32 荒野の決戦 4

 ノルンのハルバードが光の残光を残しながら、狂死の天災ピレトのデスサイズと打ち合う。
 一合打ち合わせるごとに離れ、また接近して一合というヒット・アンド・アウェイで、近接戦を行う。
 もちろん、ノルンにはジュンほどの直接戦闘力はない。こうしてピレトと打ち合っているのも、魔法を使ったステータスアップと隠者の島でのパティスとの修行の成果だ。

 「ファイヤーバレット!」

 ノルンは、三十を超える火弾とともに突進し、ハルバードを横凪ぎに振るう。その一閃を、ピレトは後ろに下がって裂けるが、火弾の集中を受ける。

 「ふはは! まさか近接もやれるとはな! 面白い女よ」

 ピレトは火弾を受けているはずが,物ともせずにノルンに向かって笑みを浮かべる。その頭上から、ピレトを囲むように炎のサークルがおりてくると、次の瞬間、その内部が業火で満たされ、螺旋を描いて空に火柱が上がる。まるで炎の竜巻みたいだ。
 その魔法を放ったのは、ノルンの後方にいるヘレンだった。ヘレンは続いて、両手を頭上に掲げると、それを地面に振り下ろした。

 すると立ち上った炎の竜巻が、力のベクトルを上から下へと変換し、炎の滝となって下に落ちていく。しかも、炎の音度が高温になり青白い火となる。
 火の消えた後には、全身から煙を出すピレトの姿があった。
 「……今の魔法はベアトリクスのものだな。くくく。次はこちらの番だ」

 ピレトはそういうと、おもむろにデスサイズを構えた。ピレトの周辺の空気が震えたかと思うと、デスサイズの刃が青紫の光を発する。
 「狂刃乱舞」
 その場でピレトが縦横無尽にデスサイズを振り回す。絶対に当たることのない距離で、いわば素振りをしているかの様子であるが、降られたデスサイズから青紫の斬撃が飛んでいく。
 その一刃一刃が致死の攻撃だ。

 ヘレンは、すぐさま結界を展開する。今までにない強さの結界がノルンとヘレンを包む。
 同時にノルンは、自分の周囲に直径1メートルほどの光の珠を30個浮かべる。
 「ホーリーバレット・ストローク」
 一言、ノルンがつぶやくと、その30個の光球が小刻みに揺れながら砲台と化し、凄まじい数の小さな光の弾丸をマシンガンのように撃ち出していく。
 こうして作られた結界と光の弾幕が、ピレトの狂死の刃をはじき打ち落としていく。
 ダダダダダダダッ
 相殺し合った魔法の余波が落ち着いた後、気がつくとピレトの姿を見失っていた。
 「いけない!」
 あわててノルンが気配感知を発動し、ヘレンは結界を維持した。
 その結界を囲むように何人ものピレトが現れる。その数は、10人、20人、30人、50人と増えていき、とうとう周りを囲まれてしまった。
 ノルンとヘレンは背中を会わせあって死角をなくす。

 「「「ふふふふ」」」

 そんな二人をあざけり笑う声が、いくつも重なり合って響く。50人のピレトが、円の中心にいる二人に向かって左手を突き出すと、その手の先から青紫の光線が放たれた。
 全周囲からの攻撃魔法、それも致死の魔法が二人に襲いかかる。
 その時、二人の上空から螺旋をえがくようにフェリシアが舞い降りると、二人を守るように高速で周りを旋回する。そのスピードは肉眼では見えず、赤い帯のようにみえる。
 そのフェリシアに青紫の致死魔法がぶち当たる。その瞬間、赤い帯がより大きく太く見える。実際は、致死魔法が当たる度にフェリシア自身が再生の炎によってよみがえっていたのだ。
 (再生の炎環フレイム・サークル
 二人の周りを飛びながらフェリシアの体が光ると、大きな炎の輪が生まれ、まるで水面に生じた波紋のように外に向かって広がっていく。
 ……ちなみにこれは魔法ではない。ガーディアンであるフェリシアのスキルだ。生命の象徴であるフェニックスの炎は、特に死に特化したピレトにとって天敵も同然である。
 50人のピレトがフェリシアのフレイム・サークルを受けて、次々に燃えて崩れ落ちていく。
 しかし、次の瞬間、結界をも通り抜けて、ノルンの頭上に瞬間移動したかのようにピレトが現れ、ノルンめがけてデスサイズを振り下ろした。

 「マスター!」

 飛び込んできたフェリシアが、そのデスサイズの刃をそのくちばしついばんで受けとめる。そのまま、フェリシアの体が強く光って炎を吹き出すと、デスサイズの刃にヒビが入った。
 ガキィッ!
 デスサイズの刃が途中から折れた。それを見てピレトが呆然とする。その一瞬をついて、ヘレンが魔法を放った。
 「今度は私の勝ちよ! 燃えさかれ! ヴォルケーノ!」
 炎の奔流が空中のピレトの足下から吹き上がり、なすすべも無く巻き込まれていった。
 そのピレトを、今度は見失わないように、ノルンとヘレンは距離をとる。
 炎の奔流が通り過ぎた後、ピレトは刃の折れたデスサイズを持ちながら、ふらふらと地面に下り、そのまま膝をついた。
 「くふっ。……まさか、このデスサイズが壊されるとは」
 ピレトは立ち上がると、壊れたデスサイズを無造作に地面に投げ捨てた。

 その時、影を打ち倒したジュン、サクラ、木の葉天狗、ガイアとシエラが到着しピレトを包囲した。

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