06.王都サザンロードでの暮らし

 ヒルズ村を出てから一ヶいっかげつがたった。

 無事ぶじ商業都市しょうぎょうとしソルンにげることができた私たちだったけれど、エドワードたちはさらに王都おうと移住いじゅうすることを決断けつだんしたわ。

 というわけで今は、王都サザンロードで一軒家いっけんやりてらしているってわけ。生活せいかつをはじめてすぐに、ヒロユキとコハルは正式せいしき冒険者ぼうけんしゃギルドに登録とうろくした。

 ちなみに私も登録して腕輪うでわをもらったわ。なんでもこれをしていないと、野良のらのキツネとまちがわれて、りの対象たいしょうになってしまうかららしい。

 今の生活は、早朝そうちょうにヒロユキとコハルのたたかうための訓練くんれんを見て、日中にっちゅうは二人がけた街中まちなか依頼いらいについていって、夕方ゆうがたにはみんなでごはんをべるというらしをおくっている。
 はやく二人にはつよくなってもらいたいところね。

――――。
「せりゃあぁぁ」

 ヒロユキが気合きあいを入れて木剣もっけんでエドワードにりかかる。エドワードは余裕よゆうをもって、サイドステップ一つでそれをよけると、手にした木剣でヒロユキのけんながし、そのままヒロユキの剣を上にきとばした。

 無防備むぼうびになったヒロユキのあたまに、エドワードがチョップする。
「いってぇ!」
 両手りょうてで頭をおさえてうずくまるヒロユキに、エドワードは、
「まだまだだな」
と言ってわらっていた。

 ふふふ。ヒロユキったらすっごくくやしそうなかおをしてる。がんばれ少年しょうねん

 そう心の中でヒロユキを応援おうえんしながら、となりで神経しんけい集中しゅうちゅうしているコハルの様子ようすを見る。コハルは杖を両手でつよくにぎりしめていて、じぃっとその先端せんたんを見つめている。

 背後はいごにはリリーが立っていて、
「はいはい。もっとかたの力をぬいて。……そのままで呪文じゅもんとなえるのよ」
「は、はい! わ、わが魔力まりょくよ。水となれ」
 すると杖の先から、水がちょろろろとび出した。みじかい呪文じゅもんの一番かんたんな水の魔法まほうね。

 それをみたエドワードが手をたたいて、
「おお! 成功せいこうしたな」
とコハルをほめる。

 ふふふ。コハルの方は順調じゅんちょうのようね。まだまだあまいところもあるけれど、もうちょっと魔力をった方がいいわね。

 その時、家の裏口うらぐちのドアがひらいてソアラが顔を出した。
「そろそろ、今日の訓練くんれんはおわりにしたら?」
 エドワードがニカッと笑った。「おお。そうだな」

 それからみんなで中に入ってテーブルにすわって朝食ちょうしょくる。
 エドワードがパンにジャムをぬりながら、
「そうそう。今日はおれたちかえってこないからな」
 それを聞いてヒロユキとコハルがびっくりして、
「「え?」」
と声をもらす。エドワードがリリーに、
「なんだ。まだ言ってなかったのか?」
いかけると、リリーはばつがわるそうに、
「う、うん。まだ言ってなかったわ」
 フランクが苦笑くしょうしながら、ヒロユキとコハルに、
依頼いらいでね。まりになりそうなんだよ。でもまあ一晩ひとばんだし、ユッコもいるから大丈夫だいじょうぶだろ?」
と言う。

 ヒロユキがむすっとして、
「ユッコは関係かんけいないじゃん」
と言うが、ミルクのカップをったソアラが笑いながら、
「そう? ユッコはたよりになるわよ。……ホント、普通ふつうのキツネにおもえないくらいよ?」
 コハルはうなづいて、エドワードに、
「うん。わかったわ。帰りは明日あしたになるのね?」と言うと、エドワードは、
「そうだ。というわけで明日の訓練はなしだ。留守るすたのむぞ」
と言った。

 朝食がおわって、エドワードたちはさっそうと出発しゅっぱつする。ヒロユキとコハルはそれを見送みおくってから、二人でギルドに向かった。今日の依頼をさがしに行くためだ。
 二人がえらんだのは倉庫整理そうこせいり依頼いらいだ。依頼主はとしよりの魔法使まほうつかいですって。
 受付うけつけのおねえさんから行き方をおそわり、二人は気合いを入れてギルドから出た。

――――。
「うひょひょ。かわいい子どもがきたもんだのう」

 二人を見た魔法使いのおじいさんはそう言って笑顔えがおを見せた。そして、その視線しせんが私にとまる。
「うん? んんん? このキツネは……」
とつぶやく。あれれ? おかしいな普通ふつうのキツネにしか見えないはずだけど、もしかして正体しょうたいがバレた?ちょっとあせる私だったが、おじいさんは目をこすり、
「気のせいかの? ワシよりはるかに魔力があるように見えたんじゃが……」

