11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 地割れと瓦礫だらけの競技場の出口に向かって歩いていると、俺たちを影が包んだ。

 頭上を見上げると、そこには一匹のドラゴン。――風竜王タイフーンがホバリングしていた。

 ゾディアック・クルセイダーズたちが慌てて武器を構えようとするが、レオンが手を横に払うと武器を納めて居住まいを正した。

 シエラがタイフーンに向かって跪いたので、俺たちもそれにならう。見上げると、タイフーンが俺を真っ直ぐに見つめている。

「シエラは無事に届けました。……竜王の騎士シエラよ。そなたは初歩の力の使い方を学んだにすぎないのです。精進しなさい。」

 シエラがタイフーンに向かって跪く。「タイフーン様。ありがとうございました。仰せのようにこれからも励みます。」

「ふふふ。シエラ。各地の竜王たちを訪ねなさい。教えを請い。認められれば更なる力を得ることができるでしょう。」

「はい。タイフーン様。」

「また会いましょう。竜王の因子を発現した娘よ。その愛する殿方よ。仲間たちよ。」

 風竜王タイフーンはそういうと、真っ直ぐに空を駆け上がっていった。

 俺たちはそれを見送ると立ち上がる。俺はシエラに話しかけた。

「シエラ。竜王の騎士だって?」

 シエラが少し恥ずかしそうにしている。

「はい。ジュンさん。……竜王様に直々に修行をつけられましたので、竜王の騎士を名乗ることを許されたんですよ。えへへ。」

「へぇ。すごいな。」

 俺はそう言いながらシエラのステータスを確認した。

―ステータス―

  シエラ・リキッド

  種族:ドラゴニュート(女)

  年齢:21才

  職業:竜王の騎士

  加護:神竜王の加護、風竜王の加護

  称号:ジュン・ハルノの婚約者

  レベル:250

  能力:ブレス、金剛力、竜闘気

  スキル:盾術レベル6、剣術レベル5、体術レベル5、槍術レベル5

 おお!職業が竜騎士から変わっているし、竜闘気の能力が増えている。いくつかの能力が統合されているようだしスキルも強化されている。なんといってもレベルが一気に上昇している。……ていうか、どんだけハードな修行だったんだろう。

 俺はシエラの頭を撫でてやった。「よく頑張ったな。」

 えへへと笑うシエラだったが、さっきまで竜王の来臨でなかば呆然としてた騎士たちが生暖かい目で俺たちを見ていた。

 あれから俺たちは学園長室に連れて行かれた。

 ザフィール学園長が決勝戦からの経緯を説明してくれていたので、俺からは説明することはほとんどなかった。助かったぜ。

 説明が終わって、レオン騎士団長からクルセイダーズへのお誘いをいただいたが、それは丁重にお断りした。なぜかって?みんなと世界を自由に見て回りたいし、騎士団のように堅苦しいはごめんだからさ。

 シャルロット副団長から、後日、王宮へ呼び出されるのはほぼ確実だろうと言われた。なんでも今回の事件の活躍から国王から報賞が出るだろうとのこと。……正直にいって、礼儀作法などわからないのでお断りしたい。が、今後もエストリアに本拠をおいて活動するならば断れないし、謁見の栄を賜るのも悪くはないだろう。

 宿泊先の宿を確認してようやく解放された。建物から外に出る頃にはもはや日が暮れていたが、獣王ティガロさんと一緒にカレンとチータが待ち受けていた。

 俺の姿を確認したのだろう。カレンとチータの二人が神妙な表情でやってきた。

「うん?どうした?二人とも。」

 俺が声を掛けると二人は俺たちの前で跪いた。カレンが頭を上げた。

「ジュンさま。麒麟の霊水を探していただいた上に、このたびは命を助けていただき本当に感謝申し上げます。この御恩は、私の一生を捧げてお返しいたします。」

 そういって真剣な目で俺をまっすぐに見つめてきた。

「カレン、チータ。二人とも立ってくれ。それでは話しにくいよ。」

 しかし、二人は跪いたままで俺を見上げている。俺は咳払いを一つついた。

「コホン。……俺がお前たちを助けるのは当たり前だよ。その気持ちだけで充分さ。」

 そこまで話した時に、後ろからティガロ殿が前に進み出てきた。ティガロ殿は右手で拳を握り、自分の左胸に当てた。

「ジュン殿。私からもお礼を申し上げますぞ。ありがとうございます。さすがはカレン様が見初められたお方ですな。」

 そういってにっこりと笑みを浮かべた。さてさて、どうしてもお礼をしたいということのようだな。

「ティガロ殿。当たり前のことをしたまでのこと。……ですが、それでは皆さんの気持ちが収まらない様子。ならばそのお礼を謹んでお受けいたしましょう。」

「おお!ありがとうございます。」

 ティガロ殿の言葉を聞きながら、俺はカレンとチータの方を向く。

「ただし、麒麟の霊水はサクラが手に入れたものだから、お礼はサクラにしてくれ。それに掟のあるカレンはともかく、チータに一生とかいわれても困るよ。だから、チータには代わりにゾヒテの案内をお願いしたいな。」

 俺の言葉に、ティガロ殿が急にがははと笑い出す。

「ジュン殿。我らは強者を信奉しまする。ゾヒテは皆さんを歓迎申し上げますぞ。……それにカレン様とのことの報告もありますので、むしろ我々が皆さんをご招待せねばならないでしょう。」

 そういうと、ティガロ殿はカレンとチータと立ち上がらせ、再び俺の方を向く。

「是非とも、二人の卒業式が終わった後は、ゾヒテにお越し下さい。」

「ティガロ殿。よろしくお願いします。……みんなもゾヒテに行ってみたい様子。お世話になります。」

 みんなの表情を見てそういうと、ティガロ殿は笑顔で頷いた。

「さあ、そうと決まれば、いかがかな?これから一緒に食事でも。」

 どうやら競技場の方は、騎士団と学園の教師とで調査が行われており、俺たちがすべきことは何も無さそうだ。それならばティガロ殿のお誘いに乗ろう。

 そうして、俺たちはティガロ殿ら三人を連れて学園近くの酒場に入っていった。

 さて卒業式後の二人だが、カレンはすぐに俺についてくるとのことで、今までカレンの護衛をしていたチータはティガロ殿と一緒にゾヒテに戻るとのこと。どうやら先に戻って俺たちの訪問の準備をしてくれるそうだ。

 ……なんだか申し訳けないが、楽しみでもある。エストリア国王に謁見をすると、俺たちを囲い込もうとする貴族たちがいるかもしれないから、ほとぼりがさめるまでゾヒテに行くのもいいのかもしれない。

 みんなも、どうやらゾヒテに行くのを楽しみにしているようだ。

 ティガロ殿の武勇伝を聞きながら、俺たちは楽しい酒を飲んだ。

 「――卒業生代表 カレン。」

 壇上でカレンが堂々と謝辞を述べた。8組から代表謝辞を行うのは、学園創立以来で初めてのことらしく、みんなはとても喜んでいた。……まあ、カレンの本当の出自を考えれば、他国の王族に当たるのだから充分に資格があるといえよう。

 あれから一週間。競技場はいまだに修復中であるが、卒業式自体は講堂なので問題なく執行された。

 今日でノルンの臨時講師も最後。卒業式には本来の先生も列席し、ともに生徒の卒業を祝っている。

 俺たちは、式の前に教室ですでに御祝いの言葉を贈っている。卒業後は、それぞれの進路に進む彼らだが、きっとまた会うこともあろう。その時に胸を張っていられるように、俺たちも彼らに恥じないように頑張ろう。

 ――余談だが、卒業式に列席するっていうことで全員分のフォーマルを揃えるはめになった。そのせいで貯蓄がほとんど服代で飛んで行ってしまった。

 ゾヒテへは、向こうの招待ということで費用の心配は無いが、近いうちに依頼を受けて稼がないと大変なことになりそうだ。

 式が終わり、しばらくお世話になった学園の門の外で、カレンたちを待つ。

 門の側には卒業生を祝福するように、桜によく似た木が美しい花を咲かせ、風が春を運んでいた。

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

「あらら?」

 気の抜けたシエラの声を聞き、その視線の先を辿ると、赤く変色していたベヒモスの体色がもとの色に戻り、全身から霞が立ち上るように消えていくところだった。

 どうやらシエラの攻撃がベヒモスを打ち倒す最後の一撃になったようだ。

 俺はシエラに近寄って抱きしめてやった。

「お帰り。シエラ。」

 黄金色のオーラを放っていたシエラから光が消えていく。シエラはおずおずと俺の背中に手を回し、ほほを染めて俺を見つめた。「えへへ。ただ今です。」

「シーエラちゃん!お帰り!」

 陽気な声とともにサクラが飛び込んできてシエラに抱きついた。少し離れたところからはノルンとヘレンが笑顔で見つめている。

 包容を解くと、シエラは首にしがみつくサクラを連れたまま、ノルン、ヘレンの順番にハグしていった。

「お帰り。シエラ。」「はい。ただ今です。ノルンさん。」

「もう。いいところを持って行ったわね。」「あはは。ただ今です。」

 ハグをし終えたシエラが、改めて俺の方を向いた。

 う~ん。修行の成果か。存在の密度が上がっているというか。内に秘めた力の波動を感じるような気がする。

「あれ?シエラ。神竜の盾は?」

 いつも背中に背負っていた大盾がなくなり、代わりに両腕に台形の盾が装着されている。

「ジュンさん。これですよ。これ。……この二つが神竜の盾です。」

 そういってシエラが二つの盾を掲げてみせる。……へっ?二つ?

