23.たどり着いた先には

 警報を聞いた魔王アキラは、ベッドから飛び起きた。
 侵入者だと! いったい誰だ?

 まさか自分のところまでたどり着くことはないだろうが、捕まえた後は侵入者が誰なのかを確かめなければならない。
 青白い肌の侍女を呼びつけて着替えさせ、すぐに魔王の間に向かった。

 魔王の玉座に座ると、すぐに宰相のカオスがやってきた。
「ほほほほほ。とんだ命知らずがいたものですな。……すぐに映像を出しましょう」
 カオスが手にしている宝玉がほのかに光ると、アキラの正面に大きなスクリーンが映し出された。

 そこには、
 白銀の鎧を着て光を帯びた剣を振るうアラン。金色の杖をから次々に攻撃魔法を放つライラ。2人の強い騎士とそれに付き従う20人ほどの騎士の姿があった。

「へえ。王国の精鋭か。……防塁攻防戦との二面作戦。いや、こっちが本命で、向こうは陽動だな」

 すぐにアキラは相手の目的を理解する。そこへカオスが、
「ほほほほほ。これはマナス王国の王太子と王太子妃ですな。……確か、アランとライラとか」
「知ってるのか?」
「ええ。先日、宣戦布……、外交交渉に向かいましたおりに会っております」

 こいつめ。今、宣戦布告といいそうになりやがったな。
 アキラはイラッとしたけれど、気持ちを切り替えてスクリーンを見る。

 なるほど。強いな。剣技はまだ荒いが特殊な魔法の剣を使っている。もしあれが聖剣だとすれば警戒しなければならない。なぜなら魔王が戦闘時に身にまとう闇のオーラを切り裂くことができる唯一の武器だからだ。

 それにライラの方も要注意だ。いくつもの強力な魔法をひっきりなしに使い続けているのに、まったく平然としている。ゲームの部隊戦では一番嫌なタイプの敵だ。

 まるでどこかのチートキャラのようだが、そうなるとこいつらを倒してしまえば、もう王国には強キャラがいなくなるだろう。……つまり攻略が楽になるってことだ。

 そのことに気がついたアキラはにやりと笑みを浮かべた。

 ……ははは。ついてるぞ。なにしろ魔王じぶんはほぼ100パーセント勝利するチート・オブ・チートの最強キャラだからな。

 気をつけるべきは聖剣だけ。魔王城に強キャラをぶつけてくるとは願ったりだ。
 いや、まてよ? もしも、あの2人が勇者と聖女ならば、ゲーム上は懐柔することも可能だ。なんとしても生かして捕らえたい。

 カオスが考え込んでいるアキラを見上げて、一人でなにかを納得している。
 意味もなくキランッと眼を光らせて、

「獣王が撃退しに行きましたが、生け捕りにさせますか?」
「ん~。そうだな。あの剣士と魔法使いは生かしたまま連れてこい。……まあ大概の怪我は治せるから殺さないようにだけ気をつければいいだろう」

「畏まりました。では早速……」といいながらカオスが耳に平らな板を当てる。

「ブルーゴ。私だ。……ああ。それで魔王様からなんだが、男の剣士と女の魔法使いは殺すなということだ。……ああ? 多分そうだろう」
 かすかに驚くブルーゴの声がアキラのところまで聞こえてくる。「本当に男もか?」
 カオスは自信たっぷりで「ああ、そうだ。魔王様に衆道のご趣味があったようだ」と返信している。

 耳をそばだてていたアキラはブホッと吹き出した。
「――おい! 今、変なことを言わなかったか?」
 しかし、カオスはそれを無視して、「では」と一礼すると煙になって消えていった。
 それを見たアキラはいつものように叫んだ。

「また、あいつら! 俺の話をきいちゃいねぇぇぇ!」

 侍女に命じてドリンクを持ってこさせ、どうにか気を落ち着けようとする。カオスが消えると同時にスクリーンもなくなっている。
 まあ、ブルーゴが行ったのなら、さほど時間もかからないだろう。あいつはなんだかんだ言って強いからな。

