30 荒野の決戦 2

 「ふふふふふ。すばらしい! デスサイズの一撃を乗り越えたとは!」

 俺たちの目の前には、ボロのローブを身にまとった人物が大きな鎌を構えている。その目は狂気をはらんで見開かれ、不気味なオーラを全身にまとっている。
 この雰囲気。まちがいない天災の一派だ。
 そして、その目は、俺の後ろにいるヘレンに向けられていた。

 「いくぞ! お前を倒して、みんなを止めてみせる!」

 俺の宣言を聞いて、ピレトはますます凄惨な笑みを深くした。
 その全身から禍々しい瘴気があふれ出し、あたり一帯が曇天のように薄暗くなる。
 不意にピレトの周りに魔法陣が現れたかと思うと、そこから三つの影が現れた。
 一つは影のように真っ黒なグリフォン。一つは長剣を持った影。最後の一つは影の大虎ともいうべき四足獣の影。
 「くくく。さあ、楽しもうじゃないか!」
 ピレトの掛け声と共に、あらわれた影の生物たちが飛びかかってきた。

 俺は、とっさに長剣を持った影の剣士を相手取る。抜き打ちに放ってきた影の剣士の一撃を、テラブレイドで受け止め、一瞬の隙をついて剣士の胴を蹴り飛ばして間合いを取る。

 その頭上には、影のグリフォンと空を舞いながら戦う地竜王ガイアの姿が見える。
 四足獣の影を相手取るのはサクラとカラス天狗。旋風を巻きながら木の葉手裏剣が四足獣を襲っている。
 ピレトに対しているのは、ノルンとヘレンだ。
 俺はそれだけを確認すると、目の前の影の剣士に意識を集中する。……早く切り捨ててノルンとヘレンの元へ行かねば!

 間合いを取った相手を見つめるが、人の気配がしない。
 テラブレイドを八双に構え、瞬時に間合いを詰めると七連突きを放つ。ほぼ同時に放たれた七連の突きが、冷気をまとって影の剣士を襲う。
 剣士は素早く剣を払って、中心線に近い四連突きを外側に弾き、三連をかわしながら一歩踏み込んできて左下から切り上げてきた。
 俺は、剣筋にテラブレイドの刃を垂直に当て、斬撃の勢いを利用して後ろに飛びすさる。
 ……こいつ、強いな。
 気を引き締めた俺は、ギアを一つ上げる。
 闘気を全身に循環させると、俺の全身がさらに光り輝く。
 あいも変わらず、何の気配も感じられない剣士。
 こういう敵に、後の先は取りにくい。行くならば先の先だ。

 分身24身パラレルラッシュ。飛燕斬。
 空を飛ぶ斬撃が怒濤のように影の剣士に襲いかかる。剣士は、あるいは剣ではじき、あるいは身をかわす。
 瞬間ともいえない僅かな隙を突く。次の瞬間、俺の体がぶれるように消え、一瞬の後に剣士の向こうに現れる。

 「瞬動一絶」
 剣を鞘に納めると同時に、影の騎士はバラバラに切り裂かれて散り散りに消えていった。

――――。
 「木の葉旋風!」
 木の葉天狗が印を結ぶと、影の大虎を中心に竜巻が起こる。その竜巻の中に木の葉っぱが幾つも紛れ、手裏剣となって影の大虎を切り刻もうとする。
 「があぁぁぁ!」
 影の大虎の咆吼が空気を振るわせる。と、竜巻を突き抜けて、大虎が飛び出して木の葉天狗に襲いかかった。
 ガキィィィン!
 木の葉天狗は、錫杖で大虎の噛み付きを防ぐが、鋭い爪で斬りつけられ、地面にたたき落とされる。
 ドスッと大虎は地面に降り立つと、同時に木の葉天狗に向かって飛びかかっていった。
 しかし、まっすぐに進む大虎の左手から、白い光の線を描きながらサクラが渾身の一撃を加え、大虎が直角に吹っ飛ばされる。

 「四神結界」

 いつの間にか四足獣のまわりに四本のクナイが打ち込まれ、そのクナイを結ぶように結界が形成される。
 「いいぞ! サクラ。腕を上げたな。」
 木の葉天狗が立ち上がってサクラを誉めるが、サクラは印をゆるめない。

 「まだです。五行背理ごぎょうはいり!」

 結界内で、土槍が影の大虎を貫き、次の瞬間に凍結。大爆発――そして、幾つもの風の斬撃が吹き荒れ、空間が圧縮されて影の大虎を押しつぶす。
 地水火風空の五行による攻撃が発動し、収束と共に結界が解除されると、空間圧縮によってへこんだ地面から、よろよろと大虎が立ち上がり頭を振った。

 「これで終わりです。灯籠流し!」

 サクラが、白虎と青竜の忍者刀を両手に構え、大虎に向かって走り出す。
 それを見た大虎が、大きな顎を開けて、サクラに向かって飛びかかる。
 一瞬のうちに、サクラが赤、黄、青の光を帯びた三つの分身に分かれ、そのいずれもが大虎の突進を通り抜けていく。
 大虎が困惑したように三つの分身をにらみ、本能のままに近くの分身に襲いかかろうとしたとき、斬撃が大虎を切り刻み、その体がバラバラになっていった。
 まるでシュレッダーされた紙のようになった大虎が風に吹かれて散っていく。

 気をゆるめること無く、ノルンとヘレンの方へ走り出したサクラを見て、木の葉天狗がつぶやいた。
 「サクラよ。強くなったな……。お前なら、あの試練を乗り越えられるかもしれない」

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