21.3つの試練(1)

 無事ぶじ階段かいだんを見つけ、その途中とちゅう休憩きゅうけいった。

 ダンジョンって階層かいそうごとに雰囲気ふんいきや、出てくる魔物まものわながガラッとわったりするから、その境目さかいめ休憩きゅうけいを取るのが大事だいじなことなのよ。

 まあ、わたしくらい、いろんなものを感知かんちできるようになれば、どうってことないけどね。

 折角せっかくだから、二人にこっそりと体力たいりょく回復かいふく支援しえん魔法まほうをそっとかけておきましょう。

 というわけで、とうとうやってきましたダンジョンの最下層さいかそう

 階段かいだんを下りきったまえ装飾そうしょくほどこされた大きなとびらがある。

 わたし感知かんち能力のうりょくによれば、このこうには二つの小部屋こべやがつづいたのちに、大きなひろ空間くうかんがある。普通ふつうに考えれば、ダンジョンボスの部屋へやでしょうね。

 そしてボスルームのこうに小部屋こべやが一つある。この部屋へやがくせもので、ちょっと不思議ふしぎ波動はどうかんじる。

 ちなみにボスは巨大きょだいなヒュドラのようね。あれって再生さいせい能力のうりょくたかいから、めんどくさいのよね。

 ヒロユキとコハルがとびら見上みあげている。

 コハルが、

 「ここって……」

 「ボスの部屋へやだろうな」

 「わたしたちで大丈夫だいじょうぶかな?」

 「見るだけ見てみようぜ」

 「うん……」

 りっぱなとびらにコハルはびびっているみたい。予想よそうがついていたことなので、二人に勇気ゆうきを出させるために、やる気の出る気分きぶん高揚こうよう精神せいしん魔法まほうをかけておこう。

 ヒロユキがけっして、とびらに手をそえてコハルとわたしを見る。

 「じゃあ、行くぞ!」

 「うん!」

 ギギィィとおとを立てて、よりスムーズにとびらひらいていく。そのすきから光があふれ出して――。わたしたちはバラバラに転移てんいされた。

――――

 ヒロユキが気がつくと、一人でほそ洞窟どうくつ通路つうろにいた。

 「む?」

 自分じぶん一人だけが転送てんそうされたと気がつき、すぐにこしけんに手をそえてまわりを見回みまわした。

 ヒロユキのうしろはすぐにまりのかべ通路つうろまえびる一本いっぽんのみ。

 そのまえ通路つうろおくから、足音あしおとこえる。

 「ちっ。てきか」

 ヒロユキはけんこうとした。そのとき、通路つうろおくから、

 「まて! おまえけんたたかうつもりはない」

と、どこかでいたことのあるようなおとこの子のこえこえた。

 その言葉ことばわるやいなや、あらわれたのは――、まさにもう一人のヒロユキだった。

 「お前!」

 「ははは。そうやって、いきりつなって。おれはおまえだぜ?」

 ヒロユキは、

 「ふざけんな! おれおれだ!」

うが、もう一人のヒロユキはうなづいて、

 「ああ。そうさ。おまえはおまえ。……まあ、言ってみれば、おれはおまえこころかげのようなもんだ」

 そういってかげヒロユキは、にやりとわらった。

――――

 そのころ、コハルも一人でいけのそばにたたずんでいた。

 正面しょうめんにはもう一人のコハル、――かげコハルが意地悪いじわるそうなみをかべている。

 「ねえ。あなた。いつまでほかひとたよっているつもり?」

 あざけるようなかげコハルの言葉ことばに、コハルはにぎりしめてえている。

 そこへ容赦ようしゃなくしんらつな言葉ことばがかけられる。

 「なにかえせないの? そうよね。だっていま、あなた一人だもの。一人じゃ何もできないもんね」

 「そ、そんな……。そんなことない……」

 「え? なあに? 今、なにか言った?」

 コハルは必死ひっしかおを上げた。

 「わ、わたしだって! 一人でだって」

 「何ができた?」

 「………………」

 コハルはだまってうつむいてしまう。

 「何もできないわよね。いっつも、ヒロユキやリリーがやってくれたものね」

 「……で、でも」

 かげコハルがぴしゃりとう。

 「無理むりね。自信じしんもやるもないあなたには、何にもできない。いっつもながされてばかり。……だからね。ここから先は、わたしがあなたのわりになってあげる」

 「え?」

 「わたしはずっとあなたのこころの中で我慢がまんしてたの。わたしならもっと上手うまくやれるって。だから、これからはあなたがわたしの心の中で我慢がまん……。いや、その方があなたにとってはらくよね。見てればいいんだから」

 かげコハルはわらいながら、いけからどこかへつづいていくみちあるいてく。

 「ふふふふ。そと世界せかいたのしみだわ。何にもできないコハルちゃん。もし勇気ゆうきがあるんなら、はやいかけてこないと わなくなるわよ?」

 一人、とりのこされたコハルは、うつむいて、

 「わたしは……」

とつぶやいていた。

――――

 かげヒロユキは、ヒロユキを見下みくだすように、

 「で、いつまでつよがってんだ? もうわかってんだろ?」

 「……なにがだ?」

 「おいおい。とぼけんなよ。おまえおれの仲だろ? わかってんだぜ。自分じぶんちからがないってことくらいよ」

 「はあ? なにを言ってる?」

 「だからとぼけんなって。つよがってるのも、コハルがいるってのもあるけどよ。そうしないとおまえうすっぺらだもんな。……くっくっく」

 ヒロユキはおこってかげヒロユキをにらみつけた。

 「おー。こわこわい。……本当ほんとうはエドワードみたいにつよおとこでいたいんだろ? だけど、いい加減かげんあきらめろよ。おまえにゃ無理むりだ」

 ヒロユキはこぶしにぎるとかげヒロユキになぐりかかった。

 「ふざけんな!」

 しかし、こぶしかげヒロユキをとおりぬけた。

 「ぷっ。なに一人ひとり相撲ずもうしてんだ? バカみたいによ。……理由りゆうおしえてやろうか?」

 「勝手かってってろ!」

 かげヒロユキはおもしろそうに満面まんめんみで、

 「おう。わせてもらうぜ。おまえにはエドワードにはなれねぇ。フランクやゴンドーみたいにもな。……どだい無理むりなんだよ。自分じぶんよささや無力むりょくさをれられねえやつに、つよくなる資格しかくなんてねぇ。ましてや英雄英雄なんてゆめのまたゆめだ」

 「きっさま!」

 ヒロユキはふたたなぐりかかるが、ふっとかげヒロユキの姿すがたえた。

 たたらをんだヒロユキがまわりを見まわす。

 「どこだ! かくれやがって!」

 すると通路つうろおくに、かげヒロユキがポッと姿すがたあらわす。

 「わるいけどよ。わらせてもらうぜ。……もううんざりなんだよ。おまえの心の中でおまえを見てるのがよ。おれならもっと上手うまくやれるぜ? だからおれに任せて、おまえは心の中から見てろよ。……おれ英雄潭えいゆうたんをな」

 そういってやみおくへと歩いて姿すがたえていく。

 「おまえには、そのまりがお似合にあいだ。……文句もんくならいつでもけてつぜ。えばいいけどな」

 そういって気配けはいとおざかっていく。

 ヒロユキはこぶしにぎりしめ、キッとかげヒロユキのえた通路つうろさきをにらんでいる。

 「くそ! ……おれはこんなところで……」

――――

 あれれ? ヒロユキとコハルは?

 わたし転移てんいしてきたのは、星空ほしぞらうつくしいおかの上だった。

 一本の木がえだばしていて、その木の下にあるいわの上で、一人のうつくしい女性じょせいこといている。

 月光げっこうがスポットライトのようにその女性じょせいらし、幻想的げんそうてき光景こうけいだ。

 わたしちかづいていくと、女性じょせいわたしを見てこといていた手をめた。

 「あらら? 異世界いせかい神獣しんじゅうさん? どうしてここに?」

 う~ん。説明せつめいがめんどうだわ。

 そう思ったら、女性じょせいがクスクスとわらい出した。

 「説明せつめいがめんどう? ちょっとまってね」

 女性じょせい瞑想めいそうするようにそっと目をじた。

 ……っていうか、わたしの心の声がこえたのね? 聖気せいきちているし、もしかして精霊せいれい女神めがみさまかしら。

 女性じょせいは目をじたままでうれしそうに微笑ほほえんで、

 「両方りょうほう正解せいかいよ。……わたしは月の女神めがみイシュルナ。っと、見えてきたわ」

 女神めがみイシュルナはうんうんと言いながらうなづいて、

 「なるほど。あなたは召喚しょうかんされたのね。で、今は魔王まおうがいて、あなたは召喚しょうかんぬしとともにわたしのダンジョンに来てるってわけね」

 え? ここって月の女神めがみのダンジョンだったの?

 すると女神めがみは口をとがらせて、

 「ぶー! らないできたの? まったく上の連中れんちゅうは何してるのかしら?」

不満ふまんそうにった。けれど、すぐに目をひらいて微笑ほほえんで、

 「でもまあ、よくこの世界せかいに来たわね。歓迎かんげいするわ」

 それはどうも。……ところでヒロユキとコハルはどこかしら?

 「そうよね。召喚しょうかんぬしのことが気になるわよね。……ええっと、二人とも勇気ゆうき試練しれんのところにいるみたいね」

 勇気ゆうき試練しれん

 「そ。聖剣せいけんたくすにふさわしいかどうかをためす三つの試練しれんの一つ。……ちなみにアナタは規格外きかくがいすぎるから、わたしの所へ転送てんそうされたってわけ」

 ふうん。なるほどね。状況じょうきょうがようやくわかったけど……。二人とも大丈夫だいじょうぶかしら。

 「心配しんぱいよね。でもこれは自分じぶんえないといけないのよ。……心配しんぱいなら見てみましょうか」

 女神めがみがそううと、虚空こくうにスクリーンが二つあらわれた。一つはヒロユキ、もう一つにはコハルがうつっている。

20.ダンジョン探索

 ダンジョン生活せいかつ、3日目。

 今日きょうからいよいよオブライエンさんの手記しゅき参考さんこうにしながら、脱出だっしゅつかって洞窟どうくつに入るようだ。

 洞窟どうくつの入り口でオオカミたちがさびしそうにている。

 わかってる。あなたたちもそとたいわよね。……無事に脱出だっしゅつしたら、転移てんいでやってくるから、それまでってて。

 わたしはそうおもいながら、オオカミたちの見送みおくりをけて、ヒロユキとコハルと一緒いっしょ洞窟どうくつに足をれた。

――――

 不思議ふしぎ洞窟どうくつのなかは、ところどころのかべがうっすらと発光はっこうしていて、まったくのくらというわけじゃなかった。

 わたしくらくてもえるけど、ヒロユキとコハルもだんだんと目がなれれてきたようだ。

 コハルが緊張きんちょうしながら、

 「かべひかっていると、かえって不気味ぶきみだね」

 するとヒロユキが、

 「ふん。……たいまつがいらないから、かえってよかったさ」

つよがっている。

 ふふふ。二人とも今から緊張きんちょうしっぱなしだと、出口でぐちまでもたないわよ?

