10 獣王会議

 カレンの家は最初に来た転移魔方陣の近くにあった。

 家の中に入ると、そこにはカレンの両親とエイダさんが待っていた。

 キアランさんが紹介してくれる。

「父のセロンと母のマロンだ」

「初めまして。エストリア王国の冒険者のジュン・ハルノです」

 セロンさんとマロンさんと順番に握手を交わす。

 セロンさんとマロンの見た目は、俺より少し年上の三〇才前後に見える。が、ナビゲーションの情報によると、一二〇〇才前後のようだ。相変わらず、実年齢と見た目のギャップが凄いな。

 セロンさんは俺をまぶしそうに見つめて、

「君がカレンをもらってくれる人族か」

 俺はちょっと緊張しながら、

「はい。よろしくお願いします」

と頭を下げた。マロンさんが、

「カレンは、まだまだ若くて何にもできないけれど、よろしくね」

と言った。

 カレンがもじもじしながら、

「お母さんったら、もう。……私だって外の世界に出て少しは成長したんだからね」

と言うと、セロンさんが笑いながら、

「自分の旦那も見つけてくるとは思いもしなかったけれどな。まあ、世界樹様もお認めになっているんだから、私たちからどうのこうのは言わないよ」

 俺は再び頭を下げる。

「ありがとうございます」

 それから俺たちはテーブルを囲んで、カレンの学園生活、そしてエストリア王国で起きた事件を話し始めた。

 お昼をカレンの家でいただき、しばらくした頃、キアランさんが、

「さてと。君たちは獣王会議に出ないといけないから、そろそろ下に戻った方が良いだろう」

と言ってきた。……そういえばそんなことをチータが言っていたな。

 獣王会議か。今更だけど、そんなところに俺が出てもいいのかね。でも、獣王って言うくらいだ。どんな人たちか楽しみでもある。……いきなり勝負しろとか言われないことを祈るが。

 来た道を逆戻りしてカレンの家族に見守られ、俺たちは転移魔方陣に乗った。

――――。

 下のエルフの集落にあった休憩所の魔方陣に到着し部屋を出ると、ちょうど犬人族のルンザさんが通りかかったところだった。

 どうやら獣王たちはまだ全員揃っていないらしいが、俺たちは先に会議場へと案内をされた。

 会議場は休憩所の一番上の階で、学校の教室ほどの広さがある。真ん中の円形テーブルで行うらしく、そこにはすでに四人の獣王が座っていた。

 俺たちが入っていくと、すでに来ていた獅子王ライオネルと猛虎王ティガロが軽く手を上げてくれた。その右隣に座っているのが、初めて会う蜥蜴人族リザードマンの石竜王シノンと犀人族ライノスの雷角王ライノのようだ。

