11 シアタールーム 3

 扉を開けると、そこはあの映画館のような大ホールだった。
ふたたび席に座ると、目の前のスクリーンにクロノの姿が映し出された。
「やっほー。順調に進んでいるねー」
にこやかに笑顔で手を振るクロノに、俺たちは苦笑いを浮かべた。
「まあな……。それで次は第二部の上映かな」
それを聞いたクロノは、人差し指を立てて横に振る。
「ちっちっち。せっかちだなぁ。……ちなみに、ここは外界と切り離してあるから、中でどれだけ時間がかかっても、外の世界の時間は進んでないからね。……安心してお話ししようね」
「それはいいことを聞いた。……だが、それでも俺たちは、早くに探しに行きたいんだ」
俺がそういうと、隣にノルンが俺の手を握りしめた。
「ジュン。私も気持ちは一緒よ。でも、ここはあせらないで攻略した方がいいわ。……気持ちを落ち着かせて、ね?」
柔らかいノルンの手の温かさに包まれる。
「わかっているさ。……あせっては事をし損じるしな」
ノルンがニッコリと笑って、
「そう。ならいいわ」

 そんなノルンとの会話を待ってくれていたクロノが、待ちくたびれたように話し出した。

 「いい? 終わった?……いいなあ。お兄ちゃん。そんなに綺麗なお姉ちゃんたちに囲まれて。やけるよー。ひゅーひゅー!」
「……クロノ。そんな白々しいひゅーひゅーされても……、困るんだけど」
俺はそう言いながらも、照れて鼻の頭をかく。クロノは頭をかきながら、
「あははは。わかっちゃった? えへへへ。……で、お兄ちゃんたちは人魔大戦、魔族大乱とかっていわれるけど、どこまで知ってるの?」
「ほとんど知らない」
俺は、堂々と言い放った。……あれ? よく考えたら、サクラとかシエラは知ってるかもしれないな。
クロノは、スクリーンの中からジト目で俺を見る。
「……お兄ちゃん。威張っていうことじゃないと思うよ」
「ははははは。そうだな。はははは」
「……今度は笑ってごまかす。で、お姉ちゃんたちは?」
クロノの問いかけに、ノルンが首をかしげて、
「う~ん、私もあんまりよく知らないのよね」
「ま、もう一〇〇〇年前のことだもんね。あの戦争は、人族の間では魔族からの侵略戦争ってことになっているよ。で、主戦場はこのアーク大陸で、エストリア王国が召喚した勇者と各国からの軍隊がアークに集まって、アーク王国軍とともに魔族軍を破り、魔王を倒したってことになってる」
「ことになってる?」
と俺が聞き返すと、クロノはうなづいて、
「そういうこと。すべては映画をすべて見ればわかるよ。……で、魔族は人族よりも魔力が高く、強力な魔術をいくつもあやつり、身体能力も高くて一人一人が強いんだ。だけど人数がそれほど多くなくてね。結局、人族に負けちゃった。……お姉ちゃんを助けたいのなら、あの戦争の真実が何なのか。お兄ちゃんたちは、今、それを知らなければいけない」
そういうとクロノの姿が消えていき、第二部の上映が始まった。
ジジジジ。
ホールの照明が暗くなり、映写機の光がスクリーンに当たる。

――――。
最初のシーンはどこかの石造りの部屋のようだ。部屋といってもかなりの広さがあり、備えられた調度品はどれもが高級品に見える。

 部屋の中には三人の男性が見る。中でも壮年の一番偉そうな男性が、一人でソファに座り、老年の男性が対面して座り、その後ろに三十代後半と見られる大柄の騎士が立っていた。おそらく騎士団長だろう。

 ソファの男性が口を開いた。
「で、調査の方はどうだ? ピレト」

 対面している老年の男性がうなづいて、
「はい。陛下。……ようやくミスリル鉱脈の在処がわかりましてございます。やはり奴らの支配区域下にあり、どうやら今までで最大の規模のようです」
どうやらあの陛下と呼ばれたえらそうな男性が、一〇〇〇年前のアーク国王のようだ。その正面のピロトと呼ばれたご老人は宰相かな?
「ふふふ。そうか、鉱脈を見つけたか。……のう、ピレトよ?」
国王がニヤリと笑ってピレトを見ると、ピレトもニヤリと笑い返した。その黒い笑みに陰謀の匂いがする。
ピレトが、
「陛下、わかっております。……そろそろ不幸な事件が起きますな」
と言うと、国王がうなづいてピレトの後ろにいる騎士に視線を送る。騎士はだまってうなづいた。
国王は、
「そうよな。いたわしいことよ。……オファよ。騎士団の準備を静かに進めるが良い」
というと、オファと呼ばれた騎士は、
「はっ! すでに少しずつ進めております。……不幸な事件が起きるまでには間に合うでしょう」
とニヤリと笑ってみせた。
それに満足した様子で、国王は、
「ふふふ。これで忌々しい奴らより、言い値で買わずとも済むというものよ」
とつぶやくと、ピレトは、
「陛下。ですが、よろしいのですか? エクシア様と奴らの一人が恋仲のようですが……」
と尋ねた。国王は、フンッと鼻をならして、
「構わんよ。どうせ下賤の血の入った妾腹の子よ。……そうよな。我らの役に立ってくれればそれで良いな」
ピレトは、ふふふと笑いながら、
「……さすがは陛下。実によく大局をご覧になっておられますな。ふふふ」
「お前ほどではないぞ。ピレト。はっはっは」
と、黒い笑顔で三人が笑いはじめた。

