9-16 フォラス戦1

 黒い稲妻が迫る!

 しまった! 今はノルンがいない。防護魔法が……。

 衝撃にそなえる俺の目の前に、神竜の盾が飛び込んできた。

 ナイスだ! シエラ!

 奴の稲妻がバリバリバリと盾の周りをスパークして、海水に散っていく。

 俺たちにもピリピリと伝わってくるが、魔法耐性が強化されている今はダメージはない。

 ブオンッという音とともに、シエラが竜闘気ドラゴニック・バトルオーラを身にまとった。

 竜槍ドラグニルを構え、

「神竜の盾バージョン3! モード・イージス」

と言うと、周囲に浮かぶ2つの盾を中心に、光る障壁が現れて俺たちを囲んだ。

 神竜王バハムートから授けられた盾。

 今では、2つに別れた盾を自由自在に浮遊させて敵の攻撃を防ぐという、ヴァージョン3まで使いこなしている。

 さらにエリア防御のモード・イージスを発動していため、この防御を突き破るには余程の力がいるだろう。

 ……ただ、その力がフォラスにはあるだろうから油断はできない。

 フォラスは忌々しげに、

「竜騎士の小娘がこしゃくなまねを」

 テラブレイドを握り、フェイントをまぜながら再びフォラスのところに飛び込み。突きを放つ。

 しかし、ゆらりと奴の身体が揺れたと思ったら、幻のように奴の身体を突き抜けてしまった。

 そのまま奴の身体を突き抜けて、反対側の四神結界を蹴って再びフォラスに突きを放つ。

 くそっ。また突き抜けた。

 この手応え。奴の身体はいったい……。

「回天竜牙撃!」

 吠える竜をかたどったエネルギーがフォラスに襲いかかった。

 が、その攻撃もフォラスを突き抜けていく。

 バリンッ!

 そのままシエラの回天竜牙撃はサクラの四神結界を破壊して飛んでいった。

「ああ!」

 サクラの声がする。

 くそっ。やはり海中戦は経験不足か。こんなとき、ノルンがいてくれたら……。

 目の前で分身を作りだしているフォラスを見て、テラブレイドを握りしめる。

 ――その時だ。

 俺たちの頭上から、数多くの光の槍がフォラスに降りそそいだ。

 奴の分身体が次々に煙のように消え去っていく。

 見上げると、そこには武装した人魚たちと、海竜王リヴァイアサンがたたずんでいた。

 フォラスが障壁を張りながらリヴァイアサンを見上げる。

「海竜王よ。今ごろ来たか」

「……どうやら貴様にまんまと出し抜かれたようだな」

「ああ、最後の要石は破壊した。これでこの世界はむき出しの卵も同然。我らが主による救済破壊を待つがよい」

「どうかな。今度こそ逃がさぬし、……そこにいる男たちは強いぞ。貴様こそ逆に封じられるのではないかな?」

「ふふふ。ならば試してみたらどうだ?」

「よかろう。――王よ。そなたらはあの者たちを援護する歌を。我は行くぞ」

 この気配!

(みんな離れろ! ブレスが来るぞ!)

 念話を送ってばっと離れると同時に、海竜王がブレスを放った。

 しかし、海竜王のブレスがフォラスの障壁にぶつかる。

 くそっ。逆にブレスが邪魔だ。

 ……なんだ? フォラスの瘴気が圧力を増しているような。

 サクラから念話が届く。

(マスター! 大変です。海溝に充満している瘴気が集まっていきます)

(なに?)