 アキラはしばらく退屈な時間を過ごすことになった。

 1時間後、退屈になったアキラは玉座の上にあぐらをかいていた。

 ひまだ。

 こんなことならカオスから映写の魔導具を受け取っておくんだった。
 後悔しても遅いが、そろそろ獣王たちが戻ってくるころだろう。

「……うん?」
 何かが視界の端っこで動いたように見えた。
 見てみると、木箱がひとりでに動いて部屋に入ってきた。

 ずりずり。……ずりずり。……ずりずり。

 アキラは何度も目をこする。

 ずりずり。……ずりずり。

 どうやら見間違えではないらしい。中にスライムでも入り込んだのだろうか。

 玉座から降りてゆっくりと木箱に近づいていくと、かすかな小さな声で、
「おい! 誰か来るぞ!」
「わかったわ。……というかここどこなの?」
「しっ!」
と、男女の声が聞こえてきた。

 ……中に誰かいる。しかもこれで隠れているつもりだと?

 こみ上げてくる笑いを抑えるのに苦労しながら、アキラは木箱に手をあてた。
「う~ん。おかしいなぁ。……何か動いていたような気がしたんだが」
と言いながら、ゆっくりと箱を一周する。

 驚くべきことに中の人間の気配がほとんど感じ取れない。よほど隠密行動に長けた人物なのだろう。

 ……まあ、俺にはどうでもいいがな。

 アキラはガバッと木箱のふたに手をかけた。

「みいつけた」

 するとその瞬間、中から氷結魔法が飛んできて、首から上が氷に覆われた。そのままヨロヨロと尻餅をついた瞬間、頭のすぐ上を剣が通り抜ける風を感じた。

 あわてて手を前に出して、
「ま、待て! 何もしないから止めてくれ!」
といいつつ、自らの火魔法で顔の周りの氷を粉砕する。

 アキラの目の前には木箱の中で立ち上がって、武器を構えているセシルとロナウドの姿がいた。

◇◇◇◇
 セシルは、へたり込んでいるアキラを見て驚いた。
「あれ? 人間?」
 こんな魔王城の奥に人間? ちょっとのっぺりした顔だが、10代後半ぐらいの男の子がいるとは予想外だった。

 もしかして魔王城の使用人とか?
 そうだとすると、いきなり攻撃を加えたのはマズかったかもしれない。

 セシルは反省しながらも、ロナウドにも剣を下ろさせて木箱から外に出た。
「ごめんなさいね。ついうっかり」

 すると魔王アキラは、
「うっかりで死ぬとこだったぞ!」
と言い返した。年下の男の子らしい物言いだ。

 苦笑いしながら、手を差し伸べて立ち上がらせる。……そうだ。使用人なら出口を知っているはずよね。
「ごめんね。実は出口を探して迷っちゃって」
と言うとアキラは呆れた表情を浮かべた。

 ロナウドも苦笑しながら、
「まあまあ。……ロナウドだ。こっちはセシル。よろしくな」
とアキラと握手をする。

「ああ。……ええっと、魔王のアキラだ」

 その言葉を聞いた瞬間、セシルとロナウドはピキンと凍った。

「え? ……いま魔王って聞こえたような」「俺の耳もおかしくなったのか」
「だから。俺が魔王だ」
「え、えええ! 魔王なの? あんた!」「まじか?」
 目の前の魔王がため息をついた。「誰が何と言おうと、俺が魔王だ」

 順調に進んでいたはずの木箱作戦だったが、まさかよりによって魔王の間に入り込んでしまったとは予想外だった。
 しかも、魔王が年下の男の子だとは!

 ……いやまてよ。長命種という可能性もあるから、見た目で判断はできないか。見た目だけならフリージアと同じくらいなんだけどね。

 予想通りに魔王は攻撃的な性格ではないようで、さっきは思わず攻撃してしまったが、今は玉座に座る魔王と立ったままで対面している。
「それで何のようでここまで来たんだ?」
 魔王の問いかけに、セシルは口を開いた――。

 セシルがここに来た理由を聞いた魔王は、次第にどこかうれしそうな表情になっていく。

「ははあ。なるほどね……。残念だが俺は別に聖女の血筋ではないな。確かに俺は種族間の差別は嫌いだから禁止してる。ただ、他国の問題にまで首を突っ込むつもりはなかったんだ」
「どういうことかしら?」

