19 大陸横断鉄道の同行者

 「一番線に停車の列車は魔族自治区行きの列車です。自由席は1号車から6号車、13号車、14号車となっております。個室車は7号車、8号車となっております」

 アナウンスがホームに流れる。俺は懐かしさを感じながらも、慣れたように11号車の指定席に向かう。ノルンたちは物珍しそうについてくる。どこかワクワクしている様子なのは仕方がないだろう。

 魔族自治区までは、おおよそ十二時間。馬だと三日ほどかかるらしいから、随分と便利なものだ。停車駅もそれほど多くないようで郊外に出るとスピードを出すらしい。

 「マスター。売店でお菓子を買ってもいいでしょうか?」

 サクラが目をキラキラとさせながら、俺に聞いてくる。見ると、ノルンとシエラも行きたそうだ。中にも客室乗務員がいそうだが、……そうだな。長旅になりそうだし、別に構わないだろう。
 「いいよ。俺も見てみよう」

 売店には、所狭しと四角い入れ物に入ったお菓子やら芋のフライやらが並び、その隣には酒瓶やドリンク類が陳列してある。

 俺たちは店員の勧めるままに、いくらかの食べ物とお酒、果実水などを買い求め、乗車して指定されたシートに座った。
 シートは対面式にアレンジしてあり、俺とノルンが隣同士で、それに向かい合ってサクラとシエラが座っている。窓側はノルンとシエラで、通路側が俺とサクラだ。

 「何だか。ワクワクしますね。早く出発しないかな」
 ……サクラの声を聞いていると、何だか子供を引率しているような気がしてくる。まあ、初めての列車だし気持ちはわかるが、俺たちはヘレンを追いかけているんだぞ。

 「……はい。あ~ん」
 まだ出発前だというのに、ノルンが芋のフライをフォークに刺して俺に差し出す。いや、だから、ヘレンを追いかけているシリアスな状況なんだぞ?
 と思いつつ、気がついたら口を開けていた。
 そこまで熱くはないが外側はカリッとしていて香ばしい。……マヨネーズが欲しくなるな、この味は。
 そうこうしているうちに発車時間が近づき、11号車の中には大体8割ほどの乗客が乗り込んでいる。

 と、通路を挟んで向こう側のシートに一人の女性がやってきた。三十代半ばの金髪の女性で、どこか疲れたような表情だ。
 女性は座る前に俺たちを一瞥する。その手には、俺たちと同じく芋のフライの箱とお酒を持っていた。

 「お一人ですか?」

 何の気もなしに女性に問いかけてみた。女性は席に座り、俺たちの方を見た。

 「ええ。一人ですよ。……あなた方は、ひょっとして魔族自治区まで?」
 「そうです。人を探してましてね」
 「私も魔族自治区までなので、しばらくご一緒ですね」
 「ははは。どうぞよろしく。エストリアのランクC冒険者のジュンです。こっちがノルン、サクラ、シエラです」

 ふ~ん。女性の一人旅か。気ままにバカンスといったところだろうか。でも鎧を着て武器を持参しているってことは、冒険者なのかな?

 「こちらこそ。アークのランクC冒険者のカトリーヌよ。魔族自治区へは依頼なんですよ」

 カトリーヌさんと会話をしながらナビゲーションで見てみる。

 ――カトリーヌ・デュラン――
  種族:人間族 年齢:28才
  職業:アーク機工騎士団副団長  クラス:マシンナイト
  スキル:統率、危機感知、鑑定3、機操術4、剣技4

 ぶほっ。アーク機工騎士団副団長? まさかヘレンを追いかけているのか? ……いや、それにしては他に騎士とかはいないな。どういうことだ?
 俺は内心では警戒しながらも、
 「ああ、それは大変ですね。……私たち、はじめて大陸鉄道に乗ったんですが、さすが機工王国アークですね」
 「もとはミスリルを運搬するのに開発されたのよ。一〇〇〇年前の人魔大戦の後、この大陸横断鉄道が開通して、ミスリルが安定的に供給されるようになって、お陰で魔導機械の開発が劇的に進むようになったといわれてるわ」

 なるほどな。過去の事実を知った今では微妙な気分になるが、それも歴史ということだろう。一〇〇〇年前のことで、今の人たちを責めることはこくというものだろう。

 「そうなんですか」と無難な言葉でお茶を濁すと、アーク王国について色んなことを教えてくれた。

 アーク王国の騎士団の精鋭には、魔導機械の技術の粋を集めた魔導アーマーと呼ばれる戦闘用のスーツがあったり、ゴーレム部隊があること。その他にもミスリル加工の高い技術で、様々な効果を付与されたアクセサリが作られており、ヴァルガンドの各国に輸出されていること。近年は、魔力を込めて射出する弓が開発されていることなどである。

