26 よみがえりしもの

 ヘレンの体があわく光る。体を包み込むように、ぼんやりとした光りが明滅する。
 その周囲をホタルが飛び交うように、いくつもの小さな光が舞い踊る。
 幻想的な風景のなか、ジュンの腕の中のヘレンが、ゆっくりと目を開いた。

 「う、うぅ……。ここは……、ベアトリクスは?」

 ヘレンの口から言葉がつむがれた。
 俺は、その声を聞いて喜びと愛しさがこみ上げる。……ああ! ヘレンが、戻ってきた。
 強く抱きしめるとヘレンは俺の顔を見上げた。
 「……おかえり。ヘレン」
 「ただいま。ジュン。……それに、みんな」
 そういうと、ヘレンは俺の首の後ろに手を回し、俺たちは口づけを交わした。
 遠巻きにしていた占い師のティティスが、やれやれといった様子で、
 「まったく。……若いっていいわねぇ。ノルンともあんな感じなのかしら?」
とつぶやいている。
 その声に、俺とヘレンがティティスの方を見る。さすがに他人の前では恥ずかしいかも。
 俺の隣では、サクラとシエラがうるうると涙を流しながら、うれしそうにヘレンを見ていた。
 「ヘレンさん……」「よかった……ううぅ」
 ヘレンは微笑んで二人の頭を撫でる。
 「ごめんなさいね。心配をかけて」
 「いいんです」「「おかえりなさい。ヘレンさん」」

 不意に、ヘレンの魔力が高まっていく。高まった魔力に、再びヘレンの体がぼんやりと光り、あふれた魔力が幻想的な炎となって周りを舞う。
 すごい。まるで俺とノルンの封印解除の時みたいだ。魔力の大きさ、強さも今までのヘレンとは圧倒的に違う。

 「ふふふ。ベアトリクス、いや、ヘレンよ。よくぞ戻ってきた。よくぞ決断したの」
 ゴスロリ少女の闇の精霊アーテルが、近づきながらも大きな声でヘレンに呼びかける。

 「その魔力。ようやく魂に刻まれた力を呼び起こすことができるようになったようじゃの。今度こそ、奴を打ち滅ぼし、悲劇を止めるのだ。……死より蘇りしそなただ。只今より『爆炎の聖魔王』を名乗るが良いぞ!」
 「いやです」
 ば、爆炎の聖魔王?
 しかし、アーテルの申し出は、ヘレンに一蹴された。断られたアーテルは信じられないものを見るように、目を見開く。と、2、3秒ほどして再起動したようだ。
 「なぬ? いやと言うか。何故じゃ?」
 「アーテル様。恥ずかしいです」
 理由を聞いたアーテルはなんだか悔しそうな顔をするが、気を取り直したようで、ドヤ顔で続ける。
 「ぬぬぬ。では仕方ないのう。な、ならば、闇の巫女に任命しようぞ」
 「それもいやです」
 再び断るヘレン。
 アーテルはショックを受けたように、顔に縦線が入っている。
 「なんと! 妾の巫女も嫌じゃと? なぜ?」
 「ジュンと一緒に行きますから」
 ヘレンはわずかに頬を染める。その様子を見たアーテルは納得したように、うんうんうなづいている。
 むう。何やら俺を置いてきぼりにして話が進んでいる。色々と突っ込みどころはあるものの、別に文句はないし。むしろヘレンには一緒に来てもらわないと困るんだが。
 俺はアーテルに、
 「ヘレンは俺の女の一人ですから。俺が連れて行きます」
というと、
 「そうか……。なら仕方ないの。お主は妾の力を強く受け継いでおるからの。娘みたいなもんじゃ。……これが娘を嫁にやる親の気持ちというもんじゃろう」
 アーテルはポケットから一つの指輪を取り出すと、それをヘレンに手渡した。うっすらと青
みを帯びた銀色の金属に黒い宝石がいくつもはめられている。
 「本来ならば、指輪は旦那からもらうべきじゃがの。妾の力がこもっておる指輪じゃ。右手の人差し指にでもするがよいぞ。……それと、これはそなた、というよりベアトリクスがしていたスーツじゃ」
 アーテルはそういうと、右手の指をパチンと鳴らした。
 すると周囲の黒い霧が、再びヘレンに前にあつまり一つ衣装になった。
 「えっ。これ……。なんで水着?」
 そのスーツを見て首を傾げるヘレン。
 違うぞ?ヘレン。それは……。SMの女王様ファッション。黒のボンテージだ。
 「違うぞ。ヘレンよ。なんでも、「ぼんてぇじ」の「びすちぇ」とか言うらしい。それと、妾の加護をこれでもかっていうほど与えておこう」
 ヘレンは、その服を見て、何だか恥ずかしそうな顔をする。
 「アーテル様。ちょっと刺激的というか。恥ずかしいですよ。これ」 
 アーテルは、俺の方をちらっと見てニヤニヤしていった。
 「そうじゃろう。妾からみても刺激的じゃ。ま、夜には役立つんじゃないのか?」
 いやいやいやいや。俺。そんな趣味SMないから。いや、むしろSっ気はあるかもしれないが……、って、ちがーう!
 俺は即座に、
 「いや。俺にはその趣味はないんで、できれば白くて可憐なビスチェにしてもらえないですか?」
というと、アーテルが、
 「ふむ。そろそろ自分の神力で創造してもいいだろうと思うが、まあいいだろう」
と指を鳴らす。するとヘレンの手にした黒皮のビスチェが白く、銀糸で模様の入った美しいビスチェに変化した。
 俺は満足しながら、
 「これならいいですね」
と言うと、ヘレンが下から、
 「……あのねぇ」
とじとっとした目で見上げてきた。
 サクラは本領発揮とばかりに、
 「くふふふ。ノルンさんにお願いして、今度は全員分の可憐な下着と過激な下着を用意してもらおっと」
 「さ、サクラちゃん? でも、いいなぁ。私の胸のサイズだと可愛い下着とかないんだよなぁ」
 「大丈夫だよ。シエラちゃん。私にいい考えがあるから」
とシエラとトークを始めた。
 いや、もう、なんだかシリアスな雰囲気がぶっ飛んだよ。

 ヘレンがそそくさとビスチェをたたんで、俺に渡してくる。それをマジックバッグに入れると、シエラがティティスに、
 「あっ。ティティス。ありがとう。お陰で、どうやら運命を乗り越えられたようだわ」
 ティティスは、ヘレンに向かってにっこり笑顔を見せる。
 「いいのよ。また貴方たちの絆を見ることができたし。……ただ、そうのんびりはしていられないわよ」
 ティティスの言葉が終わるか終わらないかという時、ノルンのあわてた念話が飛び込んできた。

 (ジュン!! 大変よ!)

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