50 ベヒモス

「エナジーバレット・ストローク。」

 ノルンの言葉と共に、12個のバチバチと放電する1メートルくらいの光球が出現し、その光球から小さな光が弾丸となって、ガトリング銃のようにゴルダンに襲いかかった。

 しかし、ゴルダンの全身を再び紫の光が覆うと、光の弾丸などないかのように大剣を構える。

「小細工はもう通じん!」

 ゴルダンの大剣に禍々しい力が集まり黒い瘴気を漂う。ふわっとゴルダンが10メートルくらいの空中に浮かんだ。

「イビル・ブラスト。」

 ゴルダンが無造作に大剣を縦に振り下ろすと、黒い瘴気がドラゴンブレスのように飛んできた。

 俺は咄嗟にノルンを抱えて横に飛びすさると、俺たちのいたところを黒い瘴気が通り過ぎていき、そのまま黒い光壁を突き抜け、競技場の障壁をも突き抜けて観客席を崩壊させた。

 幸いに破壊された観客席の方は避難が済んでいたようだ。

 観客席の方に気を取られている間に、ゴルダンは真っ直ぐに地面に降りてきて、大剣を地面に突き込んだ。大剣から空に向かって紫の光が立ち上り、周りの地面がピシピシとひび割れる。

「ぐはははは。これならどうだ?」

 すると、ゴルダンを中心として、地面が黒い魔力と共にものすごい勢いで吹き上げられていく。

 逃げ場のない攻撃にもかかわらず、ノルンが俺の前に踏み出ると、ハルバードで目の前の地面を軽く叩いた。するとそこから光の線が延びてきて、俺とノルンを囲む円を描く。

 崩壊の波は、俺とノルンを囲んだ円をのぞいて、黒い光壁の内側の地面を崩壊させた。

「ちぃ。だんだん無茶苦茶になってきたな。……ノルン、合わせてくれ。」

 俺はその場で分身三つ身となり、二身は閃光のように移動して、ゴルダンを中心とした三角形を描く。「これでもくらえっ。」

 閃駆して三方向からゴルダンに斬りかかる。ゴルダンはその場で再び宙に浮かんで攻撃を避ける。

 ゴルダンの足の下で俺と分身の剣が重なる。

「トリニティ・ブラスト!」

 その重なった剣をゴルダンに向かって切り上げる。三つの力が重なり合って、螺旋を描いて足下からゴルダンを飲み込んでいった。

 タイミングを合わせるようにゴルダンの前後左右に魔方陣が現れ、中央のゴルダンめがけて4属性の精霊力の込められた光弾が放たれた。「四大精霊陣キャトルクルール。」

 俺のトリニティブラストとノルンの四大精霊陣とが合わさり、ゴルダンが七色に光る光球に包まれる。空気がびりびりと振動している。

「ぐおおお――っ。」

 中からゴルダンの声がする。と、次の瞬間、光球からまばゆい光が放たれた。

 閃光のあとにはそこにはゴルダンの姿は欠片も見られなかった。

 どうやらゴルダンの張った黒い光壁の結界も消滅したようで、ゾディアック・クルセイダーズの聖剣使いとレイピア使いが、足下を気にしながらやってきた。

「ゾディアック・クルセイダーズ騎士団長のレオンだ。すまぬ。すべて君に任せてしまった。……奴はやったのか?」

 男の騎士がそういった時、ゴルダンの声が響いた。

「ぐははは。勝負は俺の負けだ。だが次はお前らを粉砕してやろう。……そいつは土産に置いていくぞ。ぐはははは。」

 どうやらギリギリで逃げたようだ。またしても逃したということだ。

 レオン団長の横の美しい女騎士が厳しい表情をしている。

「……なるほど。私はシャルロット。ヴァーゴ隊の隊長です。ですが、詳しい話は後にしましょう。あのベヒモスをやらないと王都が危険です。」

 俺とノルンは頷いた。「冒険者のジュンとノルンです。急ぎましょう。」

 ノルンがハルバードから地面に魔力を通す。「……では。かりそめの道を作ります。」

 割れて斜めになったりしている地面のなかで、俺たちのいるところからベヒモスのいる方角に向かって整地された道ができあがっていく。

 その道をレオン団長を先頭にして、俺たちは走り出した。

 ベヒモスはすでに競技エリアの障壁を破壊し、今は観客席を壊している。様々な破片が散らばっており、騎士団の連中も手こずっているようだ。

 そのなかでサクラが忍びらしく、縦横無尽に飛び交ってベヒモスに攻撃をしている。ヘレンは離れたところから魔法の鎖を巻き付けて拘束を試みながら、観客席の外側に結界を張りつつ強力な魔法の火弾をたたき込むという離れ業を演じていた。

