12-1 剣聖の死

 空を覆うどす黒い雲から降りつづける雨が、大地を、建物を、激しく打ちつづけている。時おり、薄闇を切り裂くように閃光が走り、雷の音がゴロゴロと鳴り響いていた。

 激しい風の音を切り裂くように不意に角笛の音が通り抜けた。

「下がれ! 撤退だ!」

 雨に打たれ泥だらけになりながらも、迫り来る黒騎士と戦っていた騎士団。ウルクンツルの誇るフェンリル・ブレイブナイツが一隊、〝|双剣《ダブル》〟のバルバネスの率いる双剣隊が撤退をはじめる。

 敵の黒騎士たちが1人でも多くの騎士を討ち取ろうと迫るが、そこへ城壁から放たれた何種類もの攻撃魔法、カタパルトで射出された砲弾によって阻まれた。
 しんがりを務めていたバルバネスは背後の様子を気にしながら門をくぐり、即座に鉄格子と大扉が落とされる。それでも3人の黒騎士たちが侵入を果たしたが、内側に待機していた帝国騎士によってすぐさま討ち取られ、その身体を黒い霞に変えていった。

 肩で息をしている騎士たちが警固の騎士たちの案内にしたがい、疲れた体を引きずるように待機場所へと歩いて行く。息を整えながらもその姿を見るバルバネスの目には、いつもの軽妙な様子はない。

 その時バルバネスに、外壁の上から声が掛けられた。

「よくやった。バルバネス!」
 兜を脱いだバルバネスが顔を上げ、
「だがよ。団長! このままじゃ、じり貧だ」
と声を張り上げた。
 その顔に泥混じりの濡れた髪がべったりと張り付いている。
 上から声を掛けたのは、フェンリルナイツ騎士団長のザルバック、世界で唯一の剣聖の称号を持つ最強の騎士だった。

 いいから上がってこいという指示に従って、城壁沿いの階段をのぼっていくバルバネス。その姿を確認してから、ザルバックは再び城壁の外に視線を移した。

 ここは帝都ウルクンツル。
 かつて東部砦で戦った漆黒の騎士と魔物たちが、あの時以上の数で押し寄せ、とうとうここまで追い込まれてしまったのだ。

「厳しいな。……だが、攻め手を緩めるわけにはゆかん」

 銅鑼が鳴り、攻撃隊のうちいくつかが控えの組と交代する。剣聖の背後に広がる帝都は、建物こそ並んでいるものの、がらんとしていて人の気配がなく広大な廃墟のようになっていた。

 攻め手を緩めるわけにはいかない。何故ならば、帝国の臣民はすでに皇太子夫妻とともに帝都を脱出し、エストリア王国に向かっているからだ。
 できるだけ多くの敵を、できるだけ長く、ここに引きつけねばならない。
 ここに残っている騎士たちは、誰もが同じ使命を持ち、そして死ぬ覚悟はできていた。士気は充分にあるし、幸いに備蓄も充分すぎるほどある。

 ――そう易々とやられはしない。

 少しでも長く、自分たちが生き延びて戦い続ければ、それだけエストリアに向かっている自分の家族たちが守られるのだ。

 再び眼下に広がる敵の黒騎士たちを見る。ザルバックは何かを探るように神経を研ぎ澄ましていく。誰が指揮を執っているのか、つまり一番強い奴はどこにいるのかを探っているのだ。

「……そこか。大将は」
 感知した途端、背筋に冷や水を浴びせられたような悪寒が走る。と同時に、闘志がこみ上げてきた。ザルバックはまごうことなき戦闘狂でもあった。

 思いのほか、敵軍の中でも前線に近い位置で佇んでいる一際大きな全身鎧の騎士。
 その騎士は、見つけられなかったのが不自然なくらいの異様な空気をまとっていた。ザルバックは名前を知らなかったが、それは天災の1人ゴルダンだった。

 いかにして奴を討つか。

 その時、ザルバックの視線を感じたのか、ゴルダンが背中の大剣をばっと抜くと、まっすぐザルバックの方向へと突き出した。
 それを見てザルバックはにやりと嗤った。「向こうもやる気か。はは。こりゃいい」

