08 生徒の魔法実演2

 「さてと……、最後は魔法剣士の子だけど、どういう風にやる?」

 ノルンが俺に聞いてきた。

 「あー。そうだな。人数は……8人か。多いな。一人ずつやると時間かかるし、全員といっぺんていうのも多いしな。」

 「わかったわ。ジュン。じゃあ、将来を騎士希望の子とは一人ずつ、それ以外は2人か3人ずつくらいでどう?」

 「了解。ノルン。それでいいよ。」

 さて、ここからは俺の番だ。

 「よお~し。じゃあ、魔法剣士のテストをするぞ。……まず騎士希望の子は、こっちに並べ。それ以外の子はこっちだ。テストは、騎士希望の子は一対一で行う。それ以外の子は……5人か。なら2人と3人のチームを作って集団戦だ。

 武器は、学園で支給している試験用の剣だ。それから多少のケガならヘレンが治せるから安心してかかってこい。では。まずは一対一の方からだな。じゃあ順番に行くぞ。」

 一人目は人間族の男子生徒のようだ。

 前に進み出て一礼する。

 「デニスです。よろしくお願いします。」

 俺も一礼をしてから、10メートルほどの距離を取って剣を構える。

 デニスの武器は片手剣で、スモールシールドを反対の手に持っている。RPGじゃあ、オーソドックスなスタイルだが、この装備は腕の力がなくては攻撃と防御のどちらも中途半端になりやすい。見た目が細身のデニスの場合、適しているとも思えないが……。

 ちなみにこのテストで使用しているのは、学園側の用意した剣で、鋼鉄製のようだが、刃は潰されている。とはいってもまともに一撃が当たったら重傷だろう。

 学生の防具はそれぞれだが、デニスは皮鎧を着ている。

 これは学生の腕を見るのがメインだから、俺は基本的に受けだ。

 魔法剣士にはいくつかのスタイルがある。俺は主に剣に属性を与える事が多いが、そのほかにも身体能力向上、剣技の補助として魔法を使用するなど、様々なスタイルがある。

 デニスが左手の盾を前に掲げ、右手の剣を体の後ろにひっさげた構えを取る。

 対する俺が選んだのも片手剣だ。今のテラブレイドはロングソードになるが、今回は受けだから取り回しの楽な方がよい。

 俺は半身になって、かるく右手の剣を構える。

 両者が構えを取るのを確認して、ノルンが笛を吹く。

 「では。はじめ!ピーっ!」

 笛が鳴ったが、デニスは慎重に盾の陰から俺の様子を伺っている。

 ふむ。その姿勢は実戦では評価すべき点だ。だが、ここではテストだからな。

 俺は、すっと踏み出して、左からデニスの盾に叩きつけるように剣を振るった。

 ガキン!

 鉄と鉄が当たる音がして、デニスはその一撃を受け止め、次の瞬間、右手の剣を下手から切り上げてきた。

 俺は、その剣すじに刀身を添えて押し出すように受け流す。受け流されたデニスの剣が上に振り上がった。……ここでデニスの手が伸びきったので、剣をはじき飛ばすのは簡単だが、それをしてしまうと終わってしまう。

 俺は、バックステップをして距離を取る。……う~ん、学生の実力ってこんなもんか?

 次はデニスが攻撃する番だ。

 「我がマナを糧に、……剛剣。」

 ほう。見た目に反して、パワータイプの魔法剣士か。俺は、剣が折れないように、魔力を纏わせて強化する。

 どうやら準備が整ったのだろう。俺は、わずかに剣を下げて隙を作り、デニスの攻撃を誘った。

 デニスが剣を振りかぶり、切り込んでくる。先ほどより若干スピードが速い。

 俺は先ほどと同じように、デニスの剣を受け流す。先ほどより斬撃が重い。が、まだまだだ。

 ギャラリーの方から、「デニスの剛剣が受け流された」という驚きの声が聞こえてくる。

 デニスは、振り下ろした剣を切り返して、下から切り上げてくる。……ふむ。どれくらいの強さか、ここは受け止めて確認してみるか。

 俺は、わざとデニスの切り上げを剣で受け止める。

 ガキンっという音ともに、俺の体が押し上げられた。なるほど、確かに剛剣だな。

 だいたいこの子の実力と弱点はわかったな。そろそろ終わりにするか。

 俺は、切り上げ後でまだ体勢が戻っていないデニスに無造作に近寄り、そのおでこに左手でデコピンをした。

 「ぐっ!」

 くぐもった声を上げて、デニスはその場で額を押さえてうずくまる。

 ノルンに合図をすると、終了のホイッスルが鳴った。

 デニスは、若干涙目になりながら、ふらふらと立ち上がった。……あれれ?そんなに強くしたかな?

