33 2つの魂

――――。
 ノルンとヘレンの見事な連携で、俺の目の前のピレトは地面に膝をついている。
 俺は漆黒の大剣テラブレイドをピレトに剣を突きつけた。
 「ここまでだ。ピレト。お前の野望、討ち果たさせてもらうぞ」
 それを聞いたピレトは、再び笑い出す。
 「ククク。ふふふ。はっはっはっは。……確かに、今回は私の負けのようだ。退散するとしよう」
 そういいながら、ピレトは少しずつ空に浮かび上がり、その姿がすぅっと消えていく。

 「……させない! フレアボム!」

 今、消えていこうとするピレトに向かって、ヘレンがすばやく豪火球を放った。火球が、ピレトのいた所にあたり、爆発音を響かせる。
 爆煙が風に吹かれて消えていくが、そこには誰もいなかった。
 笑い声だけが響いている。

「また会いましょう。ククク」

 ヘレンが悔しそうに、ピレトの消えた空を睨んでいる。
 「くっ。逃したか……」
 その表情は悔しそうだ。そのヘレンをノルンとサクラがなだめており、その向こうではガイアとシエラが何か話をしている。
 どうやらピレトが消えたと同時に、町へ侵攻していたアークの軍隊も止まったようだ。
 ……これで一安心といったところか。

 俺は、みんなを連れて町へと戻っていった。
 ガイアは竜の姿のままだと大事になるので、初めて会った時の男性の姿に変身している。
 町を守っていた防壁はまだ残っていた。
 その上には魔族の人たちがいるが、ノートンたち騎士の姿が見えない。もしや何かあったのか?
 しかし、即座に俺の気配感知内でそれらしき反応を感じ取った。どうやら、がむしゃらに侵攻していたアークの騎士たちの間を歩き回り、誰かを探しているようだ。

 精霊たちは防壁の前で、俺たちの到着を待っていた。
 ノームの力で、防壁に出入り口となるトンネルを作ってもらって、中に入る。
 ここまできて、ようやく戦いが終わったと実感した俺は、ノルンに、
 「さてと。まず、ノルン。心配を掛けたな。……ヘレンを無事連れて戻ってきたぞ」
 ノルンもうれしそうに、
 「お帰り。ヘレン。……もういきなり一人で行っちゃったらダメよ」
 「ええ。ただいま。ノルン。……そして、みんな。ありがとう」
 みんな、笑って順番にヘレンとハグをした。
 ノルンが微笑んで、
 「……それにしても、ヘレン。魔力量が随分と増えたんじゃない?」
 「ノルンにはわかるの? ……これもベアトリクスのお陰よ」
 くるっとノルンは俺を見て、
 「ねぇ。向こうで何があったのか教えてちょうだい」
 俺たちは石壁に寄りかかりながら、闇の神殿での出来事をかいつまんで説明した。ヘレンがデスサイズの一撃を食らって倒れている間のことは、ヘレンが説明をしてくれる。

 「爆炎の魔王ベアトリクスか……」
 ヘレンの説明を聞いて、俺は、前にクロノに見せて貰った一〇〇〇年前の一人の女性を思う。
 一〇〇〇年前の魔王ベアトリクスの生まれ変わりがヘレンで、今は記憶も能力もヘレンの中に統合されている。
 その時、ガイアがおもむろに話しかけてきた。

