02 王都エストリア

 エストリア王国は魔法研究の盛んな国であり、優秀な魔法使いが多いことでも知られている。

 これに対して、武人が多く強固な軍隊を有するのが、エストリアの北方にあるウルクンツル帝国である。そして、魔力を応用した魔導機械の技術力が高いのがアーク王国である。

 エストリアの現国王は、フィリップ・フォルト・エストリア第40第国王である。愛妻家で知られ、正室はロゼッタ・フォル・エストリアで、側室は今はいない。二男二女の子供たちがいて、上から順番に、皇太子のルーベルト25才、第二皇子ルイス22才、第一皇女セシリア19才、第二皇女ブレンダ16才となっている。

 北方のウルクンツル帝国の皇帝は、デードリッヒ・パルス・ウルクンツル第55代皇帝であり、その妻はキャロライン・パルシット・ウルクンツル、側室にルシーダ(以下略)がいる。一男一女がいて正室の子であり、皇太子はカール25才、第一皇女トリス20才がいる。

 エストリアの第一皇女セシリアが、ウルクンツル皇太子のカールと婚約し、今年の秋に式典が行われる予定となっている。

 この結婚を祝して両国では様々な催し物が企画されており、エストリアの王都であるエストリアにおける(ややこしい)『古の魔法道具とエストリアの歴史』展も、その一つである。

 「うわぁ。さっすが王都だね~。」

 サクラののほほんとした声が後ろからする。

 「本当だね。サクラちゃん。人が多すぎて気持ち悪くなりそう……。」

 今のはシエラの声だ。

 俺たちは、さきほど王都エストリアに到着して門をくぐったところだ。王都エストリアはほぼ円形をしていて、北側に王城。その両サイドに貴族街があり、東部と西部には商人街、そして南部に職人街とスラムが存在している。東、西、南にはそれぞれ大門があり、人と物資の出入り口となっている。北側の王城の背後には軍の施設がある。メインの道路は、東西の大門を繋ぐストリートで、商人街の真ん中を突っ切る大通りだ。

 俺たちは、東大門から入り、中央の広場にある冒険者ギルドに向かって歩いている。ちなみに、全員が初王都であったが、事前にトーマス達から情報を収集していたので、迷うこともなく済んでいる。

 とはいうものの、第一皇女の婚約からずっとお祝いムードのようで、ラッシュ時の新宿駅とまではいかないが、かなりの人混みにはうんざりする。俺以外のメンバーは、あのラッシュの人混みも経験が無いだろうから、余計にうんざりしていることだろう。

 「うへぇ。どこ見ても人、人、人……、人ばっかり。」

 ヘレンが疲れた表情をしている。

 「あはは……。ヘレン。今日は休日だもん。仕方ないわよ。」

 ノルンは、やれやれといった様子だ。

 「気をつけろよ。こういうときはスリとか痴漢とかいるからな。」

 俺は、後ろを向いて、みんなに注意を促す。東京でさえいるんだから、こっちの世界なら尚更だ。……とはいっても、お金はノルンのアイテムボックスの中だから盗難の心配は先ず無いけどね。

 そんなこんなで、人の海を縫うように、俺たちはどうにか中央広場に建つ冒険者ギルドに到着した。

 ここのギルドは、石造りの三階建てのがっしりした建物だ。一階の中央広場に面したところにはテラスが設けられている。

 早速、ギルドのスイングドアを押して中に入ると、中は昼間だというのに、多くの冒険者がいた。

 さすがにここのギルドは、エストリア王国支部の元締めだけあって、受付も広いし、ここにいる冒険者にも、人族だけでなく、犬人族、猫人族の姿や、少ないけれども、小人族、エルフやドワーフ、竜人族、魔族の姿が見える。

