50.大学3年生 サークル旅(3)

 まだまだ明るいが、時刻はすでに夕方の6時。

 暑さは続いているが、俺たちはバーベキューガーデンに来ている。

 冷蔵庫で冷やしていたビールやドリンクは、久美子さんの持ってきたクーラーボックスに入れて運んだ。

 食材はヴィラの方で用意してくれた肉と野菜、エビなどだ。

「「「かんぱーい!」」」

 四角い鉄板を囲んで、みんなで乾杯する。

 一年生の二人以外は成人しているのでビール。一年生の二人はジンジャーエールだ。

 早速、熱した鉄板に肉と野菜を並べる。

 じゅうぅぅぅ。

 勇輝くんが、

「おお! うまそう!」

と言いながら、ビールを一口飲んだ。

 京子さんが、

「たくさんお肉があるからどんどん食べてね」

と言いながら、肉をひっくり返していく。それを見ていた皆みんながゴクリとつばを飲み込んだ。

「いただき!」

と最初に箸をのばしたのは久美子さんだった。

 タレに肉をつけてぱくりと一口食べる。

 焼き肉をくわえながら、親指をサムズアップしてウインクする。器用な奴だな。

 しばらくわいわいしながら食べていると、京子さんが希美さんに、

「あれ持ってきてたよね?」

「あ、あれですか? ……わかりました。持ってきます」

と希美さんは久美子さんの車に歩いて行った。

 それを見ながら、

「あれって?」

と京子さんに聞くと、京子さんはにっこり笑って、

「ギターよ。あの子、弾き語りするのよ」

「え? すごいじゃん」

「でしょ?」

 へぇ。それは意外な特技だ。曲を披露してくれるってことだよね。

 希美さんがギターケースを肩に掛けて持ってきた。

 イスに座って、ケースを開いてギターを取り出し、細かく調整している。

「ふんふんふん」

と鼻歌まじりに作業をする希美さんを見ていると、本当にギターが好きなんだなって思う。

 というか、他の男子には何か特技は無いのだろうか? これでは明らかに男子の方が見劣りするというか……。

 希美さんは、ギターを構えぽろろんと弾き鳴らし、うなづいた。

「じゃ、とりあえず一曲。『カントリーロード』」

 暗くなりつつある空の下。蝉の鳴き声をバックコーラスに、希美さんのギターの調べと歌声が響き渡る。

「――――」

 余韻を残して曲が終わると、春香がすぐさま拍手をする。

「おお~! すごい! 良い声してるね」

 俺も拍手をしながら、

「きれいな声だな。上手だったよ」

というと、希美さんはちょっと照れながら、

「いやぁ。えへへ。……じゃ、これはどうです?」

 今度は、ぐっとバラード調の曲を弾く。これは……、スマップか?