 魔導アーマーと聞くと俺の冒険心がうずく。きっとロケットランチャーとか、マシンガンとか、レーザーソードとか、空を飛んだりする素敵なロマン武装なのではないだろうか。

 そんなことを考えていると、カトリーヌさんは俺たちをみながら何かを考え込んでいる様子だ。
 「あの……、さきほど人を探しているとか」
 しまった。人捜しってのは失言だったな。それに正確には闇の神殿が目的地だが、曖昧にしておいたほうがいい。
 「ええまあ、ちょっと仲間の一人を探しにですね」
 「そう。……もしよかったら、私もご一緒していいかしら?」

 もしやカトリーヌさんの目的は、俺たちについてきてヘレンを捕縛することか?
 警戒の度合いを深めながら、
 「……カトリーヌさんの目的は何ですか?」
と聞くと、
 「これは依頼なので、内密にお願いよ。……現在、王都マキナクラフティでは連続殺人事件が続いているのを知ってる?」
 連続殺人事件と聞いて、やはりなと思いながら、表情に出さないように、
 「ええ、まあ」
 「連続死の裏で、魔族の方で魔王復活の動きがないかどうかの調査をしてくれって……、氏名依頼なのよねぇ」
 カトリーヌさんの言葉を聞いて、ノルンがわざと驚いた顔で、
 「えっ。魔王復活?」
 「ええ。ノルンさんだっけ? かつて、魔族を率いて人族に戦争を仕掛けた存在よ。強力無比な魔法を操り、その火炎魔法で数多の人々を焼きつくし、残虐の限りを尽くした魔王と伝えられてるわ」
 カトリーヌさんは深刻な顔をする。魔王ってベアトリクスのことだよな?
 俺は首をひねりながら、
 「でも、その正体は魔族の一人なわけですよね。いわば、単に魔力の強い人間というだけで、……死者を蘇らせる技術なんてあるんですか?」
と聞くと、カトリーヌさんはうなづきながら、
 「私も死者を蘇らせるなんて聞いたことないわよ。だから復活とかいわれても、私は信じていないのよねぇ。……まあ魔物として復活とか、魔王信奉者がありえない儀式をしようとしてるとかはあるかもしれないのよね。まあ、何か裏がありそうなんで、個人的にはそっちも調べたいってところかしら」

 聞く限りではヘレン捕縛というわけではないようだ。もちろん、気は抜けないが。
 そう思っていると、横のノルンが、
 「ねえ。ジュン。私はいいと思うわ」
 「ノルン?」
 俺は、カトリーヌさんに聞かれないように、念話でノルンに答える。
 (ノルン。彼女の目的はヘレンの捕縛かもしれないぞ)
 (うん。それはそう。だけど、ヘレンの疑いをはらすためにも彼女を味方につけておいたほうがいいわ。私たちと一緒に行動すればきっとうまく行くんじゃないかしら)
 (う~ん……)
 (それに彼女と一緒なら、私たちも事件の真相に近づけるでしょうし。それにクロノが鉄道で行けって言っていたでしょ? あれって彼女のことだと思うわ)
 (そうか、わかった。……ノルン。俺では気付かないこともあるかもしれない。だから、なるべくお前がカトリーヌさんの側についていてくれ)
 (オッケーよ)

 「わかりましたよ。カトリーヌさん。ご一緒しましょう。その方が私たちの探している仲間も見つけられるかもしれないですしね」
 「よかった。じゃあ握手」
 そういうと右手を差し出してきたので、俺は通路越しに握手をした。
 「そういえば、どういう人を探してるの?」
 「ええ。私の婚約者の一人です。ヘレンといってエストリア王国の聖女ローレンツィーナ様の弟子です」
 こう言っておけば、ヘレンに下手なことはできないだろう。そう思いつつ、カトリーヌさんの様子をうかがうと、
 「へぇ。聖女様の弟子なんて、よく婚約者にできたわね?」
と純粋におどろかれた。
 う~む。やっぱりヘレンを捕縛に来たというわけじゃないのかな? 騎士団内の情報に齟齬そごをきたしているのだろうか?
 まあいいや。それから俺は、今の魔族の状況をカトリーヌさんから色々と教えてもらった。

 現在の魔族は大部分が魔族自治区に住んでいるが、アーク王国民と何ら変わらない扱いで、差別などはまったくないそうだ。この点は、一〇〇〇年の間に改善されたことかもしれない。若い魔族は都市に出て冒険者となる者も多いそうだ。人族との間で婚姻を結ぶものもおり、今では純粋な血族としての魔族はいないらしい。
 なるほど。そういう事情なら、純粋な魔族の特徴であるらしい真紅の髪を持つものがいないっていうのも納得だ。

 それからも鉄道は俺たちを乗せて荒野を進んでいく。一〇〇〇年前は一大決戦が行わ
れ、多くの血が流れた荒野を。
 ……そして、今。ここに再び不穏な空気が漂い始めているようだ。

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