9-17 フォラス戦2 初代王リュビアーの影

 青白いオーラを出しているフォラスが不気味に俺たちを観察している。

 フードの奥から見える幽鬼のような顔。……この圧迫感。さっきまでとは雲泥の差だ。

 奴の体がゆらっとぶれたと思ったら、次の瞬間、俺の目の前に転移していた。

 フォラスの黒い棍の一撃をテラブレイドで受け止める。

 くっ。

 水中では踏ん張りがきかずに吹き飛ばされた。しかし途中で足の裏に魔力で足場をつくり、奴に切りかかる。

 ガキィィン。

 俺のテラブレイドと奴の棍がギリギリと競り合っている。

 奴のフードがはらりとめくれ、突然、目が赤く光りそこから2条の光線が飛び出してきた。

 げっ。

 あわててのけぞって攻撃をかわし、そのまま奴の頭を蹴り飛ばす。

 さらに右手に力を込めて奴の腹を打ち抜く。

 衝撃が奴の背中に抜ける感覚。……さっきとは違い、今度は攻撃が通る。

 いけるか?

「ふ、ふふふふ。ははははは! ……いいぞ。こうでなくては戦いは面白くない。さあ、もっと本当の力を出させて見ろ!」

「もとより貴様を倒すつもりだ!」

 奴の突きを擦りあげて肘打ちをたたき込み、そのまま剣で切り上げた。

 しかし奴がすっと下がり、その鼻先を剣が通り過ぎていく。

 追撃をしようとして不意に身体に異変を感じる。

 なんだ? 何かが身体に絡む……。

 魔力視から瘴気視に切り替えると、俺の身体に幾重にも糸のような瘴気が絡んでいた。

 奴が両手で印らしきものを組む。糸を通して瘴気が俺の身体に流れ込んでくる。

「耐えられるかな? ――呪糸妖縛陣」

 身体に激痛が走る。心に瘴気が流れ込む。

 なんだこれは?

 俺の脳裏に恨みを抱きながら、死んでいった人々の記憶が流れ込んでくる。

 ――くっ。こんなところで。……フラン。ごめん。生きて戻れそうにない。

 ――いやあぁぁぁぁ! 行かないで! 私を捨てないで!

 ――どこ? 私のヨハンは。どこにいったの?

 ――ゴーダめ! よくも。よくも俺たちをはめやがったな! くそ! 死ぬな。レヴィーン!

 周りの者への恨みが。憎しみが………………。視界が白黒に反転していく。

 憎い! 憎い憎い。 

 ああああああああーー!

「「だめ」です!」

 誰だ?

 色を失った視界に黄金色の髪が動いている。

 身体を縛り付けていた拘束が解けたと思ったら、俺の腹に衝撃が走った。

「白光仙掌!」

 ぐはっ。

 打ち抜かれた腹部から、全身に灼熱の仙気が広がる。

 黒い心が打ち抜かれ、すうっと消えていく。

 さっきまでの憎しみが薄れていった。

 気がつくとサクラが心配そうに俺を見つめ、その向こうではフォラスに向かって連続突きを放つシエラの姿が見えた。

「サクラ、か……」

「マスター。大丈夫ですか?」

「サンキュ。もう大丈夫だ」

 頭をぽんぽんと叩くと、不満そうに、

「……終わったら修行のやり直しですよ」

 ぐっ。何も言い返せない。

 さっきの攻撃も瘴気を流し込まれたとはいえ、今は神力を解放している状態だ。あんなにあっさりと精神攻撃にはまるとは……。

 邪神の眷属としての力は、まだ奴の方が上なのかもしれない。

「きゃ!」

 シエラの声だ! いかん! 例の黒い稲妻がシエラに襲いかかっている。

 幸いに神竜の盾の結界で防いでいるようだが、すぐに行かねば。

「サクラ。同時に行くぞ」

「了解です。マスター」

 剣に神力をまとわせ、一気にフォラスの懐に入り込む。

「む?」

 シエラから気をそらさせて斬りかかる。……ふりをして即座に飛び上がる。

「水遁。氷海波!」

 サクラの両手から仙気と妖気を練り合わせた青白い冷気が、海水を凍らせながらフォラスを飲みこんだ。

 今だ!

 振りかぶったテラブレイドとともに奴めがけて突っ込む。

 おおおおお!

 神力の白銀の輝きを帯びながら、氷と奴の胸を貫く手応え。

「ふんっ!」

 テラブレイドを通して神力を流し込むと、奴の目や口から光があふれ出した。

 最後に奴を海溝の底に向かって蹴り飛ばし、そこへ神力を込めた魔力弾を撃ち込む。

「これで最後だ!」

 10メートルにもふくれあがった神力エネルギーのかたまりが奴を打ち据えた。

「ぐわあぁぁぁぁ」と苦鳴をあげながら奴が小さくなっていき、一瞬の後、海溝の底がピカッと閃光を発した。

(マスター。さすがです! ……やりましたかね?)

