15 シアタールーム 6

 シーンは切り替わり、アーク軍らしい軍隊と、魔族、いやベアトリクスの戦いが映しだされる。
 ベアトリクスは雰囲気が変わり、ボディラインのわかる漆黒の鎧に身を包んでいる。
 周りは完全にアーク軍に囲まれている。
 しかしベアトリクスの周囲には、1メートル大の火球がざっと見えるだけでも三十個ほど浮かんでいる。

 アーク軍の兵士が遠くから一斉に弓を射る。弓から放たれた矢で空が陰るようだ。大量の矢がベアトリクスに襲いかかる。

 しかし、頭上に浮かぶ7つの火球がグルグルと回りだし、飛んできた矢を次々に黒焦げにしていく。
 お返しとばかりに、ベアトリクスが周りの兵士を見渡して右手を掲げると、火球が次々に回り出す。ベアトリクスの周りに火の壁を作り出す同時に、その壁から、次々に2メートルほどの火炎槍ファイヤーランスが撃ち出され、周りの兵士を次々に貫いていく。

 その時、側面から、青白い光の本流がベアトリクスを襲う。氷結魔法だろう。これだけの威力は、おそらく集団で唱えた儀式魔法だ。
 氷結魔法の青白い光とベアトリクスの周りの火の壁がしのぎを削る。周りには、蒸気が立ちこめ霧となり、なにも見えなくなる。
 と、突然、ベアトリクスを中心に、四方八方に雷光が走る。その光が、氷結魔法の飛んできた方向へ突き進み、一瞬の衝撃の後、ドドドンと地響きのような音が響き渡り、氷結魔法が打ち消されてしまった。

 ベアトリクスは、その場で、空へと浮かび上がり、前方へ飛んでいった。

 「すごいわね。ほとんど一人の力で、軍勢を殲滅しているようね」
 スクリーンを見ていたノルンが話しかけてきた。
 「そうだな。アーク軍もそれなりに強そうだが、まったく相手になっていないな」
 二人で話している間に、次のシーンへと変わった。

――――。
 おそらくアークと魔族の集落の間と思われる広い荒野に、一方には十万を超える大きな軍勢が、もう一方にはわずか二千名ほどの軍勢が陣を敷いている。
 画面は、十万の軍勢の方へクローズアップしていく。
 軍勢には、ブロックごとに色とりどりの旗が立てられている。
 軍の中央前面には、二十騎程の騎兵。それも一目見て、高位の人間たちと思われる人々がいる。
 年老いた老騎士がアーク騎士団長オファに尋ねた。
 「向こうはあれっぽちで戦うつもりか?」
 オファが苦笑しながら、
 「世界に名だたるウルクンツルのフェンリル・ブレイブナイツとはいえ、侮ってはなりませんぞ。我らは3万の兵で対抗しましたが、たった3百ほどの奴らにいいようにやられてしまいました。……情けないことですが」
 「ふむう。しかしな。この荒野でこれだけの戦力差はさすがに覆せないだろう。それとも奴らには秘策があるのだろうか」
 老騎士の問いかけに、オファは忌々しげに、
 「奴らを率いるのはベアトリクス。凄まじい火の魔法を使い、我々は爆炎の魔王と呼んでおりますぞ。3万の兵も、ほとんど奴一人によって、見分けのつかない炭にされてしまいました」
 会話をする二人の騎士に、二人の騎士が近寄る。美しい白銀の鎧に身を包んだ若い男性と女性の二人だ。
 「魔王ですか。一体どのような相手でしょう?」
 若い男性が老騎士の隣に馬を進めると、そのままオファに尋ね、会話に加わった。
 「ふむ。そちらは……、エストリアの召喚した勇者殿ですな。名は確か……」
 オファが少し考えこんだが、若い男が自ら補足する。
 「トウマです。こっちはイト。……しかし、一人で三万もの人を炭にかえるなど、確かに魔王と呼べるほどの脅威ですね」

 若い男の言葉を聞いて、俺は思わずサクラと顔を見合わせた。
 「トウマさんにイトさんか? ……どう思う?」
 「ええ。マスター。同一人物にしか見えないですよ」
 あらためて若い男の顔を確認する……。その顔は、確かに俺とサクラに剣技や体技を教えてくれた男のものだった。しかし、これは一〇〇〇年前のことだろ。そんな人が……いや。勇者補正か? そうすると、あのシンさんは一体……。それにあの三人はどこにいったんだ?
 疑問がいくつも浮かぶが、今は詮ないことか……。
 俺の疑問をよそにシーンは進んでいく。

 「あはは。今度は貴方たちがおりますからな、今日こそ奴らの野望を打ち砕きましょうぞ」
 オファの言葉に、トウマはどこか他人事のように返す。
 「そうですね。野望……を防がなくてはなりませんね。俺たちでどこまで行けるかわかりませんが、尽力いたしましょう」
 しかし、オファは気にした様子がない。

