34 戦いの後で

 二人を見送った俺たちは、ギルドに向かった。
 ノートンさんは、誰かを見つけたみたいで、カトリーヌと見知らぬ男性騎士と何ごとか話し合っている。そのまま、ノートンさんは後のことをカトリーヌにまかせると、俺たちと一緒にギルドまで同行することにしたようだ。
 気を失った人々は、副団長のカトリーヌさんたちが何とかするんだろう。

 そうか。……操られていたとはいえ、アーク王国からの侵攻だ。ノートンは、族長との停戦会談をしないといけない。
 ギルドの建物の前には、族長を筆頭として、冒険者や警備隊の人たちなど、多くの魔族の人たちが集まっていた。
 「ノルン様。そして、皆様。この度は、本当になんといっていいか……。本当に、本当に、ありがとうございます。今、闇の神殿に避難に向かった皆を連れ戻しに行っております」
 族長の挨拶に、ノルンがにこやかに返事をする。
 「族長様。私たちはできることをしたまでですわ。……それより、ここにいるアーク機工騎士団長のノートン様と停戦交渉をお願いします」

 そのノルンの声に族長の顔が厳しくなり、ノートンさんを見上げた。後ろにいる魔族の人たちは、防壁の上でノートンさんと共に戦ったので、それほど厳しい表情ではない。
 しかし、族長の厳しい顔を見て、ノートンさんも難しい顔をする。はたから見れば、今回は完全にアーク軍の侵攻にしか見えないから、言い訳などできるはずがない。……たとえ操られた結果だとしても。
 どうやら真実を知る俺たちが間にたつしかないようだ。
 「族長様。とりあえずギルドの一室で話しあいましょう。今回の事件について、私どもからも報告せねばならないことがありますので……」
 「ふむ。……そうですな。ノルン様がいうのでしたら。ただ、ここにいる皆も知りたいと思いますので、一階のカフェスペースでもよろしいですかな」
 ここのギルドのカフェスペースは、それほど広くもないが、確かに一緒に防戦した人たちも知りたがるだろう。
 「感謝しますわ。族長様。……では中に入りましょう」

 族長とノートンさんが対面で座り、俺たちはその横にイスを並べて座った。その周りには、魔族の人たちが集まっていて、入りきれない人は入り口から顔をのぞかせている。
 まずノルンが、パーティーメンバーの俺たちを族長に紹介してくれた。
 続いてノルンから説明が始まる。闇の神殿での出来事は俺が説明をする。

 「――というわけで、今回の事件は、ある一人の魔導師のような人物の陰謀によるものです。残念ながら、アークの国王も軍勢も操られていたのです」
 長い説明が終わったが、すぐに口を開く人は誰もいなかった。沈黙が続いたが、やがて族長が口を開いた。
 「……あなた様のいうことでなければ、にわかに信じられない話です。ですが、いろいろと符合する。戦さの前に空に浮かんだ幻影。あれがそのピレトとかいう人物ですか……。一体、何が目的だったのでしょう」
 族長の疑問は、俺たちの疑問でもある。魔族を滅ぼして何をしようというのか。ピレトの目的がさっぱり見えてこない。
 しかし、その疑問に答えたのはヘレンだった。