 もし1対1の決闘が叶うのならば、願ったりだ。

◇◇◇◇
 ウルクンツル帝国からエストリア王国へ抜けるには、国境の街イストからヴァージ大森林を縦断する街道を使わねばならない。

 帝都を脱出した皇太子カール・パルス・ウルクンツルと、その妻にしてエストリア王国の第一王女だったセシリアは、人々の先頭にたって国境の町イストを目指していた。

 周囲には皇族の護衛としてフェンリル・ブレイブナイツの三銃士が1人、|紅騎士《クリムゾン》〝|剣《ソード》〟ミスカ・レイナードが控えている。
 皇太子夫妻に続いてカールの妹トリス・パルシット・ウルクンツル、そして、貴族たちの馬車、臣民たちと続き、長い長い列となっていた。

 避難民の周りには、人々を守るために筆頭騎士団のフェンリル・ブレイブナイツや帝国騎士団が配置されており、一番最後尾には白騎士〝|戈《ハルバード》〟オルランド・ザントワースと〝|槍《ランス》〟コーネリア・ザントワースの率いる2隊がいた。
 さらに前後左右の広範囲に、ミュート・ドルトー率いる〝|弓《ボウ》〟隊が斥候を放っており、魔物を察知したらすぐさま工兵隊が防御陣地を形成し、遅滞戦闘を行いながら臣民を避難させる手はずになっている。

 皇太子カールは馬車の窓を開け、後ろに延々と続いている人々の列を見た。
 一刻も早くイストに、そして、ヴァージ大森林の街道を抜けてエストリアに脱出しなければならないが、このスピードではいつ黒騎士たちに追いつかれるかわからない。
 一刻も早くという焦りがつのるが、今は帝都で陽動戦を行っている騎士たちを信じるほかはなかった。

 東部のコランダ領に再び黒騎士と魔物の大群が現れた時点で、国内の警戒レベルを上げていたが、前回は防いだ東部砦があっというまに陥落し、ただちに帝国中部西部にも避難指示が出されたのだった。
 ここにいるのは帝都の臣民である。ほかの東部・中部・西部に住む国民たちにも避難指示が出ているが、彼らが今どのようにしているかはわからない。

 空が紫色に一変したあの大異変の日を境にして、まるで世界の終わりが迫りつつあるかのような状況。
 いったい何が起きているのか。なぜこんなことになったのか。

 皇帝に後を託された者として、じくじたる思いにカールは唇をかみしめた。苦悩に力がこもっているその手に、セシリアがやさしく自らの手を重ねる。
「カール……。考えてもどうにもならないことはあるわ。今はとにかく脱出することを考えましょう」
「わかっている」

 そう、わかっている。いざとなれば、臣民を捨て置いてでも自分たちは生き延びねばならないと。
 血を絶やしてはならない。それがブラフマーギリー帝国の血を引くウルクンツル帝国の帝室に定められた鉄の掟だ。帝国の血を引く皇室。その誇りは皇室をいただく国民の1人ひとりにも行き渡っており、その血と強力なフェンリル騎士団の存在が熱狂的な支持を受けているのだ。

 だからそう、父である第55代皇帝デードリッヒも、自らは2人の妻とともに帝都に残ることを決めたかわりに、カールたちには是が非でも生き延びてエストリア王国に行くことを厳命していたのだ。

 ――カール。私たちは帝都と運命をともにする。お前たちは何としてもエストリア王国へ行け。決して我が帝室の血を絶やすな。

 そうカールに命じた父の表情も左右に控える正妃と側妃の表情も、不思議な穏やかさをたたえていた。それは迫り来る死を受け入れた者のそれだった。

 ――ふはは。なんだその顔は。帝都はそう簡単には落ちぬ。ここにはザルバックの奴も残るからな。
 ――あなたたちは安心してエストリアに行きなさい。
 ――カール様。トリスをよろしくお願いします。

