52 戦後と卒業

 地割れと瓦礫だらけの競技場の出口に向かって歩いていると、俺たちを影が包んだ。

 頭上を見上げると、そこには一匹のドラゴン。――風竜王タイフーンがホバリングしていた。

 ゾディアック・クルセイダーズたちが慌てて武器を構えようとするが、レオンが手を横に払うと武器を納めて居住まいを正した。

 シエラがタイフーンに向かって跪いたので、俺たちもそれにならう。見上げると、タイフーンが俺を真っ直ぐに見つめている。

「シエラは無事に届けました。……竜王の騎士シエラよ。そなたは初歩の力の使い方を学んだにすぎないのです。精進しなさい。」

 シエラがタイフーンに向かって跪く。「タイフーン様。ありがとうございました。仰せのようにこれからも励みます。」

「ふふふ。シエラ。各地の竜王たちを訪ねなさい。教えを請い。認められれば更なる力を得ることができるでしょう。」

「はい。タイフーン様。」

「また会いましょう。竜王の因子を発現した娘よ。その愛する殿方よ。仲間たちよ。」

 風竜王タイフーンはそういうと、真っ直ぐに空を駆け上がっていった。

 俺たちはそれを見送ると立ち上がる。俺はシエラに話しかけた。

「シエラ。竜王の騎士だって?」

 シエラが少し恥ずかしそうにしている。

「はい。ジュンさん。……竜王様に直々に修行をつけられましたので、竜王の騎士を名乗ることを許されたんですよ。えへへ。」

「へぇ。すごいな。」

 俺はそう言いながらシエラのステータスを確認した。

―ステータス―

  シエラ・リキッド

  種族:ドラゴニュート(女)

  年齢:21才

  職業:竜王の騎士

  加護:神竜王の加護、風竜王の加護

  称号:ジュン・ハルノの婚約者

  レベル:250

  能力:ブレス、金剛力、竜闘気

  スキル:盾術レベル6、剣術レベル5、体術レベル5、槍術レベル5

 おお!職業が竜騎士から変わっているし、竜闘気の能力が増えている。いくつかの能力が統合されているようだしスキルも強化されている。なんといってもレベルが一気に上昇している。……ていうか、どんだけハードな修行だったんだろう。

 俺はシエラの頭を撫でてやった。「よく頑張ったな。」

 えへへと笑うシエラだったが、さっきまで竜王の来臨でなかば呆然としてた騎士たちが生暖かい目で俺たちを見ていた。

 あれから俺たちは学園長室に連れて行かれた。

 ザフィール学園長が決勝戦からの経緯を説明してくれていたので、俺からは説明することはほとんどなかった。助かったぜ。

 説明が終わって、レオン騎士団長からクルセイダーズへのお誘いをいただいたが、それは丁重にお断りした。なぜかって?みんなと世界を自由に見て回りたいし、騎士団のように堅苦しいはごめんだからさ。

 シャルロット副団長から、後日、王宮へ呼び出されるのはほぼ確実だろうと言われた。なんでも今回の事件の活躍から国王から報賞が出るだろうとのこと。……正直にいって、礼儀作法などわからないのでお断りしたい。が、今後もエストリアに本拠をおいて活動するならば断れないし、謁見の栄を賜るのも悪くはないだろう。