 本当だ。霧のように充満していた瘴気がまるで掃除機に吸い込まれるようにフォラスに集まっていく。

 突然、フォラスを中心に爆風のように強烈な波動が放たれた。

 ……く。腕を顔の前に掲げて、その衝撃に耐える。

 海竜王のブレスまでもかき消された後、そこには青白いオーラをまとうフォラスが異様な雰囲気を漂わせていた。

 ――一方、神船テーテュースのブリッジではヘレンが船長席に座っている。

「システム。オールグリーン。戦闘モード移行完了」

 一緒に操縦室にいるカレンが私を見る。

「ヘレンさん。行きましょう!」

 私はいまだに失神したまま倒れているシャロンを見やる。

 彼女は今毛布を掛け、サポートシステムによって身体を固定されている。

 アーケロンの無残な姿。

 そして、それを見て失神してしまった彼女の気持ちが私にはよくわかる。

 私の脳裏に1000年前のベアトリクスだったころの記憶がよみがえった。

 天災に翻弄され、かけがえのない家族を、仲間たちを失った記憶。

 正面のスクリーンにはフォラスの姿が青白く光っていた。

「……ソロネ。エクシア」

 失った弟とその婚約者。二人の笑顔が脳裏に浮かぶ。

 ――そうね。私たちのような悲劇をもう繰り返させない。だから、私を見守って。

「テーテュース発進!」

「イエス! マム!」と応えるシステム。

 目の前の円形コンソールに手を添えて、

「防御結界。強化増幅」

 私の結界魔法をテーテュースで増幅する。蓄積された神力結晶のエネルギーを少しでも節約しておきたい。

 人魚たちの歌による周辺の魔力増幅効果でエネルギーには余裕があるけど、天災フォラス相手では不足するだろう。

「カレン。思念伝達リンクするわよ」

「了解です!」

 思念伝達リンクとは、一対一のダイレクト念話回線を構築する方法。

 私たちチームが念話をできるようになってから訓練したのだ。

(絶対零度ポイントミサイル。マルチ発射。)

(行きます!)

(すぐに波動砲、チャージ開始)

了解サー!」

 船体下部から9本の魚雷が発射され、目の前でふいっと消失。

 即座にフォラスの周囲で炸裂した。

 グオオオンっ。

 鈍い音が響き、ペキペキと氷が伸びていく。

 テーテュースの船首が開いた。

(波動砲。チャージ完了。いつでも行けます)

(撃て!)

 ドンッという衝撃とともに巨大な波動砲の光線が発射され、一瞬、音も聞こえなくなる。

 フォラスを封じた氷を粉々にして、そのまま反対側の断崖に大穴を開けた。

 キラキラと氷の粒が輝くなかで、しかしフォラスは平然とたたずんでいる。

「今ので無傷とはね……」

 これは予想外。さてどうする?

 スクリーンの中で、フォラスがこっちを見て、

「……セルレイオスのおもちゃか。貴様らの相手はこいつらだ。出てこい。我が眷属たちよ」

と言った。

 その手前に黒い球体が現れ、その中からまるで蜂の大群のように、次々に漆黒の魔物と人魚の大群が現れた。

 どの眼も灰色に濁っていて、正常な状態ではない。

 私たちより上層にいるオケアーノス王が、人魚たちに、

「ミルラウスの騎士よ。行け! 婿殿たちはフォラスを!」

と指示を出し、ミルラウスの騎士たちが光り輝く銛を手にその大群に突っ込んでいった。

 一気にこの海域が混戦に突入していく。

 不意に船体が大きく揺れた。

「――ピピピっ。4時の方角より魔法攻撃です」

 確認するとそこには、口のなかに光を湛えた巨大なアンコウがいた。

 幸いに増幅した結界魔法で防げている。

 アンコウがスクリーンで目の前にゆっくりと口を開く。

 するどい牙がならんでいるその奥から大砲のような魔力弾が放たれた。

 ドオオンン……。

 再び揺れる船。

「――結界損傷率20%」

(ホーミング魚雷。あの口の中を目標に斉射!)

(了解。発射)

 船体の下部から投げ捨てるように魚雷が放たれ、一拍おいてからスクリューが動きはじめる。

 そのままアンコウに向かっていくミサイル。

 アンコウはその接近を感知して、すぐに離れた。

 しかし追尾していく10本のミサイル。

 やがて、次々にアンコウの背に爆発が生じていく。

 爆音が響くが、その煙の中から再び魔力弾が飛んできた。

 再び結界が揺れる。

「ああん! もうじれったい!」

 コンソールに拳を振り下ろす。こんなにも水中だと戦いにくいのか。

 するとサポートシステムが、

「オートコンバットに移行しますか?」

「はい?」「え?」

 思わずハモる私とカレン。

 そんな機能があるの?

「いいわ。移行して」

「サー。オートコンバットに移行します。殲滅対象:周辺敵対者。予想消費神力エネルギーが足りません。……対象からフォラスを除き、神力30%確保。……殲滅します」

 次の瞬間、激しく船体が揺れる。

 ドドドドドド……。

 スクリーンを見ると甲板から砲台が現れて、神力のこもったミサイルを連続で放ち始めた。

 ドドドドドド……。

「す、すごい」

 カレンがそれをぼう然と見つめる。

 はっ。そういえばアンコウは……。

 振り返ると、とっくにミサイルの攻撃を受け頭部を失ったアンコウが力なく海中を漂っていた。

「あっ。ヘレンさん! フォラスが!」

 カレンの声に再び顔を上げる。

 青白いフォラスが黒い球体に包まれている。

 今度はいったい何?