 サクラからの念話。しかし、

(サクラ。人、それをフラグという……)

 感じるぞ。奴が海底で何かをしている。

 どんどんと奴の存在感と不気味な気配が大きくなっているぞ。

「警戒を緩めるな!」

 サクラとシエラに叫ぶ。

 しかし、次の瞬間、上の方から海竜王の苦悶の声が聞こえてきた。

 即座にシエラが、

「ジュンさん! 私は海竜王様のもとへ!」

と言い、返事をする前に飛ぶように浮上していった。

――――

 海竜王は影のように黒い人魚と対峙していた。

「リュビアー。……の影か」

 その人魚は初代ミルラウス国王であったリュビアーの姿をしているらしい。

 海竜王はいらだたしげに、

「フォラスめ。我が友の影を使うか。……失せよ!」

と言うと、その周囲の海域におびただしい数の氷の槍が現れた。

 ヒュン! ヒュン!

 氷槍がリュビアーの影の周囲を旋回しながら次々に攻撃をしていく。

 しかし、影はそのことごとくを避けながら、海竜王にトライデントを投げつけた。

 ごう

 周囲に渦を巻きながら、そのトライデントが海竜王のうろこを突き破り貫通していく。

「ぐわあぁぁぁぁ」

 まさか自分のうろこが破られるとは予想もしていなかったのだろう。

 海竜王が痛みに吠えるとその頭上に影が移動し、海竜王の鼻先に右の拳を叩きつけた。

 衝撃で海竜王が吹き飛ばされる。

「ぐぬぬ。この攻撃力。まさにリュビアーと同じというわけか」

 海竜王の身体がほのかに黄金色のオーラを帯びた。

 竜が本気を出す時に現れる竜闘気ドラゴニック・バトルオーラだ。

「行くぞ!」

 海竜王は吠え、リュビアーの影に襲いかかった。

 白い牙が影の肩を貫き、かみついたままで影を断崖に叩きつける。

 地響きを立てる崖に、海竜王が容赦なくブレスの連射攻撃を放った。

 ドゴゴゴゴゴ……。

 まるで流星雨が地上に落ちたように、ものすごい衝撃と地響きを立てて崖が崩れていく。

 10秒、20秒とブレスの攻撃が続き、ようやく海竜王は攻撃の手を止めた。

 砂が煙のように舞い上がる崖。

 海竜王は尻尾でその煙を吹き飛ばした。

 しかしその一瞬に、煙を突き抜けてリュビアーの影が飛び出して、そのまま海竜王ののど元にトライデントを突き刺した。

「ぐうぅぅ」

 影はトライデントが抜けないようにしっかりと押さえ、その全身から紫のオーラが立ち上らせてトライデントを媒介にして海竜王の体内に流れ込ませていく。

 激しく身をよじって苦しむ海竜王。

 そこへ応援に来たシエラがリュビアーの影に攻撃を仕掛けた。

 吹き飛ばされた影。シエラは突き刺さっているトライデントをつかむとグイッと引き抜いて捨て去る。

 竜槍ドラグニルを構え、影を見据える。

 リュビアーの影には、どこからか新しいトライデントを握っている。

 浮遊する神竜の盾を両肩の上に浮かべ、シエラが竜闘気を強める。黄金色のオーラがぶわっとふくらむ。

 退治する影もトライデントを構え、その全身から吹き出した瘴気を集めていく。

 海竜王が口から血を流しながらもシエラに、

「シエラか。そやつは強いぞ」

「わかっております。ですが、私も竜王の騎士。神竜王さまより拝領したこの盾にかけて負けるわけにはいきません」

「……よかろう。ここに我の力をそなたに授ける」

 海竜王から濃紺の光が一直線に伸びて、シエラの身体に取り込まれていく。

 ここにジュンかノルンがいれば、シエラのステータスに変化があったことがわかるだろう。

 クラス:竜王の騎士風・水・海new!

 海竜王の口から一本の十字槍が飛び出して、幻像のようにシエラの持つ竜槍ドラグニルに重なりスウッと消えていった。

 竜槍ドラグニルが輝きを増す。

 ドラグニルの口金にある緑と水色の宝玉に、新たに濃紺の宝玉が増えていた。

「こ、これは……」

――真竜槍ドラグニル――

竜王の力の込められた槍。竜王の力を合わせることにより強化する。

現在:風、水、海

 海竜王がシエラに命じる。

「シエラよ。竜王の騎士よ。リュビアーの影を倒せ」

「は!」

 リュビアーが口を開けて吠える。その口から瘴気がブレスとなってシエラに襲いかかる。

 しかし、神竜の盾が障壁を張ってシエラを守る。

「無駄です」

 シエラが瘴気のブレスを切り裂きながらリュビアーに迫る。

 ドラグニルとトライデントが幾度も交差し、そのぶつかり合う音が響き渡った。