 「ヘレンよ。そなたの称号に『爆炎の魔王』が増えているはずだ。後で確認するが良い。それにピレトの奴は逃したが、町を守ったんだ。ベアトリクスは喜んでいるだろう」

 「はい。地竜王ガイア様。私の中のベアトリクスは喜び半分、残念半分といったところです。ですが、一〇〇〇年前の悲劇の再発を防げたのでうれしいですわ」
 「……ならば、こやつらもそろそろ輪回の流れに帰るべきだろう。よいか?ソロネ。エクシア」
 ガイアが誰もいないはずの空間に語りかけると、そこから若い男女のカップルの姿がうっすらと現れた。
 それを見て、ヘレンが勢いよく立ち上がって駆け寄る。
 「ソロネ! エクシア!」
 ソロネを抱擁しようとするヘレンだったが、その手はむなしくソロネを通り抜けた。
 「ははは。姉さん。……いや今はヘレンさんか。久しぶりだね」
 ソロネから語りかけられたヘレンは、今にも泣きそうだ。きっとベアトリクスとしての意識が表面に出ているに違いない。
 ……それにしても、この二人の幽霊があのソロネさんとエクシアさんか。悲劇で結ばれなかった二人。陰謀に利用された二人。だけど、魂になってずっと一緒にいたのだろう。
 「ソロネ。あなた! まったく何をやっていたのよ!」
 そういって泣きながら、ソロネに軽く殴りかかるヘレン。それをひょいっとかわすソロネの幽霊。
 「姉さん。本当にごめんなさい。……俺も守りたかったけど、守り切れなかった。エクシアにもずっと謝ってきたよ」
 ソロネは、そういって隣のエクシアを見つめる。
 「ベアトリクス義姉さん。私からも謝罪を。……私の父とその仲間たちがしでかした悲劇と罪を。本当にすみません」
 ヘレンは、謝罪を告げるエクシアをじっと見つめると、にこっと笑いかけた。
 「もう過ぎたことよ。それにあなたは何にも悪くないわ。元凶はピレトの奴よ。……死んでからも、こんなできぞこないの弟の面倒で大変だったでしょ? ふふふ。……それに今回はちゃんと守ったわ」
 「姉さん。僕らは、今、うれしいんだ。生まれ変わったとはいえ、こうして再び姉さんに会えたし、それに今の魔族のみんなを守ってくれて」
 「義姉さん。私もよ。ただ、生きているうちにこうして話がしたかった……」
 「ソロネ。エクシア。それは私も一緒よ。でもよくずっとその姿でいられたわね」
 ヘレンの問いに答えたのは、その側に現れた一人の少女、いや精霊だった。
 「ふふふ。ヘレンよ。死んでしまったこやつらの魂を確保し、怨嗟えんさの浄化をしておったのはな。妾とガイアよ」 
 どや顔で胸を張るのは、ゴスロリ少女の闇の精霊アーテルだ。アーテルは、俺たちの顔を見渡すと、ノルンのところで視線を止めた。
 「ふむ。そなたは初めてじゃな。妾が闇の精霊アーテルじゃ。そなたと同じくジュンの伴侶となるヘレンをよろしく頼むぞ」
 ノルンがかしこまって返事をする。
 「ええ。アーテル。もとからヘレンと私。それに、ここにいるサクラとシエラも仲良しですわ。ですからご安心ください」
 それを聞いて、アーテルがニヤニヤして俺を見る。
 「のう? ジュン。そなたは果報者かほうものじゃぞ? こんなに素敵なおなごを幾人いくにんはべらせおって」
 俺はニヤリと笑って、サムズアップして、
 「ええ。みんな、俺を尻に敷きやがる。素敵な女性たちですな」
と言った瞬間、ノルンとヘレンが同時に俺の頭をどついた。
 「あなたは、もっとしっかりせえ!」
 そんな夫婦漫才を見て、アーテルもガイアも腹を抱えて笑い出した。
 「ははははは…………。おっと、そうだった。ノルンよ。妾もそなたと召喚契約を交わそう。いつでも呼び出すが良い。楽しみにしておる」
 そういうと、アーテルはすうっと消えていった。ノルンの腕の妖精王の腕輪にある6つ目の宝玉が黒色に染まった。これで残りは一つ。光の精霊との契約だけが残っている。
 ガイアは、アーテルを見送ると、その場にいる二人の幽霊に語りかける。
 「お前たちも、そろそろ輪廻に戻る時だ。俺が天まで送るぞ」
 「「はい。ありがとうございます。ガイア様」」
 それを見て、ヘレンが寂しそうな顔をする。
 「姉さん。俺たちも、いつか姉さんみたいに生まれ変わってくる。だから、お別れだよ」
 「義姉さん。本当にありがとうございました」
 つづいてソロネの幽霊が、俺に、
 「姉さんをよろしくお願いします」
と一礼したので、俺は右手を挙げて、
 「もちろんだ。お前たちも、次は幸せな人生を送れるといいな」
 「はい。ありがとうございます」
 別れを済ませた二人の霊は、ガイアと共に空中に昇っていく。それをヘレンと俺たちは手を振って見送った。

 「二人とも、来世でこそ。一緒になれるといいわね。……この世界は美しく、そして喜びで一杯よ。だから、いつか必ずここにおいで」

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