 目を丸くしている俺を見て、シエラがにこやかに笑っている。

「神竜の盾バージョン2です。タイフーン様との特訓で神竜の盾の第二形態を引き出すことができるようになったんです。」

 ノルンがシエラのそばに行って、しげしげと二つの盾を眺める。

「へえ。確かに前の盾より力を感じるわ。……シエラ。あなた、頑張ったのね。」

 シエラが嬉しそうだ。「えへへ。」

 それにしても第二形態で二つに分裂って……謎だ。

 その時、ベヒモスの消滅を見守っていたゾディアック・クルセイダーズの騎士たちが、おそるおそる俺たちの方へとやってきた。

 レオンが代表して俺に話しかける。

「さっきのも君の仲間かい?……お陰であの怪物も無事に討伐できたようだ。礼を言おう。」

 その隣のシャルロットさんが進み出てきた。

「私も感謝するわ。だけど、いろいろ話を聞かせてくれるかしら?」

 そうだよな。騎士団にしてみればいきなり召喚されて、来てみたら俺たちが見せ場を取っちゃったもんな。

 その時。ザフィール学園長がやってきた。

「団長。それにみんな。来てくれて有り難うよ。いろいろと思うところはあるだろうが、そいつらの身元は俺が保証する。……話なら学園長室を用意する。討伐の英雄をこんなところに立たせとくわけにもいかんだろ。」

 ざっくばらんなザフィールの言葉にシャルロットさんがクールに返事をした。

「そうえばあなたが私たちを呼んだんだったわね。……ちゃんと最初っから説明して貰うわよ。」

 その脇でレオンが腕組みをしてうんうんと頷いている。不意に俺と目が合った。

「いやぁ。それにしても、君。美人ばっかり引き連れているね。うらやましい。」

 次の瞬間。シャルロットさんがレオンさんの足を後ろから蹴っ飛ばしていた。

「レ―オ―ン!」

 それを見て他の騎士たちが笑っていた。

――――少し前。

 はね飛ばされた俺は気を失っていた。

 次に目を開けると、そこにはあこがれのゾディアック・クルセイダーズの隊長たちが勢揃いで、黒い巨躯の騎士と巨獣と戦っていた。

 きしむ体に鞭を打って起き上がり、近くにアメリアとエルザがいるのを確認してほっとした。そのすぐ横に大きな虎が座っており慌てて距離を取ろうとしたが、その首にテイム獣であることを示す首輪があったので一安心した。

 観客の姿が見えないのでどうやら無事に避難したようだ。親父たちもきっと無事だろう。

 その時、俺の側にザフィール学園長がやってきた。

「レオナルド。あの戦いをよく見ておきなさい。……あそこでは冒険者とクルセイダーズの面々が戦っている。」

 その声に俺は足を踏ん張って立ち上がり、戦いの様子を見つめた。

 レオン騎士団長とシャルロット副団長が黒い騎士の一撃を受けてはね飛ばされた。黒い光が壁となって広がっていく。

 レオン団長が聖剣を地面に刺し、シャルロット副団長とともに両手を前に出して白い障壁を張る。黒い光の壁と白い障壁がぶつかり合う。

 その時、黒と白の光の壁の向こうに光の柱が立ち上り、さらに七色の光球が発生した。

 光の柱の消失と共に黒光の壁も溶けるように消えていく。

「……どうやら無事にゴルダンを撃破したようだな。いいかレオナルド。レオンたちは、あの黒い光の壁の侵攻を防ぐために障壁を張った。その向こうの光の柱。あれは戦っている冒険者のスキルだ。」

 さすがレオン団長たちだ。その力を目前で見られ、俺は自分のことのように誇らしく思った。だがそれ以上に衝撃だったのは、あの光の柱に見えた攻撃が冒険者のものだということだ。この場にいる冒険者など決まっている。あの男のパーティーだろう。

「あれがランクA冒険者の力……。」

 思わずつぶやいた俺の言葉を学園長は苦笑いしながら否定した。

「まさか。あれがランクAにおさまるわけがないだろう。……本当に。うちに欲しいくらいだ。」

 そういって学園長は戦いの続く競技場から俺の方へ視線を移した。

「そういえば……、8組のカレン嬢だがな。あの娘は単なるエルフではないぞ。森魔法の使い手だ。」

 その言葉に俺は、教鞭を執る先生の声が耳によみがえる。

「――みなさんもよく知るように、この世界の魔法は四大元素に基づく属性魔法のほか、光や闇、神聖魔法があります。しかし、さらに特定の種族だけが使える魔法というのもあります。人魚族の歌魔法、ハイエルフの森魔法です。もっともこれらの種族には滅多に会えませんし、ハイエルフに至ってはゾヒテの人々にとって神様と同じ扱いをされています。ま、こうした種族特有の魔法を見ることができれば幸運ですね。――」

 ふふふ。知らず俺は笑っていた。……まったく自分の見る目の無さが嫌になる。

「それならば……、負けたのは丁度良かった。」

 そういって下を向いてしまった俺の肩を誰かが優しく叩いた。見上げると学園長が俺をのぞき込んでいた。

「もっと世界を見なさい。自分の殻の中だけで判断してはいけない。……君は特にそれを心がけるべきだ。」

「……はい。先生。ありがとうございました。」

――――。

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

「エナジーバレット・ストローク。」

 ノルンの言葉と共に、12個のバチバチと放電する1メートルくらいの光球が出現し、その光球から小さな光が弾丸となって、ガトリング銃のようにゴルダンに襲いかかった。

 しかし、ゴルダンの全身を再び紫の光が覆うと、光の弾丸などないかのように大剣を構える。

「小細工はもう通じん!」

 ゴルダンの大剣に禍々しい力が集まり黒い瘴気を漂う。ふわっとゴルダンが10メートルくらいの空中に浮かんだ。

「イビル・ブラスト。」

 ゴルダンが無造作に大剣を縦に振り下ろすと、黒い瘴気がドラゴンブレスのように飛んできた。

 俺は咄嗟にノルンを抱えて横に飛びすさると、俺たちのいたところを黒い瘴気が通り過ぎていき、そのまま黒い光壁を突き抜け、競技場の障壁をも突き抜けて観客席を崩壊させた。

 幸いに破壊された観客席の方は避難が済んでいたようだ。

 観客席の方に気を取られている間に、ゴルダンは真っ直ぐに地面に降りてきて、大剣を地面に突き込んだ。大剣から空に向かって紫の光が立ち上り、周りの地面がピシピシとひび割れる。