 まわりの気配けはいさぐりながら、二人のまえあるいていると、目のまえ洞窟どうくつ二手ふたてかれている。

 その手前てまえでコハルがカバンから手帳てちょうした。

 魔法まほうで小さなひかり照明しょうめいして手帳てちょう確認かくにんしている。

 「ひだりだね」

 うん。そうだね。手帳てちょうだと。……でもね。コハル。ここはみぎに行きましょう。

 わたしは、一人でさっさと右の方へとあるき出した。

 「あっ。ユッコ! そっちじゃないって!」

 あわててコハルがいかけてきて、そのうしろをヒロユキが、

 「おい! てよ!」

と言いながらついてくる。

 オブライエンさんは、みぎ通路つうろが少ししたらまりっていているでしょ?

 でもね。そのまりにかく通路つうろかんじられるわよ。

 わたし感知かんち能力のうりょくなら土中どちゅう空洞くうどうも、この洞窟どうくつのすべての通路つうろもわかる。

 さっきのかれみちは、ひだりに行くと上に行く通路つうろみぎに行くと下に行く通路つうろ。……そして、下にはあと一階層いっかいそうしかないわ。

 オブライエンさんはわからなくて左に行っちゃって苦労くろうした。左に行くと、ここから地上ちじょうに行くまで二〇階分にじゅっかいぶんあがっていかないといけないし、途中とちゅうちゅうボスの部屋へやみっつもある。

 右? 右はね。ここの下の階層かいそうがボスのいる階層かいそう。たぶん、さっきまでいた草原そうげん森林しんりんのある広間ひろまは、ボス戦前せんまえ回復かいふくポイントなのよ。

 ボスって言ったって、わたしがいれば問題もんだいないし。そのおくに行けば、地上ちじょうへの転移てんい魔方陣まほうじんがあるはず。

 「ちょ、ちょっとまってって。ユッコ! そっちはまりよ」

 ふふふ。わかっているわよ~。

 そうやっていそあしすすんでいくと、すぐにまりが見えてきた。

 うしろからヒロユキとコハルがやってきて、

 「ほらね? まりでしょ?」

 すこいきをあらげながらコハルがそういうと、ヒロユキが、

 「まったく。なにやってるんだよ。おまえは」

どくづいている。

 わたしは二人を見上みあげ、くびをかしげると、かべちかづいていく。……見つけた!

 わからないように設置せっちされている小さなボタンを、前足まえあしでポチッとした。

 ガコンっ。

 なにかがうごおとがする。

 ヒロユキとコハルがあわてたように、

 「な、なんだ?」

 「トラップ?」

 少しずつ振動しんどうが大きくなり、天井てんじょうからつちほこりがちてきて……。

 「「な!」」

 二人がおどろいたこえを上げる。まえまりのかべぐすきができると、左右さゆうひらいていった。

 わたしは どやがおかえり、二人を見上みあげると、二人ともおどろいたかおのままでかたまっていた。

――――

 「すっごーい! ユッコ」

 きをもどしたコハルが、わたしげてほおずりしている。

 ヒロユキも感心かんしんしたように、あたらしい通路つうろさきをのぞき込んでいる。

 「本当ほんとうだな。よくやったぞ!」

 興奮こうふんしている二人だけど、そろそろちついた方がいいわよ。……ほら、おくからアイアン・ゴーレムがちかづいているわ。

 残念ざんねんだけど、あれは二人にはおもすぎるわね。訓練くんれんにもならないから、わたしがやっちゃおう。

 二人に気がつかれる前に、気配けはい感知かんちをたよりにゴーレムに灼熱しゃくねつ魔法まほう仕掛しかける。

 熱風ねっぷうがここまでせてきて、ヒロユキが、

 「なんだ? ……もしかしてこのおくって火山かざんか何かか」

いながら、めた。

 ううん。大丈夫だいじょうぶよ。ただゴーレムをかしちゃっただけだから。

 つづいて、こっそり冷却れいきゃく魔法まほうはなち、もとゴーレムだったはずのけてドロドロした液体状えきたいじょうてつ急激きゅうげきやす。そうしないととおるときあぶないもんね。

 今度こんど冷気れいきがここまでいてきた。

 コハルがぶるっとふるえながら、

 「なんかつめたいかぜいてきたよ。なんだろう?」

 なにも状況じょうきょうらない二人は、くびをかしげている。

 素知そしらぬふうをよそおいながら、わたしはさっさと通路つうろんだ。

 それから500メートルほどすすんだところで、見た目が泥沼どろぬまのようにひろがっててつかたまっていた。そのその真上まうえにはゴーレムのコアだったらしきあかい石がある。

 ヒロユキが、

 「気をつけろ。わながあるかもしれない」

といいながら、けたてつかたまりを見つめている。

 大丈夫だいじょうぶなのにね。

 わたしはトトトッとえたてつの上をあるき、前足まえあし無造作むぞうさに赤い石をみつぶした。

 ベキッというおとを立てて、あっけなく石はくだけちった。

 「……大丈夫だいじょうぶそうね」

 コハルはそういいながら、足をすべらせないように、おっかなびっくりでてつの上をあるきはじめた。

 ヒロユキもそれにつづき、5メートルほどのてつゆかわたりきる。

 それを見届みとどけると、わたしはふたたび二人を先導せんどうするようにまえあるく。下におりる階段かいだんはもうすぐそこよ。

19.安全地帯の探索

 つぎの日は、この小屋こやのある広間ひろま探索たんさくをおこなった。

 魔物まものおもったほど多くはないようで、わたし一緒いっしょなら向こうからたたかいを仕掛しかけてくることもないようだった。

 草原区画そうげんくかくにはオオカミのれと、モグラとかの小動物しょうどうぶつがいて、森林区画しんりんくかくにはリスやさるとり、イノシシがいるようだ。

 いけはきちんと水が循環じゅんかんしているようで、淡水たんすいさかなかいなどがいる。

 手帳てちょうにあった出口でぐちへの洞窟どうくつも見つけたし、脱出だっしゅつするのにどれくらいかかるかわからないから、ここの安全あんぜん確保かくほするのは大切たいせつなことよね。

 というわけで、二人はさっそくもりに入ってわな設置せっちをはじめた。

 コハルが一生懸命いっしょうけんめいロープをっぱっている。

 「んしょ、んしょ」

 ふふふ。かわいいわね。……おっと、むこうに小さいイノシシがいるみたい。

 こっそりと二人からはなれて、イノシシの方へとちかよって、手ごろな木にのぼった。

 えだの上から、下にいるイノシシの様子ようすをうかがうと、一心不乱いっしんふらんあなっていた。

 おそらく木のっこをべようというのだろう。体長たいちょう1メートルくらいで、わたしにはがついていない。

 わたしはすっとえだからジャンプして、空気くうきをけってイノシシに突撃とつげきした。

 一気いっきにのどもとにくいついて、尻尾しっぽあしをはらってイノシシを横倒よこだおしにする。

 あばれるイノシシだったが、あごに力を入れて、がさないようにしていると、だんだんと抵抗ていこうする力がうしなわれていった。

 二人にいいお土産みやげができたわ。

 わたし魔法まほうでイノシシの血抜ちぬきをすると、のどもとにかみついたまま、イノシシをきづって 二人のもとへと もどった。

 がさごそとしげみをゆらしながらもどると、二人ともおどろいた表情ひょうじょうで、

 「なんだそれ!」

 「すごい、ユッコ!」

とさけんだ。

 ふふん。気持きもむねをはって、二人のところへ行くと、運悪うんわるくコハルの左足ひだりあしにしてあるロープにっかかった。

 「あ、……きゃあああ!」

 途端とたんわな発動はつどうして、コハルはロープにつりあげられて、空中くうちゅうさかさまにぶら下がった。

 おどろいたヒロユキだったが、あっというにコハルがちゅうづりになって、あわててロープをりはなそうと木にのぼる。

 まったくもう。コハルったらドジねぇ。

 さわいでいるコハルを見て、わらいがこみ上げてきた。

 「行くぞ」

というヒロユキのかけごえとともに、コハルがドサッとっこちた。

 おしりをぶつけたみたいで、コハルがお尻をなでている。

 「いたたた」

 ヒロユキがえだの上からわらした。

 「ははははは」

 コハルがずかしそうに見上みあげて、

 「ちょっと、そんなにわらわないでよ!」

あかくなって抗議こうぎこえを上げる。

 それを見て、ますますヒロユキが、

 「まったくドジだなぁ。はははは。……は?」

わらいまくっていたけど、きゅうにバランスをくずしたみたいで、

 「と、ととと……。おわー!」

と言いながらえだからっこちた。

 コハルとおなじようにおしりをぶつけたみたいで、

 「いたたた」といながらおしりをなでている。

 今度こんどはコハルがそれを見て、

 「あははは」

わらった。ヒロユキがち上がって、

 「くそっ。失敗しっぱいした」

くやしそうにえだ見上みあげた。

 ……なんだかんだいって、この二人ってなかがいいよね。

 二人はイノシシをきづりながら小屋こやもどる。

 そのみちすがら、わたしは食べられる野草やそうを見つけるたびにコハルにおしえる。

 小屋こやもどったころには、二人ともつかれたみたいで、裏手うらてのわき水でかおあらってすわりこんだ。

 ふふふ。おつかれさま。ふたりとも。

 そう思いながら、コハルのとなりにこしを下ろした。

 コハルがやさしくわたし背中せなかでる。尻尾しっぽをゆっくりとふりながら目をじた。

 ……うん? なにかちかづいてくるわね。これはオオカミたちかしら?

 気配けはい感知かんちにしたがって、わたしち上がって二人のまえに出た。状況じょうきょうがわかっていないコハルが、

 「ユッコ?」と背後はいごでつぶやいた。

 「コハル! をつけろ」

 どうやらヒロユキもオオカミたちがるのがわかったのだろう。コハルをかばいながらけんかまえた。

 まったくあのオオカミたちったら、しょうこりもなくなにしにやってきたのだろう。

 不思議ふしぎわたしたちをつけねらっているというような雰囲気ふんいきでもないし……。

 そうおもってちかづいてくるのを見ていると、オオカミたちはわたしたちの前にずらっとならんだ。

 じっと見ていると、その中央ちゅうおうのリーダーとおもわれるオオカミがおそおそすすてきた。

 くちにくわえているのはウサギかな?

 リーダーはそのウサギをわたしの前にゆっくりとき、あたまを下げながらうしろにもどっていく。

 ……えっと。もしかしてわたしみつぎもの?

 そっとリーダーの方を見るが、ひたすらあたまを下げている。

 まあ、いいのかな?

 一声ひとこえいてウサギを口にくわえると、オオカミたちは安心あんしんしたようにうしろをいてってく。

 「今のは……」

 背後はいごでヒロユキとコハルがぼうぜんとしているけど、わたし、しーらない。

 コハルの前にウサギを下ろすと、コハルは微妙びみょう笑顔えがおかべながらウサギをち上げた。

 「まあ、とにかく血抜ちぬきしないとね」

――――

 次の日、ヒロユキとコハルと一緒いっしょ草原そうげんの方へ行くと、わたしたちのまわりにオオカミがやってきた。

 おそってくる様子ようすはなく、どっちかというとまわりをガードしてくれているみたい。

 コハルが持参じさんしたイノシシのにくかたまりをオオカミたちの方へほうげた。

 「昨日きのうのおれいだよ」

 オオカミは器用きようんでくるおにくをくわえると、うれしそうにあつまってはじめた。

 ……ふふふ。これであの子たちも仲間なかまってわけね。

 わたしたちはオオカミをれながら、いけかう。

 いけのほとりにあるいしの上にヒロユキとコハルがならんですわる。

 お手製てせいのつり竿ざおして、いと先端せんたん小屋こやにあったはりをくくりつけ、いけはなった。

 どうやら今日はりをするらしい。

 そのあいだ、オオカミたちはりにらばっていった。

 わたしひまなので、二人がいとらしているところからはなれた。

 ちょっとになることがあるのよね。

 昨日きのうもここにたんだけど、ここの水って不自然ふしぜんなほど綺麗きれいで、どうも魔力まりょくをおびているみたいなの。

 水際みずぎわにちかよって、ひとくち 水をむ。

 ……うん。やっぱり魔力まりょくかんじる。このいけ全体ぜんたいがマジックポーションになっている。

 でも、なんでだろう?