 「君の剣は正直すぎるな。あれでは剣すじも何も簡単に読まれてしまう。フェイントや他の攻撃のカードを身につけるのが、一ヶ月の目標だな。」

 最後にアドバイスを与えると、デニスはお礼を言って、ギャラリーの方へ戻っていった。

 その後、同じく騎士希望のナダル、ヘラルドと対戦した。

 ナダルは片手剣の属性強化の使い手で、ヘラルドは長剣の剛剣士だった。

 まあ、強さとしては、最初のデニスが若干強いかなという程度だ。どの子も、剣が真っ正直すぎるので、これでは実戦で役に立たないのではないだろうか。

 学校のカリキュラムとして、班に分かれての野外実習として、森でのキャンプをしながら低レベルモンスター退治をしているはずだ。まあ、集団実戦だし、さらに低レベルモンスター相手では問題はないだろうが、騎士となると対人戦もあるから、今のままではまずいだろうな。

 続いて、冒険者希望の魔法剣士との実戦だ。

 最初のパーティーは、猫人族のハバルクと人族のヌーナン、ミチルの男子生徒コンビだ。

 「はじめ!ピーッ!」

 ノルンの開始合図が終わると、すぐさま三人とも俺を三角形のように囲んで、魔法を唱える。

 ハバルクとヌーナンは身体強化、ミチルは火属性の魔法剣だ。

 さて、どうくるかな。

 「てりゃあぁぁ。」

 ハバルクのかけ声とともに、三人同時に切り込んできた。

 ふむ。考えているようで、それは本来は悪手だな。

 俺は、斬撃が届く寸前のタイミングで、すっとバックステップする。

 ガキィンっと音がして、三つの剣が俺の目の前で打ち合わされる。俺は下からすくい上げるように、その三つの剣を振り払う。

 一斉に打ちかかるのに、3人じゃだめさ。もっと多人数じゃなきゃ意味がない。

 あらためて距離を取る三人組。同じように俺を中心とした三角形のように取り囲む。

 ……わかってないなぁ。その陣形は、相手を逃がさないための陣形であって、打ち倒すためには人数が足りないよ。

 今度は、一人ずつタイミングをずらして斬りかかってきた。三人は近距離で、足を止め、そのまあ攻撃を続行する。俺は、受け流し、よけつづける。

 2分もすると、3人とも息が上がってきた。

 もういいか。そう判断すると、俺は順番にデコピンをくらわし、三人をうずくまらせる。

 「相手を囲む、そして、一斉に打ちかかるのは、その時の戦略によるぞ。それに三人じゃ簡単によけられる。それから、お前たちが一対多の状況になったときは、局所的に一対一の状況作りをして各個撃破する方法がある。覚えておけ。」

 冒険者になったら、集団戦なんていくらでもあるからな。がんばれよ。

 そんなことを思いながら、アドバイスをする。

 最後のパーティーは、猫人族のチータと、驚くことにエルフのカノンの女子生徒コンビだ。ノルンは会ったことがあるらしいが、俺には初エルフだ。ほっそりした体型で金髪、そして特徴的な耳の美少女という、典型的なエルフだな。

 さて、チータは片手剣の二刀流、カノンは腰にナイフをしているが、最初は弓矢を使うようだ。

 さあて、どうくるかな。

 ノルンの開始合図が終わると、魔法による身体強化を終えたチータが走り込んできた。

 猫人族らしく、今までで一番速い。左右の手の片手剣で、上中下左右のいずれからも切り込んでくるので、冷静にさばいていく。

 不意に頭上から危機感知が働くと同時に、チータがバックステップを取る。

 次の瞬間、上から30本を越える矢が降り注いできた。

 おおっ!なかなかの連携じゃないか。……俺は、剣に風属性を纏わせると、迫ってくる矢に向かって横になぎ払うと、剣から放たれた衝撃波によって勢いを失った矢が、ぼとぼとと落ちていく。

 ちょうど、真下にはチータがいたので、チータは慌てて横に走っていく。

 ふふふ。なかなか面白くなってきた。

 移動したチータにあわせて、カノンがチータの後ろに移動する。

 準備ができたようで、今度は、先に矢が数本飛んでくるとそのすぐ後ろからチータが切り込んできた。

 俺は、逆に前方に進んで矢をかわすと同時に、チータの攻撃をいなす。

 と、チータの剣を受け流した舜間に、俺の死角からナイフを持ったカノンが斬りかかってきた。気配にしたがって、俺はバックステップをすると、すぐそばをカノンのナイフが通り過ぎていく。

 なんだか、このペアが8組にいる意味がわからないな。もっと上のランクにいてもおかしくはないんだが。

 そんなことを思いながら、二人の攻撃をいなしていく。が、やはり3分ほどかわしていると、二人とも汗だくになって、息を荒げている。……体力不足か。

 そこまで確認した俺は、二人の隙を突いて踏み込むと同時に、デコピンを順番に打ち込んだ。

 やはり二人とも額を抑えて、くぐもった声を出しながら蹲った。

 「……なかなかいい連携だったな。課題は体力だ。冒険者は特に体力勝負な職業だからな。」

 そう言った後で、小声で、「でもまあ、お前たちのペアが一番強かったぞ。」と伝えてやった。

 二人は、ふらふらと立ち上がりながら、「ありがとうございました」といったあと、額を押さえながら、生徒の列へと戻っていった。