47 カレンの戦い5 決勝

「全力で行くぞ。」

 レオナルドが剣を上に掲げる。全身の魔力が光を放ってレオナルドを覆う。

 その向こうでは、戦列に復帰したアメリアとエルザが二人で呪文を詠唱しているのが見えた。

「次はこっちから行くわよ。」

 私はそういってスナップをきかせてナイフを振るう。その動きにナイフ伸びる水の鞭が大きな竜巻となってレオナルドたちを襲う。

 しかし、その竜巻は目の前で二つに切り裂かれ、剣を振り下ろしたレオナルドの姿が現れる。一瞬の残像を残してレオナルドが切り込んでくる。速い!

 魔力を帯びた剣がチータを襲う。が、チータはそれを真っ正面から受け止めた。レオナルドとチータがつばぜり合いをしている。「くっ。この馬鹿力め!」

 その時、相手の後陣の詠唱が終わった。「「――。儀式魔法、サンダードーム!」」

 私とアメリを範囲とする光の半球が浮かび上がる。これはまずいわね。

 私は一気にアメリの側に行き、ノームとシルフに助力を願う。

 足下の地面から土が盛り上がり、かまくらのように私とアメリを覆い、その外側を烈しく風が吹きすさぶ。 

 途端に光の半球の内側に大きな音を響かせて、雷が荒れ狂う。衝撃が地面や空気から伝わる。土のかまくらにも雷が集中するが、シルフによる空気の断絶層とノームのかまくらで防ぎ続ける。

 ひときわ大きな音がしてかまくらに衝撃が走る。ピシピシッとひびが入ってかまくらが崩れ落ちたとき、丁度、サンダードームの攻撃がおさまった。

 さすが儀式魔法というべきか、私たちの周りの地面からは熱の残滓で煙が立ち上っている。この威力の儀式魔法を二人のみで完成したのはすごい。

 チータはレオナルドと切り結んでいるために範囲には入っていないが、こちらは気になっていたようでレオナルドに押されていた。

 私の無事を確認したチータは、わざと大振りの一撃を放ってレオナルドから距離を取る。

 チータは剣を正眼に構えた。闘気が溢れる。アレを仕掛ける気だ。

「ならば……。」

 私は再び心の中でウンディーネに助力を願う。

 チータの体がぶれたように消え、レオナルドの周りに3人のチータの姿が現れた。

レオナルドが正面に対峙したチータに斬りかかり、3人の包囲を破ろうとするが、その背中に斬撃を受けて動きが鈍る。チータの分身が消えて真っ正面の一人となり、左斜め下から切り上げた。レオナルドがそれを受け流そうとするが姿勢が崩れていて抑えられない。

 ガコンっ!

 剣の音とも思えない大きな鈍い音を立てて、レオナルドが後ろに吹っ飛んでいき、そのまま後衛のアメリアとエルザにぶつかる。

 今だ!

 私の周りから水槍が次々に出現してレオナルドたちに向かって飛んでいく。

 アメリアが慌てて結界を張るが、その隙にチータが走り寄り力任せの一撃で結界を破壊。レオナルドの首もとに剣を突きつけた。

 試合終了の宣言が響く。

「それまで!アメリチームの勝ち!」

 その瞬間。歓声が沸き起こり空砲が鳴り続けた。

 全身を喜びが突き抜け、右手の握り拳を突き上げながらチータのところに走り寄った。チータも私に走り寄ってくる。

「やったわ!チータ!」「はい!カレン様!」

 チータに抱きつくと、さらに私の後ろからアメリが抱きついてきた。二人に挟まれてもみくちゃにされる。

 やった。やったんだわ。

 レオナルドたちは下を向いていたが、どこか晴れ晴れした表情で私たちを見つめた。

「はーはっはっはっ。面白そうなことをやってるじゃないか!」

 その時、どこからともなく野太い男の声が響いた。

 次の瞬間。私たちとレオナルドたちの間の地面から、空に向かって黒い稲光がほとばしる。

 濃密な毒々しい魔力が地面から溢れ出る。

「なに?これ?」私の側でアメリが呟いた。

「真打ち。登場と行こうかぁ!」

 再び男の声が聞こえると、稲光がほとばしっている地面から黒い光を帯びた衝撃波が襲ってきた。

「きゃあぁ。」「うわぁ。」

 私たちもレオナルドたちもその衝撃波に吹っ飛ばされる。

 地面に倒れ込んだ私が顔を上げると、衝撃波の発生源に黒い鎧を身にまとい、巨大な剣を背負った大男が嗤いながら仁王立ちしていた。

「ははははは!我こそは、暴壊の天災ゴルダンなるぞ!」

 そういって右手を握りしめると横になぎ払った。再び衝撃波が迫ってくる。

――――

「ジュン!あの波動は!」

 突然の出来事に一瞬思考が停止したが、ノルンの声で我に返る。

 あの禍々しい魔力。あれは――。

「天災だ!……行くぞ!みんな!」

 競技場と観客席の間には障壁が張ってある。それを壊して駆けつけても、戦いの余波が観客を襲うかもしれない。

 俺たちは立ち上がると、ほかの観客が呆然としている間に通路に駆け込んだ。なんだってこんなところに奴らが……。しかも、今までとは違うタイプの奴だ。

「間に合え!」

――――

一方、皇太子の席では。

「な、なんだあいつは?」

 ルーベルト皇太子が呟いた。

 次の瞬間、貴族たちは騒然となる。

「どうなってるんだ?」

「おい!学園長。だれだあれは!」「――!」

 その時、隅にいた黄金の鎧を着た騎士が立ち上がって叫ぶ。

「静まれ!……キャンサー隊!避難誘導せよ!」

 その迫力に腰を浮かせかけた貴族たちが落ち着きを取り戻して座り直す。誰かがその騎士を見て呟いた。「おお。ロヴェル殿か……。王城の守護神、キャンサー隊隊長殿。」

 通路から騎士たちが走り込んできて、最前列の通路に並び盾を競技場に向けて構えた。

 誘導役の騎士たちが声を掛け、皇太子たちから順番に避難を始めた。

 外側の観客席では、我に返った観客がパニックを起こしながら騒いでいる。

「ザフィール!」

 喧騒のなか、先ほどの黄金の騎士が学園長の名前を叫ぶ。学園長が立ち上がる。

「わかっている!ロヴェル……。」

 立ち上がった学園長は、おもむろに手を上に掲げて詠唱を始めた。

「我れ、星天の盟約に従い求め訴える――――。」