 反対側の離れたところからは、黒い杖を構えた騎士が魔法が放っていた。

「ちぃ。あのでかさはやっかいだな。」

 先を走るレオンの呟きが聞こえてくる。「うちは魔法使いがザフィールとジョルジュくらいですから。」

 シャルロットが冷静に分析をしている。

 ヘレンの側まで来た。さてどうするか。正直に言ってベヒモスは図体がでかくて力は強大だが、言ってみればそれだけだ。となれば、俺たちはサポートに徹してできるだけ騎士団に任せるべきだろう。

 ノルンに相談しよう。

(ノルン。俺たちはサポートにしよう。……目立ちたくない。)

(わかったけど、もう充分に目立ってると思うわよ?)

 ノルン。それを言われるとぐうの音も出ないぞ。

とはいえ、俺たちは再びリミットをかけ光の衣を消した。

 ノルンをヘレンの側に配置し、俺はベヒモスの壊した障壁の切れ目から観客席に飛び上がり、サクラのサポートをする。

(サクラ。ゴルダンは逃げた。俺たちはサポートに回って騎士たちに任せよう。)

(はい!マスター。では結界で封じますね。)

 サクラは空高くクナイを投げると、そのクナイがベヒモスを囲む四方に突き刺さった。

 印を結ぶサクラが妖力と魔力を練り上げる。

「四神結界。五行陣!」

 クナイを頂点に四神結界がベヒモスを拘束する。この四神結界は拘束目的なので、こちらの攻撃は透過する。ヘレンの魔力鎖にサクラの四神結界。二つの拘束術式でさしものベヒモスも動きがとれなくなる。

「今だ!」

 レオンの号令のもとで騎士たちが四方からベヒモスにそれぞれスキル技をたたき込んだ。

 ある者は瞬時に百の斬撃を、ある者は強力無比な大斧の一撃、ある者は魔力剣など、その威力はゾディアック・クルセイダーズの高い能力を示している。明らかに他の騎士たちとは隔絶した攻撃と言えるだろう。

 なかでも騎士団長レオンの聖剣の攻撃と、副団長のシャルロットの魔法剣は強力だ。見る見るうちにベヒモスが弱っていく。

 ――ところがそれがトリガーだったのか。ゲームでよくあるようにある程度のダメージを与えると強化するのか、ベヒモスの体色が赤みを帯びていく。それと共に二本の角が帯電したようにスパークし、目の色が赤く輝きだした。

 「グゴアァァ!」

 雄叫びとともにベヒモスが体を起こすと、あっという間に魔力鎖も四神結界も破られた。

 ベヒモスが騎士たちの方を向いて口を開く。その奥に魔力が集中し輝き始める。……まさか、こいつもブレスを吐くのか?

「総員待避!」

 異変を察知したシャルロットが鋭く退避命令を出す。

 その時、キ―――ンという高周波の音が上から聞こえた。

 次の瞬間、黄金色に光る隕石が一直線にベヒモスの頭の命中し、ベヒモスが競技場側に仰向けに吹っ飛ばされた。

 すさまじい音と衝撃が空気を伝わる。地面が衝撃で割れ、土埃が舞い上がる。

 黄金色の流星はどうやらベヒモスの頭を打ち据えたようで、頭部を中心に球状に地面がえぐれている。

 黄金色の光が薄らぐとそれは人の形をしているのがわかった。その人形はふわっと空高くジャンプして俺のすぐ横に着地した。こいつは……。

「――ただいま戻りました!ジュンさん!」

 そこには黄金色の光りに包まれたシエラがいた。両腕に台形の盾をそれぞれ装着し、緑のオーラに包まれた槍を両手で構えている。

 俺とノルンたちの声が重なる。

「「「「シエラ!」」」」