「ぐはははは。これならどうだ?」

 すると、ゴルダンを中心として、地面が黒い魔力と共にものすごい勢いで吹き上げられていく。

 逃げ場のない攻撃にもかかわらず、ノルンが俺の前に踏み出ると、ハルバードで目の前の地面を軽く叩いた。するとそこから光の線が延びてきて、俺とノルンを囲む円を描く。

 崩壊の波は、俺とノルンを囲んだ円をのぞいて、黒い光壁の内側の地面を崩壊させた。

「ちぃ。だんだん無茶苦茶になってきたな。……ノルン、合わせてくれ。」

 俺はその場で分身三つ身となり、二身は閃光のように移動して、ゴルダンを中心とした三角形を描く。「これでもくらえっ。」

 閃駆して三方向からゴルダンに斬りかかる。ゴルダンはその場で再び宙に浮かんで攻撃を避ける。

 ゴルダンの足の下で俺と分身の剣が重なる。

「トリニティ・ブラスト!」

 その重なった剣をゴルダンに向かって切り上げる。三つの力が重なり合って、螺旋を描いて足下からゴルダンを飲み込んでいった。

 タイミングを合わせるようにゴルダンの前後左右に魔方陣が現れ、中央のゴルダンめがけて4属性の精霊力の込められた光弾が放たれた。「四大精霊陣キャトルクルール。」

 俺のトリニティブラストとノルンの四大精霊陣とが合わさり、ゴルダンが七色に光る光球に包まれる。空気がびりびりと振動している。

「ぐおおお――っ。」

 中からゴルダンの声がする。と、次の瞬間、光球からまばゆい光が放たれた。

 閃光のあとにはそこにはゴルダンの姿は欠片も見られなかった。

 どうやらゴルダンの張った黒い光壁の結界も消滅したようで、ゾディアック・クルセイダーズの聖剣使いとレイピア使いが、足下を気にしながらやってきた。

「ゾディアック・クルセイダーズ騎士団長のレオンだ。すまぬ。すべて君に任せてしまった。……奴はやったのか?」

 男の騎士がそういった時、ゴルダンの声が響いた。

「ぐははは。勝負は俺の負けだ。だが次はお前らを粉砕してやろう。……そいつは土産に置いていくぞ。ぐはははは。」

 どうやらギリギリで逃げたようだ。またしても逃したということだ。

 レオン団長の横の美しい女騎士が厳しい表情をしている。

「……なるほど。私はシャルロット。ヴァーゴ隊の隊長です。ですが、詳しい話は後にしましょう。あのベヒモスをやらないと王都が危険です。」

 俺とノルンは頷いた。「冒険者のジュンとノルンです。急ぎましょう。」

 ノルンがハルバードから地面に魔力を通す。「……では。かりそめの道を作ります。」

 割れて斜めになったりしている地面のなかで、俺たちのいるところからベヒモスのいる方角に向かって整地された道ができあがっていく。

 その道をレオン団長を先頭にして、俺たちは走り出した。

 ベヒモスはすでに競技エリアの障壁を破壊し、今は観客席を壊している。様々な破片が散らばっており、騎士団の連中も手こずっているようだ。

 そのなかでサクラが忍びらしく、縦横無尽に飛び交ってベヒモスに攻撃をしている。ヘレンは離れたところから魔法の鎖を巻き付けて拘束を試みながら、観客席の外側に結界を張りつつ強力な魔法の火弾をたたき込むという離れ業を演じていた。

 反対側の離れたところからは、黒い杖を構えた騎士が魔法が放っていた。

「ちぃ。あのでかさはやっかいだな。」

 先を走るレオンの呟きが聞こえてくる。「うちは魔法使いがザフィールとジョルジュくらいですから。」

 シャルロットが冷静に分析をしている。

 ヘレンの側まで来た。さてどうするか。正直に言ってベヒモスは図体がでかくて力は強大だが、言ってみればそれだけだ。となれば、俺たちはサポートに徹してできるだけ騎士団に任せるべきだろう。

 ノルンに相談しよう。

(ノルン。俺たちはサポートにしよう。……目立ちたくない。)

(わかったけど、もう充分に目立ってると思うわよ?)

 ノルン。それを言われるとぐうの音も出ないぞ。

とはいえ、俺たちは再びリミットをかけ光の衣を消した。

 ノルンをヘレンの側に配置し、俺はベヒモスの壊した障壁の切れ目から観客席に飛び上がり、サクラのサポートをする。

(サクラ。ゴルダンは逃げた。俺たちはサポートに回って騎士たちに任せよう。)

(はい!マスター。では結界で封じますね。)

 サクラは空高くクナイを投げると、そのクナイがベヒモスを囲む四方に突き刺さった。

 印を結ぶサクラが妖力と魔力を練り上げる。

「四神結界。五行陣!」

 クナイを頂点に四神結界がベヒモスを拘束する。この四神結界は拘束目的なので、こちらの攻撃は透過する。ヘレンの魔力鎖にサクラの四神結界。二つの拘束術式でさしものベヒモスも動きがとれなくなる。

「今だ!」

 レオンの号令のもとで騎士たちが四方からベヒモスにそれぞれスキル技をたたき込んだ。

 ある者は瞬時に百の斬撃を、ある者は強力無比な大斧の一撃、ある者は魔力剣など、その威力はゾディアック・クルセイダーズの高い能力を示している。明らかに他の騎士たちとは隔絶した攻撃と言えるだろう。

 なかでも騎士団長レオンの聖剣の攻撃と、副団長のシャルロットの魔法剣は強力だ。見る見るうちにベヒモスが弱っていく。

 ――ところがそれがトリガーだったのか。ゲームでよくあるようにある程度のダメージを与えると強化するのか、ベヒモスの体色が赤みを帯びていく。それと共に二本の角が帯電したようにスパークし、目の色が赤く輝きだした。

 「グゴアァァ!」

 雄叫びとともにベヒモスが体を起こすと、あっという間に魔力鎖も四神結界も破られた。

 ベヒモスが騎士たちの方を向いて口を開く。その奥に魔力が集中し輝き始める。……まさか、こいつもブレスを吐くのか?

「総員待避!」

 異変を察知したシャルロットが鋭く退避命令を出す。

 その時、キ―――ンという高周波の音が上から聞こえた。

 次の瞬間、黄金色に光る隕石が一直線にベヒモスの頭の命中し、ベヒモスが競技場側に仰向けに吹っ飛ばされた。

 すさまじい音と衝撃が空気を伝わる。地面が衝撃で割れ、土埃が舞い上がる。

 黄金色の流星はどうやらベヒモスの頭を打ち据えたようで、頭部を中心に球状に地面がえぐれている。

 黄金色の光が薄らぐとそれは人の形をしているのがわかった。その人形はふわっと空高くジャンプして俺のすぐ横に着地した。こいつは……。

「――ただいま戻りました!ジュンさん!」

 そこには黄金色の光りに包まれたシエラがいた。両腕に台形の盾をそれぞれ装着し、緑のオーラに包まれた槍を両手で構えている。

 俺とノルンたちの声が重なる。

「「「「シエラ!」」」」

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 通路から競技場に飛び込むと、倒れたカレンめがけてゴルダンが大剣を振り下ろそうとしていた。

封印術式リミット解放。真武覚醒。」

 小さく呟き、テラブレイドを抜きながら力を解放する。

 光の如き速度でゴルダンの前に立ちふさがった。

 大剣の一撃をテラブレイドで受け止める。

 すさまじい衝撃と剣圧がかかるが、身体強化を強めて押し返した。

 ゴルダンの目が驚愕に開かれている。

 剣と剣が拮抗する。俺の背後でカレンが気づいたのが感じられた。

 俺はゴルダンから目を離さずにニヤリと笑いながら、

「大丈夫か?カレン。……よく頑張ったな。」と声を掛けた。

 後ろから、カレンの小さい声が聞こえる。

「あ、あああ……。ジュン様。」

 すぐさま俺は仲間に指示を出す。

「サクラ!カレンたちを安全なところに!ヘレンは負傷者の様子を確認!……ノルン!いくぞ!」

「「ええ!」」「はい!」

 ゴルダンが飛びすさって、距離を取って着地する。

 俺たちを見て心底楽しそうに笑っている。

「はは……、はははは!面白いぞ!面白すぎるぞ、お前たち!さっきの一撃を受け止めるか!」

 俺は剣をゴルダンに突きつける。

「お前たち・・の目的は何だ?」

 その言葉にゴルダンの目が丸くなる。あごひげを撫でて俺を見ている。

「ほほう。お前は俺たちを知っているな?……ふむ。もしやピレトの言っていたアークであった冒険者とはお前らか?」

 ピレトの名前を聞いて猛り立ったのはヘレンだ。負傷者の様子を見に行くようにと言ったんだが、すぐさまノルンの隣に並んで、ゴルダンをにらみつけている。

「ピレトですって!どこにいるの!」

 ゴルダンは面白そうにヘレンを見て頷いている。「なるほど。どうやらそのようだな。」

 俺は油断せずにゴルダンの挙動を注視する。

「話は終わりだな……。少しでもお前らの目的を教えてもらうぞ!」

 俺がそういうとゴルダンが不敵に笑った。「はははは。やってみせろ!」

 ゴルダンの言葉が終わらないうちに、ノルンとヘレンが魔力を練っているのが感じられた。

 俺は拳に魔力を集めて拳打をラッシュする。こぶし大の圧縮した魔力の塊が弾幕となってゴルダンを襲う。

 周囲の地面をも穿ちつつ押し寄せる魔力弾に、ゴルダンは大剣を盾にして防いでいる。

「――。フレイム・ピラー。」

 ヘレンの詠唱が終わると、大剣を盾にしているゴルダンの足下にヒビが入ったと思うと、巨大な火柱が立ち上った。

 続いてノルンが作り出した五色の光球が火柱に包まれたゴルダンの周りを回る。光球を光りの線が繋ぎ五芒星を描き出すと、その内部に閃光が満ちた。

「ぐぬぬぬ……。」

 光りの中からゴルダンのうめく声が聞こえる。

 俺は、即座にゴルダンに踏み込む。テラブレイドの一撃を、しかしゴルダンは大剣で防いだ。

 無数の剣撃と剣撃とがぶつかり合う。凄まじい剣圧を伴ったゴルダンの一撃だが、リミッター解除の俺ならば充分に対抗できる。

 俺の袈裟切りの一撃をゴルダンは受け流すと、バックステップして力を貯めて横に大きく切り払ってきた。俺はその一撃を強化したテラブレイドで受け止め、剣と剣とがぶつかっている一点を基点に宙に飛び上がり、上から切り下ろした。ゴルダンはすぐさま後ろに飛びすさったが、その額に一筋の傷を与えた。

