43 カレンの戦い1 初戦

 団体戦には全体で88チームが参加し、決勝にいたるまでは6回の試合を勝ち抜く必要がある。

 この競技場にはいくつかの大部屋の控え室があり、それぞれに生徒たちが分かれて待機をしている。ここの控え室には22組のチームが待機している。今、私たちがいるのもその控え室の一つだ。控え室には競技場に面して窓が設えてあり、中から試合を見ることができる。

 ほとんどの生徒が窓から試合を見て、応援したり批判したりしている。喧騒のなかで私は端に座って瞑想していた。

「カレンよ。エストリアの王立学園にゆくのじゃ。世界樹様のお告げによれば、我らの求めるものはそこで見つかる。」

 星降る夜の世界樹の枝の上で巫女のオババ様が私に告げた。「そして、そなたが将来結婚する相手との出会いがあるようじゃぞ。よかったのう。」

「はい。……えっ?」

 私たちハイエルフの儀式を司り世界樹の巫女であられるオババ様。伝えてくれる世界樹のお告げは私たちの取るべき道を教えてくださる。……でも個人が将来結婚する相手まで伝えてくださるってことは今までになかったわよね。

 いぶかしげに首をかしげる私に、いくつもの齢を重ねたにもかかわらず未だに美しい少女の姿のオババ様が笑いかける。

「お主が不思議に思うのはわかる。じゃがな。それだけにその出会いは重要なことなのじゃろう。」

 そういってオババ様は星空を見上げた。つられて星空を見上げる私にオババ様の声が聞こえた。「神々と世界樹の祝福があらんことを。」

――――。

「8組のアメリチームは準備をしなさい。」

 思考の海に潜っていた私を男性の声が呼び起こした。

「カレン様。いよいよですよ。」

とチータが言った。

「ええ。そうね。相手は6組だったわね。」

 チームリーダーのアメリが鼻息もあらく拳を握っている。

「ふん!たかだか6組の奴らに負けるわけにはいかないわ。カレンにチータも、さっさと終わらせますわよ。」

「くすっ。そうね。アメリ。」

 私はアメリとチータとでチームを組んでいる。最初はチータと2人で出場するつもりだったけど、1組のスリートップとの模擬戦で負けたのが悔しかったのだろう。アメリが同じチームになって団体戦に出場することになった。

 目標は前回の雪辱をはらすこと。都合がいいことに順調にいけば決勝戦で対戦することになる。私の愛するジュン様を貶めたのです。たとえジュン様との関係が掟によるものとはいえ、あの方と仲間からは濃厚な精霊の気配がします。明らかに里のオババ様の予言はジュン様のことでしょう。ですから、あの方を貶めた者に負けることは絶対に許されません。

 出場口に向かって廊下を歩く私たちだったが、途中で1組の例の人たちが待ち構えていた。わざわざご苦労なことだ。私たちが横を通り過ぎるときに、これ見よがしに鼻を鳴らす。

「ふん。せいぜい足掻くと良いさ。冒険者風情の剣が俺たちに届くといいな。」

 学年トップのレオナルドの言葉に、アメリがすかさず言い返す。「じゃあ見ているといいわ。あなたたちは私たちが倒す。楽しみに待ってなさい。」

 レオナルドの後ろに立っていた同じ1組のエルザとアメリアが小馬鹿にしたように笑みを浮かべる。

「まったく身の程を知らない人たちね。」

 私たちは無言でその横を通り過ぎて出定口に向かう。「ふん。無視していられるのも今のうちよ。」

 いらだったエルザの声を背に競技場に出て行った。まっていなさい。ジュン様を見下した貴方たちの方にこそ身の程を知らせてあげるわ。

 廊下から競技場に出るとまぶしい日の光で目がくらむ。

 慣れてきたところで反対側の出定口を見ると対戦相手が出てきた。

 男子生徒3人組。しかも武器からして3人とも魔法剣士という特攻タイプのチーム。こちらはチータが魔法剣士、私が軽戦士、アメリが魔法使いタイプだから相性は最悪に近いわ。