 俺と春香が目を合わせる。春香は微笑んでそっと俺に寄りかかり、二人でギターに合わせて体を揺らす。

 すると久美子さんと京子さんも肩を組んで体を左右に揺らしはじめた。

 希美さんの歌声に、ほかの三人の女子の歌声が重なる。ふと見ると、残りの三人の男子も左右に体を揺らしていた。

 賑やかなバーベキューは続いていく。

――――。

 本部棟大浴場。

 今、俺は体を洗ってゆっくりと湯船につかっている。

「はあぁぁ。癒やされるぅ」

と少し離れたところで武士くんが浴槽の縁に頭を預けながら脱力している。

 給湯口のそばでは晃くんが湯船につかりながら目をつぶり、精神統一をしている。……いや違った。どうやら回復魔法を唱えているらしい。

 体を洗い終えた勇輝くんが、ちゃぽっと湯船に入ってきた。

「いやぁ。夏樹先輩。春香先輩とどこで出会ったんです? どうやってあんなに可愛い子を捕まえたんです? いつから付き合ってるんですか?」

 勇輝くんが俺にきいてきた。ふと見ると、武士くんもそっと寄ってきて、晃くんも片目を開けて俺を見ていた。

「参考にならないと思うけど、知りたい?」

「「「はい」」」

「う~ん。……まあ、生まれ持った運かな。幼なじみだから」

「「「……」」」

「幼なじみってなかなか恋愛関係になりにくいけど、勇気を出して早めに告白してって感じだな」

 なぜか武士くんがよろけるように、勇輝くんの肩を叩いた。

「くっ。勇輝。持てるものは生まれながらにしてすべてを持って行くって、本当だったんだな」

 すると勇輝くんもうなづきながら武士くんの肩を叩く。

「くそっ。持っていない俺たちは一生無理なのか……」

 そこへ晃くんも、

「俺の暗黒の力では純粋な天使など望むべくもないのか」

黄昏たそがれている。

 俺は苦笑しながら、

「恋愛は人それぞれさ。型にはまったものなんてないよ。だから、みんな試行錯誤しながら恋をするんじゃないのかな」

 武士くんは、湯船の中の自分の手のひらを見つめながら、俺の言葉をじっと聞いていた。

「う~ん……」

一方、女風呂――。

 私はそっと足から湯船に入った。

 少しぬるめのお湯が汗ばんだ肌に心地よい。

 それにしても、今日は楽しかった。

 ……いつも夏樹と二人で過ごしているけれど、こうしてそのほかの人たちと騒ぐのもいいものだ。

 給湯口から流れるお湯の音が耳に心地よい。

 湯船の中で左の腕をさすると、温泉の効能だろうか、すべすべになっている。

 しっとりとしたお湯を楽しみながら浸かっていると、隣に京子がやってきた。

 まるで猫のようにほっそりとしなやかな肢体をお湯に沈めながら、

「ねえねえ。春香はいつから夏樹くんと付き合ってるの?」

「ふふふ。知りたい?」

「ほらほら、じらさないで教えなさいよ」

「正式には中学校に入学した日からよ」

正式には?」

「だって結婚の約束は幼稚園だもんね」

「いや、それはさすがに小さすぎるような……。でも実際、婚約しちゃってるのよねぇ」

「驚いた? 純愛でしょ?」

 京子は苦笑しながら、

「ま、まあ。腐れ縁ともいうんじゃないの?」

「えー! せめて運命って言って欲しいなぁ」

 そこへ久美子が入ってきた。久美子ったら入ってくるなり私の胸を触ろうとするのやめて!

