36 試練の塔 四層1

 階段を上ると、そこは森だった。

 天井が高く設定されており、その中に針葉樹、広葉樹が入り交じって生えている。もちろん床も土に草が生えていて、あたかも本物の森にいるようだ。

 慎重に歩を進めて森の中を歩く。

 ひゅん!

 風きり音に、慌てて近くの木の陰に隠れると、トトトッと音を立てて、手裏剣が幹に突き刺さった。

 ――忍びだ。

 そう思った時、フロア全体に声が響いた。

 「挑戦者よ。よくぞここまでたどり着いた。我は、この階層の主、風魔天狗じゃ。………この階層の試練は、我と戦うことじゃ。」

 なるほど。純粋に忍びと忍び、技を比べあおうということね。

 ……相手は、天狗一族。望むところよ。

 私は、3つの方向に分身を飛ばすと、すぐさま妖気を抑えて、自らは忍術影渡りで木の陰に潜り込む。そのまま、離れたところの木の陰に転移して、相手の位置を探りつつ、様子をうかがう。

 気配感知……。不明。

 妖気感知……。3箇所に弱い反応あり。

 さすが天狗ね。2層で身につけた妖気感知でも、3箇所までしか場所を特定できない。

 しかも誘っているのがありありとわかるわ。仕掛けるか、罠を張るか……。

 逡巡したのはわずかな時間だったが、気配の一つが、まっすぐにこっちに向かってきた。

 私は、こっそりと、機雷札を発動待機状態にして、いくつかの木にクナイで縫い止めた。

 気配が機雷札の結界に気づかないまま、私に迫る。

 私は、徐に手で印を結ぶ。

「風遁。風刃乱舞。」

 間近に接近してきた気配に向かって、四方八方から風の刃が殺到する。

 その間に私は隠れていた木の陰から飛び出て、木の幹を蹴りながら、立体機動で風刃とともに襲いかかる。

 やはり天狗だ。

 天狗は、おもむろに手にした団扇をひと払いした。

 途端に、天狗を囲んで巨大な竜巻が起こり、風刃を防ぐ。私は、慌てて飛びすさり、印を結んで地面に叩きつける。

「土遁。土竜槍。」

 竜巻の中心にいる天狗の真下から、土槍が跳び出して天狗を襲う。天狗は竜巻を解除して、その土槍を避けた。

 そこに私が放ったクナイが襲いかかる。天狗は、体を回転させて、クナイを一瞬のうちにたたき落とした。

 その真上に移動した私は、忍刀青竜を構えて体の前に伸ばし、螺旋に回転しながら妖気を圧縮。天狗に向かって撃ち降ろす。

 私の放った妖気が、青い竜となり天狗を襲う。

 「青竜牙槍ドラゴンランス!」

 そのまま青竜をかたどった妖気は、天狗ごと地面に激突し、大爆発した。

 ドゴオオオン……。

 土埃が舞い上がり、私も包む。

 その時、ヒュン!という音が耳元で聞こえ、私の前髪が一筋ひとすじ断ち切られた。

 どうやら残り二つの気配が、直ぐそばまで接近しているようね。

 ということは、さっきの天狗は影分身というわけか。

 私は、瞬時にその場を移動し、土煙を突き抜けながら、気配を探知する。

 一体は上。一体は下。……まずい、挟まれたわ。

 次の瞬間、私の体が空中で動かなくなる。

 ……これは、金剛縛鎖こんごうばくさ

 冷静に周囲を見ると、いつの間にか木から鎖が伸びて私の体を縛り付けていた。

 やばい!

 下にいる天狗が、妖気を込めた団扇を仰ぐ。すると今度は木の葉手裏剣が飛び交う竜巻が生じて、私を襲う。……かつて木の葉天狗が使っていた技、木の葉旋風だ。

 同時に、上にいる天狗が、手にした鉄杖に妖気をまとわせて、私めがけて投げ下ろした。

 私は、必死に、口のなかで呪文を唱える。

 が、竜巻に巻き込まれて、木の葉手裏剣が私の体を切り裂く。そして、一瞬の後、私の体を鉄杖が貫いた。

―――――――

 目の前のスクリーンで、サクラを一本の鉄杖が貫いた。

 「さ、サクラぁ!」「「サクラ!」」

 思わず俺は叫びながら、立ち上がり腰のテラブレイドに左手を添えたままに、塔の中に突入しようとする。ノルンとヘレンが続こうとしている。

 「慌てるな!ジュンよ。」

 スピーの声とともに、金色の鎖が地面から伸びて、俺たちを縛り付けた。

 俺の目の前に、スピーがすっと飛び出てきた。

 「まだじゃ。サクラはまだやられてはおらんぞ。……見ておれ。」

 その声に、俺は慌ててスクリーンを見上げた。

 すると、そこには下にいた天狗を結界に封じ込めたサクラの姿があった。

――――――――

 先ほどの挟み撃ちを、一人目の天狗に攻撃した際に仕込んでおいた転移札を用いて、私はからくも脱出した。

 「身代わりの術!」

 そして、すぐさま下にいる天狗の四方の地面にクナイを投げつける。

 立体機動で上空の天狗に向かって駆け上がりながら、妖気を両手にまとわせて印を結ぶ。

 「四神結界!……五行背理ごぎょうはいり!」

 木々の間を駆け上がるサクラの背後で、四神結界に執われた天狗を土槍が貫き、次の瞬間に凍結。そして、結界内に大爆発が起き、風刃が吹き荒れ、最後に結界が圧縮される。

 地水火風空の五行による攻撃が発動し、収束と共に結界が解除されると、空間圧縮によって丸くくぼんだ地面には、天狗の姿はどこにもなかった。

 あと一人。あれこそが本体ね。

 最後の一人となった天狗が、忍刀を片手に、クナイを投げながら突撃してくる。

 私は、忍刀青竜を左手に持ち替えて逆手に握り、右手の玄武甲に妖気をまとわせる。

 クナイを巧みに避けながら、天狗の突きを右手の玄武甲で跳ね上げ、左手の青竜で斬りつける。天狗は、ひょいっと体を飛び上がらせて、青竜をかわす。

 私の目の前に無防備にさらされた天狗の体めがけて、右手で五連突きを打ち込んだ。

 天狗は、後ろの吹っ飛んでいった。

 今だ!

 「機雷陣!」

 私が印を結ぶと、最初に仕込んでいた機雷札が、一斉にプラズマを放ちながら爆発する。

 天狗が爆発に巻き込まれて、煙に見えなくなった。

 私は、近くの枝に飛び乗ると、妖気感知をしながら、状況を確認する。

 遠くの爆煙が薄らいだ時、そこには吹き飛んで上部が綺麗に無くなった木々があるだけで、天狗の姿はどこにもなかった。

 ……勝った。

 そう思った時、私の右足を誰かがつかんだ。

 ぎょっと思って見下ろすと、木から手が生えて、私の足首をがっちりつかまえている。

 「……次は、我の番だな。」