 血は流れることはないが、与えた傷が光を帯びている。ゴルダンは左手でその傷を抑えた。

「おお!俺様に傷をつけるとは!」

 こいつは……、脳筋だ。脳筋の天災だ。今まで出会った天災と根本的にどこか違う。なんだか調子が狂いそうだ。

 そのとき、競技場の周縁に魔力が吹き荒れた。

 貴族席の最前列にザフィール学園長が立っていて杖を天に掲げている。その隣には金色の立派な鎧に身を包んだ騎士の姿がある。

 突如、空に金色の魔方陣が次々と現れた。

 空に浮かび上がった十個の魔方陣から、地面に向かって光が柱のように現れ、その中からそれぞれ黄道十二星座を意匠とする金色の鎧を着た騎士たちが現れる。

 現れた十人の黄金の騎士。その中央の美壮年の騎士がおもむろに剣を天に捧げる。

「エストリア王国聖天十二宮騎士団ゾディアック・クルセイダーズ見参!……ゆくぞ!」

 宣言とともに十人の騎士たちから魔力の高まりを感じる。脇の女性騎士が素早く指示を出していく。

「先行して戦っている者がいます。ジャック、フェルディナンド、オーレリーは右!マリエンヌ、ベルナール、ジョルジュは左!残りはレオンに続け!」

「「「「おう!」」」」

 いらえと共に、騎士たちが走り込んでくる。

「ふむぅ。わらわらと……、面倒だな。」

 ゴルダンの方を向くと、ゴルダンはアゴをさすりながら迫り来るゾディアック・クルセイダーズを眺めていた。

「よし!telinoidowmoi……aboi ベヒモス。」

 ゴルダンが詠唱すると、その背後の地面から2本の角を備えた巨大な牛のような化け物がせり出してきた。体高は10メートル、筋肉質で紫色の毛で覆われて二本足で立っている。

 あんなのが暴れ出したら、この競技場はもとより王都が壊滅してしまう。

 巨獣ベヒモスは天を仰いで雄叫びをあげた。衝撃となって俺たちに降りかかってくる。

 騎士たちが、巨獣の出現を見て左右に分かれた六人が巨獣に向かって走って行く。俺もそれを見て、

「ヘレン。サクラ。向こうを頼む。」

「しょうがないわね!」「了解です。」

 ゴルダンは再び大剣を構える。そこへゾディアック・クルセイダーズの面々が走り込んできた。

「よくぞ!奴をここまで抑えた!感謝するぞ。」

 先頭の獅子の意匠の鎧を着た騎士が言った。騎士は剣を掲げる。

「輝け!聖剣デュランダル。」

 抜いた剣が白く光り輝き、騎士はゴルダンに斬りかかった。

 ゴルダンはその一撃を受け止めたが、剣に宿った光はそのままゴルダンに襲いかかる。

 目の前で、受け止めたはずの剣からほとばしる光に、ゴルダンは驚いて目を見開いたが、すぐにその全身を黒紫の光が覆った。

 ゴルダンを包む光を切り裂きながら、黒い大剣が現れる。レオンはゴルダンの切り上げを横にステップして避ける。そのあいた隙間に女騎士の構えたレイピアから魔法が放たれる。

「――。浄化せよ。聖光アンドゥリル!」

 輝く光の槍がゴルダンに襲いかかるが、真っ直ぐ振り下ろされた大剣によって切り裂かれてしまった。しかし、そのゴルダンの両脇を通り抜けながら、黄金の騎士たちが追撃を与える。

 囲まれたゴルダンであったが、面倒くさそうに舌打ちすると大剣に魔力を込めだした。

「邪魔な奴らよ。あやつとの殺し合いを邪魔するな!」

 ゴルダンは叫ぶとともに大剣を横にぐるっと一回転した。ゴルダンを中心に黒い光が壁になって放射状に広がっていく。

「マナバリア。」

 ノルンが俺とノルンを囲む結界を張ってくれたが、ゾディアック・クルセイダーズの騎士たちはその黒い光壁にはじき飛ばされていく。

 黒い光壁は一定の範囲まで広がると、その場に残り続ける。……一種の結界だ。中にはゴルダンと俺とノルンの三人のみ。

 ゴルダンは肩に大剣を載せると、俺を手招きした。

「さあ、さっきの続きをやろうぜ。」

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 ――得体が知れない。

 目の前の男を見て、その尋常ならざる力と雰囲気に私は背筋が寒くなった。レオナルドたちは倒れたままだが気を失っているようだ。おそらくアメリも。

 ということは、ここで動けるのは私とチータのみ。しかも刃の潰した武器で。

 チータが、暴壊の天災ゴルダンなる黒い騎士から護ろうと私の前に立ちふさがる。相手の実力を感じているのだろうか、後ろから見ると鳥肌が立っているのがわかる。

「チータ、無理はしないで。きっとすぐに騎士団がやってきてくれるはずよ。」

「はい。カレン様。ですがきっとお守りします。」

 その返事を聞いて、私の決意は固まった。もう能力を隠して戦うことは無理だ。私を護ると言ってくれたチータを失うわけにはいかない。

「精霊たちよ。聞け。今、我が身を縛る楔を抜かん。――。」

 我が身を精霊たちの力が包む。目の色が変わる。

「みんな、出てきて。……不思議な動物園ファンタスティック・ズー。」

 すぐ横の空間に窓が開き、向こうの草原から私の従獣がやってくる。「シルバ。ティス。グリム。みんなを避難させて。」

 私の指示に従って、銀狼のシルバ、大虎ティス、白熊グリムが散らばっていく。その様子をゴルダンは面白そうに見ていた。

 すぐさま私は次の言葉、森魔法のトリガーを引く。「ここは我が庭。精霊の森。――小さな私の精霊の森マイ・リトル・フォレスト

 私を中心に広い範囲の地面が光る。そこかしこから芽が出て、ぐんぐんと伸びて若木となり成木となり、大木となり巨木となっていく。空には枝が張って生い茂り、下生えの草たちが広がっていく。

 あっという間に私たちの周りが森となった。

「エルフィン・ボウ。」小さく呟くと、私の左手に木でできた弓が現れる。

 つづいてチータの前に山彦の剣を召喚する。チータの目の前に、緑の光と共に木の枝がくねり合わさるような不思議な剣が出現し、チータがそれを構えた。

「なかなか面白い魔法じゃないか。……準備はいいようだな?」

 ゴルダンはゆっくりと背中の大剣を抜いて構えた。「では始めよう!」

 ゴフゥと瞬間移動してきたかのようにゴルダンが目の前に現れる。大剣が振りかぶられる。私はひょいっと木の幹を蹴って樹上に上って避ける。チータは振り下ろされる剣の腹に山彦の剣を添えて受け流した。