 二人はおじいさんの指示しじとおり、書類しょるいがいっぱいになったはこ倉庫そうこから出したり入れたりしている。

 私はってそれを見守みまもりながら、おじいさんの本棚ほんだなをちらりと見上みあげた。透視とうし魔法まほうをつかって、ここに座ったままで本棚にならんでいる本を順番じゅんばんんでいく。

 ふむふむ。わたしのいたところと魔法の使つかい方もちがうのかぁ。こっちだといちいち呪文じゅもんとか魔方陣まほうじん必要ひつようだなんてめんどくさいわね。……あ、でもあれは。なーるほど、この世界せかい地理ちりってこんなふうになっていたのね。

 二時間にじかんくらいそうやって本をぬすんで、上機嫌じょうきげん尻尾しっぽりながらコハルたちの様子ようすを見ると、二人はつかれてゆかにへたりこんでいた。

「はぁはぁ。……まだあるの?」
 弱音よわねくコハルに、おじいさんは笑いながら、
「うひょひょ。つかれたか? そうさな。おひるにするか。ついておいで」
と言って、一人でさき台所だいどころかった。

 ヒロユキもコハルもつかれてなかなか立ち上がれないでいる。私は笑いながら、こっそりと魔法で二人の体力たいりょく回復かいふくさせた。

 ヒロユキがよろよろと立ち上がって背伸せのびをする。
「ふぅぅ。……コハル。行こうぜ」
そういってコハルに手をさしのべると、コハルはその手をつかんで立ち上がった。
「うん。午後ごごもこんなかんじなのかな?」
とおそるおそる言う。ヒロユキは、「へっ」と言って、
「これくらいなんでもないさ」
とひとさしゆびはなの下をこする。まったくおとこの子ったら、すぐつよがるんだから。……でもまあこっそりと手助てだすけしてあげるからがんばってね。

――――。
 その日の仕事しごとわるころには、二人はもうしゃべることもできないほど、つかれ切っていた。
 おじいさんは笑いながら、二人に二本の液体えきたいの入った試験管しけんかんわたす。

「ほら。これを飲みな。回復の魔法薬ポーションじゃ」
 ヒロユキがおどろいて、
「え? だっておれたちおかねないぜ」
 コハルもおそるおそる、
魔法薬ポーションて、あの魔法薬ポーションよね?」
とたずねた。
 おじいさんはうなづいて、
「どの魔法薬ポーションかしらんが、その魔法薬ポーションじゃ。……とはいっても効果こうか一番低いちばんひくいやつじゃがな」
と言って、無理矢理むりやり、二人にまさせる。

 どうやらあの魔法薬は、おじいさんの手作てづくりらしいわ。それでもき目は充分じゅうぶんだったようで、いきえだった二人が、普通ふつううごけるくらいには回復かいふくしているみたい。

 ……なかなか面倒見めんどうみのいい魔法使まほうつかいね。おじいさんにとって、二人はおまどさんってかんじなのかも。
 内心ないしんでそうほくそむ。

 夕食ゆうしょく用意よういしてくれているみたいで、おじいさんは二人をふたたび台所にれて行って、一緒いっしょに食べ始めた。

 おじいさんがスープをみながら、
「それにしても、おぬしら二人っきりで生活せいかつしとるのか?」
とたずねると、ヒロユキは、
「エドワードたちとんでる。すっげー腕利うでききなんだぜ」
 コハルも、
今日きょう明日あした依頼いらいでいないの。でも、私たちにはユッコもいるから大丈夫だいじょうぶよ」
と言うと、おじいさんは破顔はがんして、
「そうかそうか。……じゃあ、明日もここにるか?」
 するとヒロユキはまずそうに、
「うっ。あ、明日もあれやるのか?」
と言うので、おじいさんは笑いながら、
「いいや。明日は魔法薬ポーションつく手伝てつだいをしてもらおうかの」

 えっ? 魔法薬ポーション? そんなの二人に手伝てつだわせて大丈夫なのかしら?

 そんな私の気持きもちをよそに、二人はかおかがやかせて、
魔法薬ポーション? ……マジか?」「本当ほんとう?」
と聞き返し、おじいさんがうなづくと、
「「やるやる!」」
元気げんきに引き受けてしまった。

 おじいさんは、ひげをなでながら、
「ついでに少し勉強べんきょうおしえてやろうかの。……これから世界せかいれそうだしの」
と小さくつぶやいて、私の目を見てウインクした。

 王都はすごい都会とかい。人もおおいし、おみせも多い。さいわいにいい魔法使いのおじいさんに出会であえたわ。
 私もこの世界せかいのことを調しらべられて一石二鳥いっせきにちょうってやつね。
 でもこのおじいさん、そこらへんの魔法使いよりも強い魔力を持っているみたいだけど、いったい何ものかしら? 

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