「私が中級魔法を唱える間、二人で抑えられるかしら?」

アメリが尋ねた。「わかったわ。チータ。やるわよ。」

「はい。カレン様。……がんばります。」

 中央で距離を置いて対峙する。こっちが女子3人だとわかると見下したのであろう。男子の顔がニヤニヤしている。

 その時、司会の声が聞こえた。

「それでは双方準備してください。」

 私たちは全体的に下がる。前衛はチータ、そのすぐ後ろに私、さらに後ろがアメリだ。相手は3人が横並びになっている。……開始直後に突っ込んでくるつもりとは随分と見え透いた作戦ね。

 私は腰のナイフを確認してから弓矢を下に向けて構えた。目の前ではチータが模擬剣を構えている。

「試合開始!」

 司会の声と共に相手が走り込んでくる。私は土精霊ノームと風精霊シルフにお願いして砂嵐を発生してもらう。「お願い。砂嵐を起こして。」

 短い詠唱句でたちまちに渦巻く風が砂を巻き上げてチータと男子生徒を巻き込み、一瞬のうちに視界が閉ざされる。

 すぐさまチータが飛びだして風の属性剣を振るうと、何条ものカマイタチとなって砂嵐の中に飛んでいった。

 私も少し下がると弓矢をつがえて風の属性を帯びさせた矢を連射する。

 目の前の砂嵐の中から「ぐっ」とうめく声が聞こえるが、一人の男子生徒が飛びだしてきた。

 男子生徒の剣とチータの剣が切り結ぶ。私は後続が来ないように矢を射続ける。が、2人めが出てきたのでナイフを構えて走り寄る。

 刃は潰されているとはいえ模擬剣にナイフで対抗はできない。私はナイフに冷気をまとわせて氷で刃を伸ばした。

 キンっ。斬りかかってくる剣を受け流し、斬りつける。右に左に受け流していると、もう一人の男子生徒が砂嵐から出てきた。

 その時、完成しそうなアメリの詠唱が聞こえてきた。

「――――風よ。炎を具して吹き荒れろ。ファイヤーストーム。」

 ……あのう。アメリさん。もちろん威力は調整してあるでしょうけど、それって私たちも危険ですよね。

 慌ててチータと共に後ろに下がると、男子生徒たちも慌てて散開しようとしているのが目に入った。後ろに下がりながら、再び弓をつがえて矢を放つ。男子たちは矢を弾こうとして足が止まる。

 とうとう男子生徒を範囲内に納めた火炎旋風が巻き起こった。その瞬間。

「そこまで!」

 とのアナウンスと共に強制的に火炎旋風が消滅した。生徒レベルの魔法を強制的にキャンセルできるのもこの競技場の魔導技術の一つだ。

 今まさに火炎旋風に巻き込まれかけた男子生徒が惚けたように地面に座っていた。

「8組のアメリチームの勝ち。」

 再びのアナウンス共に救護班の先生方が相手チームと私たちの方へとやってきて、出場口に戻りながら怪我の有無を確認した。もちろん、私たちは怪我らしい怪我はしていない。

「おいおい。危険な魔法をぶっ放したな。」

 私たちの状態を確認した白衣を着た年配の先生が額の汗をぬぐう。「まあ連携としては良かったが、相手にも大事ないようで安心したわい。」

 私とチータがアメリをジトッと見る。「アメリ。今のは私たちも危険だったわよね。」

ところがアメリはしれっとして言い放った。

「あなたとチータなら直ぐに待避できるから大丈夫なのはわかってたのよ。」

「まあそうだけど。せめて水か土の魔法にしてよ。」

「う~。苦手なのよ、それ。でも次からカレンの言うとおりに水か土魔法にするわ。」

 むくれたアメリだったが、初戦を勝利で飾ることができたのだった。

 ……まってなさいよ。トップスリー。