 「おそらくは生け贄でしょう」
 「生け贄? ですか?」
 「ええ。族長。……私は、闇の神殿の奥にある祭壇で、本当の大司教が殺されているのを見たわ。あの祭壇。きっと何かの封印だと思います」
 「最奥の祭壇のことですな。しかし、何かの封印のような伝承は残ってはおりませんが。それに闇の精霊様が守られるかと……」
 「私たちは、あれと同じ祭壇をデウマキナ山脈で見てるのよ。……あの時は、シエラの父が生け贄代わりに殺されたわ」
 ヘレンはそういうと、シエラをそっと見やった。シエラは、その時のことを思い出したのだろう。感情を隠しているが、口元を固く結び、両手をぐっと握っている。
 俺はだまって手を伸ばし、シエラの左の握り拳をやさしく握ってやる。
 ノルンが、族長に申し出た。
 「闇の精霊アーテルに聞いてみましょうか? ……召喚。アーテル」
 ノルンがぼそっと呟くと、テーブルの直ぐ脇に魔方陣が現れて、ゴスロリ少女が出てきた。
 「うん? なんじゃ。せわしないが、何かあったか?」
 召喚されたアーテルが、キョロキョロと自分の周りの人たちを見回す。
 魔族の人たちは、自分たちの信仰する闇の精霊が突然あらわれたので驚き、慌ててイスから立ち上がると、床の上に膝をつく。
 「あ、アーテル様。このような所へ御出ましになられるとは恐縮でございます」
 「うん? 族長か。……ノルンよ。妾は何をすれば良いのじゃ?」
 「アーテル。お願い。あなたの所の祭壇には何が封じられていたのか、教えて欲しいのよ」
 「ふむ。あの祭壇か……。今回は、妾が寝ている隙に、封印が解かれてしまった。あの祭壇はな、闇の神殿より古い。故に詳しくは知らぬ。だがの、この世界を守る要石かなめいし?の役目を果たしていると聞くぞ」
 「要石?」
 「そうじゃ。詳しくは創造神さまにうかがうがよい」
 いや。それができれば苦労はないんだが……。
 「ねえ。アーテル。あのピレトって何者なの? 天災って奴らは何なの?」
 そう。俺たちは妙に天災と名乗る奴らと縁があるようだ。最初はグラナダの一人だけと思ったが、どうやら何人かいるようだし、果たして何者なのか。
 俺たちはアーテルの答えに期待していたが、それはあっさりと裏切られる。
 「知らぬ! 知ってそうなのは……、創造神様や三柱の神くらいじゃあるまいか」
 ぬぬぬ。いきなり話が大きくなった気がする。まさか神が出てくるとは。もしかして想像以上にやばい奴らなのか?
 いやまてよ。三柱の神ということは、セルレイオスに会いに行けばいいのか? でもなぁ、無茶ぶりされそうだよな……。
 ノルンも同じことを考えたのか、
 「……それは。ちょっと嫌な話ね」
と押し黙った。
 アーテルは、自分の子孫に会えて嬉しいのだろう。族長に話しかける。
 「こたびは大変だったな。……だがまぁ、アークも操られていたようだしの。それに別の意味もあって、終わってみれば丸く収まったという所かの」
 そういいながら、アーテルはヘレンをチラッと見る。族長は、その言葉をかしこまって聞いていたが納得したようだ。
 「アーテル様。では、我らはわだかまりなく、アークと和睦をいたそうと思います。アーテル様のその言葉があれば、皆も納得するでしょう」
 「うむ。それでよい。……ではノルンよ。妾は戻る。またな」
 アーテルはノルンに一声掛けてから、すうっと消えていった。

 それからの停戦交渉は、何事もなくまとまっていった。魔族側としては、アーテルの「丸く収まった」との言葉を受け、特段何かを求めるでもなく、停戦に合意し、従来通りの和睦を結ぶことになった。
 これに一番安心したのは、ノートンだろう。

 そうこうする内に、避難していた魔族の人たちが続々と戻ってきて、町のあちこちで家族と再会したり、自宅を見て安堵している風景が見られた。
 その日の夜は、族長とノートンとカトリーヌさんに加え、俺たちで晩餐会をすることになった。

 それまでの時間、ノートンさんは陣に戻り、通信の魔道機械で王城と連絡を取り、報告をするそうだ。俺たちは晩餐会の時間まで、宿の一階でみんなでお茶を飲みながら、とりとめの無い話をして過ごすのだった。
 途中で、ノルンが用事があるとのことで一時出かけたが、俺たちはまったりと時間を過ごしていた。

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