26 試験に向けて

 「さて……、さっきの模擬戦を見ていて、学年上位の実力がだいたい分かった。」

 未だに悔しがる学生たちを座らせて、俺は口を開く。

 「そうだな。連携も、魔法の強さも使い方も、相手の方が上だな。」

 どの子もうなだれて地面を見つめている。カレンも悔しそうだ。

 「だがな。……決して届かない壁じゃない。お前たちを勝たせてやる。」

 俺の言葉が浸透していくうちに、うなだれていた顔がぽつりぽつりを上を向く。しばらく、そのまま何も言わないでいると、全員の視線が俺に集まった。

 「お前たちの実力と学年の上位の力の差は、それほどない。特に俺らから見れば、誤差の範囲だな。……ただ、相手の方が魔力量があり、強度があって、押し負けているにすぎない。魔力量がどうだとか、魔法の強さが相手の方が上だ、なんていうのは、現実の戦いでよくあることであって、そんなのは勝つのに関係ない。」

 模擬戦を見ていて気がついたのは、相手もこっちも学生らしい正直すぎる戦い方で、結局の勝敗は、魔力の量と強度と詠唱の速さによるものだということだ。

 魔力の量と強度なんてものは、長く特訓を続けて伸ばすことはできるが、その人その人の生まれつきの素養が大きく関係する。つまり、今から試験までに伸ばすことは見込めない。

 そこで今後の特訓は、実戦方式で、魔法の使い方と精度を上げる訓練にシフトし、できれば虚実おりまぜた戦いの駆け引きまで身につけれれば上出来だ。

 「……というわけで、これからは卒業試験に即したかたちで訓練するぞ。」

 スリートップとの模擬戦を終えた後、クラスの学生を集めて今後の訓練の方法を説明する。

 どうやら卒業試験に向けて、団体戦に挑む学生は、すでに3人のチームになるように声を掛け合っていたようだ。ただ驚いたのは、カレンとチータだけは2人で出るつもりだったのが、個人戦を志望していたアメリが加入したことだ。……よほど模擬戦が悔しかったのだろう。3人でリベンジをするようだ。

 となると問題は、今、俺たちは、シエラとサクラが抜けて3人しかいないということだ。3人ともが団体戦の訓練に入ってしまうと、個人戦の子らの特訓ができない。

 そこでノルンの召喚魔法である。学生たちの前で、シルフ、サラマンデル、ノーム、ウンディーネの4大精霊を呼び出すと、みんな驚きで開いた口がふさがらない。……さすがに時精霊クロノや闇精霊アーテルは自粛して呼び出さなかったようだが、まったくチートな嫁だ。

 団体戦志望の学生には、ノルンとヘレンと精霊たちで、学生たちの得意とする魔法の種類によってメンバーを替えることにした。

 もちろん、個人戦の担当は俺だ。

 早速、個人戦と団体戦とで分かれて訓練を行う。

 個人戦の学生には、今日のところは魔法剣の技を一つ覚えてもらおう。これを覚えると、手数が倍以上に増える……使い方によっては。

 その名も、幻影の斬撃。

 俺は学生の前で模擬の剣を構えながら、説明する。

 「魔法剣と聞くと、すぐに思いつくのは、剣に魔力や属性魔法をまとわせる剣技だ。」

 俺が剣に氷魔法をまとわせると、すぐに刀身が氷りに包まれて、冷気が漂う。

 「それが、属性剣だ。……そして、その属性魔法を打ち出せば、そのまま属性付きの斬撃となって飛ばすことができる。」

 俺は、少し離れた地面に向かって剣を振り下ろすと、剣の先から半月状の氷魔法が飛んでいき、地面に切れ込みを作ると同時に、その切れ込みからピキピキと凍り付いていく。

 「ま、ここまではお前たちも、それぞれの属性でできるだろう。」

 そういうと、俺は再び剣を構えて学生の方を向く。

 「だが、属性剣だけが魔法剣じゃない。……見ろ!」

 次の瞬間。剣を構えた俺の先にいた学生が、びっくりしたように左右に避けたり、後ろに飛びすさったりする。

 「うわっ!」「くっ!」

 「きゃっ!」

 「な、何をするんですか!」

 慌てて剣を構える学生たちに向かって、俺はさも不思議そうに尋ねる。

 「どうした?いきなり慌てて?」

 俺は、さっきから剣を構えた姿勢のままだ。

 「どうしたって……いきなり斬りかからないでくださいよ!」

 個人戦志望のデニスが怒って言うと、みんなも「そうだ!そうだ!」と同調している。

 「はあ?俺はさっきからこの姿勢のままだぞ?」

 俺は、わざとゆっくりと、姿勢を変えていないと言うと、学生たちが押し黙る。

 「…………、でも、確かに……。」

 それでもデニスがもごもごと呟いている。学生は、釈然としない表情だ。

 そろそろ種明かしをしよう。

 「種明かしをしよう。……今のが幻影の斬撃。いわば魔力でつくった幻の剣だ。」

 そういって、俺は幻影の斬撃をデニスに飛ばす。

 デニスは、慌ててその斬撃を弾こうとするが、斬撃はデニスの剣をすり抜け、さらにデニスをも通り過ぎていく。

 「はっ?これは?」

 俺は、困惑するデニスを見て、ニヤリと笑う。

 「もちろん、幻影だから相手にダメージはないさ。」

 それを聞いて、半分の3人の学生は、つまらなそうな表情をする。……どうやら使い道が分かっていないらしい。

 わかっていない学生のヌーナンが、吐き捨てるように言い放つ。

 「相手にダメージ無いんなら、意味ないじゃないですか!」

 しかし、のこりの3人の学生は神妙な顔をしている。

 デニスがヌーナンに答える。

 「いや、ヌーナン。……これはすごいぞ。まさしく虚の攻撃だ。相手に虚実を分からなくさせて、本命の一撃を加えることができる。」

 俺は、両手を打ち鳴らして、注意を引く。

 「まあ、いきなりでわかっていない奴もいるようだから、これから俺と一人ずつ模擬戦だ。……自分の身で体験するのが一番だろ。」

 そういって、早速、最初の一人にヌーナンを選んでやった。

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 「はぁ。はぁ。はぁ。……はぁ。」

 俺の周りには、地面に倒れ込んで、必死に息をしている学生が6人転がっている。

 あれから全員と模擬戦をしてやった結果だ。

 「なんだなんだ。情けないぞ。もうダウンか?」

 息一つ乱していない俺を見て、みんなは言葉もない。息を整えながら、化け物を見るような目で見上げている。

 「せ、先生……はぁ。はぁ。……マジで化け物。はぁ。はぁ。」

 「ああ……。はぁ。……やばいな。はぁ。はぁ。幻影の斬撃。半端ない。」

 ……どうやら、虚実織り交ぜた攻撃の恐ろしさがようやくわかったようだ。