 じっといけを見ながら、意識いしきひろげていく。水の中へ、いけおくへ。

 あれれ。なにかある?

 確認かくにんしてこよっと。

 りをしている二人の方を見ると、二人とも竿さお集中しゅうちゅうしている。

 すわっている石のそばには警護役けいごやくのオオカミが二匹にひきいた。……はなれても大丈夫だいじょうぶそうね。

 二人にがつかれないように水の中に入った。

 んだ水の中には、流木りゅうぼくらしきものとか、いわころがっていて、そこかしこにさかなたちがいる。

 場所ばしょによっては、水草みずくさが まるでみどりのじゅうたんのようになっているところもあった。

 うまでもないことだけど、わたし空気くうきがあろうとなかろうと活動かつどうができる。

 だから、長時間ちょうじかん、もぐっていても平気へいきよ。

 そのまま、水中すいちゅう風景ふうけいをながめながらおよいでいくと、まえほうに小さなほこらがあるのが見えてきた。

 なにやらうっすらと水色みずいろひかりびている。

 そっとほこらのまわりを一周いっしゅうしてみる。……ふむふむ。

 どうやら、このほこらは、大地だいちながれる魔力まりょくながれ、――竜脈りゅうみゃくからすこしずつエネルギーをし、魔力まりょくえて水の中に放出ほうしゅつしているようだ。

 一種いっしゅ装置そうちね。

 納得なっとくしたところで、ほこらに一つのシンボルマークがあることに気がついた。

 ……う~ん。これは、つきのマーク?

 そういえば、わたしたちはトラップでたけど、このダンジョンってなんなのかしらね?

 ともあれ、なぞがとけたわたしはそこからはなれ、もとの水辺みずべもどる。

 たぶん、このダンジョンで怪我けがをした人ばかりだけでなく、動物どうぶつたちにとっても、ここの水はいやしの水になっているはず。

 下手へたさわらない方がみんなのためになるでしょう。

18.地下のダンジョン

 「うわあぁぁぁぁぁ」

 二人ふたりながい長いすべだいから広間ひろまして、そのままゴロゴロところがってとまった。

 わたしはすぅっとすべだいからち、すぐに広間ひろま見回みまわした。

 たかさはおよそ10メートル。ひろさはよくわからないけど、半径はんけい1キロメートルのほぼ円形えんけい

 地下ちかのはずだけど、天井てんじょう中央ちゅうおうにある巨大きょだいいし太陽たいようのようにひかかがやいている。

 そのおかげか、広間ひろまには植物しょくぶつしげってはやし形成けいせいしているところと、草原そうげんになっているところ、水場みずばになっているところの三つのエリアがあるようだ。

 もの気配けはいがいくつもかんじられる。

 一体いったいここはどういうところだろう?

 すべだい出口でぐち草原そうげんになっているところにめんしていて、二人はくさむらの中にころがっている。

 すぐに二人のもとにいくと、あんじょう。ヒロユキは目をまわしていて、コハルはうしなっているようだ。

 まわりを警戒けいかいしていると、もりぐちのそばに一軒いっけん小屋こやがあるのがえた。

 ここの環境かんきょうだと、たしかに生活せいかつできそうだけど、だれんでいるのかしら? それとも住んでいたのかしら?

 ヒロユキに回復魔法かいふくまほう、コハルにつけの魔法まほう使つかうと、しばらくして「ううぅん」といいながら、二人はがった。

 コハルが、

 「こ、ここは?」

とまわりを見回みまわす。

 ヒロユキが天井てんじょう見上みあげて、

 「洞窟どうくつなかみたいだな……。っこちたのか?」

むずかしいかおをした。

 そこへ草原そうげんのオオカミが数匹近すうひきちかづいてきた。

 そのごえがついたヒロユキは、こしをやって、そこにけんがないことに気がついた。

 「やばい! ……あそこの小屋こやげるぞ!」

 そういってコハルの手をとってけだした。

 私は二人のあといかける。

 途中とちゅうびかかってきそうなオオカミがいたので、ギロっとにらんでおどすと、ビビッて尻尾しっぽかくしながらげていった。

 そのあいだに二人は小屋こやの中にんだので、私もそのあとにつづく。

 ヒロユキがあわてて小屋こやのドアをめた。さいわいにして、小屋こやの中にはだれもいなかった。

 二人はあわてて内側うちがわのかんぬきをかけ、ヒロユキが、そうっとまど雨戸あまどのすきからそとをのぞく。

 私にはえないけれど、気配けはいから、オオカミたちは私のひとにらみで、みんなげかえっているわ。

 「い、いないな……」

 「本当ほんとう? よかったぁ」

 そういってへたりむ二人を横目よこめに、わたし小屋こやの中をながめる。

 ひとつのベッドにテーブル。かべには、けんゆみおのなどの武器ぶき道具どおうぐけられている。

 すみには水瓶みずがめがあるけれど、中はとっくにからになっている。

 ……たところ、んでいたのは一人ひとり。それもおとこね。

 くわしくはわからないけど、100年はだれんでいなかったような気がする。

 へたりんで、いまだにいきあら二人ふたりに気がつかれないように、そうっと浄化クリーン魔法まほう小屋こやの中をきれいにする。

 ちょっとつよめに魔力まりょくめたから、水瓶みずがめ武具ぶぐもすぐに使つかえるように清潔せいけつになっているわ。

 さすがに寝具しんぐ一度洗いちどあらったほうがいいだろうけど。

 ようやくいきをととのえたコハルががって、

 「結界けっかいかなにかあるのかな?」

 ヒロユキがかべ武器ぶきながら、

 「そうかもな。……あの武器ぶき使つかえるかな?」

という。

 それから二人ふたり小屋こやの中のものを調しらべはじめた。

 そのあいだに、私は小屋こやまわり100メートルに結界けっかいっておく。

 そのときに気がついたけど、うらに小さながけがあり、そこにわき水があるようだ。

 ……どうやら新鮮しんせんみずにはこまらないですみそうね。

 安心あんしんしたところでくと、ヒロユキがけんにとってさやからくところだった。

 きれいな刀身とうしんにはこまかいキズこそあるけれど、まだまだ使つかえそう。

 ヒロユキはけんにぎると、まわりにぶつけないように2回ほどる。

 「うん。どうやら使つかえるみたいだな」

 そういってけんさやおさめ、こしにくくりつけた。

 コハルはゆみ矢筒やづつってきて、ゆみつる調しらべている。

 ヒロユキとおなじように、三度さんどはじいてみると、ビイィィンとおとった。

 ついで矢筒やづつのこった調しらべて、

 「こっちも大丈夫だいじょうぶそうよ」

といい、矢筒やづつ背中せなか背負せおった。

 「じゃあ、ちょっとまわりを確認かくにんしよう。……ユッコ。警戒けいかいたのむぜ」

 わたしはヒロユキのこえにうなづいた。

 ヒロユキがかんぬきをはずして、そっとドアをそとをのぞく。

 慎重しんちょうなのはいいけど、大丈夫だいじょうぶよ。

 私はそのすきからそとて、二人をかえった。

 それを二人ふたりはおそるおそるそとてくる。

 あるはじめた私のうしろを、二人はまわりを警戒けいかいしながらついてくる。

 小屋こや一周いっしゅうすると、ヒロユキが、

 「やっぱり結界けっかいでもあるのかな? オオカミが一匹いっぴきもいないや」

といって、ようやくかたちからいた。

 コハルが、

 「わきみずもあるね。よかったわ」

といい、さっそくわき水を手ですくってかおあらった。

 「うひゃぁ。つめたい!」

 それをいたヒロユキもやってきて、わき水をくちふくんでんだ。

 「……うん。めるみたいだな」

 そうやってみずんでから、私たちは小屋こやもどった。

 二人はこの小屋のぬしだれなのか、なにかがかりがないかどうかさがしている。

 「あっ。これ!」

 道具袋どうぐぶくろさがしていたコハルが手帳てちょう発見はっけんした。

 ヒロユキが、

 「でかしたぞ!」

といってやってくる。

 二人はベッドにならんですわって、手帳てちょうをのぞきんだ。

 わたしもベッドにがって、二人ふたり背中越せなかごしに手帳てちょうんだ。

――――

 この手帳てちょうぬしは、オブライエンというダークエルフのおとこだったようだ。

 ここの大陸たいりく使つかわれている年号ねんごうがわからないから、何年前なんねんまえひとなのかはわからないけど。

 たまたま私たちとおなじように、ひかいしつけてさわったところ、れいとしあなというかすべだいちたようだ。

 オブライエンは狩人かりうどだったので、武器ぶきっていたことがさいわいし、さらにもりたみであるダークエルフだったので、ここで生活せいかつするぶんにはそれほどこまることはなかった。

 手帳てちょう内容ないようのほとんどが、ここから脱出だっしゅつするための出口でぐちにチャレンジした記録きろくだった。

 ――ここにきて1143日がぎた。チャレンジも325回になる。

 れいかれみちひだりくと、こうばいうえかっていることがわかった。出口でぐちはこちらだろう。

 前回ぜんかいみぎったが、こうはしたつづいていた。最深部さいしんぶには立派りっぱとびらがあったが、そのこうからは普通ふつうじゃない気配けはいがしたから、あそこはこの洞窟どうくつのボスがいるのだろう。扉越とびらごしでもかんじる強大きょうだいちからに、とても私一人わたしひとりではたたかえるとはおもえない。

 ダンジョンによっては、一番奥いちばんおくのボスをたおすと、そのこうに出口でぐちにつながる転移魔方陣てんいまほうじんがあるという。もっと私に力があればそれも可能かのうだったろうに。

 ――1256日目。

 前回ぜんかい広場ひろばでゴーレムとたたか羽目はめになった。相手あいてうごきはおそいが、武器ぶきこわれないか心配しんぱいしながらたたかったので、うっかりと攻撃こうげきをまともにくらってしまった。

 雷魔法かみなりまほうでやっつけたが、身体しんたい回復かいふくするまで時間じかんがかかってしまった。

 洞窟どうくつにはわながないようだが、予想外よそうがいつよてきあらわれるのでけない。

 今回こんかいは、ゴーレムとたたかった小部屋こべやからさらにうえ目指めざす。……ああ、はや地上ちじょうもどりたい。

 ――1543日目。

 途中とちゅうおおきな部屋へやがあり、そこにでててくる部屋へやぬしをたおすことができない。くそっ。

 今度こんどこそ。……今度こんどこそ、あのキメラをたおして、そのこうへってやる。

 だがやつつよい。ねんのため、予備よび装備そうびをここにいておく。

 はや地上ちじょう生命力せいめいりょくちたかぜを、全身ぜんしんかんじたい。

――――

 「……」

 「……」

 なるほどね。このオブライエンさんが無事ぶじ地上ちじょうられているといいけどね。……でも、そうか。ダンジョンね。その可能性かのうせいたかいわね。ただ、そうなると……。

