20 二手に分かれて

 「なんだか、シエラの故郷に似ているな」

 魔族自治区は石造りの家が立ち並んでいて、どことなくドラゴニュートの町と似ている雰囲気だ。
 近くにはグレートキャニオンがあったり、荒野の真ん中に広がっていたり、強いからっ風が吹付けていることも、似ている理由かもしれない。
 シエラは目を細めて町並みを眺めている。
 「……まあ、山と平野との違いはありますが、雰囲気はそっくりですね」

 さてと、無事に到着したんだがこれからどうしようか?
 そう思っていると、カトリーヌさんがギルドに行こうと言い出した。

 「え? ここにもギルドがあるんですか?」
 「ええ、ありますよ。冒険者ギルドの支部が。……取り敢えずギルドで情報を探しましょう」

 どうやらギルドの場所を知っているようなので、俺たちはカトリーヌさんに続いてギルドへ向かう。
 カトリーヌさんは中央広場に面した一階建ての建物に入っていく。どうやらここがギルドのようだ。
 一階建てで他の家と同じような石造りの建物で、中の配置は他のギルドと同じように受付カウンターと掲示板があり、小さなカフェが併設されている。
 とはいってもカフェにはカフェ専属の人がいるのではなく、どうやら受付の女性がカフェ店員も兼ねているようだ。
 もう昼過ぎなので一人の冒険者もいない。みんな依頼で出払っているんだろう。

「あら、いらっしゃい」

 茶髪の受付嬢がにこやかに挨拶をしてくれた。三〇代ごろの女性で、身長は175センチほどの長身でほっそり美人だ。健康そうな日焼けをしている。

 「どうも。王都からきたの。カトリーヌよ」

 カトリーヌさんがギルドカードを提示したので、俺たちも自己紹介とともにギルドカードを提示する。受付嬢はアロネさんというらしい。魔族だそうだ。

 「あらあら。こんな辺境まで……。依頼ですか?」
 「ええ。それで聞きたいことがあるんです」
 「そうですか……。残念ながら、今、私ぐらいしかいないですけど」
 「結構です。あっちでいいですか?」
 「あ、じゃあ。さきに座っててください。すぐに行きますから」

 俺たちはカフェの席に座ってアロネさんを待つ。しばらくすると、アロネさんが人数分のコップを持ってきた。

 「どうぞ。ここの特産品です。冷えてきたこの時期には丁度いいですよ。甘くて美味しいんです」

 へえ。なんだか知ってる香りに似ているなぁ。って、これココアじゃないか!
 早速、一口すする。と、ココアの温かく甘い味わいが口に広がる。

 みると、みんなも美味しそうな顔をしている。
 「はあぁぁぁ。幸せ」
 サクラがとろけるような表情をしている。そうだよな。ココアって俺も好きだよ。気持ちはわかる。

 「おいしいですね。久しぶりに飲みましたよ」
 アロネさんは驚いた表情で、
 「あら、ご存知でしたか?」
 「ええ。以前に飲んだことがあります。もう一年以上前ですけどね」
 すっごく嬉しそうなアロネさんだ。
 場がなごんだところで、カロリーヌさんが質問を始めた。
 「アロネさん。実は……、魔王復活のうわさを追っていまして、こちらの方で動きはないかと」
 「……あぁ。確かにそのうわさは私も聞いたことがあります。ですが私も魔族ですので、こっそり探りを入れてみましたが、族長以下、全然その動きはないですね」
 「そうですか……。アーク所属の冒険者の私がいうのも変ですが、魔族の中には反アークの独立派の方もいると伺いました。そちらの方は?」
 「ああ。独立派ですね。ですが今までも彼らは過激な手段には出ていませんよ。それにそちらも探ってみましたが、魔王復活なんて誰も思いもしなかったようですよ」
 そりゃそうだよな。一〇〇〇年前の死者の蘇生だものな。
 納得しながら聞いていると、カトリーヌさんが、
 「実は、王都の方で連続殺人が続いているんです。……その遺体に魔族に伝わる呪印が刻まれていたのです。それが魔王復活に関係しているのではないかって疑われているみたいです」
 えっ? 呪印? それは一体なんだ? っていうか新しい情報だぞ。
 アロネさんもおどろいたようで、
 「呪印ですか……。う~ん。厄介ですね。確かに私たちは魔法の発動の補助のために、体に呪印を刻むことがありますけど。それは技術のある人なら人族の方でも使用できますから。それだけで魔王復活とは言い切れないですよ」
という。なるほど、体に刻む魔方陣のようなものか。
 カトリーヌさんはうなづきながら、
 「そうですよね。実は、私の依頼は指名依頼で魔王復活の動きを探れってことなんです。できれば、族長と独立派のツテがあればお願いできませんか?」
 「ああ、なるほど。わかりました。それでは、まず族長にお会いできるよう取り計らいますよ」
 「ありがとうございます。助かります。……他にも手がかりになりそうなことはないですかね?」
 「特にこちらでは変わったことはないですが、とりあえずギルドを中心にしばらく情報収集されてはどうでしょう?」
 「了解です。っと、……ジュン。貴方も聞きたいことがあるんじゃないの?」
 カトリーヌさんがアロネさんと会話を終えて、俺にもふってくる。