 馬車の窓を通してみる外の風景。行く先もまた暗雲が立ちこめている。
 不吉な予感がする。しかし、決して諦めるわけにはいかない。カールは拳を難く握り、ただただトリスティア神に祈らずにはいられなかった。

◇◇◇◇
 帝都の防壁に接近した身長10メートルほどの巨人が、その手にした棍棒を振り下ろそうとしたとき、防壁上に設置されていた魔導大砲が火を噴いた。

 巨大な顔が爆発に飲みこまれ、そのままズズンと後ろに倒れた巨人が地面に溶けるように姿を消す。
 倒した魔物はこうして姿を消し、死体は残らない。そのことから、この黒騎士を含めた軍勢そのものが、何らかの儀式か魔法によって召喚された魔法生物と見られている。

 もう防衛戦がはじまってからどれくらいの時間が経ったろうか。
 騎士も兵士も交代で戦い続けているが、誰の顔にも疲労の色が濃く限界が近いことをうかがわせていた。

 閉ざされた城門の内側で、馬用の特殊な防具に身を包んだ巨大な愛馬に、聖鎧を身につけた剣聖ザルバックが跨がっている。
 その背後には、ザルバックが手ずから鍛え上げた精鋭中の精鋭。フェンリル・ブレイブナイツの双剣隊と棍棒隊の面々が静かに待機していた。

 味方の増援の見込みがない防衛戦である。しかも敵である黒騎士たちは倒しても倒しても湧いて出てきて、一瞬たりとも攻撃の手がゆるめる気配はない。

 これは人ではない。召喚されたなにか、または魔法で作られたなにかである。
 となれば、この場にいる敵軍の大将らしき全身鎧の男を倒せば、その他の黒騎士も魔物も消滅、あるいは撤退する可能性が高い。
 様々な状況からそう判断し、まだ余力のあるうちに勝負を決めようとしているのだ。

 ザルバックが騎乗した騎士たちに振り返った。
「世界最強の騎士は誰だ?」
「ザルバック・リュミニオン殿であります」
「ならば、ここにいるお前たちはなんだ?」
「世界最強の騎士団であります!」
「今、外にいる奴らはなんだ?」
「ワラワラとわき出る黒いゴミ虫であります」
「そうだ! 諸君! ゴミ虫だ! だがな無限に湧いてくる厄介なゴミ虫だ。……ボスを叩きつぶす。一番でかい黒いゴミ虫をつぶす。そのことだけを考えろ!」
「「おお!」」
「行くぞ! フェンリル・ブレイブナイツ。出陣!」

 ザルバックの気合いの入った出陣宣言と同時に、彼の全身から闘気がゆらりと立ち上った。
 それに呼応するかのように、防壁の上部から魔法の集中攻撃が城門前に放たれ、さらに巧みにコントロールされたカタパルトや魔導大砲によって、ザルバックが狙っているゴルダンまでまっすぐに道を作るように攻撃が加えられていく。

 城門の内側にいるザルバックにもその激しい攻撃の音が聞こえてきた。
 門扉を開ける役目の騎士たちが上からザルバックを見下ろしている。ザルバックは彼らに向かって黙ってうなずいた。

 開いていく城門。その向こうの光景が見えた途端、ザルバックが剣に闘気をのせて振り下ろした。
 剣先から放たれた闘気が、空いたすき間を通り抜け、さらにむこうに群がる敵を切り裂きながら進んでいく。剣聖の闘気剣。それをこうし矢にして、そのすぐ後を追いかけるようにザルバックたちが馬を駆った。

 漆黒の海を切り開く一本の道ができた。黒騎士たちが行く手を遮ろうとするが、ザルバックの剣が振られるや、|真空の衝撃波《ソニック・ブーム》が一度に10人も20人もなぎ払う。さらに後続の騎士たちに攻撃を加えようとしても、その要所に配置された黒騎士・双剣のバルバネスの剣が、また棍棒隊隊長のガンロックの持つメイスから大砲のような魔力弾が放たれ、迎え撃つ。