 「もちろん。今度は、勇者殿だけではありません。ウルクンツルもエストリアも合力いただいている。連合軍の力をもって、奴らの世界征服の野望を打ち砕きましょう!」

 トウマとイトは右手をあげて返事の代わりをすると、馬を引いて、自分たちの陣営に向かっていく。
 それを横に見ながら、オファはウルクンツルの老騎士にさらに話を続ける。
 「……それに今度は、魔族のうちでも仲間を裏切って、我らに味方するという奴らもおりますからな。戦の最中に裏切りが発生しては戦線など維持できまい」
 老騎士はそれを聞いて頷くと、馬をめぐらして自陣へ戻っていった。

 二人で馬を並べていくトウマとイト。
 「……イト。どう思う?」
 「そうね。本当に世界征服なんて考えているのかしらね」
 「確かに、あんな数では世界征服など無理だ。征服したところで維持できないだろう」
 「とすると、あんな数でも戦おうというわけは何かしらね?」
 「そうだな。考えられるのは……、全滅覚悟の復讐か、誇りか」
 「そんな“正義”のために召喚されたとなると嫌になるわね」
 「同感だ。しかも、魔王とやらがどんな人物か……。それ次第では、“正義”どころじゃないかもしれない」
 そういうとトウマは目を細ませた。イトも難しい顔をしている。
 トウマは馬を止め、はるか向こうの魔族の陣地を見やる。
 「人間は、どこにいっても同じ。腹黒いし、価値観の相違を受け入れることもなかなか難しいものさ」
 そういうと、二人は再び自陣へと向かって馬を歩ませた。

――次のシーンはすでに戦闘に入っているようだ。

 ベアトリクスが吼えている。
 「うおおおぉぉぉぉ!」
 その周囲には、火炎旋風が荒れ狂っている。
と、突然、炎の壁を通り抜けて光を帯びた騎士が飛び出した。
 ガキィィン!
 切りかかってくる騎士の白銀の剣を、ベアトリクスは手にした剣で受け止める。

 しばしの競り合いの後、タイミングを見て騎士が後ろに飛びすさった。
 次の瞬間、騎士の姿が三つに分身し、三方向からベアトリクスに襲いかかる。
 ベアトリクスは落ち着いて剣を掲げると、百以上もの火矢を川の奔流のように打ち出し続ける。
 火矢を受けた分身がそれぞれ後ろにふっ飛ばされると、そのうち二つの分身が消えていく。

 「アイスドラゴン・ファング!」

 イトの声がするどく響くと、光の騎士を飛び越えるように氷のドラゴンがベアトリクスに襲いかかる。
 ベアトリクスはとっさに左に飛びすさってよけると、巨大な火球を生み出して、氷のドラゴンの横っ面にぶち当てる。
 ジュジュジュジュゥゥゥ……。
 氷がそのまま蒸発するようなすごい音がすると、あたりを蒸気が立ち込めた。

 その蒸気の中から再び騎士がベアトリクスに突撃する。兜を脱ぎ、トウマの素顔があらわになっている。
 ベアトリクスは再び剣で斬撃を受け止めると、しばらくそのまませめぎ合った。
 そのままの姿勢で、トウマが、
 「お前が爆炎の魔王ベアトリクスか……。なぜ世界征服を企む。人は人、獣人は獣人、魔族は魔族。それぞれの領地で満足できないのか?」
 トウマの目は、じっとベアトリクスを見つめている。
 ベアトリクスの表情は眉間にシワがより、鬼気迫る表情だ。
 「たわけたことを! 我らの持つミスリルを狙って侵略を企てたのは貴様らの方だ! アークの犬どもよ!」
 その返事を聞いたトウマは、内心、やはりなと危惧していたことがあたっていたことを知る。
 周囲は先ほどの蒸気に包まれ、トウマとベアトリクスの会話を見るものは誰もいない。
 「では、アークが軍を引けば、お前も軍を引くか?」
 トウマの問いかけにベアトリクスは激怒した。
 「今さら何を言うか! お前らが我らから奪った族長たちの命を、そして、我が弟ソロネとその婚約者エクシアを返してくれるのか? 貴様らのした略奪と虐殺を都合よく忘れろというのか? ……我は審判の剣。復讐の炎を持って貴様らを焼きつくしてやる!」
 グググと拮抗していた剣と剣だったが、トウマがフッと剣を引き、そのまま後ろに飛びすさる。ベアトリクスはすぐに追いかけず、その場でトウマの様子をじっと伺う。

 トウマは、おもむろに剣を鞘に納めた。
 「なるほど。お前は勘違いしているようだが、俺はエストリアから来た。……どうやらこの戦は、俺の聞かされていない陰謀によるもののようだ。もう無駄かもしれないが、恨みは破滅しか産まないぞ」
 そういうとイトの転移魔法だろう。トウマとイトは光と共に姿を消した。後に残されたのは、ベアトリクスだけだ。
 「……ふん!」
 ベアトリクスは気をとりなすと、再びアーク軍に向かって進んでいった。

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