 樹上を走りながら、私は連続して矢を放つ。シルフが軌道修正してくれるので、ホーミングミサイルのようにゴルダンめがけて飛んでいく。

 が、ゴルダンが無造作にマントをつかんで払うと、矢がそれに巻き込まれて地面におちていった。そのままゴルダンは左の拳をチータに振り下ろす。

 チータは飛びすさってその一撃をやり過ごし、がら空きになった頭をめがけて山彦の剣を振り下ろした。

 ガキィン。

 しかし、ゴルダンの頭は山彦の剣の一撃をはじき飛ばした。

「ふはははは。そんななまくらなぞ。俺には効かん!」

 ゴルダンは大剣を横に払うと、その刃から衝撃波が放たれチータが吹き飛ばされた。「きゃっ」

 私は慌てて飛び降りてチータを受け止める。

 そこを狙ってゴルダンが踏み込んでくるが、森のツタが鞭のように伸びてゴルダンの体に巻き付いていく。

「な、何だぁ。こりゃ?」

 ゴルダンは、間抜けな声を出してツタを手で引きちぎっている。その間に私とチータは距離を取った。

 ようやくツタから解放されたゴルダンは、頬をポリポリと掻いている。「う~ん。案外、うざったいな。これは。」

 そして、私たちの方を向くと大剣を横に凪いだ。けれどもそこは巨木が林立している。あれなら大剣の一撃も思うように触れないはず。

 私はそう思って、火と風の魔法を付加した矢を放つ。「エクスプロージョン・アロー。」

 しかし、その矢がゴルダンに届く前に大剣が強引に巨木を切り裂いて吹き飛ばす。その抉れた大きな幹が飛んできてエクスプロージョン・アローとぶつかり爆発する。

 爆煙が晴れる前に、私とチータは森に溶け込むように気配を消して二手に分かれた。完全に遊ばれていることを知りつつも、風となって木々の間を走る。

 煙が晴れて、ゴルダンは左右を見渡して二人の姿を探す。「ん~。……めっけ。」

 ゴルダンは大剣を腰だめに構えると、右の林のなかに一気に突撃した。

「おらぁぁ。」

 直線上の邪魔な木など物ともせずに、重戦車の如くゴルダンが突っ込んでいき大剣を力任せに振りかぶる。

 無骨な漆黒の大剣は無情にも立ち尽くす体を切り裂き、そのまま地面に大きなクレーターを作る。

「んん?」

 感じた違和感にゴルダンが怪訝そうな顔をする。「ちぃ。木人形か。」

 次の瞬間。私の放った魔法の矢が流星群のように襲いかかる。ゴルダンは大剣を盾のように抱えて、その攻撃を耐える。

 私は、その様子を見て、すぐさまナイフから延びた水の鞭を伸ばして大剣を絡め止める。

ゴルダンが大剣を振り下ろして水の鞭を切ろうとするが、水を切ることなどできない。

 その時、ゴルダンが上空をきっと見上げた。

 ゴルダンの上空から回転しながらチータが突っ込んでくる。

「はあぁぁぁ。」

 自らの体重をエネルギーに換え、全魔力を込めた必殺剣。大質量を込めた一撃が振り下ろされた。

 その衝撃にそなえていたが、なんとゴルダンは水鞭を絡めたままでチータの一撃を受け止めていた。その口の端がつり上がる。「くくく。いい一撃だ!」

 チータの顔が信じられない物を見るように驚愕に染まっている。ゴルダンがそのまま強引に剣を振り抜き、チータが無防備に吹っ飛ばされた。

 私はそれを見て、「シルフ!」と声を掛けて、チータを精霊の風で受け止めてもらえるようお願いし、振り抜いた姿のゴルダンに仕掛ける。

「樹牢。」

 短い詠唱句を唱えると、ゴルダンの足下から即座に木々が伸びてゴルダンの体を埋めたままに大樹となってそびえていく。「ぬわわわ。」

 成長が止まると、幹の中程からゴルダンの顔と手首、剣の一部だけが見えた。

 上空にシルフの精霊力が満ちて大気がゴゴゴ……と震える。一瞬のうちに大きな雷となって樹牢となった大樹をかち割りながらゴルダンに迫る。

 ――閃光の後、そこには粉々に吹っ飛んだ煙の立っている木の破片と、その真ん中で何事も無かったように立っているゴルダンの姿だった。

 ゴルダンの全身が紫色の光を帯びている。ゴルダンは私の方を見てニカッと笑う。

「がはははは。お前の攻撃は面白いなぁ。見たこと無いぜ、この魔法。」

 信じられない。まったく効いていないなんて。

 私は忌々しげにゴルダンを睨む。

 吹っ飛ばされたチータへは大虎ティスをやったから大丈夫だろうけど、あの様子ではもう魔力の残りは無いはず。

 ゴルダンが顎をさすりながら、私の様子を見ている。

「ん~。もう打つ手無しか?なら、そろそろ終わらせるか。」

 そういうとゴルダンを覆う紫色の光が強く輝く。「折角だから、少しだけ力を見せてやろう。」

 ゴルダンが無造作に剣を天に掲げた。紫の魔力の圧力が高まり大爆発を起こす。私はその衝撃になすすべ無く巻き込まれた。

 地面にバウンドしながら投げ出され、衝撃で息が詰まる。

「ぐぅ。」

 顔を上げると、私の小さな私の精霊の森マイ・リトル・フォレストが完全に吹っ飛び、ところどころ折れた木々が観客席の障壁の下に積み重なっていた。

 急に私を暗い影が覆う。上空に飛び上がったゴルダンが大剣を振りかぶっていた。

「これで終わりだ。」

 力が入らない……。迫りくる死に絶望が押し寄せる。

「いやあぁぁぁぁ!」

 目をつぶる。もう駄目だ……。けれども、いつまでまっても斬撃は来なかった。

 おそるおそる目を開くと、そこには神々しく光の衣をまとったジュン様がゴルダンの大剣を受け止めていた。

「大丈夫か?カレン。……よく頑張ったな。」

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

「全力で行くぞ。」

 レオナルドが剣を上に掲げる。全身の魔力が光を放ってレオナルドを覆う。

 その向こうでは、戦列に復帰したアメリアとエルザが二人で呪文を詠唱しているのが見えた。

「次はこっちから行くわよ。」

 私はそういってスナップをきかせてナイフを振るう。その動きにナイフ伸びる水の鞭が大きな竜巻となってレオナルドたちを襲う。

 しかし、その竜巻は目の前で二つに切り裂かれ、剣を振り下ろしたレオナルドの姿が現れる。一瞬の残像を残してレオナルドが切り込んでくる。速い!

 魔力を帯びた剣がチータを襲う。が、チータはそれを真っ正面から受け止めた。レオナルドとチータがつばぜり合いをしている。「くっ。この馬鹿力め!」

 その時、相手の後陣の詠唱が終わった。「「――。儀式魔法、サンダードーム!」」

 私とアメリを範囲とする光の半球が浮かび上がる。これはまずいわね。

 私は一気にアメリの側に行き、ノームとシルフに助力を願う。

 足下の地面から土が盛り上がり、かまくらのように私とアメリを覆い、その外側を烈しく風が吹きすさぶ。 

 途端に光の半球の内側に大きな音を響かせて、雷が荒れ狂う。衝撃が地面や空気から伝わる。土のかまくらにも雷が集中するが、シルフによる空気の断絶層とノームのかまくらで防ぎ続ける。

 ひときわ大きな音がしてかまくらに衝撃が走る。ピシピシッとひびが入ってかまくらが崩れ落ちたとき、丁度、サンダードームの攻撃がおさまった。

 さすが儀式魔法というべきか、私たちの周りの地面からは熱の残滓で煙が立ち上っている。この威力の儀式魔法を二人のみで完成したのはすごい。

 チータはレオナルドと切り結んでいるために範囲には入っていないが、こちらは気になっていたようでレオナルドに押されていた。

 私の無事を確認したチータは、わざと大振りの一撃を放ってレオナルドから距離を取る。

 チータは剣を正眼に構えた。闘気が溢れる。アレを仕掛ける気だ。

「ならば……。」

 私は再び心の中でウンディーネに助力を願う。

 チータの体がぶれたように消え、レオナルドの周りに3人のチータの姿が現れた。

レオナルドが正面に対峙したチータに斬りかかり、3人の包囲を破ろうとするが、その背中に斬撃を受けて動きが鈍る。チータの分身が消えて真っ正面の一人となり、左斜め下から切り上げた。レオナルドがそれを受け流そうとするが姿勢が崩れていて抑えられない。

 ガコンっ!

 剣の音とも思えない大きな鈍い音を立てて、レオナルドが後ろに吹っ飛んでいき、そのまま後衛のアメリアとエルザにぶつかる。

 今だ!

