34.新たな門出

 青空の下、セシルとロナウドは港湾都市に来ていた。
 奇しくも5年前に追放されたあの港である。

「ふんふん」と上機嫌に鼻歌をうたうセシルが、目的の船を見つけた。
 クリス商会の船だ。

 あの時と同じ船長が、
「お嬢さま。お待ちしておりましたよ」
とにこやかに言い、2人は握手をする。

「ところで、お父さまとお母さまは?」
 こっそりと船長にたずねると、船長は片目をつぶってウインクした。
「大丈夫です。まだバレてはいませんよ」

 とたんにホッとするセシルとロナウド。
「……もうあきらめわるくって、神殿の人も聖女さま聖女さまって。私はならないって言ってるのに」
「ははは。まあ、仕方ありませんな。あれだけのことがあっては……」
「私は、ただロナウドと冒険したいだけなんだから」

 ぶつくさといいながら、船内に入る。船長が、船員に指示を出し、船はけいりゅうしていたロープを解いていかりを上げた。
 船はゆっくりと動き出していく。

 ――また来るわ。だから、またね。私の故郷。

 セシルはロナウドと甲板に並んで離れていく街を眺めていた。

 その時、一台の馬車が猛スピードで港に入り込んできた。スタンフォード家の紋章がついている。

 セシルが、
「やばいっ! 見つかった!」
と言い、船長に「急いで!」と叫んだ。
 船長はニコリと笑って、「ヤー! ものども、オール準備! 急いで港を出るぞ!」と言うと、船員たちが「ヤー!」と返事をする。

 馬車から、父と母が走り出してきて、船を追いかけるように走りよってきた。

「セシル! 戻って――」「来なくていいから! たまには帰ってきなさいよ! あなたの家はちゃんとこっちにもあるんだから!」

 父の言葉を母がさえぎった。立ち止まって、なさけない顔をする父の背中を母がバシンと叩く。

「もう会えないわけじゃないんだから、しっかりしなさい! 嫁に行った娘が家を出て行くのは当たり前でしょ!」
「う、うおお――! ロナウドめ! ゆるさんぞ!」

 とうとうもうげんを叫び出した父の背中を、今度はり飛ばして海にたたき落とす母メアリー。
 扇子を広げて口元を隠しながら、こっちを向いてにこやかに手を振っている。見ると、海から顔を出した父がしょんぼりとこっちを見ていた。

 まったくしょうがないなぁ。

「お父さま! お母さま! 今度は遊びに来るからね!」

 セシルの声に、ようやく父も笑顔になって手を振った。

 ……ふふふ。ちゃんとまた来るから。心配しないでね。

 セシルは腕をロナウドの腕にからめ、さわやかな海風を浴びながら、
「行ってきます!」
と大きな声をあげた。

◇◇◇◇
 2人の出港の様子を、港の片隅でオルドレイクとベアトリクスもながめていた。

 オルドレイクが船を見ながら、
「初代剣聖の名は、ロックハートと言う。……お主の先祖じゃ。しかし、お主は剣聖にはなれぬな。勇者として聖女とともに歩むがいい」
と微笑みながらつぶやいた。

 2人が見ている先で、船は外洋に出ていく。

 どこまでも広がる晴れた空にこんぺきの海が広がっている。
 光り輝く太陽に見守られながら、2人を乗せた船がゆっくりと遠ざかっていく。

 その光景は、まるで天地が、海が、世界が、セシルとロナウドの行く先を祝福しているように見えた。

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