 宿泊先の宿を確認してようやく解放された。建物から外に出る頃にはもはや日が暮れていたが、獣王ティガロさんと一緒にカレンとチータが待ち受けていた。

 俺の姿を確認したのだろう。カレンとチータの二人が神妙な表情でやってきた。

「うん?どうした?二人とも。」

 俺が声を掛けると二人は俺たちの前で跪いた。カレンが頭を上げた。

「ジュンさま。麒麟の霊水を探していただいた上に、このたびは命を助けていただき本当に感謝申し上げます。この御恩は、私の一生を捧げてお返しいたします。」

 そういって真剣な目で俺をまっすぐに見つめてきた。

「カレン、チータ。二人とも立ってくれ。それでは話しにくいよ。」

 しかし、二人は跪いたままで俺を見上げている。俺は咳払いを一つついた。

「コホン。……俺がお前たちを助けるのは当たり前だよ。その気持ちだけで充分さ。」

 そこまで話した時に、後ろからティガロ殿が前に進み出てきた。ティガロ殿は右手で拳を握り、自分の左胸に当てた。

「ジュン殿。私からもお礼を申し上げますぞ。ありがとうございます。さすがはカレン様が見初められたお方ですな。」

 そういってにっこりと笑みを浮かべた。さてさて、どうしてもお礼をしたいということのようだな。

「ティガロ殿。当たり前のことをしたまでのこと。……ですが、それでは皆さんの気持ちが収まらない様子。ならばそのお礼を謹んでお受けいたしましょう。」

「おお!ありがとうございます。」

 ティガロ殿の言葉を聞きながら、俺はカレンとチータの方を向く。

「ただし、麒麟の霊水はサクラが手に入れたものだから、お礼はサクラにしてくれ。それに掟のあるカレンはともかく、チータに一生とかいわれても困るよ。だから、チータには代わりにゾヒテの案内をお願いしたいな。」

 俺の言葉に、ティガロ殿が急にがははと笑い出す。

「ジュン殿。我らは強者を信奉しまする。ゾヒテは皆さんを歓迎申し上げますぞ。……それにカレン様とのことの報告もありますので、むしろ我々が皆さんをご招待せねばならないでしょう。」

 そういうと、ティガロ殿はカレンとチータと立ち上がらせ、再び俺の方を向く。

「是非とも、二人の卒業式が終わった後は、ゾヒテにお越し下さい。」

「ティガロ殿。よろしくお願いします。……みんなもゾヒテに行ってみたい様子。お世話になります。」

 みんなの表情を見てそういうと、ティガロ殿は笑顔で頷いた。

「さあ、そうと決まれば、いかがかな?これから一緒に食事でも。」

 どうやら競技場の方は、騎士団と学園の教師とで調査が行われており、俺たちがすべきことは何も無さそうだ。それならばティガロ殿のお誘いに乗ろう。

 そうして、俺たちはティガロ殿ら三人を連れて学園近くの酒場に入っていった。

 さて卒業式後の二人だが、カレンはすぐに俺についてくるとのことで、今までカレンの護衛をしていたチータはティガロ殿と一緒にゾヒテに戻るとのこと。どうやら先に戻って俺たちの訪問の準備をしてくれるそうだ。

 ……なんだか申し訳けないが、楽しみでもある。エストリア国王に謁見をすると、俺たちを囲い込もうとする貴族たちがいるかもしれないから、ほとぼりがさめるまでゾヒテに行くのもいいのかもしれない。

 みんなも、どうやらゾヒテに行くのを楽しみにしているようだ。

 ティガロ殿の武勇伝を聞きながら、俺たちは楽しい酒を飲んだ。

 「――卒業生代表 カレン。」

 壇上でカレンが堂々と謝辞を述べた。8組から代表謝辞を行うのは、学園創立以来で初めてのことらしく、みんなはとても喜んでいた。……まあ、カレンの本当の出自を考えれば、他国の王族に当たるのだから充分に資格があるといえよう。

 あれから一週間。競技場はいまだに修復中であるが、卒業式自体は講堂なので問題なく執行された。

 今日でノルンの臨時講師も最後。卒業式には本来の先生も列席し、ともに生徒の卒業を祝っている。

 俺たちは、式の前に教室ですでに御祝いの言葉を贈っている。卒業後は、それぞれの進路に進む彼らだが、きっとまた会うこともあろう。その時に胸を張っていられるように、俺たちも彼らに恥じないように頑張ろう。

 ――余談だが、卒業式に列席するっていうことで全員分のフォーマルを揃えるはめになった。そのせいで貯蓄がほとんど服代で飛んで行ってしまった。

 ゾヒテへは、向こうの招待ということで費用の心配は無いが、近いうちに依頼を受けて稼がないと大変なことになりそうだ。

 式が終わり、しばらくお世話になった学園の門の外で、カレンたちを待つ。

 門の側には卒業生を祝福するように、桜によく似た木が美しい花を咲かせ、風が春を運んでいた。