28 地竜王ガイア

 ノルンの叫ぶような念話が、あせる心を伝えてくれる。

 (ノルン! どうした!)
(アーク軍が、何かに操られているかのように、押し寄せてきてるのよ!)
(アーク軍が?)
(とてもこっちにいる魔族の人たちでは守りきれないわ!)
(わかった。俺たちも向かおう! ヘレンもいるし。……行くまでたのむぞ!)
(急いで! お願い!)

 念話に集中して、黙り込んだ俺をみんなが見ている。
「ジュン。ノルンでしょ? どうしたの?」
ヘレンが心配そうに俺の顔をのぞきこむ。俺は、今の念話の内容を説明しようとしたが、先にティティスが口を開いた。
「アーク軍が来たのね。魔族を滅ぼすために。……でも、どうやらおかしな具合になっているようね。狂死の天災ピレトに操られているわ。その数は……4万くらいかしら」
すごいな、この人は。占いでそこまでわかるのか。
「うぬぬ。妾の眷属を滅ぼすだと?」
ゴスロリ少女、闇の精霊アーテルが怒りに拳を握る。こうしちゃいられない。直ぐに行かなきゃ。
「ティティスの言うとおりだ。みんな。ノルンが待っている。……いくぞ!」
俺が、ヘレン、サクラ、シエラの顔を見ると、みんなは真剣な顔をしていた。
ヘレンが決意を込めた目をしている。

 「させないわ。今度こそ……守ってみせる。」

 そうか。今のヘレンはベアトリクスの記憶もあるのだろう。
「よくぞ申した! ベアトリ……じゃなかった、ヘレンよ! 行くが良い!」
アーテルが祭壇に上ると、ビシィッと神殿の出口を指さした。
「アーテル様。ありがとうございました。今度こそ。止めてみせます」
ヘレンがアーテルにお礼を言うと、続いてティティスにもお礼を言った。
「ティティス。ここまでありがとう。もう行かなきゃいけないわ。また今度ね」
「ええ。……また今度ね。ノルンにもよろしく」
「わかったわ。……さあ、ジュン。行くわよ!」
ヘレンに促され、俺たちは神殿の出口を目指して走りだした。

 廊下を走り抜け広間を通り抜ける。神殿の出口を飛び出した俺たちは、馬に飛び乗ろうとした。
その時、一人の男性が立ちはだかる。
「おっと。ちょっと待て」
グレートキャニオンの谷底で出会ったガイさんだった。

 「ガイさん! こんなところでどうした? っていうか、急いで戻らなきゃいけない。止めないでくれ!」
そういってガイさんの隣を通り抜けようとするが、ガイさんが俺の肩をつかんだ。

 「まあ待て。……そっちが、お前の探していた仲間か。運命は乗り越えたか……。よかったな」
ガイさんはヘレンの方を見て大きくうなづいた。運命だと? なぜこの人がそれを知っているのだろう?
俺の疑念をよそに、ガイさんは、
「……状況はわかってる。任せろ。アーテルの奴にも頼まれてるしな。俺が送ってやろう」
「ガイさん?……何を?」
怪訝な顔をする俺たちをよそに、ガイさんは何も言わずに空を見上げた。
ガイさんの体が光りに包まれ、みるみるうちに大きくなっていく。そして、そこには一匹の巨大なブラックドラゴンが現れた。
「ドラゴン?」
呆然とつぶやいたサクラの方を見ると、神殿の入り口に、いつの間にかアーテルとティティスがいるのが見えた。
「地竜王ガイアよ。妾の眷属を頼むぞ」
アーテルの呼びかけに、巨大なドラゴンが器用に右手を挙げた。
「アーテルよ。一〇〇〇年前の悲劇を終わらそうぞ。……お前たち。私が地竜王ガイアだ。さっさと行くぞ!」
めまぐるしく変化する状況に驚く間もなく、俺は、
「ああ! 頼む。……俺たちをノルンのもとへ!」
ガイアが右手を俺たちの頭上に掲げると、俺たちの体がそれぞれ光の球に包まれた。
ガイアが谷間から大空へと飛び上がると、それに続いて光りに包まれた俺たちも空に浮かんでついていく。
ガイアの大きな翼が風をきる。風が俺たちの周りで、びゅおおおおと音を立てる。
ぐんぐんと空を翔けて、グレートキャニオンが眼下にものすごい勢いで通り過ぎていく。

 空を飛びながら、ガイアがシエラに話しかけた。
「シエラよ。そなたはまだ弱い。その盾の力を完全に引き出せるようになったならば、再び我のところにくるのだ」
「はい。ガイア様。必ずや」
「よい返事だ。……どれ、一つそなたにも力を貸してやろうぞ」
ガイアがそういった時、シエラの体が光り出した
「あれ? 体が軽い?」
「ふふふ。我の加護を加えておいた」
「ありがとうございます。ガイア様」
「だが油断するな。シエラよ。これから先の戦場で、いかに我の加護を与えようと、気を抜けば危険だ」

 シエラに向けたガイアの言葉だったが、俺たちもその言葉を聞いて、気を引き締める。
そう、これから先の戦場には、狂死の天災ピレトがいる可能性が高い。奴のデスサイズは驚異だ。……そういえば、このテラブレイドならば切り結ぶことができるだろうか。
不安を覚えつつも、俺たちの眼下には魔族の町が見えてきて、その向こうの荒野をわらわらとやってくるアーク軍が見えてきた。
まるで軍隊アリの行軍のようだ。その進む先に……いた! 
封印術式を解除し、光の衣をまとったノルンが俺たちを見上げていた。

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