 最悪さいあく場合ばあい地上ちじょうのあのいしもダンジョンの一部いちぶわなだとすると、脱出不可能だっしゅつふかのうのトラップだという場合ばあいもあるわけ。そんでもって、そうなると……、出口でぐち一番奥いちばんおくのボスのこうにある転移魔方陣てんいまほうじんだけ、という可能性かのうせいたかい。

 私が本当ほんとうの力を出せば余裕よゆうだとおもうけど。……う~ん。

17.村での生活

 ヒロユキとコハルがダークエルフの集落しゅうらく滞在たいざいゆるされてから、二週間にしゅうかんった。

 滞在たいざい許可きょかのかわり、二人ふたりには午前中ごぜんちゅう神官しんかんフローレンスの指示しじで、祭壇さいだん掃除そうじやそのほかの雑用ざつようをこなすことになった。

 おひるからは自由時間じゆうじかんだが、いつかもりから出てロンド大陸たいりくもどるために、たたか訓練くんれんをしている。

 ……私は、いつもどおり二人を見守みまもっている。ダラダラしているともいうけど。

 ここは森の深部しんぶらしく、大きな木々きぎ集落しゅうらくがうもれているように見える。

 本来ほんらい危険きけん魔物まものがたくさんいてもおかしくはないそうだけど、れい結界けっかいまもられているようだ。

 その分、集落しゅうらくの外にりに行くダークエルフにはつよさがもとめられている。

 そのうえ、見たところ、大体だいたい、4~6人のグループをつくってかけている。

 ヒロユキとコハルはらないことだけれど、ダークエルフたちは魔法まほう達人たつじんのようね。

 たまにつよ魔力まりょくたかまりをかんじることがあるわ。

 つよさはだいたいリリーと同じくらいで、風と水の魔法まほうをおもに使つかっているようね。

 神官しんかんのフローレンスのいるところは、どうやら神殿しんでんばれているらしい。

 今日もその神殿前しんでんまえ広場ひろばで、ヒロユキとコハルが訓練くんれんけている。

 「えいっ!」

 可愛かわいらしいこえで、コハルがつえをフローレンスにき出した。

 フローレンスがそれを左手ひだりてこう外側そとがわしのけて、右足みぎあしまわしげりをはなつ。

 ……もちろん、手加減てかげんして。

 コハルがそのまわしげりをかがんでかわして、ふたたびつえき出す。

 フローレンスが一回転いっかいてんして、ひだり足払あしばらいでコハルの足下あしもとをなぎはらう。

 コハルがかわせないで、そのでひっくりかえった。

 そこへフローレンスのストレートパンチ。

 「ひうぅ」とこえを上げるコハルの目の前で、フローレンスのこぶしまった。

 ……う~ん。コハルは正直しょうじきにいって、直接ちょくせつたたかうのは無理むりそうよ。

 魔法まほう勉強べんきょうをして、リリーのように魔法使まほうつかいになる方向ほうこうでいったほうがいいわ。

 ……ただねぇ。ヒロユキと二人でロンド大陸たいりくまでくことをかんがえるとなぁ。

 わたしだって、かくれてでないと手助てだすけできないし。

 いや、まてよ。またべつ召喚獣しょうかんじゅうび出すって手もあるか?

 木の下にすわって、かんがえごとをしていると、またべつところではヒロユキがけんでファミーユと訓練くんれんをしている。

 「せいっ!」

 するどいごえでヒロユキがりかかるが、ファミーユはそれをナイフでながし、ひじでヒロユキをばす。

 「ぐぅ」といながら、ヒロユキはあしみしめ、けんき出した。

 が、ファミーユは上半身じょうはんしんかがませてよけて、そのままヒロユキのあごをき上げた。

 たまらずヒロユキはそのにしゃがみ込んだ。どうやらからだに力が入らないようだ。

 ふふふ。頑張がんばれ。ヒロユキとコハル。

 私は、んでいた山で銀狼ぎんろうのフェンをきたえていたときのことをおもい出した。

 フェンったらむしだったから、反撃はんげきするとすぐにき出しちゃったのよねぇ。

 ……それにくらべれば、ヒロユキもコハルも頑張がんばっているとおもう。

 まだ成長途中せいちょうとちゅうからだだから、体の鍛練たんれんよりも体内たいないでの魔力まりょく使つかかたとか、体のうごかしかた技術ぎじゅつにつけるのがベスト。

 もっともこのことは、二人をきたえているフローレンスもファミーユもわかっているみたいね。

――こうしてさらに一週間いっしゅうかんったころ、二人はたまに、ダークエルフの狩人かりうど一緒いっしょ結界けっかいの外にでて、もり魔物まものたたかうまでになった。

 もちろん、見守みまもられながらだけどね。

 今日もまた、りからもどりフローレンスとファミーユと一緒いっしょ夕飯ゆうはんべた。

 食べわったらファミーユが「また明日あした」と言って、自分じぶんいえかえっていった。

 フローレンスはまだ仕事しごとがあるということで、ヒロユキとコハルもりている小屋こやもどることにした。

 神殿しんでんの外で夜空よぞら見上みあげると、もう少しで満月まんげつになろうとしているつきが、うつくしくひかりはなっている。

 コハルが、

 「うわぁ。今日のお月さま、すごいきれい。……ね、ヒロユキ。ちょっとながめてからかえろうよ」

というと、ヒロユキが、

 「明日も早いけど、……まあ、いいか」

とうなづき、神殿裏しんでんうらにある大きないわに二人でならんで腰掛こしかけた。

 「もう三週間さんしゅうかんかぁ」

 そうつぶやくコハルに、ヒロユキが、

 「もっともっとつよくならないと、みんなのところにもどれないさ。あせっても仕方しかたない」

 コハルが物憂ものうげに、

 「でも、私たちが無事ぶじってつたえられないかな? きっと心配しんぱいしているよ?」

というと、ヒロユキもうなづく。

 「気持きもちはわかるけど、無理むりなものは無理むりさ。おれたちがもっとつよくなるしかないよ」

 「そっか……。うん。そうだよね」

 そういってコハルはいわの上にごろんとよこになってそら見上みあげた。ヒロユキもならんでよこになる。

 コハルが、

 「あ~あ、なんでこんなことになっちゃったんだろう?」

とつぶやいた。私は尻尾しっぽでそっとコハルのほっぺたをなでた。

 コハルがくすぐったそうに、

 「ふふふ。ユッコ。なぐさめてくれるの?」

 私は、ならんでいる二人のあたまのそばにすわると、片方かたほうずつの前足まえあしを二人のおでこにせた。

 ヒロユキが、「うわっ。おれもか」とかいっているけど無視無視むしむし

 つめめてあるから、肉球にくきゅうかおをプニプニしてやった。

 「わ、わふ」「こ、こら」とかいっている二人が、おたがいにわせ、一呼吸置ひとこきゅうおいて笑い出した。

 「「あはははは」」

 ヒロユキが上半身じょうはんしんこして私を見る。

 「ユッコ。ありがとうな。……コハルも」

と、めずらしくおれいうと、コハルも体育座たいいくすわりになって、

 「ううん。私こそ。……こんなときに一人じゃなくって本当ほんとうかったよ。ヒロユキとユッコがいてくれるから、くじけないでがんばれてると思う」

 「そうだな」

 岩の上の私たちを月があたたかく見守みまもっていた。

 しばらくそんな会話かいわをしながら月をながめていると、ヒロユキが、

 「あれ? あそこ、なんかへんじゃない?」

と言う。

 ゆびをさしたところを見ると、そこだけほたるみたいな小さなひかりがいくつもっている。

 コハルはそれを見て、

 「うわぁ。きれい」

とうっとりしている。

 二人はいわりて、その小さな光がっているくさむらの一角いっかくに行くと、そこには一つのいしいてあった。くろい石の表面ひょうめん金色きんいろ模様もようほどこされている。

 なにかの宝石ほうせきか、魔導具まどうぐ一種いっしゅに見えるけれど。

 コハルがしゃがんで、

 「これってなんだろう?」

と石をつんつんとさわった。

 ……ああ、コハル。そんなにうかつにさわったら危険きけんよ。

 ところが、ヒロユキもしゃがんだと思ったら、大胆だいたんにも石をひろい上げた。

 そのままヒロユキののひらのいしを、二人がのぞき込んでいる。

 ちょ、ちょっと、やめなさいってば!

 私が尻尾しっぽでたたきとそうとしたとき、真上まうえから一条いちじょうの光がりてきて、その石にたった。

 「うわぁ」「な、なんだ?」

 ヒロユキの手の中の石がぼんやりと光りはじめた。

 ぶううぅぅん。

 なにかが起動きどうするようなおとがして、私たちをかこむように光のはしらがあらわれた。

 不意ふい足下あしもと感触かんしょくくなる。

 地面じめんえているわ!

 ヒロユキとコハルはあわててあなのふちにつかまろうとするが、私たちはその穴にちていった。

 プールのすべだいのように、まるいトンネルの中をちていく。

 「きゃああぁぁぁぁぁ」

 「うわあぁぁぁぁぁぁ」

 二人のさけごえがトンネルの中をこだまするのをきく余裕よゆうもなく、地下ちかふかいところへとどんどんすべちていった。

16.魔王の真実

 ファミーユが案内あんないしてくれたさきは、大岩おおいわのそばの建物たてものだった。

 木でできた建物たてものなかはいると、木のいいかおりにつつまれる。もう何年なんねんっているような建物たてものだけれど、いまだに木のにおいがするのはすごいわね。

 中には祭壇さいだんつくられていて、その前の演説台えんぜつだいのところに、昨夜さくや女性じょせい神官しんかんが立っていた。

 「来たわね」

 そうつぶやくと、神官は私たちの方へと歩いてきた。

 「さ、すわってちょうだい。……ファミーユたちも一緒いっしょにね」

と言って、そばのゆかにみずからも座る。ファミーユにうながされて、ヒロユキもコハルも床に座り込んだ。

 ヒロユキが気まずそうに、

 「あ、あの。おれたちをたすけてくれてありがとうございます」

と言って、あたまを下げた。コハルもあわてて一緒いっしょに頭を下げる。

 神官しんかんわらいながら、

 「おれいなら私たちというより、そこのキツネちゃんに言った方がいいわね。私たちがむかえに行くまで、キツネちゃんがたった一匹いっぴきで、二人ふたりまもっていたのよ」

と言うと、ヒロユキとコハルがおどろいて私を見る。

 ……いいわよ。べつに。そんなたいしたことしてないし。

 そうおもったけど、コハルが、

 「本当ほんとう? ユッコ。ありがとう」

と言って私のあたまをなでてくれた。

 ほそめてそのをぺろっとなめると、コハルは微笑ほほえんだ。

 神官しんかんが、

 「私はここのむら長老ちょうろうでもあり神官をつとめているフローレンスよ。あなたたちをむかえにけっていう神託しんたくが下りてね。そこの二人に迎えに行ってもらったの」

というと、そこでヒロユキとコハルがあらためてお礼を言っていた。

 ふうん。神託しんたくねぇ。いったいどんなかみさまかしら? きっと私のことを知っていたのよねぇ?