 シノンはスマートな体型だが武人らしきオーラをまとっており、見た目は殆ど人族とそれほど変わりがない。違うのは虫類のような瞳と口から見える牙、鱗の着いた尻尾だろう。

 ライノの方は額から角を生やしており、分厚い筋肉の鎧をまとっているかのような大男だ。

 俺の姿を見たティガロが、

「おう! ジュン殿。ようこそ! ゾヒテへ」

と立ち上がって俺を迎えてくれた。俺は、

「ティガロさん。この場ではあなたの方が立場が上ですから」

と恐縮しながら握手を交わした。

 ライオネルさんには先日のお礼を言うと、ティガロさんが俺たちを他の二人の獣王に紹介してくれた。

「こいつらが前に話した冒険者だよ。リーダーの彼はカレン様と婚約をすることになっている」

 ティガロさんの紹介に、あごをなぞりながら聞いていたシノンさんが、立ち上がると、

「ふむ。初めまして。ジュン殿。それがしは六獣王が一角いっかく蜥蜴人族リザードマンの族長シノンと申す」

と言って握手を求めてきた。

――シノン――

 種族:蜥蜴人族  年齢:三八才

 職業:族長  クラス:剣豪

 称号:獣王、

 加護:世界樹の加護

 スキル:体術5、剣術5、高速機動5、覇気4、身体強化、生存術3、直感4、自然回復、気配感知、先読み

「なかなかの武人とお見受けした。一度、手合わせを願いたいものだ」

 シノンさんから闘気が漏れている。まいったな、この人。脳筋ってわけじゃなさそうだが、戦闘狂かもしれない。

「ははは。私などとてもとても。まだまだ未熟者ですよ」

と言って、笑って誤魔化した。

 その後ろからライノさんが、

「次はわしじゃな。ジュン殿。歓迎しますぞ」

と分厚い手を差し出した。握手を交わすと、

「カレン様をよろしくお頼みします」

と丁寧なお辞儀をされた。

――ライノ――

 種族:犀人族  年齢:六八才

 職業:族長  クラス:重騎士

 称号:獣王、守護者、重戦車

 加護:世界樹の加護

 スキル:体術5、剣術5、盾術5、覇気4、剛力、身体強化、生存術3、直感4、自然回復、気配感知、先読み

 俺たちの席は、獣王達の円卓ではなく、その脇にしつらえてあった。チータの案内で席に座ってしばらく雑談をするが、なかなか残りの獣王が来ない。

 シノンさんが、

「二人とも遅いな。カレン様をお待たせするとはなんたる失態ぞ」

とつぶやいた時だ。会議場に一人の猿人族の男が走り込んできた。

「おい! ガンガリンの奴が襲われて重体だ!」

 見ると、金環を頭にして古い中国風の衣装を着ている。あれはもしかして猿人族の獣王ゴクウか? にわかに獣王たちが立ち上がり、

「なんだと!」「なに!」

と口ぐちに叫んだ。ガンガリンと言えば銀狼族の獣王だったはず。ゾヒテで獣王が襲撃されるなんて……。

 そう考えながら俺が愕然としていると、サクラが猿人族の男を指さして、

「ああー! 行方不明のソンゴクウだ!」

と叫んだ。

 猿猴王ゴクウの名前を聞いたときから気にはなっていたんだが、もしやあの西遊記の孫悟空か? サクラの声を聞いた猿人族が目を見張って、

「貴様! なぜ俺の本名を! ……ってか、なんでここにネコマタがいやがる!」

と俺たちのところにやってきた。サクラに、「おう! 悪いがちょっと後でな」と小声で言うと、獣王たちの方へ振り向いて、

「救護所にガンガリンを運んでおいた。今は意識がねえが、命には別状はなさそうだ」

と言う。獣王たちは少し落ち着いたが、体からは殺気にも似たピリピリした空気を放っている。俺はヘレンにアイコンタクトを取ると、ヘレンは立ち上がって救護所に向かった。

 ゴクウさんは自分の席に戻りながら、

「ここに来る途中でよ。あいつが倒れていたんだ」

と説明した。ティガロさんが、

「九鳳も何人かが襲撃を受けたと聞いている。……誰かが腕試しでもしてるのか?」

というとシノンさんが、

「しかし、あいつの体裁きは我らの中でも随一だ。ガンガリンほどの使い手がやられるとは考えられん」

と腕を組んだ。

 ライオネルが、

「銀狼族の集落の方はどうだ?」と尋ねると、ゴクウさんが、

「ちょうどよ。狼人族のラムドがいたから確認させている」

と答えていた。

 慌ただしい会話を聞きながら嫌な空気をひしひしと感じた。どうやらゾヒテに何やら大変なことが起ころうとしているようだ。

 その時、カレンがまるで電気に打たれたように、

「あっ!」

と声を上げた。慌てて、「どうした? カレン」と声を掛けると、カレンは黙って立ち上がる。

 その姿を見た俺とノルンは、思わず、

「む?」「え?」

と声を漏らしてしまった。

 カレンの全身をうっすらと神力が覆っていたからだ。これは……世界樹とのリンクから流れている力か? どうやら世界樹のお告げが下りたようだ。

 がたっと音をさせて、慌てて獣王たちが床にひざまづく。

「世界樹様の巫女カレンの名の下に、世界樹様のお言葉を告げます」

 カレンが半眼になり、髪の毛がきらめいく。まるで神降ろしをしたかのような神々しい雰囲気を放っている。

「瘴気をまといし男がゾヒテに災いをもたらそうとしている。巫女は水竜王に会い清水の宝玉オーブを貰い受け、大地のへその祭壇に掲げよ。獣王たちは巫女が戻るまで大地のへその聖地を護れ」

 獣王達が一斉に「「「はっ!」」」といらえを返した。

 カレンが目をつぶると、すうっとその身から何かが抜けていくように元の雰囲気に戻っていった。

 しばしの沈黙がおりて、再び目を開けたカレンは獣王たちに、

「私はジュン様と一緒にアクアヴィータ様の所へ急ぎます。獣王様たちもよろしくお願いしますね」

と告げた。

――――。

 ガンガリンさんの様子を見に、俺たちは救護所に向かった。

 サクラは猿猴王ゴクウさんに用事があるようで、そのまま会議室に残って話をしていて、後から来るそうだ。

 チータに連れられて救護所に向かうと、ベッドの上に銀色の髪をした三〇才ほどの男性が横になっていた。体のあちこちにあざがあり、エルフの女性達が薬草をつけ込んだ湿布を体に巻き付けている。

 そのそばでは、ヘレンが回復魔法を掛けていた。

「我がマナを資糧に、の者の怪我を癒やせ。エクストラ・ヒール」

 柔らかい光が男を包み込む。わずかに痣が薄くなったようだ。それを見てヘレンがいぶかしげに、

「おかしいわね。なんで治りがにぶいのかしら?」

 確かにエクストラ・ヒールはレベル5の回復魔法だったはず。それにしては回復量が小さい。

 俺はじっと男を見つめる。

――ガンガリン――

 種族:銀狼族  年齢:三三才

 職業:族長  クラス:拳士

 称号:獣王、銀光

 加護:世界樹の加護

 スキル:体術5、拳闘術、立体機動5、高速機動5、回避5、小剣術5、盾術5、覇気4、剛力、身体強化、生存術3、直感4、自然回復、気配感知、先読み

 状態:衰弱、瘴気汚染

 俺以外に立体機動と高速機動の両方のスキルがある人を初めて見た。確かにゾヒテ最速の拳士なんだろう。

 が、それよりも状態の「瘴気汚染」だ。これはやっぱり天災のやつらの仕業だろう。おそらくこれが回復魔法の効果を弱めているんじゃないだろうか。

 俺はヘレンに、

「ヘレン。セイント・ライトを掛けてから、もう一度エクストラ・ヒールを頼む」

と指示を出すと、ヘレンがはっとしたように、

「そうね。瘴気の影響か。――セイント・ライト。――エクストラ・ヒール」

と言って、魔法を唱える。光が再びガンガリンさんの体を包み込み、今度は痣がきれいに消え去った。

 呼吸も落ち着いたガンガリンは、まだ意識を取り戻す気配はない。もし意識を取り戻したら、敵の詳細がわかるのだが……。

 ライオネルさんやティガロさんたちが、慌ただしくあちこちへ指示を出している中、俺たちもすぐに、ゾヒテ西部の湖沼地帯を目指して出発することにした。