9-22 6人の笑顔

 ここはヴァルガンドに隣接する亜空間。

 黒い黒曜石のような床がどこまでも広がっているような空間だが、薄暗くて遠くまで見渡すことはできない。

 時折、電子基板のように紫に光るラインが床を走る。

 中央に円形の祭壇があり、そこに四方を布で隠された玉座があった。もちろん中をうかがい知ることはできないが、時折、もぞもぞと何かがうごめいている。

 祭壇を囲むように6つの大きなイスが並んでいる。

 今、そこには天災の女性モルド1人だけが座っていた。

「ふふふ。ようやく最後の要石が破壊されたようね……」

 誰に聞かせるでもなく、モルドがつぶやく。

 その呟きに応えるように、背後の暗がりから大剣を持った天災ゴルダンが姿を現した。

「これで後は我らが主の完全復活を待つだけだな」

「ヴァルガンドも殻をむいたゆで卵みたいなもの。ふふふ」

 その時、一陣のかすかな風が二人の間を吹いていった。

「うん?」「む?」

 イスの一つから瘴気がシューッと噴水のように立ちのぼる。そのまま、上空に瘴気が雲のように広がって行く。

 それを見たモルドが立ちあがって見上げる。

 わき出す瘴気が止まると、瘴気の雲が中央の玉座に吸い込まれるように流れ込んでいく。

 玉座にうごめく何かの動きが激しくなる。

 それを見たモルドがうれしそうに、

「ふふふふ。そう……。フォラスが役目を終えたわけね」

 ゴルダンがその隣にならび、

「これはいい。奴らも順調に成長しているようだな」

「次にまみえるのが楽しみね」「そうだな」

 二人には楽しそうに、祭壇で一際大きくなった自らの主の姿を眺めていた。

――――

 あの戦いから3日。慰霊祭、戦勝の宴が終わり、ようやくミルラウスも落ちついてきた。

 この日、俺たちはようやく海竜王とゆっくりと話をすることができたのだった。

「ふむ。……大体はアーケロンが話したとおりだな」

 海竜王の人間形態は黒髪の精悍な男性の姿だった。セルレイオスのようなマッチョじゃないが、ほどよく引き締まった体つきをしている。

 海竜王はアーケロンよりも昔、それこそ創世記に近いころに他の竜王たちとともに創造神によって生み出され、この世界の治安を担ってきたという。

 創世記。創造神。

 またまた気になるワードが出てきたが、詳しくは教えてくれない。

「お主らはまだまだ聖石の力をものにできてはいない。これからは人目につくところ以外では常に聖石の力を解放した状態にしておいた方がいいぞ」

「え? 普段からですか?」

「少なくとも、あの光の衣がでない状態を維持できるまでな」

 ……確かにあれは無意識にもれでる力が形になったもの。それはつまりまだまだ使いこなせていないということか。

 海竜王は俺とノルンを見つめて、

「なにしろそなたらには更に2つの聖石との融合が待っている。今の聖石との融合率は7~8割といったところだから早く完全に融合した方がいい。

 そうすれば新たな聖石も苦労することなく自分のものにすることが――」

 ちょっと待ってほしい。「更に2つの聖石との融合」? 順当に考えれば、大地神トリスティアと天空神ウィンダリアの聖石だろうけど、別に望んでいるわけでは……。それに2柱の神の聖域へ行く方法もわからないぞ。

 思考の海に潜っていると、隣のノルンに突っつかれる。

「海竜王様が自然とそうなるから心配ないって」

「あ、すまん」

 あわてて意識を戻して海竜王様を見ると、シエラやヘレンたちに話しかけていた。

「シエラ、そしてそのほかの者たちもだが、そなたらにも役割がある。心しておくのだぞ?」

「「「はい」」」

 みんなの返事を満足そうにきいた海竜王は、再び俺の方を向き、

「当面の目標は各地の精霊珠を探して手に入れ、天災と戦うことになるだろう。……しかし、ジュン。その前に結婚式を挙げ、この者らと確固たる契約を交わすのだ」

「はい」

 確固たる契約、か。確かに結婚は、本来別々の家族、種族の者同士が結びつく、最も根本の契約といえるのかもしれない。

 ただ海竜王のニュアンスではそれ以上の意味もありそうだ。とはいっても、どっちにしろ帰ったら式をする予定だから、問題などなにもない。それに本格的に天災と戦う前に、彼女たちと式を挙げておきたいという気持ちもある。

「ジュン……」

「うん?」

 ノルンやみんながうれしそうだ。それもそうか……、セレンの親に許可を得ていないとして、待たせちゃったからなぁ。

 ――――そして、さらに2日後。

 いよいよミルラウスを出発する時が来た。

 テーテュースを大勢の人魚たちが見送りに来てくれている。

「お父さん。……行ってきます」

 オケアーノス王とハグをしたセレンが、寂しそうな笑顔を浮かべた。

 見ると、人魚たちもどこか寂しそうだ。

 国王が、

「式には行くし、またいつでも会える。……あとは孫が見たいところだが」

 すると王妃が笑いながら、

「あなた。それはまだ早いわよ」

「そうかな。……それと、婿殿。セレンをよろしく頼みますぞ」

 俺は一礼して、

「こちらこそよろしくお願いします」

と言う。

 セレンが隣にやってきて、指を絡めてきた。そして、人魚たちに、

「みんな! 今までありがとう! また来るわ!」

と大きな声をあげた。

 人魚たちからも、

「姫様も!」「どうかお幸せに!」「姫様。万歳!」……

と口々に声をあげた。

 そして、俺たちはテーテュースに乗り込んでゆっくりと発進させた。

 甲板に並ぶ俺の左右にはノルンとセレンが、そして、その向こうにはヘレンたちも並んでいる。

 小さくなっていくミルラウスに手を振りながら、セレンが、

「これでいよいよ結婚式ね!」

と腕を絡めてしなだれかかってきた。

 反対側からはノルンが……。

 すると当然、ほかのみんなも、

「あー! 私も!」とサクラがくっついてくると、ヘレンたちもやってきた。

「みんな。帰ったら忙しくなるぞ」

と言うと、みんなは幸せそうな笑顔でうなづいた。

 6人の、この笑顔を守りたい。

 俺は素直にそう思った。