 気になる言葉ことばが出てきたけれど、神官のフローレンスが説明せつめいをするのをつわ。

 「ひさしぶりに人間族にんげんぞくったわね。

 ……私ね。むかし仲間なかま一緒いっしょにロンド大陸たいりくたびしたことがあるのよ」

 ヒロユキがいぶかしげに、

 「もしかして……、ここはロンド大陸じゃないんですか?」

というと、フローレンスはうなづいて、

 「ここは魔大陸またいりくダッコルトよ。今は、魔王まおう復活ふっかつして支配しはいする魔族まぞう大陸たいりくになっているわ」

 コハルがおそろしそうに、

 「ま、魔王まおう復活ふっかつ?」

 「ええ。少しまえにね。

 ……ここはダークエルフのかく集落しゅうらくよ。

 ほかにも私たちみたいにかくんでいる種族しゅぞくがいるけれど、ここはむかしから不思議ふしぎ結界けっかいがあって、魔族まぞくも入って来れないの。

 それもあって、はるか昔には、私たちの先祖せんぞ魔王まおうたたかったのよ」

 ヒロユキが、

 「へぇ。ダッコルトは魔族まぞく魔物まもの魔獣まじゅう暗黒大陸あんこくたいりくってことしか知らなかったなぁ」

 フローレンスは微笑ほほえんで、

 「あらあら。それはみんなの前では言わない方がいいわね。私たちは魔族まぞくじゃなくても、実際じっさいんでいるんですもの」

 「あ、ごめんなさい」

 「いいわよ。ロンド大陸たいりくの人はそういう認識にんしきだってことはってるから。ちょうどいいから魔王まおうのこと説明せつめいしましょうか?」

 ヒロユキとコハルはうなづいて、

 「おねがいします」と言った。

 うん。私も興味きょうみがあるわ。この世界せかい魔王まおうのこと。

 フローレンスは、ファミーユにおちゃ用意ようい指示しじすると、ヒロユキとコハルにきなおる。

 「もともとダッコルトには、悪魔族あくまぞく鬼族おにぞく、ダークエルフ、獣人族じゅうじんぞくが住んでいたの。

 悪魔族あくまぞくって言っても、知恵ちえのあるスライムなんかもいて、色々いろいろなんだけどね。

 ……たくさんの種族しゅぞくが住んでいたの」

 「うんうん」

 「はるかむかしに、悪魔族あくまぞく一人ひとりおとこが、人々ひとびとす いかりとか うらみ などのわる感情かんじょうに、つよいエネルギーがあることに注目ちゅうもくしたのね。

 最強さいきょう存在そんざい目指めざしたそのおとこは、特殊とくしゅ魔方陣まほうじんつくりあげて、世界中せかいじゅうからそういうわる感情かんじょう自分じぶんあつめて吸収きゅうしゅうすることに成功せいこうしたのよ。

 ……そうしてまれたのが魔王まおう

 ……あちゃぁ。そいつ、やっちゃいけないことしてるよ。

 マイナスの感情かんじょうあつめたら 破滅はめつをもたらすだけでしょうに。

 つよくなりたいなら 地道じみち修業しゅぎょうしないとだめよ。

 「魔王まおうは、たちまちに魔族まぞく鬼族おにぞく獣人族じゅうじんぞく支配下しはいかにしたわ。

 そして、魔王まおうわたしたちダークエルフを支配しはいしようとすると同時どうじに、ロンド大陸たいりくんだのよ。

 たくさんの人たちがんで、おおくのながされたわ。

 ……だけど、あるとき、つき精霊せいれい降臨こうりんして、魔王まおうを三つのオーブに封印ふういんしたといわれているわ」

 コハルが、

 「三つのオーブに?」

とききかえす。フローレンスはうなづいて、

 「そう。太陽たいようのオーブ、つきのオーブ、そして、ほしのオーブよ」

 「じゃあ、その三つのオーブが無事ぶじなら魔王まおう復活ふっかつできないってことだよね?」

 コハルがそういうと、フローレンスは言いだしずらそうにして、

 「もうわってしまったはなしよ?

 月のオーブはこの神殿しんでんにあったの。したのは……、私のおさなじみのバアルなの。

 かれは……、彼は人間族にんげんぞくうらんでいる。

 きっとほかのオーブをあつめたのもバアルだと思う」

 「え? じゃ、じゃあ……」

 「確証かくしょうはないけれど、バアルが魔王まおう復活ふっかつさせたのよ。人間族にんげんぞくほろぼすために」

 フローレンスはかなしげな表情ひょうじょうでうつむいた。

 う~ん。一体何いったいなにがあったのかしら? 

 ヒロユキが、

 「あのさ。そいつは、なんで人間族にんげんぞくうらんでいるんだ?」

とたずねた。

 フローレンスはしばらく沈黙ちんもくしてから、かおげる。

 「さっきったわよね?

 仲間なかま一緒いっしょにロンド大陸たいりくったことがあるって。

 ……その時の仲間なかまがバアルと、ミニーだったのよ」

 フローレンスは、なつかしそうに天井てんじょう見上みあげた。

 「いろんなところへ行ったわ。

 ヒルズとかいう村で、太陽たいようのオーブのある ほこらも見つけたし。

 ……ただ、とあるまちに行ったとき、ちょうどちかくのモンスターが大きなれがおそってくるところだったのよ」

 ヒロユキが、

 「魔獣大暴走スタンピートか?」

 それにフローレンスはうなづいた。

 「私たちは、そこの騎士団きしだん冒険者ぼうけんしゃ協力きょうりょくしてたたかった。

 想像以上そうぞういじょうの大きさのれで何人なんにんもの騎士きし冒険者ぼうけんしゃたおれ、とうとうまちててげるしかない状況じょうきょうになったのよ。

 あれは本当ほんとう地獄じごくかまのふたがいたのかと思った。

 ……そこらじゅうに死体したいころがり、腐臭ふしゅうがただよってどこもかしこもぼろぼろだった」

 その光景こうけいおもい出したフローレンスがおびえたような表情ひょうじょうになり、

 「最後さいごにミニーが大魔法だいまほうをつかったのよ。……もう体力たいりょくも 魔力まりょくも 限界げんかいむかえていたのに。生命力せいめいりょくえにね。

 あのったら、小さなおとこの子がおくれたのを見つけて、必死ひっしになったのよ」

 あぁ、そうか。生命力せいめいりょく使つかってしまったのね……。

 それもかなりのレベルの魔法まほうのために。

 「その大魔法だいまほうは、高熱こうねつほのおが じゅうたんのようにひろがっていく魔法まほうで、モンスターの大群たいぐんほのおみ込んでいった。

 ……そして、そのまちすくわれたの」

 コハルが、

 「よかったわ。すごいのね。そのミニーって人」

というと、フローレンスは小さくわらった。

 「ふふふ。そうよ。私たちの中で、ミニーが一番魔法いちばんまほう得意とくいだったのよ。

 ……でもね、ミニーは生命力せいめいりょくらして寝込ねこんじゃったのよ。

 なおすのに特殊とくしゅ薬草やくそう必要ひつようだったから、感謝かんしゃしている人たちを信用しんようして、まち宿やどにミニーをかせて、私とバアルとでさがしに行ったわ。

 けれど、それが間違まちがいだった」

 うん。はなし状況じょうきょう場合ばあい普通ふつう魔法薬ポーションじゃりないわ。

 その時は、よりレベルのたかいハイポーションとか、万能ばんのう魔法薬まほうやくエリクサーとかじゃないとダメなのよ。 

魔物まもの大群たいぐんは、一人の人間族にんげんぞくわる魔法使まほうつかいがこしたものだった。

 私たちが留守るすにしているあいだに、ふたたび魔物まもの大群たいぐんれてきて、ミニーの身柄みがら要求ようきゅうしたのよ」

 そこまでいたヒロユキとコハルが、はっといきをのんだ。

 さびしげにフローレンスが、

 「私とバアルがもどったときには、ミニーがまちかべから魔物まものれにほうげられたところだった。

 さけびながらはしった私たちの目の前で、ミニーはころされたわ」

 なんてこと! じゃあ、そのまちの人たちって、まもってくれたミニーをし出したの?

 「バアルはミニーと恋人同士こいびとだったから、いかくるって、魔法まほうで、魔物まものも、魔法使まほうつかいも、まちの人も、すべてほのおくした……。

 なみだながしながら」

 「……」

 「すべてわったあと、バアルはミニーの遺体いたいをいつまでもきかかえていたわ。

 ……それからここにもどってたんだけど、ある日、かれ姿すがたしたわ。月のオーブとともに。

 もう500年もまえはなしよ」

15.ダークエルフの村

 ダークエルフのむらは、月光げっこうかがやもり小径こみちけたさきにあった。

 途中とちゅう一対いっつい石碑せきひみちのわきにいてあり、そこを通過つうかしたとたんに空気くうきわったのがわかった。

 まるで神殿しんでんのようなきよらかな空気くうきちている。

 夜中よなかにもかかわらず、何人なんにんものダークエルフがならんでわたしたちを出迎でむかえてくれた。

 どのダークエルフもうつくしい姿すがたをしていて若々わかわかしい。

 けれど身にまとった雰囲気ふんいきからは充分じゅうぶんとしをとった大人おとなたましいかんじる。

 まえ世界せかいだとエルフとかダークエルフは寿命じゅみょうながく、いくらとしをとってもわかいときの姿すがたのままだけれど、それはこの世界せかいでも同じようだ。

 正面しょうめんに、銀色ぎんいろいとで ししゅうのほどこされた しろいローブを女性じょせいがいる。

 この人が神官しんかんなのだろうか。

 「二人ふたりともご苦労くろうさま」

 ローブの女性じょせいがそういうと、案内あんないしてくれた二人のダークエルフが、

 「いえ。神官しんかんさま。ご命令めいれいのとおりにお客人きゃくじんをおれしました。が、この二人の子供こどもはいかがしましょうか?」

 ああ。やっぱりこの女性じょせい神官しんかんなのね。

 神官しんかん女性じょせいはうなづくと、

 「そうねぇ。今日きょうはゆっくりやすませておいた方がいいわね」

というと、わたしまえでひざをついた。

 えっ? どうしてひざをつくの? みんながおどろいているじゃない!

 神官しんかんはうっとりとした表情ひょうじょうで、わたしをなでると、

 「あなたもそれでいい?

 小屋こや用意よういするので案内あんないをさせるわ。今日きょうはそちらで休んでね」

 あのう、神官しんかんさん?

 お言葉ことばはありがたいですが、だんだん私をなでる手つきがはげしくなっていくんですが?

 すっと神官しんかんさんのなかからすと、ちいさく「あっ」とこえをもらした。

 そのまま、案内あんないしてくれた二人のダークエルフについていくと、うしろから神官しんかんさんの、

 「なんと、なめらかで つややかな毛並けなみなんでしょう」

とうっとりするようなこえがして、すじがぞぞっとなった。

 ……うん。あの人にもをつけよう。

 二人のダークエルフの女性じょせいは、ヒロユキとコハルをきかかえたままで、一軒いっけん小屋こやはこんでくれた。

 小屋こやなかには かんたんな木のベッドが二つならんでいた。そこへヒロユキとコハルをかせると、

 「明日あした、またびにるわ。……わたしはファミーユ。こっちはプリマよ。よろしくね」

って、二人ふたりて行く。

 いやいや、私、ふつうのキツネ、のふりをしているはずなんだけど?