 「アロネさん。俺たちはカトリーヌさんと別件で来たんだ。失踪したパーティーメンバーを探している。ヘレンっていう若い女性の聖職者だ。銀髪の美女と一緒に大陸横断鉄道でこっちにやってきたことはわかっている」
 「ヘレン? 銀髪の美女と一緒……、いいえ。それだけではわかりませんが、少し当たってみますか?」

 やはりダメか。ならクロノの言ったとおり闇の神殿を目指すべきだろう。

 「いえいえ。それなら結構です。……それと闇の神殿に行きたいのですが、場所を教えてもらえないですか?」
 「闇の神殿は、町から東に出ている街道を行けば真っ直ぐです。ただ、誰でも入れますが、私たち魔族にとって大切な神殿ですので、くれぐれも問題を起こさないように注意して下さい」
 「ええ。わかりました」
 ノルンがアロネさんに質問をした。
 「闇の神殿は何をまつっているんですか?」
 「私たち魔族の生みの親と呼ばれる闇の精霊です。私たちは見た目は人族と変わらないし、人族と結婚して子をなすこともできます。ただ闇の精霊の子孫ですので、生まれながらにして、他の種族の方より多くの魔力を持っているのです」
 「なるほど。いわば魔族というのは、魔法の族、魔力の族ってところね」
 アロネさんが微笑みながら、
 「ええ。そういうことですよ」
 つづいてサクラがギルドを見回して尋ねた。
 「ここのギルドにいる人ってやっぱり魔族の冒険者が多いんですか?」
 「そうですね……。確かに魔族の冒険者が多いですね。もちろん人族もいますが、あとはあなた方のように外から依頼でくる人とかですね」

 さてと、取り敢えず知りたいのはこんなところかな。ヘレンたちは駅から真っ直ぐにそのまま闇の神殿へ向かったと見ていいだろう。
 カトリーヌさんの方は、どうやら魔王復活の動きはなさそうだけど、族長と会って情報の確認をすると。連続殺人が人族の手によるものの可能性ありといったところだ。
 カトリーヌさんが俺に、
 「さてと、じゃあジュンさん。ここまでかな。あなたたちは追いかけるんでしょ?」
 確かに追いかけるのは確定だが、ただ王都の事件の真犯人も探さないと結局ヘレンの冤罪
は晴れないんだよな。
 事前にノルンと話し合ってもいたし、チームを二つに分けることになっている。
 俺はカトリーヌさんに、
 「ええ。ですが、ノルンには残って、カトリーヌさんの手伝いをお願いしてあります」
 カトリーヌさんは苦笑いしながら、
 「あらあら。別に一人でいいわよ?」
というが、ノルンが、
 「いいえ。王都の連続殺人事件は人ごとじゃないですしね」
というと納得したようにうなづいた。

 軽食を取った後、俺たちはノルンとカトリーヌさんに見送られて、町の東門から出発した。
 一路、東部のグレートキャニオンへ。

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