 私の周りから水槍が次々に出現してレオナルドたちに向かって飛んでいく。

 アメリアが慌てて結界を張るが、その隙にチータが走り寄り力任せの一撃で結界を破壊。レオナルドの首もとに剣を突きつけた。

 試合終了の宣言が響く。

「それまで!アメリチームの勝ち!」

 その瞬間。歓声が沸き起こり空砲が鳴り続けた。

 全身を喜びが突き抜け、右手の握り拳を突き上げながらチータのところに走り寄った。チータも私に走り寄ってくる。

「やったわ!チータ!」「はい!カレン様!」

 チータに抱きつくと、さらに私の後ろからアメリが抱きついてきた。二人に挟まれてもみくちゃにされる。

 やった。やったんだわ。

 レオナルドたちは下を向いていたが、どこか晴れ晴れした表情で私たちを見つめた。

「はーはっはっはっ。面白そうなことをやってるじゃないか!」

 その時、どこからともなく野太い男の声が響いた。

 次の瞬間。私たちとレオナルドたちの間の地面から、空に向かって黒い稲光がほとばしる。

 濃密な毒々しい魔力が地面から溢れ出る。

「なに?これ?」私の側でアメリが呟いた。

「真打ち。登場と行こうかぁ!」

 再び男の声が聞こえると、稲光がほとばしっている地面から黒い光を帯びた衝撃波が襲ってきた。

「きゃあぁ。」「うわぁ。」

 私たちもレオナルドたちもその衝撃波に吹っ飛ばされる。

 地面に倒れ込んだ私が顔を上げると、衝撃波の発生源に黒い鎧を身にまとい、巨大な剣を背負った大男が嗤いながら仁王立ちしていた。

「ははははは!我こそは、暴壊の天災ゴルダンなるぞ!」

 そういって右手を握りしめると横になぎ払った。再び衝撃波が迫ってくる。

――――

「ジュン!あの波動は!」

 突然の出来事に一瞬思考が停止したが、ノルンの声で我に返る。

 あの禍々しい魔力。あれは――。

「天災だ!……行くぞ!みんな!」

 競技場と観客席の間には障壁が張ってある。それを壊して駆けつけても、戦いの余波が観客を襲うかもしれない。

 俺たちは立ち上がると、ほかの観客が呆然としている間に通路に駆け込んだ。なんだってこんなところに奴らが……。しかも、今までとは違うタイプの奴だ。

「間に合え!」

――――

一方、皇太子の席では。

「な、なんだあいつは?」

 ルーベルト皇太子が呟いた。

 次の瞬間、貴族たちは騒然となる。

「どうなってるんだ?」

「おい!学園長。だれだあれは!」「――!」

 その時、隅にいた黄金の鎧を着た騎士が立ち上がって叫ぶ。

「静まれ!……キャンサー隊!避難誘導せよ!」

 その迫力に腰を浮かせかけた貴族たちが落ち着きを取り戻して座り直す。誰かがその騎士を見て呟いた。「おお。ロヴェル殿か……。王城の守護神、キャンサー隊隊長殿。」

 通路から騎士たちが走り込んできて、最前列の通路に並び盾を競技場に向けて構えた。

 誘導役の騎士たちが声を掛け、皇太子たちから順番に避難を始めた。

 外側の観客席では、我に返った観客がパニックを起こしながら騒いでいる。

「ザフィール!」

 喧騒のなか、先ほどの黄金の騎士が学園長の名前を叫ぶ。学園長が立ち上がる。

「わかっている!ロヴェル……。」

 立ち上がった学園長は、おもむろに手を上に掲げて詠唱を始めた。

「我れ、星天の盟約に従い求め訴える――――。」

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 いよいよこの時が来た。

 暗い通路から競技場へと出る。途端に大きな歓声が天から降ってくる。

 アナウンスの声が響き渡る。

「おおお!今年度の試験のダークホース。8組の選手の入場です!リーダのアメリ、ゾヒテからの留学生のエルフ・カレン、そして、チータ選手です。」

 胸を張って堂々と中央に向かって歩く。アナウンスの説明が続く。

「今年の8組の生徒は、臨時講師の特訓を受け快進撃を続けています。そして、いよいよ団体戦決勝へと駒を進めてきました。カレン選手とチータ選手の衣装に皆さんお気づきでしょう。準決勝までとは装いも新たに身にまとうあの衣装こそ。自らの誇りを賭けて戦う時の伝統衣装です。この決勝にかける意気込みがあの衣装に表れているのでしょう。」

 中央で一列になって並ぶ私たちは、正面の入場口を見つめる。

 暗がりから、対戦相手の1組の生徒が登場した。

「対するは、前評判のとおり学年最上位の実力を証明してきました。1組のトップスリーの入場です。リーダーのレオナルド・ゼメキスを先頭に、アメリア・マリエル、エルザ・ドナーヌのチームです。なんとアメリア選手とエルザ選手はレオナルド選手と婚約済みというラブラブチームでもあります。」

 ゆったりとした歩みでレオナルドたちがやってくる。中央まできてレオナルドがマントを翻し、観客の声援に手を振って応えている。

 相手が私たちに向き直り、ニヤリと笑みを浮かべる。歓声が遠くなっていく。司会が私たちの紹介を続けているようだ。

「ふっ。とりあえずお見事と言っておこうか。……正直、8組のお前たちが決勝まで来るとは思わなかったよ。」

 言い返そうとするアメリを抑えて私が口を開く。「私には負けられない理由がある。必ず貴方に前言を撤回して貰うわ。」

「ふふふ。正直に言って、俺にとってはどっちでもいいんだが……。負けるつもりはないぞ。」

 そういってレオナルドは私の隣のチータを見た。「なるほど。腕輪は外したのか……。楽しみだ。全力で戦えるというわけだな。」

「私もいるわよ。忘れないで貰いたいわね。」アメリが鋭く言った。

 時間だ。アナウンスが告げる。

「両者は準備しなさい。」

 私はチータのすぐ脇に移動する。チータが手を握ったり開いたりして力を確認して、おもむろに模造剣を抜きはなった。後ろではアメリがスタッフを構える。

 正面を見るとレオナルドも剣を抜き放ち、その後ろでアメリアとエルザが杖を構えている。

 レオナルドの口が動く。遠くて聞こえなかったが言っていることはわかった。「いくぞ。」

 青天に空砲の音と共に司会の声が響いた。

「決勝戦。はじめ!」

 レオナルドが詰め寄りチータに斬りかかる。チータがそれを無造作に正面から受け止める。

 一瞬の拮抗の後、連続で斬り合いが始まる。二人の周りの空間に剣と剣がぶつかり合う火花があちこちで散る。

 私は、弓に魔力の矢をつがえて空に放つ。魔力の矢が数え切れない数に分裂して相手の後衛陣に襲いかかる。それと同時に、レオナルドとチータの脇を走り抜けようとする。

 魔力の矢が結界に阻まれてバチバチといっている。どうやらアメリアが結界を張り、その中でエルザが詠唱を続けているようだ。……長い。あの詠唱を止めなくては。

 私は矢に火と風の魔力を込めて次々に放つ。矢は結界に阻まれるが次々と爆発を起こす。

と、気配を感じて後ろに飛びすさると、私のいたところにレオナルドの剣が通り過ぎた。

 ふっとレオナルドが距離を取ると、エルザの魔法が大きな炎となって飛んでくる。中級魔法フレイム・ランチャーだ。この位置だとチータも危ない。

「ウンディーネ。」

 一言でお願いし水壁を作り上げる。フレイム・ランチャーの大きな火炎弾がぶつかると、爆発の衝撃が水壁に襲いかかる。

 爆煙がおさまると、アメリの氷魔法が氷雨となって相手を打ち続けているところだったが、相手も結界でそれを防いでいた。

「うおおお。すごい戦いです。まさしく決勝戦にふさわしい!両チーム共に負けていません。」

 司会の叫ぶような声が聞こえる。

 レオナルドが剣を肩に乗せた。チータを見て、「なかなかやるな!そろそろ様子見は終わりにしよう。」

 レオナルドがおもむろに剣を構えて全身に魔力をまとわせているのがわかる。さっきよりも強い魔力だ。

 チータも見たことがないくらい獰猛な笑みを浮かべている。まるで計ったように二人が飛び出して切り結ぶ。

 ぶつかり合った剣と剣の衝撃が一陣の風となって吹き抜けた。

 私は精霊に力を願う。

「お願い。」

 ナイフから水が伸びて、準決勝と同じく鞭となる。「いくわよ。」

 体をシルフの風が包む。空を飛ぶようにレオナルドを飛び越え、10メートルの高さから鞭を振るう。

 まるで大蛇が襲いかかるように、鞭が地面を削りながら後陣のアメリアとエルザを襲う。結界で防ごうとしているようだが関係なく、結界の上から水鞭を何度も叩きつける。

「きゃあ。」

 結界が壊れ、水鞭がアメリアを打ち据えるとアメリアを向こうにはね飛ばした。

 地面に着地し続いてエルザに攻撃を加えようとナイフを振りかぶる。

「させん!波動剣ムーブ

 とっさにチータから距離を取ったレオナルドが、剣に魔力をまとわせて横になぎ払った。剣から放たれた三日月状の魔力が飛んでくる。

 チータが瞬間移動したように私の前に現れると、飛んでくる魔力に合わせて剣を上段から振り下ろした。

「無駄よ。カレン様には指一本触れさせません。」

 レオナルドの魔力はチータによって二つに切られ、私の左右を飛んでいった。

 その時、こっちのアメリの詠唱が終わる。

「――、火炎旋風。」

 同時に、エルザの魔法も完成する。「――。ブリザード。」

 炎と氷の魔法が真っ正面からぶつかり合い、勢力が拮抗する。

 二つの魔法がせめぎ合う中からレオナルドが飛びだしてきた。剣が上段から振り下ろされる。「残月!」

 けれども、魔力のこもった斬撃をチータが軽々と剣で受け止める。それを見たレオナルドが舌打ちすると、再びバックステップをして距離を取った。

「まさか力業で魔法剣を受け止めるとはな。」

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 試合が終わって控え室に戻る途中に1組のトップスリーが待ち構えていた。