 ……まあ、いいか。

 きっとくわしいことは 明日あしたはなしてくれるのでしょう。……ヒロユキもコハルもきたらびっくりするでしょうね。

 私はひそかに小屋こやまもりの結界けっかいをはってから、をつぶってねむりについた。

――――

 あさた。

 そとからとりごえこえる。

 そよそよとかぜにゆれ、えだがそよぐおとがする。

 ん~。やっぱり自然しぜんなかはリラックスできていいわね。

 目をひらいて、のびをする。

 よし! 今日きょう絶好調ぜっこうちょうだわ。

 ……ヒロユキとコハルはまだねむってるわね。

 ファミーユとプリマがまえこしておいたほうがいいかな。

 コハルのところにいって、コハルのかおをぺろぺろとなめる。

 ほらほら~、きなさ~い。

 「うん……んんん。もう、ユッコったら。……うんん。うん?」

 かわいらしいこえげてコハルがひらいた。

 ぼうっとしながら天井てんじょうつめ、すこししてから、きゅうにがばっとがる。

 「こ、ここは? 私はいったい? ……あっ」

 混乱こんらんしていたようだけど、私を見つけるとささっとやってきてきついてきた。

 「ユッコ! よかった!」

 そういって、キュッとつよきしめてくる。

 んふふふ。コハルったら甘えんぼさんね。

 しばらくそのままでいると、ヒロユキもましたようだ。

 「う~ん。……あ、あれ? ここは?」

 ベッドのうえ上半身じょうはんしんこして、まわりを見回みまわした。

 コハルと私を見てうなづいて、しげしげとまわりの家具かぐを見ている。

 うん。やっぱりおとこの子ね。ちゃんといているわ。

 ヒロユキはいぶかしげに、

 「そ、そういえば、かえみちでワイバーンにおそわれたはずじゃ……」

必死ひっしおもそうとしている。

 そこへドアがノックされた。ファミーユたちだ。

 「もうきたかな? はいるよ?」

 ヒロユキとコハルは、見知みしらぬこえがしたものだから、あわてて武器ぶきになるものをさがそうとするが、それよりさきにドアがひらいた。

 ヒロユキはコハルと私のまえに立ちふさがって、こぶをにぎってたたかかまえをする。

 ファミーユとプリマがそれを見て、ヒロユキとコハルにわらいかけた。

 「安心あんしんして。私たちはてきじゃないよ」

 しかし、ヒロユキとコハルは警戒けいかいしていて返事へんじもしない。

 ま、油断ゆだんしないのもただしいんだけどね。

 ……しょうがないわ。このままじゃ、はなしすすまないし。

 私は無造作むぞうさにファミーユたちのほうへとあるきはじめた。

 うしろからコハルが、

 「あっ。ユッコ! だめ!」

というが、そのままファミーユのよこってかお見上みあげると、ゆっくりとかえってヒロユキとコハルのほういてすわる。

 ファミーユが、

 「ほら。キツネちゃんも大丈夫だいじょうぶってってるよ」

わらいかけると、ヒロユキが「わかったよ」といいながら、かまえていた両手りょうてをおろした。

 コハルはまだ警戒けいかいしているみたいだけど、プリマが、

 「きみたちは、くらやみのもりたおれていたんだ。私たちがれてきたんだぞ」

うと、ようやく自分じぶんたちの恩人おんじんだとがついたみたいで、あわててあたまげた。

 「ご、ごめんなさい。そうだとはらずに……。ありがとうございます!」

 プリマは、

 「いいって! だれだって、きたららないところにいたんじゃ、そうなるよ」

と言う。

 そこでファミーユが、

 「さあ、神官しんかんさまのところにくよ。くわしいはなし神官しんかんさまがしてくれるわ」

と、私たちについてくるように指示しじをした。

 神官しんかんって、昨夜さくやしろいローブの女性じょせいよね。要注意ようちゅういだわ。

 ヒロユキとコハルは小屋こやて、朝日あさひもり木々きぎあいだに、いくつもの小屋こやがあるのを見てびっくりしている。

 何人なんにんかのダークエルフが洗濯物せんたくものをほしたりしている。

 「うわぁ」とヒロユキがこえを上げる。コハルが、「だ、ダークエルフのむら?」とつぶやいた。

 ファミーユがかえって、

 「あれ? ってなかったっけ?」

と、あかるくわらいかけた。

14.くらやみの森

 真夜中まよなか、どんよりとした くもりぞらしたで、わたしそらんでいる。

 王都おうとをおそったワイバーンの足につかまえられているヒロユキとコハルは気をうしなっているようだ。

 私はコハルをつかまえている足の上で、まわりの状況じょうきょう確認かくにんしていた。

 へん転移てんいゲートをくぐりけた先は、あきらかに気候きこうちがうからべつ大陸たいりくちかくだとおもう。

 さっきまではくらうみの上だったが、今はもりの上をんでいる。

 ワイバーンをあやつっているのは、その背中せなかっている みみのとがった魔族まぞくの男だ。

 王都でつかままったときに、ヒロユキとコハルを「けにえ」とっていたから、ろくでもないことのためにつれさったのだろう。

 そんなことはさせないけどね。

 かぜつよさに目をほそめながら、もう少し先にみずうみがあるのが見えた。

 よし。勝負しょうぶ一瞬いっしゅんよ!

 いつもはかくしている尻尾しっぽをすべてして、そのうち二本にほんをのばしてヒロユキとコハルにきつけ、そのまま二人にまもりの魔法まほうをかけた。

 だんだんちかづいてくるみずうみを見て、タイミングをはかる。

 5、4、3、2、1。今だ!

 私はワイバーンの足に電撃でんげきながした。

 ギャガガガガガアアァ!