 久美子は寂しそうに笑いながら、

「運命なんて、もうそういう夢を見る年じゃなくなりつつあるのよねぇ」と言うと、京子とそろって、

「「はあ」」とため息をついた。

「ま、まあ。久美子も京子も。きっと素敵な男性と出会えるよ。だって私たちまだ社会にすら出てないんだよ?」

 すると久美子が自嘲するような笑みを浮かべ、

「そりゃぁ。そうだけどさ。……自信が無いよ。きっと近寄ってくる男は裏心があるんだよ」

 私はじとっとした目で久美子を見て、

「久美子。……そういうのこじらせ女子って言うんだよ」

 力なく久美子と京子が、

「はあい。こじらせ女子一号の久美子です」「同じく二号の京子です」

と手を上げた。

 京子が、

「いいなぁ。春香は夏樹くんがいてさ。……なんか頼れるよね」

「えへへ。夏樹は私のだからね。あげないよ」

「くっ。勝者の笑みがまぶしい!」

 湯船で女子トークを繰り広げていると、体を洗い終えた希美ちゃんが、

「あらら。こんなところで恋愛の話ですか?」

とやってきた。その表情は期待に満ちている。

「ね。春香先輩。その初めての時ってどうでした? やっぱり夏樹先輩の部屋ですか? それとも春香先輩の部屋?」

 私はあわてながら、

「い、いや。場所はその……。内緒ってことで」

というと、三人の女子は口をとがらせて、

「「「えー。内緒?」」」

とハモる。

「じゃ、三人はどうなの?」

と逆襲すると、途端に久美子と京子はどよ~んとうな垂れる。

「私はまだだし」「私も」

 希美ちゃんは微笑みながら、

「ん~。私は彼氏の部屋だったな。……なんだかあくせくして、痛いだけで、思い返すと不思議だけど、これでもっと愛してくれるって思い込んでたのよねぇ」

とあっけらかんと話した。

 久美子と京子がぎょっとしている。

「くっ。この子にも先を行かれている!? 京子。どうしよう。私たちこのまま干物女になっちゃうのかな」

と久美子が弱々しくいうと、京子が力強く、

「久美子。大丈夫よ。一人じゃないわ。……私もよ」

というと、久美子がその額をチョップして、

「結局、干物やんけ!」

と突っ込んだ。とたんにみんな笑うが、希美ちゃんがするどく、

「で、春香先輩はどこで?」

と訊いてくる。

「え、え~と。ホテルかな? 受験の後で」

「え? まじですか? それまでしてないの? 夏樹先輩、もしかしてヘタレ?」

「そ、そりゃ、婚約してるとはいえ学生ですけどね。……婚姻届も書いたけど、高校生だったから!」

とどもると、三人が驚いて、

「「「は? 婚姻届?」」」

と叫んだ。

 久美子が勢いづいて、

「なになに。それ。話聞かせてよ」

と私の腕を取ると、京子が、

「ふぅん。……夏樹くん。すまん、ヘタレだと思っていた。彼は男だ。……それはともかく」

と反対側の腕を取った。

 希美ちゃんは目の前に陣取り、

「逃がしませんからね。詳しくじっくり、ねっとりと聞かせてもらいましょうか」

 私は笑って誤魔化しながら、

「ほら。のぼせちゃうから。そろそろ上がろうよ」

と立ち上がろうとするが、腕を放してくれない。

 でもね。あれは大切な私たちの思い出だし。お父さんのこともねぇ。

 私は苦笑すると、

「面白い話じゃないよ? それにそれで夏樹をからかったりしないって約束するんなら、……夜に話すわよ」

「「「うん。約束する」」」

 ……しょうがないなぁ。

 私はそう思いながら、湯船から出た。

――――。

 コテージのリビングで、それぞれが思い思いに座っている。

「はい。どうぞ」

と、春香が冷蔵庫から取り出したビール缶をみんなに配る。未成年はやはりジンジャーエールだ。

 自分の缶のプルを開け手に持つ。久美子さんが、

「んじゃ、二度目の乾杯!」

と言うと、みんなが「乾杯」と言いながら、互いに缶をぶつけ合った。

 久美子さんがぐびぐびとビールを飲み、

「さあて、こうして皆なで飲み会ってのも久しぶりだね。暴露大会行くか?」

と京子さんに言うと、

「いいねぇ」

とニヤリと笑みを見せた。その笑顔を見て武士くんと勇輝くんとが顔を引きつらせる。

「じゃあ、誰から……、行くかなぁ」

と久美子さんが据わった目で一同をながめながら舌なめずりをした。

「何でもいいんなら、俺からいこう」

と俺がいうと、久美子が「おおっと意外」と言いながら、さっさとやれっというように手のひらを振る。

「あれは俺が中学3年生の時だった――」

 その頃、すでに春香と付き合っていたし同じバスケ部だったから、学校の行き帰りは基本的に二人一緒だったんだ。

 ほら3年生じゃ受験生だろ?

