8-10 さらわれた乙女たち

 目の前で整列している選手たちを見ている。

 魔法剣士、拳士、獣戦士、騎士、機工士、拳法家、魔法使い、剣闘士……、変わったところだとプロレスラーというクラスの人もいる。

 そうやって眺めていると一人の女性に目が留まった。

 猫耳の女性で、サクラと同じようなクンフーパオを着ている。腰に差しているのは扇のようだ。

 ――マオ――

  種族:妖怪族ネコマタ(女) 年齢:354才

  職業:冒険者ランクA クラス:拳法家、忍者

  称号:炎扇

  加護:タマモの加護

  スキル:気配察知、魔力感知、危機感知、忍術5、妖術5、小刀5、体術5、拳闘術5、投擲5、鑑定4、罠発見・罠解除5、毒の扱い4、状態異常耐性5、回復魔法5

 ……横丁から出て、ヴァルガンドに出ているネコマタがそれなりにいるとは聞いていたが、なんとなくサクラの家族のような気がする。

 そう思ってサクラの方を見ると、サクラはマオに向かって手を振っていた。

 「あれって?」

 「マスターも気がつきました? 姉ですよ。ソロで冒険者やってたはずです」

 その発言を聞いて、みんなが驚いてマオの方を見る。

 マオは俺たちが見ていることにとっくに気がついていたようで、こっちに向かって手を振っていた。

 うん。正面から見るとよく似ているな。

 サクラが、

 「お姉ちゃんはお父さんに鍛えられましたから強いですよ。炎の忍術とかよく使っていて、仲間からは火炎猫って呼ばれてました」

 なんだか物騒な二つ名だが、確かにスキルもほとんどがレベル5に到達していて強そうだ。

 ちょうどマオが名前を呼ばれて前に出ていき、箱の中からボールを取りだした。

 ボールの数字を確認して、みんなに見えるように掲げる。

 「2番」

 ……いきなりの第一試合だ。

 相手ももう決まっていて、どこかの剣士だったはずだが、おそらく相手にもならないだろうな。

 一通りの抽選が終わり、銀翼の聖騎士シンディは別ブロックの第2試合、魔法使いのリットリオも別ブロックの第1試合とそれぞれブロックが綺麗に別れた。

 早速、選手たちが退場していき、残されたのはマオとその対戦相手の剣士デュオだ。

 背中に大剣を背負っており、引き締まった体に力強さを感じる。

 スキルでは大剣スキルがレベル5持ちの剛剣士だ。

 「それでは予選本戦Aブロック第一試合。――始め!」

 司会のアナウンスと同時に、デュオが大剣を振り下ろしながらマオに突進していった。

 それを残像を残してマオが避ける。その手にはすでに二つの扇が握られており、置き土産とでもいうように五つの火弾がデュオに襲いかかった。

 驚くことに、デュオはさらに踏み込みながら火弾をひとなぎに切り裂いた。

 その技に会場から歓声が起きる。

 魔法をただの剣技で切り裂くか……。

 確かに武闘大会に出場するだけのことはあるが、はたしてマオにどこまで通じるか、だな。

 マオに向かって大剣が振り下ろされる。

 しかし、驚くことに、マオはその剣の腹に扇子を当て剣筋を逸らす。さらにそこから一歩踏み込んで……、あれは。

 横のサクラが、

 「出た。姉さんの浸透掌」

とつぶやいた。

 鎧の上から手のひらで突いたように見えるが、デュオはそのまま吹っ飛んでいき、地面を転がって起き上がれなくなった。

 ……ふむ。どうやら衝撃によって、鎧の防御力を超えて、直ちに相手にダメージを与える技。いわゆる気功とか、浸透勁とかいうやつだな。

――ピコーン。

 「浸透掌」を覚えました。

 スキル「発勁」をマスターしました。

 いつものスキル取得のナビゲーションの音声を聞きながら、アリーナを注視する。

 マオはすでに勝利の確信があるのだろう。腰に手を当てて立っている。

 起き上がれないデュオに、とうとう司会が、

 「勝者。炎扇のマオ!」

と勝者コールをすると、美女拳士の勝利に会場がわああぁぁと盛り上がった。

 すぐさま救護班がデュオに駆け寄っていく。