 電撃でんげきがワイバーンをつうじて、背中せなかっている魔族まぞくの男におそいかかった。

 ワイバーンの足のゆびがゆるんだのを見て、ヒロユキとコハルと一緒いっしょに空にび出した。

 自分の足のうらに魔力まりょくをこめて、空中くうちゅうりる。

 ワイバーンと男は感電かんでんしながら森に墜落ついらくしていった。

 尻尾しっぽで二人をつつみ、みずうみ目指めざして空中くうちゅうはしる。

 ねんのため、くらましの魔法まほうまわりにっているから、だれにもられないはず。

 そうして5分ほど空中くうちゅうはしって、無事ぶじみずうみのほとりに着地ちゃくちした。

 湖畔こはん水面みなもかぜれるおときながら、周囲しゅうい安全あんぜん確認かくにんする。

 ……うん。大丈夫だいじょうぶ気配けはいさぐってみると、すくなくとも半径はんけい1キロメートルの範囲はんい危険きけんものはいないわ。

 そばにある大きな木の根元ねもと土魔法つちまほう地面じめんかためた。

 そして、私がいつも自分の荷物にもつ整理せいりするのに使つかっている魔法倉庫マジック・ガレージから毛布もうふり出して、地面じめんき、二人をかせる。

 この魔法倉庫マジック・ガレージって、魔法まほう不思議ふしぎ空間くうかんつくって、ものを入れたり出したりできるすぐれものの魔法まほうよ。

 私はふだんから、自分の物やあまった食料しょくりょうなどを入れていたから、今みたいに突然とつぜんどこかにほうり出されても、まったく問題もんだいないわ。

 自分たちのまわりにまる魔法まほうかべをつくって結界けっかいにする。これでモンスターがおそってきても大丈夫だいじょうぶ

 かせた二人にケガがないかどうか確認かくにんしたけれど、たんうしなっているだけみたい。

 ほっとしながら、睡眠すいみん魔法まほうをかけてあさまで目がめないようにする。

 ようやくいたところで、コハルのそばにすわる。ゆっくり気配感知けはいかんちをした範囲はんいひろげていく。

 さすがにふかもりなかだけあって、ところどころに危険きけん動物どうぶつがいるみたいね。

 クマ、オオカミのれ、巨大きょだいむしのモンスター、そして、墜落ついらくしたワイバーン……。

 どれも今のヒロユキとコハルには危険きけんすぎるわ。いずれにしろ結界けっかいなかだから安全あんぜんだけどね。

 少しつかれた私は、ゆっくりと目をつぶった。

――そのまま二時間にじかんほどしたとき、私の気配感知けはいかんちなにかがっかかった。

 だれかがみずうみおくからちかづいてくるわね。

 私はがってみずうみほうをながめた。

 ちょうどそのときそらめていたくもからがのぞいて、つきひかりがスポットライトのように湖面こめんらしている。

 その光の中、小舟こぶねっているのは二人のダークエルフだ。

 どうやら私たちに気がついているようで、まっすぐにこっちにかってきている。

 てきか。味方みかたか。警戒けいかいしながら近づいてくるのをつ。

 小舟こぶねみずうみきしにつき、二人が近づいてくる。

 どうやら二人とも女性じょせいのようね。きれいな銀色ぎんいろかみつきひかりらされてかがやいている。

 ……武器ぶきをかまえる様子ようすはないし、敵意てきいかんじないわ。

 二人のダークエルフは私のまえすわると、

 「私たちはこの森にむダークエルフよ。てきではないわ。……うちのむら神官様しんかんさまがあなたたちをたすけてくるようにって」

 もう一人のダークエルフの女性じょせいも、

 「安心あんしんして。私たちは魔族まぞくはいってこられない聖域せいいきんでいるの。だから一緒いっしょきましょ?」

 聖域せいいき? そんなところがこのもりに……、あるわね。

 私の気配感知けはいかんちだと、ここから5キロメートルほどのところに、ぽっかりとまわりとちが空気くうき場所ばしょがあるわ。

 たしかにみずうみわたったほうはやいしちかいわね。

 ダークエルフか……。

 どっちにしろ森をさまようより、聖域せいいきったほうがよさそうだわ。

 私はくるっと二人にけてヒロユキとコハルのそばにいく。

 尻尾しっぽから一本ずついて、二人のかみんだ。

 これでなにかあっても二人をまもれるはず。

 そこでダークエルフのほういてうなづいた。

 さささっとやってきたダークエルフの女性じょせいは、慎重しんちょうにヒロユキとコハルをかかえた。

 「さ、魔物まもの魔族まぞくまえ聖域せいいきもどりましょう。あなたも一緒いっしょにね」

 ひょいっと小舟こぶねった私をて、ダークエルフの女性じょせいがにっこりわらった。

 「あなた。本当ほんとうにふつうのキツネ? ずいぶんとかしこいのね」

 ……いいえ。普通ふつうのキツネではありませんよ。かくしてるけどね。

 小舟こぶねつきひかりまもられながら、湖面こめんしずかにすすんでいく。

 森の聖域せいいき。これも運命うんめいなのかしらね。

13.王都への帰還

 王都おうと帰還きかんしたキョウコやエドワードたちをけていたのは、ワイバーン部隊ぶたい襲撃しゅうげきであちこちの建物たてもの破壊はかいされたまちだった。

 南部街道なんぶかいどうとりでたたかいを勝利しょうりでかざり、よろこびの帰還きかんとなるはずだったが、王都の悲惨ひさんなすがたにだれしもが絶句ぜっくしている。

 「そ、そんな……。せっかく魔族軍まぞくぐんかえしたのに」

 こぶしつよくにぎりしめるキョウコだったが、騎士団長きしだんちょうらにうながされておしろかった。

 エドワードたちはギルドで報告ほうこくませ、そして家路いえじにつく。

 がれきが道路どうろのはしにせてあり、ワイバーンのブレスを受けてくろこげになった木材もくざいがあちこちにらばっている。

 王都の人々がつかれきった表情ひょうじょうで、がれきをかたづけている。

 エドワードはしぶかおをしながら、

 「ひどいな……。ヒロユキたちは無事ぶじだろうか」

とつぶやいた。

 リリーが、

 「心配しんぱいだわ。はやもどりましょう」

物憂ものうげな表情ひょうじょうまちつめている。

 目のいソアラが、

 「ほら。家は無事ぶじみたいよ」

と指をさし、

 「あれ? あのおばさんは……」

といぶかしげな声を上げた。

 エドワードたちが家にたどりくと、そこには錬金術師れんきんじゅつしのマリーが立っていた。

 エドワードが、

 「ばばあじゃないか! いまかえったよ。……でもどうした? ヒロユキたちはお使つかいか?」

とたずねる。

 マリーは悲痛ひつう表情ひょうじょうで、

 「すまない。二人は……、ワイバーンにさらわれた」

げる。

 絶句ぜっくするエドワードたち。エドワードが苦笑にがわらいしながら、

 「う、うそだろ? あいかわらず冗談じょうだんきついよなぁ」

と言うが、マリーはだまったままだ。

 エドワードがマリーにかけよって、そのかたをつかんだ。

 「な、なんだよ。だまったままじゃわかんないって」

と言う。

 マリーが、

 「本当ほんとうのことだ。

 私の家からかえったあと、ワイバーンどもがおそいかかってきたのさ。

 あわててまちして、あんたらの家に向かったんだけど、……もう少しでいつけるってところでさらわれちまった」

と、くやしそうに言う。

 目元めもと何度なんどもこすっていて、疲労困憊ひろうこんぱい様子ようすだ。

 リリーがドアをけて、

 「と、とにかく中に入りましょう。ね、マリーも一緒いっしょに」

と言うと、みんなが順番じゅんばんに家に入っていった。

 最後さいごにリリーはマリーのかたきながら入っていく。

 そのまましずんだ重苦おもくるしい空気くうきが、エドワードたちをつつむ。

 マリーのはなしきながら、いつしか夕闇ゆうやみせまってきていた。

 不意ふいに家のドアがノックされる。

 ソアラが開けに行くと、そこには一人の少女しょうじょがいた。そのこうに賢者けんじゃマーロンの姿すがたもある。

 そのかおを見て、ソアラがおどろき、

 「ゆ、勇者ゆうしゃさま?」

と言うと、少女しょうじょがうなづいて、

 「キョウコってんでください。わたしほう年下とししただし。……ヒロユキくんとコハルちゃんはいます?」

ときいてくる。

 しかし、だれもそれにこたえない。

 沈黙ちんもくがただよい、キョウコが、

 「そ、そんな……」

絶句ぜっくした。

 マーロンがやってきて、

 「どうしたのじゃ?」

ときくと、ソアラが、

 「二人はワイバーンにれさらわれたわ」

 マーロンが、

 「なぬ? さらわれた?」

と言うと、マリーが、

 「そのこえはマーロンのじじいか?」

そとに出てきた。

 マーロンがマリーを見て、

 「おぬしだって、わしよりわかいが充分じゅうぶんにばばあじゃないか。……それよりさらわれたのは本当ほんとうなんじゃな?」

 「そうさ。あのきつねっ子も一緒いっしょじゃ」

 それを聞いたマーロンが少しかんがんでから、

 「そうか……、ちょっと中に入ってええか?」

と言い、エドワードたちの家に入っていった。

 「け、賢者けんじゃさま? ……あいつらいつのまに」

とヒロユキとコハルが、いつのまにか勇者ゆうしゃキョウコ、賢者けんじゃマーロンといになっていることに、エドワードたちがおどろいている。

 魔法使まほうつかいのおじいさんとは聞いていたが、まさかそれが賢者けんじゃマーロンだとは知らなかったらしい。

 マーロンは、

 「おぬしら、あきらめるのはまだはやいぞ。あのきつねっ子が一緒いっしょなんじゃろ? ちょっとまっとれ」

と言って、リリーにいって大きめの深皿ふかざらに水をためてってこさせた。

 水の入ったさらまえに、マーロンがつえかまえてつ。

 「水鏡みずかがみよ、水鏡みずかがみさがしびとの姿すがたをうつしておくれ」

と言いつつ、つえから魔力まりょくを水にながんでいく。

 水がぼうっとあおひかりかがやき、中央ちゅうおうにぼんやりと何かのぞううつされた。

 少しずつピントがあっていくと、そこにはどこかのもりの中にいるヒロユキとコハル、ユッコの姿すがたがあらわれた。

 「ヒロユキにコハルだ!」

 それをたみんながよろこびのこえを上げる。

 リリーが、

 「よかった。生きていてくれた」

なみだぐんでいる。ソアラもフランクもそのとなりで、うんうんとうなづいている。

 キョウコがそれを見て、

 「……ここはどこ?」

とたずねると、マーロンはひたいにあせかべてむずかしい表情ひょうじょうをしている。

 マーロンがゆっくりと口をひらいた。

 「魔大陸またいりくダッコルトじゃ……」

 その返事へんじに、みんなはふたたび言葉ことばうしなった。

 ゴクリとだれかが、つばを飲み込み、「魔大陸またいりくだと」とつぶやいた。

 キョウコが自分じぶんのほっぺたを、ぱあんっとたたいた。

 「よし! わかった! ちょうどいい。私が二人をさがしにくよ!」

 エドワードたちがかおを上げて、キョウコを見つめる。

 マーロンが、

 「そうじゃな。たしかにちょうどいいかもしれん」

とつぶやいた。

 ドワーフのゴンドーが、

 「どういうことだ?」

とたずねると、マーロンが、

 「じつはの。南部なんぶとりでたたかいのあとで、調査ちょうさしてみたところ、このロンド大陸たいりく侵攻しんこうしてきていた魔族まぞくがきれいさっぱりいなくなっておるようでな」

と言いながら、となりのキョウコを見つめた。

 「おそらく、あの最後さいごのキョウコの魔法まほうおそれをいだいたと考えられる。

 勇者ゆうしゃの力を脅威きょうい判断はんだんして、警戒けいかいしておるんじゃろう」

 キョウコはくびよこって、

 「最後さいごのは魔法まほうじゃないよ。私だってもうられるっておもって覚悟かくごしたんだもん。なんであんな光で魔族まぞくをやっつけられたのかわからないわ」

と言う。

 マーロンが、

 「おそらく土壇場どたんば勇者ゆうしゃの力がかくせいしたんじゃろうさ」

というがキョウコは納得なっとくしていないようだ。

 エドワードが、

 「それで?」

と言うと、キョウコが、

 「私たちで精鋭部隊せいえいぶたいをつれて、魔大陸またいりくむことになったのよ」

 マーロンが補足ほそくする。

 「各国かっこく軍隊ぐんたい陽動ようどうとして、魔大陸またいりく沿岸部えんがんんぶ大規模だいきぼ戦闘せんとうをしかける。

 そのうら精鋭せいえい魔王まおうたお計画けいかくじゃ」

 はなしいたエドワードがどんっとテーブルをたたいた。

 「おれたちもく。あんたらの偵察役ていさつやくとしてついていくぜ」

 その宣言せんげんに、リリーたちは一瞬いっしゅんおどろいたようだが、すぐにうなづいてキョウコとマーロンにいた。

 キョウコは、

 「だ、だめだって。危険きけんだから。それに……ヒロユキたちがかえってきても、このいえくなってるとかなしむよ」

と言うが、マーロンはしばしかんがんで、

 「いや。キョウコ。これはいいかもしれん。こやつらはすごうで冒険者ぼうけんしゃじゃ。

 山の中での戦闘せんとうたたかいて、れいのネクロマンチュラにとどめをしたのもこいつらじゃぞ」

 錬金術師れんきんじゅつしのマリーもうなづいて、

 「それにこの家ならば、わたしが留守るすまもってやろう。このはなたれエドワードの家なんぞ、わが家も同然どうぜんさ」

 エドワードがあたまをわしゃわしゃとしながら、

 「うっせえ! ばばあ! いつまでもはなたれってぶんじゃねぇ!」

 「はなたれは、はなたれさ。……まったく。むかしは、わたしの入浴にゅうよくをのぞいていたくせに。いくら私が美魔女びまじょだからってねえ」

 「だから、そのはなしはやめろって!」

 キョウコがどきまぎしながら、

 「ちょっと、私のはのぞかないでよね。のぞいたら……、ぶっとばす」

 エドワードがあかくなりながら、

 「のぞかねえよ! ったく、これもばばあのせいだ」

 リリーがわらいをこらえながら、

 「大丈夫だいじょうぶよ。キョウコさん。エドワードは私がちゃんと見張みはってるから」

と言った。

 キョウコたちが魔大陸またいりくダッコルトに潜入せんにゅうするのは、約一ヶ月後やくいっかげつごらしい。

 その間に、各国は軍勢ぐんぜいととのえて、魔大陸またいりくに向けて軍用船ぐんようせん出発しゅっぱつする予定よてい

 撤退てったいした魔族まぞくに、対抗策たいこうさくを見つけられるまえたおすのが目的もくてきだから、スピードせんだ。

 それからエドワードたちも一ヶ月後いっかげつご魔大陸潜入またいりくせんにゅうけて、いそがしい日々をおくることになった。

12.砦の戦い 2

 とりでたたかいはよるになってもつづいていた。

 とつぜん、夜空よぞら巨大きょだい魔方陣まほうじんかび上がる。

 あかい光のはしら魔方陣まほうじんと下の地面じめんをつなぐと、そこから一つ目の大巨人おおきょじん、サイクロプスがあらわれた。

 小学校しょうがっこう校舎こうしゃたかさほどもあるサイクロプスが、両手りょうてり上げて、雄叫おたけびを上げる。

 その雄叫おたけびに、魔物まもの騎士きしたちも身体からだがすくんで、うごきがまる。

 よわ魔物まもの騎士きし恐怖きょうふうごけない。

 おおまたであるいてきたサイクロプスは、とりで見下みおろして、こんぼう無造作むぞうさろした。

 そのこんぼう聖女せいじょ結界けっかいふせがれる。しかし、その衝撃しょうげき聖女せいじょが力つきてたおれ込んだ。

 戦場せんじょう指揮しきしていた騎士団長きしだんちょうのアルスが、

 「まずい!」

と言って、すぐさま騎士きし指示しじをして、聖女せいじょもとはしらせる。

 そのあいだに、ふたたびサイクロプスはこんぼうをふりあげた。

 騎士きしたちが恐怖きょうふに おののいた表情ひょうじょうになる。

 しかし、そこへキョウコが手にしたけんをサイクロプスにけて、

 「はなて!」

とさけんだ。

 その時、賢者けんじゃマーロンの魔法まほう完成かんせいする。

 サイクロプスの脳天のうてんに、夜空よぞらから大きなかみなりちた。

 バリバリバリというおとてて、かみなりひかりあたまからあしまでサイクロプスをつらぬき、地面じめんつたわってまわりの魔獣まじゅうにも おそいかかっていく。

 身体からげたサイクロプスがそのままの姿勢しせいかたまったようにうごかない。

 しばらくしてサイクロプスの上体じょうたいうしろにたおれかかった。

 「やったぞぉ!」

騎士きしたちがさけんだ。

 マーロンがはげしくいきらせながらまえる。

 「……うぬぬ。まだじゃ」

とうめくように つぶやいた。

 うしろにたおれかかったサイクロプスだったが、きゅうに力をもどしたようにった。

 大きながギョロリととりでの上の騎士きしをにらんだ。騎士きしたちは ぶるぶると ふるえている。

 サイクロプスの一つ目が赤くまり、

 「ぐおおおおおー!」

さけびながら、こんぼうりおろされる。

 「させない!」

 キョウコがとりでのはしから、サイクロプスにかって のように一直線いっちょくせんび込んでいった。

 こんぼうりおろそうというサイクロプスのむねに、キョウコのけんさる。そのけん中心ちゅうしんに、直径ちょっけい5メートルくらいの円形えんけいひかりはしり、サイクロプスが後ろにたおれていく。