 感心しながら、俺たちは受付でお薦めの宿を訪ねることにした。

 「すみません。アルの冒険者ですが、王都でお薦めの宿ってどこかありますか?」

 ここの受付には、四人の女性がいた。人族の若い女性が2人、猫人族の若い女性が2人だ。俺はその一人、猫人族の女性に話しかけた。

 その女性は、身長は俺の肩ぐらいだから、ちょうどサクラと同じくらい。茶髪でくりくりっとした目をしていて愛嬌がある。おそろいの制服を着ているが、体系はほっそりしており、おしりから細長い尻尾が覗いている。

 「ようこそ。エストリア中央ギルドへ!私は、受付嬢のトルテです。」

 「どうも。こちらこそよろしく。アルのランクA冒険者のジュンです。」

 続いてパーティーを紹介した後、再びお薦めの宿を尋ねた。

 「そうですねぇ。綺麗な方も多いようなので、西商人街のバンクなどはいいと思いますよ。部屋毎にお風呂も用意されていますし、内装もお洒落です。ただその分、宿泊費が高くなりますが、ランクAであれば大丈夫だと思いますよ。」

 おっ。部屋にお風呂がついているとはうれしいじゃないか。

 「ジュン。そこがいい。」

 俺の脇からノルンがささやく。見ると、みんなも頭を縦に振っている。

 その様子を見て、受付嬢のトルテさんが地図を書いて渡してくれた。

 「どうやら、みなさんもそこが良いみたいですね。はい。これは地図です。」

 俺はお礼を言って地図を受け取ると、取りあえずギルドを後にして宿に向かった。

 中央広場からメインストリートを西に進み、三つ目の十字路を南に入ると、左手に宿屋バンクが見えてきた。

 早速、中に入ると、正面に受付、左手にレストランが併設されており、右手にはいくつかのソファが置いてあった。比較的天井が高く、今までの宿屋より開放感がある。所々に背の丈ほどある観葉植物が置かれており、なかなかいいセンスをしている。

 「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

 応対してくれたのは、エプロンをした人族の若い女性であった。

 「はい。5人ですから、2人部屋と3人部屋を一つずつお願いします。」

 「はい。少々お待ち下さい。…………お客様。申しわけありません。二人部屋と三人部屋は満室となっております。もしよろしければ5人の大部屋が空いておりますが、いかがでしょうか?」

 「え?5人部屋なんてあるの?」

 「はい。冒険者のチームでお泊まりになる方もおりますので、用意してございます。もちろん、サービスに違いはございませんが、お風呂が広くなっております。」

 俺はみんなに確認してから、大部屋をとりあえず十日間とることにした。

 このエプロンをした女性は、メリーというらしい。俺たちは、メリーさんから鍵を受け取ると、部屋のある三階へと階段を上がっていった。

 ……そういえば、男は俺一人なのに、よく5人の大部屋を勧めてきたな。

 階段を上りながら、ふとそんなことを思って、受付の方をちらりと振り向くと、むふぅと鼻息荒くこちらを見ているメリーさんがいた。うん。見なかったことにしよう。

 大部屋には、きちんとベッドが五つ並んでおり、窓はバルコニーになっていた。なんとお風呂も全員で入れるような広さがあり、もしかしてここはスイートルームだったのではないかと思ってしまう。確かに、宿泊費もいい値段であったが。

 「うっは~。お風呂広いわ。これならみんなで入れるわね。」

 お風呂を確認したヘレンが、ニヤニヤしながら俺の方を見た。その隣にノルンがやってくる。

 「もちろん。一緒に入るわよね?ジュン。」

 「お、おう。そうだな。みんなで一緒に入ろうか。」

 よく考えたら、今までのお風呂があるところは、必ず男女が分かれていたから、一緒に入るのは初めてだ。……なんだか女子会に放り込まれた一人だけの男子という気がしなくもない。

 「マスター。楽しみですね。」

 サクラもヘレンの隣にやってくると、その隣にシエラもやってきた。

 「えへへ~。みんな一緒ですね。」

 ……俺は、この雰囲気の中で熟睡できるのだろうか。