「なにしろまだ建国したばかりでな……。大きな交渉をするには互いに利益がないとまずいだろ? まだそれがないから産業を育てているところなんだ」

 魔王の説明にセシルは驚いた。やはり若いのは見た目ばかりか。思いのほか、その考え方はしっかりしたものだった。

「そもそも。今回、マナス王国にしかけたのも……。まあ、なんだ。部下が暴走しやがってな。国交樹立に行けと言ったら宣戦布告する始末だ。まったく笑えねえよ」

 どこをどうすれば国交樹立が宣戦布告になるのか意味がわからないけど、きっと報告を聞いた魔王も驚いたに違いない。
 その場面を想像すると笑いがこみ上げてきた。隣のロナウドなんかわざとらしく顔を背けている。

「それは……。大変ね」

 笑いをこらえる私たちを見て、魔王はむすっとしていた。

「おう。大変だよ。まじで。好き勝手しやがる部下はいつもアクシデントを持ってくるし、指示したことは指示したとおりにやらない。いつのまにか勝手に戦争までやらかしやがって」
「え、ええ」
「それでだ。お前たちに俺から2つ依頼だ。……王国との停戦交渉の手伝いと人捜しをお願いしたい」
「え?」

 思わぬ依頼に思わず魔王の顔をぎょうする。私が驚いたのは予想どおりだったのだろう。魔王はニヤリと笑みを浮かべて私を見ていた。

「難しいことはないさ。俺の書状を国王のところに届けてくれればいい」
「あの国王は……。絶対に成功するとは思えないけど、それでもいいのなら届けるわ」
「きっと上手くいくさ。停戦の条件としてこちらから出すのは2つ。1つは俺たちが実効支配している地域だが、さすがに今さら返すわけにはいかねえ。そこで経済特区として俺たちに管理させること。もちろん税金も支払うし、王国の監視官の駐留も受け入れる」

 経済特区ね。なるほどよく考えられているようだ。だがそうなると、2つめの条件はなんだろう?

「2つ目はこいつだ」
 そう言って魔王は懐から15センチメートルほどの赤い宝石を取り出した。

「賢者の石だ。超貴重なこいつを月に1つ進呈しよう」

 賢者の石! それって巨大な魔力を秘めた神の石と言われる伝説の錬金触媒じゃない!
 それを月に1つですって!
 でもな。あの国王陛下ならうんと言うかもしれないけど……。

「……なんだ。まだ不安か? 別に書状を届けるだけで良いさ。後はこっちでやるから」

「まあ、わかったわ。それで人捜しの方は?」
「ああ。フリージア・キプロシアっていう女性を探してる」
「え? フリージアを?」

 まさかの名前に思わず驚きの声をあげてしまった。……でも、魔王はフリージアにいったい何の用があるというの?
 フリージアを害するようなことなら絶対に許すわけにはいかない。

「知ってるのか?」
「ええ。……で、そのフリージアをどうするつもり?」

 すると魔王は、ちょっと照れたように頬をかきはじめた。

「その……、なんだ。ええっと……。内緒だぞ?」
「ええ」

れてるんだ」
「は?」
「だから、惚れてるんだ。彼女に」

 そう告白した魔王は、なんだか年相応の男の子のように見える。好きな子に素直に気持ちを告げられないでいるような不器用な……。いや、それは私もそうだけれど。

「……会ったことがあるの?」
「向こうは知らないだろうがな」

 ふうん。でも、そう。魔王がフリージアをねぇ。
 ここまで話した雰囲気だと、会わせるくらいならいいかなとも思う。
 私は、彼女に無理強いしない。彼女の気持ちを第一に優先するという条件をつけた上で、フリージアの居場所を教えた。

「なに? 奴隷にされていただと? ……マナス王国め」

 急に怒気とともに殺気を漂わせる魔王だが、不思議とセシルには怖いとは感じなかった。きっとその怒りが自分と同じだったからだろう。

「助かった。情報を感謝する」

 立ち上がった魔王が下に降りてきて右手を差し出した。

 魔王と握手を交わした瞬間、突然、壁が爆発した。

「くそ! 獣王め! なんだあのデタラメな強さは!」
「ごほごほ」

 土埃にせきをしながら出てきたのは、アランとライラたちだった。

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