13.小学校6年生 修学旅行(3)1日目

 お店を出て段かずらを眺めながら八幡宮に向かう。

 段かずらの石に木々の影がかかり風情がある。

そのまま道路を渡って大鳥居をくぐり集合場所に到着。すでに先生方といくつかの班が集まっていた。

 腕時計を確認すると、時間は1時50分。ちょうどいい頃合いだね。

 みんなも早速お土産を買ったようで、サブレーの黄色い袋を持った子が多い。……まあ、鳩サブレーもおいしいよね。

「さてと、それじゃあ班長さんは班員さんが揃っているか確認して先生に報告して!」

 学年主任の男の先生が大きな声を張り上げた。

 班長の啓介が俺たちがいるのを指さし確認して、律子先生に報告に行く。その間にも遅れて到着した班が集まって、ようやく全員がそろった。

 ここからは再びクラスごとに行動することになる。

 ガイドさんのように律子先生が旗を掲げる。そこには「6-2」とクラス名が書かれていた。

「はいはーい。この大銀杏おおいちょうは隠れ銀杏とも言われています。大きいでしょ。……なぜ隠れ銀杏と呼ばれているか知ってる人いるかな?」

 本殿に向かう石段の脇に大きな銀杏の木がそびえている。この大銀杏は、三代将軍実朝を暗殺した公暁くぎょうが隠れていたといわれていて、俺が大人になった頃には倒れてしまっていた。

 懐かしい大銀杏の姿に、俺は目を細めて見上げる。ああ、この時は、まだ堂々とした姿を見せていたんだなぁ。

 律子先生が大銀杏の由来を説明している間に、俺はリュックからカメラを取り出して大銀杏を撮影した。説明が終わると先生を先頭に階段を上り出す。

 撮影を終えてカメラを下ろした時、目の前で春香と優子が二人で、

「なっくん。はい。ピース」

 うん。かわいい。……もちろん春香がだよ。ね。

 カメラを構えてファインダーを覗く。大銀杏と青空をバックに春香と優子が並んでいる。逆光にならないようにフラッシュをセット。

「いくよ。はい! チーズ!」

「ありがとう。なっくん」

 優子もリュックからカメラを取り出した。「ほらほら。次は春香と夏樹くんだよ。並んで並んで」

 優子に押されて、春香が俺の隣に並び身を寄せてきた。う、なんだか照れるかも。

 横を見ると春香の顔が近い。

「ほら。夏樹くん。春香に見とれてないで。こっちこっち」

「あ、ああ」

「行くわよ。はい! チーズ!」

 カシャっ。

「えへへ。ありがと。優子」「いいって。ね、春香」

 うん? 春香と優子の様子がちょっと違うような……。

 そのとき石段の方から宏の声がした。「お~い。早くしろ。行っちゃうぞ!」

「ああ、悪い悪い。今行くよ」

 そういって、春香と優子と急いで階段を上った。

 社殿を見学し、それから国宝館で十二神将の像や最明寺入道時頼の木像などを見学した。……が、小学生にはちょっと早いんじゃないか?

 そんなことを思いながら、再びバスに乗って横浜中華街へと向かった。

 海沿いの山下公園で降り、氷川丸を遠目に眺めてから中華街へと向かって歩いて行く。

 夕闇が迫り街灯が点いている。カラフルな服を並べた店や、軒先で肉まんを蒸しているのを見ながら、本日の夕飯のお店へと入っていった。

 二つの班で一つの円テーブルにつく。学年主任の先生が明日の説明を簡単にして、みんなで「いただきます」をする。

 次々と料理が運ばれてくる。

「うわぁ。おいしそうだね」

 他のテーブルでは片側に男子、片側に女子と並んでいるが、春香だけ男子に混ざって俺の隣に座っている。

 まあ俺はいいけど。

 目の前の回転盆を回して前菜を取り分ける。取り箸を戻して春香の方へと回してやると、春香も俺と同じように料理を取り分けた。

 う~ん。子供だから仕方ないが紹興酒が欲しくなるな。……もう一度言おう。子供だから仕方ないが。

「ねぇ。この黒い卵みたいの何かな?」

「ああ。これはピータンだね。おいしいよ」

 おもむろに春香が棒々鶏バンバンジーを箸で取ると俺の方へと差し出す。

「はい。あ~ん」

 えっ? おいおい。修学旅行だぞ。ここでそれは……、やばいって。

「は、春香。ほら。ここは家じゃないんだし……」

 みんなが俺たちを見ている。うっ。春香は頬を染めながら期待するようなまなざしで俺を見ている。

 ……この状況でやめさせたら春香が傷つく。うん。だから、これは仕方ないよね。

「あ、あ~ん」

 俺は赤くなりながらも口を開けると、春香が棒々鶏を口に入れた。「はい。……えへへ」

 その時だ。

「はい! チーズ!」

と、カメラのフラッシュと一緒に律子先生の声がした。

「うふふ。本当に仲がいいわね」

 そういって先生は俺たち二人の頭をぽんぽんと叩くと、他のテーブルの食事の様子を写真に撮りに行ってしまった。

「お二人さん。写真に撮られちゃったね」

 そういって和美がいたずらっぽく笑っていた。

「そうだよなぁ。俺たちもさ、一緒にいて暑いよな」

 啓介もそれに乗っかる。

「も、もう。二人とも」

 春香が赤くなって小さい声で言う。俺も頬が赤くなっているのがわかる。

「ははは。ごめんごめん」

 俺が笑ってごまかすと、優子も笑みを浮かべた。

「もう。夏樹君と春香がラブラブなのは元からでしょ。ふふふ」

 ――それから料理は鶏の唐揚げ、春巻き、エビのマヨネーズ風味、卵スープと続き、最後に杏仁豆腐が運ばれてきた。

 子供のお腹には十分すぎるほどの量だ。

「はあぁぁ。おいしい。……でもお腹いっぱいで、もう食べられないよぅ」

 隣の春香が笑いながらお腹を押さえて言う。

「あはは。でも、ホントおいしかったな」

 最後の杏仁豆腐も缶詰にあるような寒天ゼリーみたいのとは異なり、しっとりとして柔らかい甘さがすごくおいしい。

 まわりのみんなも大満足の夕食となった。

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