「ほう。よくここまで勝ち上がってこれたな。」

 レオナルドが感心したようにいうが、隣のアメリアが、

「よっぽど不甲斐ない相手ばっかりだったのね。運がよろしいこと。」

と言い放ち、途端に雰囲気が悪くなった。見るとアメリのこめかみに青筋が立っているのが見える。

「よほど決勝で私たちに負けるのが怖いみたいね。」

 アメリの挑発に今度は向こうのエルザが激高する。

「どんなに努力しても越えられない壁があるってことを教えてあげるわよ。」

 この人は本気でそう思っているのだろうか。さすがに準決勝まで勝ち抜いた人にいう言葉ではないと思うけど……。そう思うと妙に納得しちゃって怒りよりも哀れみを感じる。

 チータも同じ気持ちなのだろう。苦笑いを浮かべている。「ま、まあ。決勝で白黒つければいいでしょ。」

 私はため息をついた。

「壁だろうが何だろうが知ったことではないわ。あなたたちは騎士団を重んじて冒険者の、よりによってジュン様の剣をたかが冒険者の剣と侮辱した。私はそれが許せない。」

 そう言うと、レオナルドたちは驚いたように目を丸くしている。

「ほう。勝負よりも、そいつを侮辱したのが気に入らないと?……お前もか?」

 レオナルドはそういってアメリを見た。アメリはかぶりを振って、

「そんなわけないでしょ。それは……、カレンがそう思ってるだけよ。」

「ふうん。エルフ様が人に懸想してるってわけか。ま、俺には関係ないし所詮は冒険者の剣だ。正々堂々たる騎士の剣には及ばないさ。だが……そうだな。お前たちが俺たちに勝てるんなら、そいつを認めてやってもいい。」

 私はレオナルドに指を突きつける。「言質は取ったわ。」

 そういうとチータとアメリを引き連れて控え室へと向かった。

 背中からレオナルドの笑い声が聞こえる。

「ははは。楽しみにしてるぞ。」

――――

 小休止の後、準決勝が行われた。

 準決勝第一試合は、予想どおり1組のトップスリーがあっさりと勝利した。

 第二試合。私たちの対戦相手は準々決勝と同じく3組のチーム。

 私たちは競技場の中央で顔を合わせた。相手は3人とも魔法剣士の男子学生だ。

 ロングソードが一人、ショートソードが一人。そして、ナイフの二刀流が一人、サクラさんタイプのスタイルだろうか。

 中央で対面すると相手の話す声が聞こえてきた。

「美少女3人って萌えるな。」「俺、あの真ん中の子が良いな。」「お前ってばエルフ萌えだったのか。」

 ……なんだか試合とは別に、身の危険を感じる。

 横を見るとアメリもチータも顔が引きつっているようだ。

 目の前の男子生徒の顔を見ると、ニヤリと笑うのが見える。それを見て、いいしれぬ悪寒に背筋がぞわっとする。

「なあなあ、今日の試合終わったらお茶しない?」

 いきなり男子がそう言ってくる。試合直前だというのに、この男子は何を考えているのだろう?

 無視をしていると丁度よくアナウンスが入った。

「それでは準決勝第二試合を始めます。選手は構えなさい。」

 アナウンスが終わるとすぐに、「じゃ、連絡待ってるね。」という声が聞こえてきたが、私たちは無視していつものフォーメーションに移動する。

 相手は、前からロングソードの男子、次がナイフ二刀流、そしてショートソードという順番に並んでいる。はて?魔法使い系がいないのに後衛なのかしら。

「はじめ!」

 アナウンスと共に戦闘の男の子が格好つけて大声で宣言した。

「ゆくぞ!疾風の3連星と呼ばれた俺たちの連続攻撃を受けるがいい!」

そういって一直線に走り込んでくる。……ああ、厨二病なのね。

 先頭の男子がロングソードを大きく振りかぶってチータに振り下ろす。チータがそれを右へ受け流す。とロングソードの男子がそのまま走り抜け、その背後から二刀流のナイフでクロスするようにチータを襲う。

 先頭の男子が私に向かって同じように上段からロングソードを振りかぶった。……いけない。ここを抜かれたらアメリが危ないわ。

 ナイフを右手で抜き放ち、ウンディーネにお願いする。ナイフから水流が鞭のように伸びる。

 スナップを効かせてナイフを振る。水流の鞭が先頭の男子生徒をなぎ払った。

「おわぁぁぁ。」

 間抜けな声を出しながら剣を振りかぶった姿勢のままで横に吹っ飛んでいく。

 けれどその後ろからすぐにナイフ二刀流の男子が走ってきていた。……チータの状況を見る余裕はないようだ。

 頭の上で数回ナイフを振り回して、そのまま斜めに振り下ろすと水流の鞭が蛇のようにくねって伸びていった。

 男子生徒は初撃をジャンプして交わすが、続く一撃を受けて一人目と同じ方向へ吹っ飛んでいった。「うひぃぃぃ。」

「次!」

 私はすぐさまナイフを前に振るう。確認もしなかったが、走り込んできた3人目の男子が吹っ飛んでいった。「どわあぁぁ。」

 次の瞬間。アメリの詠唱が終わった。「――。吹き飛べ。エクスプロージョン。」

 ドゴオォォン。

 男子生徒が吹っ飛んだ方向から爆発が起きた。「「「のおぉぉぉ。」」」

 男子の間抜けな声がハーモニーになって響きわたった。

「それまで!」

 アナウンスが響き試合が終了する。競技場には煤まみれで真っ黒になった3人の男子生徒が、プスプスと煙を立てながら残骸のように倒れていた。

―――――

 決勝戦は昼食を挟んで午後から行われる。

 とうとうカレン達がここまで勝ち抜いた。俺達は、カレンたちを励ますために控え室に向かった。

 観客席から通路に入って階段を降りていく。カツン、カツンと足音が響く。

「いよいよ。決勝まで進んだわね。」

 後ろからヘレンが話しかけてきた。

「あれだけジュンが鍛えたんだもの。ここまでは当然よ。」

 ノルンが答える。

「これからが本番ですね。マスター。」

 サクラの声に俺はほほえむ。「ああ。そうだな。」

 控え室の扉が見えてきた。俺はノックする。「おーい。カレン達。入るぞ。」

「あ、」

 返事も聞かずに入ると、カレンとチータが体格のいい壮年の虎人族の男性と話し合っていた。民族衣装のようなカラフルな服を着ているところからしてゾヒテの人だろう。

「失礼。……申し訳ない。」

 慌てて退出しようとしたが、「あ、ジュン様。どうぞこちらに。」

とカレンが俺たちを引き留めた。

「ジュン様。こちらがゾヒテ六獣王の一人。猛虎王ティガロ様です。……ティガロ様。こちらが先ほど話したジュン様です。」

 カレンの紹介を受けて改めて男性を正面から見る。年の頃は五十代半ばといったところか。俺よりも背が高くがっしりしており、引き締まった肉体からは年齢にそぐわない力強さを感じる。どことなくチータと顔立ちが似ているような気がする。それに……、ゾヒテ六獣王?