 ズズズン。

 地面じめんったキョウコは、ぜえぜえといきあらげながら まわりを見回みまわした。

 キョウコは魔獣まじゅうや がいこつへいのどなかにいた。

 とりで大扉おおとびらひらき、うまった騎士団きしだんしてくる。その先頭せんとうはアルス騎士団長きしだんちょうだ。

 「勇者ゆうしゃまもれ!」

 馬上槍ランスをかかげたアルスのこえ騎士きしたちが、「「「おう!」」」と気合きあいを入れる。

 しかし、騎士きしたちのに、あかい大きなオーガ―が立ちふさがった。

 巨大きょだいなハンマーをったオーガ―だ。

 「ふしゅるぅぅ。ここはぁ、通行止つうこうどめだ。……ってか、つぶれてにやがれ!」

 そうさけんだオーガ―はハンマーをり下ろした。

 アルスはうまたくみにあやつって、そのハンマーをよけて、とおぎざまに、ランスでオーガ―の脇腹わきばらをねらう。

 しかし、アルスにつづいていた騎士きしたちのうち、何人なんにんかはハンマーをよけられずに、うまごとばされた。

 アルスのランスの表面ひょうめんあかひかっている。オーガ―にさったところから、ジュウウゥゥとけるにおいがする。オーガ―がのけぞって、

 「ぐおおおぉぉ」

くるしそうにうめいて、脇腹わきばらにささったランスをこうと手をえた。

 そこへ背後はいごからアルスがりかかった。

 「火炎十字剣かえんじゅうじけん!」

 オーガ―の背中せなかに大きな十字じゅうじきずきざまれる。

 前向まえむきにたおんだオーガ―に向かって、とりでから魔法まほうはなたれる。オーガ―のいたところに大きな火柱ひばしらが立った。

 その火柱ひばしらけるように騎士きしたちが勇者ゆうしゃ目指めざしてすすんでいく。

 火柱ひばしらえたあとにはオーガ―がんでいた。

――――。

 そのころ、とりで右手みぎてやまの中では、巨大きょだいなクモのもの冒険者ぼうけんしゃたちがたたかっている。

 「ちぃ! よりによってネクロマンチュラかよ!」

 おおグモともばれるネクロマンチュラは、あしひろげたおおきさが約30メートルほどもあり、その背中せなかにはドクロのように見えるアザがある。

 あしさきにある大きなツメと、するどいキバ。おしりから出すいと獲物えものらえる危険きけん魔獣まじゅうだ。

 四方八方しほうはっぽうから火の魔法まほうがネクロマンチュラにんでいく。

 しかし、ほとんどの魔法まほう針金はりがねのようにふとふせがれて、ダメージをあたえることができない。

 冒険者ぼうけんしゃかって、頭上ずじょうからクモのいとあみのようにんできた。

 何人なんにんかの冒険者ぼうけんしゃがそれにつかまり、地面じめんたおむ。

 ネクロマンチュラがその冒険者ぼうけんしゃめがけて突進とっしんしてきた。

 その背中せなか大剣たいけんったエドワードがち、大剣たいけん背中せなかからした。

 ネクロマンチュラがいたみにはげしくうごく。

 エドワードが必死ひっしになって大剣たいけんささえにとされないようにふんばっている。

 そこへゴンドーが大斧おおおのりかかり、ネクロマンチュラのあし一本切いっぽんきばした。

 次の瞬間しゅんかんやっつある大きなの一つに、ソアラのげた短剣たんけんさる。

 そのいたみに一瞬動いっしゅんうごきがとまるネクロマンチュラ。

 そこへリリーがこおり魔法まほうはなった。ネクロマンチュラの目がこおりざされていく。

 「いまだ! みんなかかれ!」

 だれかのごえで、冒険者ぼうけんしゃがネクロマンチュラにおそいかかった。

 めちゃくちゃにあばれるネクロマンチュラに何人なんにんかがばされるが、次々つぎつぎんでいく冒険者ぼうけんしゃに、ネクロマンチュラがすこしずつよわまっていく。

 エドワードがふたた背中せなかからべつ場所ばしょ大剣たいけんき下ろした。

 「こいつでおしまいだ!」

 ――こうして山中さんちゅうたたかいでは冒険者ぼうけんしゃ無事ぶじ勝利しょうりをおさめた。

 キョウコは油断ゆだんすることなくまわりを見回みまわしている。

 不思議ふしぎと がいこつへいやオークなどは、キョウコと一定いってい距離きょりをたもっている。

 キョウコの正面しょうめんのがいこつ兵の集団しゅうだんが、左右さゆうかれていく。

 その中から、くろよろいたオークをれた黒騎士くろきしあらわれた。

 黒騎士くろきしがキョウコのまえ仁王立におうだちになり、

 「ふははは。きさまが勇者ゆうしゃか! おれ黒騎士くろきしカロン。魔王様まおうさま四天王してんのうの一人にして最強さいきょう騎士きしだ」

 黒騎士くろきしにした大剣たいけんをキョウコに向ける。

 「きさまに一騎打いっきうちをもうし込もう。……おれたのしませろ!」

 そういっていきなりキョウコに向かってつっこんで来た。

 り下ろしの一撃いちげきをキョウコはサイドステップでよけ、そのまま黒騎士くろきしりかかった。

 すばやく大剣たいけんきりかえした黒騎士くろきしと、キョウコのけんがぶつかって火花ひばならす。

 「うぬ。剣筋けんすじだ。……それにそのけん聖銀せいぎんけんか? がダーインスレイブとえるとはおどろきだ」

 いったん距離きょり二人ふたり。キョウコは、

 「このとりで絶対ぜったいまもってみせる。あなたをたおして!」

さけび、全身ぜんしん魔力まりょくをまとわせると、さきほどよりも数段階上すうだんかいうえのスピードでカロンにりかかった。

 「ぬお?」

 カロンはおどろきながらも、キョウコのけんけ止める。ギリギリと つばぜりいをする二人。

 カロンはキョウコを見下みおろしながら、

 「ふははは。ならばおれ本気ほんきせてやろう。……をすすれ! ダーインスレイブ」

 そうさけぶと、カロンのけん不気味ぶきみあかひかり、ギチギチとおとてながらかたちわっていく。

 より大きく、そして赤く光る大剣たいけん変化へんかしたダーインスレイブは、まるでしんぞうの鼓動こどうのように、ドクンドクンと明滅めいめつして光っている。

 無造作むぞうさよこなぎにはらったカロンのけんちからながして、キョウコもうしろにがる。

 カロンが、

 「ふはははは。きさまのが欲しいとけんがいっているぜ!」

とキョウコにりかかった。

 キョウコの聖銀せいぎんけんしろひかった。

 キョウコは、カロンのけんながしながらも、上手じょうずにステップをんでカロンとたたかう。

 ちからはカロン、スピードはキョウコがうえだ。

 二人ふたりたたかいが きっこうしているあいだに、騎士団きしだんがキョウコをまもろうとやってきた。

 しかし、そのまえに がいこつへいやオークが立ちふさがり、くろよろいのオークが騎士団長きしだんちょうのアルスにりかかった。

 その間にも、キョウコとカロンのたたかいははげしさをしていく。

 しかし、ながたたかつづけているキョウコの体力たいりょく限界げんかいをむかえていた。

 とうとうカロンの強烈きょうれつろしを、キョウコがながしに失敗しっぱいする。

 キョウコの手から聖銀せいぎんけんばされる。

 しかも戦いつづけたキョウコの手は、ブルブルとふるえて力が入らない状態じょうたいだ。

 カロンを見上げるキョウコは絶望ぜつぼう表情ひょうじょうをうかべた。

 カロンはニヤリとわらうと、

 「さらばだ。勇者ゆうしゃよ! このけんとなり、そのいのち魔王まおうさまにささげるがよい!」

とキョウコの頭上ずじょうからダーインスレイブをり下ろした。

 くろよろいのオークとたたかっているアルスが、

 「キョウコぉぉ!」とさけぶ。

 キョウコがおもわず目をつぶった。……そのときだ。

 キョウコのかみなかから、一本の黄金色こがねいろが、キョウコとカロンのあいだび出した。

 ユッコのしっぽの毛だ。

 ダーインスレイブの一撃いちげきがたった一本の毛にふせがれる。

 そして、目を見開みひらいたカロンの前で、黄金おうごんの毛が まばゆい光をはなった。

 その光にみ込まれたカロンの全身ぜんしん白銀はくぎんほのおつつまれる。

 「ぐ、ぐわあぁぁぁぁ」

と、のたうちまわるカロン。

 まばゆい光は、そこを中心に広がっていき、戦場せんじょうのすべてをおおくす。

 光につつまれた魔獣まじゅうや がいこつ兵などの魔族軍まぞくぐんが、ことごとく白銀はくぎんほのおつつまれて地面じめんたおれていった。

 キョウコが目をひらくと、すべてのてきほのおつつまれ、目の前ではカロンがころまわっている。

 広がった光があつまってきて、キョウコにい込まれるようにえていく。

 「今の光は? ……身体からだがかるい?」

 キョウコの全身ぜんしん不思議ふしぎな力が充満じゅうまんする。

 今まで以上いじょうの力が身体からだおくから わいてくるようだ。

 両手りょうてにぎりしめているキョウコの目の前で、ぼろぼろになったカロンがよろよろと立ち上がった。

 「き、きざまぁ」

と、うめきごえをあげるカロン。

 その目の前の空間くうかんらぎ、ローブを銀髪ぎんぱつおとこあらわれた。

 おとこはカロンを見下みおろし、

 「カロン。お前は先にかえれ」

と手をり上げると、カロンのすがたが すうっとえていった。

 男はキョウコにり向くと、

 「さすがは勇者ゆうしゃだ。はバアル。いずれ会うこともあろう。

 ……ここはわれらのけだ。いさぎよく退しりぞくとしよう。さらばだ」

げ、カロンと同じようにえていく。

 キョウコは何もできずに、それを見ていた。そこへ、ようやく騎士団長きしだんちょうのアルスがやってきた。

 「キョウコ。大丈夫だいじょうぶか!」

 キョウコはうなづく。

 「ええ」

 アルスはうなづきかえすと、騎士きしたちの方へとかえって、

 「我々われわれ勝利しょうりだぁぁ!」

と、けん高々たかだかかかげてちどきをあげた。

 騎士きしたちがおなじようにけんをかかげて、「おおお!」とこえを上げる。

 とりでまもりぬいた。

 ――そうおもった瞬間しゅんかん、キョウコはつかれが出てきて、その意識いしきうしなった。