 フェンリル騎士団の隊長クラスが装備している武器はどれもが大破壊前からの伝わる強力な武具で、まさに他とはケタが違う威力を秘めていた。
 騎士団の通り道から、いくつもの光弾や衝撃波に吹き飛ばされる漆黒の鎧と魔物たち。
 一本の矢のように突き進み、とうとう剣聖ひきいるフェンリルナイツのその先端が天災ゴルダンの元に届いた。

 馬の上から飛び上がったザルバックが、上から一気にゴルダンに斬りかかった。
 たっぷりと遠心力のかかった一撃だが、それをゴルダンは自らの大剣を掲げて真っ正面から受け止める。
 ぎゃりぎゃりと音を立てながらも互いに一歩も譲らない。至近距離でザルバックと、兜越しのゴルダンの視線がぶつかり合った。

「はは、ははははは。来たな! 剣聖」
「会いたかったぜ! お前みたいな奴とよ」

 反動を付けて距離を取る両者。今度はゴルダンが一気にザルバックに迫る。振り下ろされた大剣をザルバックが受け止める。
 しかし、ザルバックは力比べに入らずに、すぐにゴルダンの腹を蹴って距離を取った。

 大剣から左手を離して、ひらひらと振るザルバック。
「ひやっとしたぜ。まさか衝撃剣とはな」
 ゴルダンは追撃をすることなく、自らの剣を肩にのせた。
「貴様も返してきたじゃないか。……誇りな。俺が技を返されたのは指で数えるくらいしかないぜ」

「へっ。そいつはどうも!」
 ザルバックの身体がぶれ、8つ身の実体ある分身となり、うち6人がゴルダンに襲いかかる。控えとして2人のザルバックが、その両手の剣を振り下ろすと、そこから巨大な闘気剣の衝撃波がゴルダンめがけてのびていった。

 衝撃波と6人分身による突撃攻撃。剣聖ならではの集中攻撃だが、その一つ一つをゴルダンはひらり、ひらりと交わしながら分身体に攻撃を加えていく。
 切られた分身が消え去り、残り3人目となったところですべての分身が消え、再び1人のザルバックとなった。

 しかし攻撃をしのいだと思われたゴルダンの兜が、ピシッと2つに割れた。その下からは黒髪の精悍な男の顔が現れる。
「案外、普通の顔だな」
「そうか? ナイスガイだろ?」

 だが、平然と立っているゴルダンを見て、ザルバックは唇の端をわずかに上げた。

 ――こいつ。俺より強え。

 だが、それがいい。生死の境で戦うことこそザルバックの欲することだ。
 ……ただ、そう。
 帝都で防衛戦を繰り広げている仲間や、帝城で最後の時を待っている皇帝陛下には、悪いと思うが、それでもこいつを倒せば少なくとも戦況はこっちが有利となるだろう。

 剣を構えなおす。
「行くぜ」「来い!」

 再び剣と剣をぶつけ合う2人。戦いは激しさを増していき、その戦いの余波で黒騎士も、魔物も近寄れなくなった。
 フェンリル騎士団は、ザルバックから撤退命令が出たが、それでもその戦いを支援しようと残り続けて周囲の敵と戦い、やがて1人、2人と倒れ、光の玉となって空へと飛んでいった。

 やがて、一番激しく戦っているはずのザルバックだけが残った。バルバネスも、ガンロックもやられてしまった。

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 激しく息を切らせるザルバックに、対峙するゴルダンは当然のように平然としている。
だが、その口から出る言葉は賞賛に満ちたものであった。

「まさか人の身でそこまで強くなるとはな。超帝国の騎士どもとも戦ったが、あの時代の剣聖にも劣らないぜ」

「はは、超帝国の騎士ときたか」

 息を整えながらもザルバックは笑った。

 こりゃあ、俺たちの|埒外《らちがい》の存在だ。強いわけだぜ。
 むしろここまで細かいキズで済んでいるのが不思議なくらいだ。
 ……やはり、勝てないな。俺では。どうあがいても。

 こうして息を整えていられるのも、相手がまだ自分と殺し合いたがっているからだ。しかしそれは、それだけの力の差があるということを意味している。向こうはまだ手を抜く余裕があるのだ。