 いつもは一緒にどっちかの家に行って受験勉強してたんだ。

 で、その日はたまたま家の用事で先に帰って、すぐにまたお使いで出かけた。用事を済ませて戻ったのが、午後の5時過ぎだったかな。

「ただいま」って家に入ると、母さんが、「春香ちゃんが来ていて、あんたの部屋で勉強してるよ」って言った。

 俺はすぐに自分の部屋に戻ったんだ。

 そこまで話して春香の方を見ると、困ったように頬を染めながら苦笑いしている。

 部屋のドアを開けると、春香が俺のベッドの脇に座り込んで、赤くなりながら本を読んでた。

「悪い。またせたな」って言って、春香の見ている本を見てびっくりした。

 ……マットレスの下に隠してあった俺のエロ本だった。

 2年生の男子のペアが、「うわぁ。最悪」とつぶやき、久美子さんと京子さんは目をらんらんとさせながら聞いている。

 それを見た瞬間、俺の視界は真っ暗になり、どうしていいかわからず、全身から汗が出てきて心臓の音だけ、バクバクと聞こえたよ。

 俺が部屋に入っても本をじっと見ていた春香が、こっちを見てさ。

「で、夏樹はどの子がいいの? どこらへんが好み? ……ふ~ん。夏樹はこういうのがいいんだ?」

 思わずその場で土下座して、「すいません! 勘弁してください!」

 その途端、久美子さんと京子さんが笑い出した。

「くくく……。いいねぇ。夏樹くんも男だね」

「ね? 春香。後で聞きたい話が増えたわ」

 春香は真っ赤になって、

「い、いやね。でもその後、なっくんは「好みは春香」って言うもんだからさ。もうどうでもよくなっちゃったんだよね」

とばらした。

「あっ。春香。それは……」

とあわてたがもう遅かった。

 その場にいた彼氏彼女無しの6人が、じとっとした目で俺と春香を見ていた。

 春香が、おどおどしながら、

「じゃ、次は私からってことで、さっきの続きだけど。

 夏樹ったら、その写真集だけじゃなくてさ。もっとわかりにくいところに、本物のナースの制服カタログの『アンファミエ』とか、通販の女性用ラン「ちょっと待てぃ!」とか隠してたのよね」

 途中、あわてて大声で春香をさえぎる。

 久美子さんと京子さんがニヤニヤしながら、

「おやぁ。夏樹くん。だめだよ。さえぎっちゃ」

と言うが関係ない。

「な、なな、なんで、お前がそれ知ってるの!? まさかあそこに隠してたの見つけたのか?」

「……てへっ」

 問い詰めると春香が可愛らしく舌を出して笑った。俺は思わずガクッとうなだれる。

 それを面白そうに見ていた希美ちゃんが、

「で、結局、ナース服を買って春香先輩にプレゼントしたんですか?」

と春香に質問した。

「え、えっと……。ナース服は無いけど、大学生になってから下着はもらったよ」

「エッチなやつ?」

「う~ん。ま、そこそこ」

 春香の答えに希美ちゃんは「へぇ」と言うが、俺は、

「春香はもっときわどいのを用意してたんだよ。同居するときに」

とばらすと、春香が真っ赤になって、

「なっくん! それは二人だけの秘密!」

と両手をバタバタさせながら叫んだ。

 希美ちゃんはちょっと引きながら「ふ、ふ~ん」と、春香を見た。

 その時、久美子さんがパンパンと手を叩き、

「はい。いちゃいちゃはおしまい! ん~、面白いんだけど、結局、いちゃラブで終わるのがしゃくだね」

と言うと、京子さんも「ね~」なんてうなづいている。

 久美子さんが、

「こうもっとさ。春香が夏樹くんの脱いだ下着をくんかくんかしてたとかさ。夏樹くんが春香がいない間に下着あさってたとかないかな?」

「誰がするか!」

と即座に否定するが、春香は「あ~、よくしたな」とかうなづいている。……まじで?

 気を取り直して、久美子さんが、

「じゃ、次は……、勇輝、行ってみよう」

と指をさすと、勇輝くんは、

「えっ? 俺? え、え~と」

と困りながら、自分の失敗談、――教室に入ろうとして肩をドアにぶつけて、よろめいた拍子に足の小指をぶつけ、思わずかがんだところを頭を机に殴打して、ひっくり返った拍子に手が女子のスカートに引っかかって、女子のスカートが下に落ちてしまい、その子の下着が露わになってしまったという、なんともいえない暴露話を披露した。

 ……なんていうか、こいつ持ってるな。そう思わせる暴露だった。

 暴露大会は全員が一巡するころ、久美子さんの一声で飲み会も早めに終わったのだった。

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