 密談のシーンを見ていると、隣に座っているノルンが、
「ねえ、ジュン?」
ノルンは不思議そうな表情をしている。……何か気づくようなことがあったか?
「どうした? ノルン」
「あのピレトって宰相だけど、なんとなくあの大司教に似てない?」
……えっ? 大司教って、ヘレンを捕まえろっていっていた奴か? そういえば似ているといえば似ているような気が……。
ノルンは何かを考え込むように、
「わからないけど、ちょっと気になるのよね。……なんだか嫌な予感がするわ」
たしかに嫌な予感がする。きっとそこにクロノがこの映像を見せている理由もあるのだろう。
だがな。俺はヘレンに誓ったんだ。守ってやるって。
俺の胸の奥に暖かい力が湧き起こり、じんわりと熱を伝えてくる。ヘレンへの愛おしさと守ってやりたいという狂おしいほどの思いがつのる。
「ノルン。……俺が、いや俺たちでヘレンを守ろう」
ノルンが力強くうなづいた。

 スクリーンの中では、それから二ヶ月が経ったのだろう。
再び王城と思われる場所で、ソロネとエクシアが談笑しているシーンが映し出された。

 「ねえ、ソロネ……」
高台の公園で王都を見下ろしているエクシアが、ソロネの方を見て、何かをうながしている。

 ソロネは、緊張した面持ちで、表情がこわばっているが、一つうなづくとエクシアの前に膝をつき、両手で鞘に収められた剣を掲げる。

 「エクシア様。心から愛しております。この宝剣にかけて、必ず御身をお守りすることをお誓いします。どうか私めの妻になってください」

 エクシアはそれをじっと聞き、剣を受け取り、再びソロネに返す。
「わかりました。これよりは私の夫として、私の騎士として、どうかお守りください」
「はい! 我が命にかけて!」
ソロネは立ち上がり、エクシアをそっと抱き寄せる。
ソロネの腕のなかで、エクシアはニコニコしながら、ソロネの胸を小さく小突いた。
「……40点ね。……でもいいわ。貴方の妻になってあげる」

 それを聞いたソロネが、困ったような何ともいえない表情でエクシアを見る。
「う、これでも一生懸命考えたんだぞ」
エクシアは可愛らしく笑いながらソロネの胸に顔をうずめると、ソロネはエクシアの背なかに手を回して抱きしめる。
「うふふ。貴方らしい。……うれしいわよ」
「それならいいけど」

 夕日のオレンジ色の光にまわりが染まり、抱き合う二人の影もそのなかに溶けこんでいくようだった。

 シーンが切り替わり、三人の男性が密談をかわしていた部屋になった。おそらく国王の執務室なのだろう。
その国王の前に、ソロネとエクシアが並んで膝をついている。
国王が微笑んで、
「うむ。話はエクシアより既に聞いておる。……儂としては、そなたたちが我らの共存共栄の架け橋になってくれればよいと考えておる。まぁ、正式な発表は今すぐというわけにはいかんがな」
と言うと、ソロネが真剣な表情で、
「……ありがとうございます。パイソン陛下。必ずやエクシア様を幸せにいたします」

 どうやらソロネとエクシアが結婚の許可を国王に願い出ていたシーンのようだ。けれど、あの密談からすると、この結婚の話も悲劇の種に繋がるのだろうか。

 「はっはっは。よいよい。そんなに畏まらんでも。それに今回もすまんな。……そなたの持ってくるミスリル鉱石は、我が国の発展になくてはならぬのだ」
エクシアが満面の笑みで、
「ありがとうございます。お父さま」
というと、国王は破顔しながら、手をよいよいというように振る。
国王はエクシアの肩に手を乗せて、
「エクシアよ。お前もいつの間にか大きくなったものだな。達者でおれよ。……まあ、まだ先の話であるか」

 にこやかな三人の姿に、この先に悲劇が待つと知りながらも幸せを祈らずにはいられなかった。

――――。
再びの帰国の道。

 ソロネは意気揚々としていた。その傍らには同じく馬に乗り、フード付きのコートをかぶったエクシアがいる。

 「……それにしても、エクシアが乗馬もできるなんてね」
ソロネはからかうようにエクシアに話しかけた。
「だって、あなたに付いて行こうと思ったら、馬くらい乗れないとしょうがないでしょ?」
それを聞いたソロネは、うっと小さく声を出すが、その表情はデレデレだ。

 「……ありがと。エクシア」
エクシアはそれを聞いて笑顔になるが、道の先を見て表情を引き締める。
「このまま無事について欲しいわね。……例の物もあるし」

 エクシアはそういうと後ろの馬車を見つめた。その表情はどこか不安げだが、ソロネはその不安を吹き飛ばすように笑う。

 「大丈夫だって。俺たちがいるし。さんざん通り慣れた道さ。……まあ、エクシアは街の外に出たことがないだろうから、不安かもしれないけど。あと二日もすれば到着するよ」
その言葉に、エクシアは明るい表情を取り戻した。
「そうね! ……ちゃんと私を護ってね。旦那様!」
「はははは。任せとけって。エクシアも例の物も、守り抜くさ」
馬に乗りながら笑いあう二人のシーンが突然止まる。

 と、頭上からクロノのナレーションの声が聞こえてきた。

 「この時ね。エクシアはソロネの両親と魔族の人たちに挨拶をするために同行したんだ。そして、アーク王国と魔族の共存のためという名目で、アーク王国の国宝である宝玉が魔族に貸与されることになったんだよ。
今、ソロネたちの後ろの馬車には、宝玉を納めた箱が乗っているんだ。まあ、僕が初代国王にあげた宝玉なんだけどね」

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