと見て、うなづくと、
「お兄ちゃん。綺麗な目をしているね。うん。わかったよ。……僕に、ついてきてくれる?」
と言った。
 俺は思わずクロノを抱え上げて立ち上がった。
「ありがとう。クロノ、案内してくれ。どこに行けばいいんだ?」
 クロノは時計台を指さすと、
「あそこから時計台に入って」
と言う。
「時計台? ヘレンはそこにはいないはずなんだが……」
「知ってるよ。……でもね。今、お兄ちゃんたちがあそこへ行くことが必要なんだよ」
 まるで禅問答のようなクロノの言葉に、ノルンが、
「ジュン。言うとおりにしましょう」
と背中を押す。そして、俺の耳元で、
「だって、この子。……精霊よ」
とささやいた。
 「えっ」と驚いて、クロノの顔を見ると、クロノはいたずらっぽく笑うとうなづいた。
「さあ、時間がないんでしょ? 早く中に入って!」
と俺の腕から飛び降りると、時計台の入り口に走り込んでいった。

 念のため、上空のフェリシアも呼んで、みんなで時計台に入る。
 中に入ると、十畳ほどの広いホールになっていた。正面の壁には大きなスリットが入っていて、その向こうに時計を動かすための大きな歯車がいくつも見えた。
 そして、妖精クロノは、その正面にある一枚のドアの前に立っていた。この子、いったい何の精霊なんだろう?
 俺たちの姿を見て、クロノは、
「このドアの向こうにボクの試練がある。それを乗り越えたら、お姉ちゃんを救う手がかりがあるよ。……だから、がんばってね」
と言うと、ゆっくりとドアを開けた。その向こうは異空間になっているみたいだ。
「救う手がかり? だが、そんな時間は……」
と言いよどむが、ノルンが、
「さあ、行くわよ! ヘレンを助けるんでしょ?」
と、俺の背中をばんっと叩いた。
 そうだな。精霊がこういうってことは、今すぐにヘレンを追いかけるよりも、この向こうの手がかりとやらを手に入れることが、結局はヘレンを救うことになるのだろう。
 「みんな! 行くぞ!」「「「はい!」」」
 俺たちは意を決してドアの中に足を踏み入れた。

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