 聖女様が、

 「さ、来るわよ。準備はいい?」

といって、デュオの受け入れ準備を命令する。

 古代の技術のお陰で怪我はないとわかっているが、状態の確認と対処はしなければならないのだ。

――――。

 その日の試合が一通り終わり、人々が観客席から退出していく。

 前の方に座っていた金色乙女の四人は、後の方の退場となった。

 「いやあ。すごかったね」

 「うんうん。剣技にしろ魔法にしろ、私たち、まだまだ頑張らないと」

 試合の興奮がさめやらぬ様子で、おしゃべりしながら石造りの通路を歩いて行く。

 途中にある、一つの扉の前を通ったとき、金色乙女の四人が急に意識を失ってその場に倒れ込んだ。

 扉が静かに開くと、四人の男が気配を殺しながらすっと飛びだして、四人を抱えて小部屋に運び込む。

 一人の男が周りを見回して目撃者がいないことを確認し、小部屋に入っていく。

 廊下には外の人々の歓声のみ響き渡っていた。

――――。

 俺とサクラは聖女様を護衛するため、馬車の準備をしている。

 まもなくノルンたちと一緒に聖女様が出てくる手はずになっている。

 馬車の馭者台に上り、聖女様の来るのを待つ。

 その時、サクラがどこかを見ていることに気がついた。

 「どうした?」

と声をかけると、サクラが言いにくそうに、

 「いや、それが、あれが気になってるんですよ」

と指を差した。

 その方向を見ると、コロッセウムの裏口で、荷運びの馬車に大きな木箱を載せている悪徳冒険者チームの轟雷と何人かの男の姿だ。

 ナビゲーションによれば、どれも犯罪歴がついていて、まっとうな奴らじゃないことがわかる。

 「……奴ら、何か企んでいるな」

とつぶやくが、馬車にはウルクンツル帝国貴族のものと思われる紋章が掲げられていて手出しができない。

 だが、虫の知らせというか、確かに妙に気にかかるな。

 「サクラ。こっそりと奴らを追いかけて、あの木箱を確認してくれ」

と命じると、サクラが、

 「オッケーです。マスター」

と言い、猫の姿に戻って奴らの馬車の方へと歩いて行った。

 聖女様が来たので、俺たちは俺たちで教会に向かった。

――――。

 ゆっくりと進んでいる馬車の周りに、轟雷や見知らぬ男たちが護衛をしながら歩いている。御者はローブを着た家令らしき男だ。

 しかし、人混みの中を突っ切るように進んでいるので、護衛の男たちが油断したすきにひょいっと荷台に潜り込んだ。

 中には大きな木箱が四つ。そのほか、酒樽などが積んであった。

 こっそりと外から見えないように人型に戻り、箱の釘をゆるめて中を確かめた。

 (なるほど。そういうわけね)

 中には意識を失っている金色乙女のクリスが入っていた。

 証拠として、クリスの髪の毛と短剣を取りだし、ジュンに念話を送る。

 (マスター! 緊急事態です)

 ちょうど教会に到着したところで、サクラからの念話が届いた。

 (……わかった。そのまま付いていてくれ)

 サクラへ念話を送ると、俺はみんなに、

 「金色乙女がさらわれた。どうやら相手はウルクンツルの貴族のようだ」

 ちょうど一緒にいた大司教様が驚いて、

 「そ、それは本当のことかね? 紋章は見たかい?」

と言うので、紋章を紙に書いてみせると大司教様はう~んと考え込んだ。

 「ジロンド・デストン子爵ですか。……確かに良くない噂があるにはあるのですが」

 聖女様が、

 「だけど、冒険者がさらわれた程度だと騎士団も動かないでしょ?」

 「しかしですな。ここはウルクンツルです。みなさんのようなエストリア所嘱の方が表立って行動すると、ちょっと問題がありますね」

 大司教様の言うこともわかる。ならば、

 「わかりました。では、ばれないようにやりましょう」

 そういうと、大司教様は俺を見て、

 「できますか?」

 「ええ。……では、みんな行くぞ。屋敷に運び込まれる前に勝負だ」

 俺たちは教会を出発した。