 ザルバックはちらりと帝都の方角を見た。

 すみません。陛下。

 自分が負けては、もはや守り切ることは難しいだろう。|乾坤一擲《けんこんいってき》の賭けは自分たちの負けになりそうだ。
 だが――。

 ザルバックはスッと短く息を止めると、おそらく最後になるだろう気力を奮い立たせた。
 静かに息を吐いたときには、あれだけ乱れていた呼吸が平静に戻っていた。

 うれしそうに笑っているゴルダンを見て、自らも笑みを浮かべる。
 おそらく相手もわかっているはずだ。次が最後の打ち合いだと。

 悔しいことに自分は勝てない。絶対に。
 ……それでも、意地を見せてやる。剣聖の、人間の意地を!

「はあぁぁぁぁぁぁ!」
 闘気がみなぎり、それに呼応するように天地にただよう魔素がザルバックに吸い寄せられていく。
 取り込まれた魔素が丹田に集められて魔力となり、そこから渦巻き状に身体の中を駆け巡る。
 ゴルダンは気負う様子もなく剣を構えた。

 これが最後だ。もってくれよ。俺の身体――。

 ザルバックが再び8つ身分身となり、一気にゴルダンに迫った。
「またその技か」
とゴルダンが、一番先頭のザルバックを切り捨てようと剣を振り下ろしたが、その剣はあっさりと受け流された。
 目を丸くするゴルダンを見て、四方八方から分身たちが斬りかかっていく。
 そう。一番先頭のザルバックが本体だったのだ。

 分身たちが幾重にも切りかかっている、今度はその後ろに回ったザルバックの斬撃が、わずかにゴルダンの膝に当たった。

 ――ここだ。

「ぬ?」
「うおおぉぉぉぉ」

 技も何もない。ただの突き。だがそれが剣聖ザルバックの生涯最高の一撃だった。
 ゴルダンがその突きを上へ受け流そうと、剣で受け止める。しかし、その突きの勢いは止まらない。
 気が付くとゴルダンも声を上げていた。「ぬおぉぉぉ」と。

 剣聖の突きはゴルダンの頬に一筋の傷をつける。しかし、剣聖の攻撃はそこまでだった。 次の瞬間、ゴルダンの切り下ろしがザルバックの身体を切り裂いた。

 ……ここまでか。
 ザルバックは最後にそうつぶやくと、光の球となる。そのまま空へとまっすぐに昇っていった。

 ゴルダンはそれを最後まで見送りつづけ、小さくつぶやいた。
「見事だ。剣聖」

◇◇◇◇
 防壁に護られた帝城の一番最上階では、ウルクンツル帝国の皇帝デードリッヒが、正妃キャロラインと側妃ルシーダとともに、眼下に広がる帝都、そして、その外側でいまだに戦いを続けている防壁を見つめていた。

 やがて1つの光球が空へと昇っていき、それと入れ替わるかのように、雲に切れ目が生まれ、そこから巨大な眼がすき間を覗いているかのように顕現した。

「どうやら、あれが邪神とやらのようだな。ザルバックは逝ったか」
「陛下……」

 デードリッヒは2人の后の腰に手を回し、3人ともにその巨大な眼を見上げていた。

 ルシーダが心配そうに、
「殿下たちは無事に脱出できたでしょうか?」
と言うと、デードリッヒは笑って応える。
「あの3人ならうまくやるだろう」
 キャロラインも微笑んで、
「そうですわね。……ルシーダ。心配ないわよ」
と言うと、ルシーダもうなずいた。

 その時、空に現れた巨大な眼から一直線に大地に突き刺さるように光の柱が生まれた。
 ゴゴゴゴと大気の振動が伝わってくる。
 見る見るうちにその光の柱が膨らみ、やがて光の波となって帝都を飲みこみ、どんどん押し寄せてきた。

 ギュッと固く抱きしめあう皇帝たち。最後にデードリッヒが迫り来る光を前に、
「さらば帝国。だが、人の世は終わらぬぞ」
とつぶやき、次の瞬間、何もかもが光に飲み込まれていった。