「はじめまして。ティガロ殿。エストリアのランクA冒険者のジュン・ハルノです。こちらは私のパーティーメンバーです。このたびの試験では、微力ながら彼女らを指導しました。」

 俺はそういって右手を差し出した。ティガロ殿はにこやかに笑うと差し出した俺の手を握る。……痛いって、力入れすぎだって。

「ジュン殿。ティガロです。この度は姪のチータを鍛えてくれたとか。お礼を言いますぞ。」

 えっ?チータの伯父さんか、この人。俺は思わずチータの方を見ると、チータもニコニコと握手する俺たちを見ていた。

 ティガロが握手をしながらカレンの方を向く。

「この美人どころの中にカレン様も入られるというわけですな。」ニヤリと笑って俺の顔を見つめる。

「ジュン殿。カレン様をよろしくお頼み申し上げますぞ。」

「は、はあ。」

 思わず曖昧な返事をすると、ティガロ殿は握手をしていない左手で俺の背中をバンバン叩いた。「がはは。それにしても美人ばかり連れて、羨ましいですな。」

「そ、その。ティガロ様。話を戻しますが、次の決勝は絶対に負けられません。私の制限はそのままですが……、チータの腕輪を外させて貰います。」

 なぜだか慌てたようにカレンが強引に割り込んできた。ティガロ殿は即座に許可をした。

「よろしいですぞ。……チータよ。かくなる上は無様な戦いを見せたら承知せぬぞ。よいな。」

「はい。伯父上。彼らはカレン様の逆鱗に触れましたし、私だって怒ってますから。種族の誇りにかけて、絶対に負けるわけにはいきません。」

「うむ。次の試合を楽しみにしておるぞ。……して、ジュン殿。この後、一緒に食事にまいりませんか。」

 チータを鋭く見つめていたが、ふいに俺の方を振り向いた。

 だがその前にここに来た目的。二人を励まそう。

「ええ。っと、その前に失礼。カレン。チータ。次の試合が最後だ。力の限りやれば必ず勝てる。がんばれよ。」

「「はい!」」

 二人の決意のこもった返事を聞き、満足した俺はティガロ殿と一緒に控え室を退出した。

 ……がんばれよ。二人とも。

 そう思いながら、ティガロ殿と一緒に廊下を食堂に向かって歩いて行った。

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 観客席の一番内側は貴賓席になっていて、競技場を包む障壁とは別の結界で包まれており、外部からの襲撃を防げるようになっている。

 卒業試験の実技の部に入ると、そこにはルーベルト・フォルト・エストリア皇太子夫妻と、その護衛としてゾディアック・クルセイダーズのキャンサー隊隊長ロヴェル・マッカート、スコーピオ隊隊長にして学園長のザフィール・トランジが観戦していた。

 他にも王国各地の貴族たちや生徒の親で貴族籍を持つ者たちが観戦しており、華やかなムードに包まれている。

「フィーゴ伯爵。次男のロンベルト殿はなかなかの腕前で将来が楽しみですね。」

 金髪碧眼の爽やかな青年が後ろに座っている初老の男性に話しかけた。初老の男性は一礼すると照れくさそうに頭を掻いた。

「いえいえ。不肖のせがれでまだまだ未熟者にございますれば。騎士団で存分に鍛えてもらい、将来は殿下のお役に立てれば幸いでございます。」

「ははは。ご謙遜を。……今年はなかなかに豊作のようで、我が国も安泰だと頼もしいですよ。」

 青年はそういって前を向くと、隣の美しい女性が笑いかける。

「ルーベルトさま。弟はいたずらばっかりしてましたが、個人戦優勝とは私も誇らしいですわ。」

「うん、知ってるよ。メアリー。君の家に遊びに行った時は、僕もロンベルトと一緒にいたずらしたからね。ははは。」

「これも皆、ザフィール様の薫陶のお陰ですわね。」

 メアリーはそういって前に座っているザフィール学園長の方を向いた。学園長が笑顔で後ろを振り向いた。

「いえいえ。ロンベルト殿はもとから優秀でしたよ。1年からずっと1組でしたし、女生徒からの人気も高かったようですね。……残念ながら学年トップはゼメキス侯爵家のレオナルド殿に及びませんでしたが、ライバルとして互いに切磋琢磨していたようです。」

 ザフィール学園長の言葉を聞いて、フィーゴ伯爵の隣に座っている体格の良い男性が渋い声で話しかける。

「うむ。その通りですぞ。ロンベルト殿がいたからこそ、うちのレオナルドも修練に身が入ったのです。なにしろ彼奴は昔っから調子のいいことばかり言いおって剣術から逃げてばかりおりましたからな。フィーゴ伯爵。感謝しますぞ。」

「いえいえ。ゼメキス侯爵殿。こちらこそ感謝します。……それにしてもレオナルド殿にはすでにアメリア殿とエルザ殿と二人も婚約者がいてうらやましいですな。」

「なにをおっしゃるか。フィーゴ伯爵。ロンベルト殿は婚約者こそおらぬが、かえって学園中の女生徒が狙っていたといいますぞ。女生徒の人気はレオナルド以上だったとか。……」

 皇太子は、後ろの席の親ばか二人の会話をよそに、前に座る学園長の耳元に顔を寄せた。

「それにしても今のがエルフの姫君か?……言っては悪いが、それほど強そうには見えなかったが。」

 学園長は後ろを振り向くと小さい声で、

「確かに姫君です。身分を隠すために固有魔法を制限しておりますので、致し方ないでしょう。あの従者のチータ殿もあちらに居るゾヒテの六獣王の猛虎王ティガロ殿の姪御ですが、今日は弱体の腕輪によって身体能力を下げておるようです。」

「なるほど。実力を見てみたかったけど、立場から言えば仕方ないのかな。」

「殿下。彼女らがレオナルド殿のチームと当たれば実力が見られるかもしれません。……どうやら因縁があるようですので。」

「へえ。順調にいくと……決勝戦か。勝ち上がるといいな。」

 ルーベルト皇太子は満足そうに座り直すと既に始まっている次の試合を眺めるのであった。

――――――

 あれから私たちは順調に勝ち進め、次の日を迎えた。

 今日は試験の最終日。団体戦の準々決勝から行われる予定になっている。私たちの出番は第3試合で相手は3組のチームだ。ちなみに6組以下のクラスでは、もう私たちのチームしか勝ち残っていない。

 控え室の窓から競技場の中央に整列している2つのチームを眺める。一つは1組のトップスリー、対するは同じ1組のチームだ。団体戦上位に残っているチームはだいたい魔法剣士2名に魔法使い1名になっていて、トップスリーの相手も同じ構成だ。

 「はじめ!」

 司会のアナウンスが響き渡ると、すぐさまトップスリーの魔法剣士レオナルドが相手のチームに飛び込む。「はっ!」

 ロングソードが一閃するたびに剣を交えた相手が吹っ飛ばされる。あれはかなりの剣圧があるわね。

 突如、ふいっとレオナルドが距離を取った瞬間、相手の三人に向かって氷矢と火矢が雨あられと降り注ぐ。

 相手チームは咄嗟に結界を張って攻撃に耐えている。さすがに準々決勝まで勝ち抜いてきたチームだわ。対応が素早いと思う。

 その時、全身に魔力をまとわせたレオナルドが氷と火の矢の雨の中を突っ込んでいくと、大上段で結界に剣を叩きつけた。大きな音がして結界が壊れ魔法の矢が相手の三人に次々に突き当たっていく。

「あぐぅ。」とうめく声が聞こえてくる。

 さらにレオナルドが剣を横に一閃すると半月状の魔力が放出されて、対戦相手の三人が吹き飛ばされて倒れてしまった。

 隣に座っているチータがしみじみと言った。

「気絶してしまってますね。魔法の威力は抑えてあるとはいっても、やっぱり強いですよ。」

「う~ん。くやしいけれどね。」

とアメリも認めている。

「それでも負けるわけにはいかないわ。彼らには絶対。」

 私は自然ときつい口調になっていた。

 第二試合は2組のチーム同士の戦いだった。試合の準備のために最後まで見ていないが、あれではどちらが勝ってもトップスリーには勝てないだろう。

 係員の先生の指示で出場口の手前で待機をしている。

 さあ、私たちの試合が始まる。「選手入場です。」

 競技場に入り中央まで進む。相手は3組のチームで魔法剣士の男子2名に魔法使いの女子1名。

「この試合は3組のボールのチームと8組のアメリのチームの試合です。それでは両者は構えなさい。」

 相手の魔法剣士は一方は片手剣に大盾、ボールと呼ばれたもう一人はロングソードを構えている。

 ガーディアン、アタッカーがはっきりしている。厄介だわ。……でもその構成は対人間には必ずしも適さない。

「試合はじめ!」

 アナウンスが響くと盾を持った男子が魔法使いの女の子の前まで下がっていき、ロングソードを持ったボールが走り寄ってきた。

「しっ!」

 私がボールめがけて矢を連射するが、ボールはロングソードで巧みに捌いている。……それならば。

 魔力で形成した矢をつがえて上空に放つ。放たれた矢は大きく山なりに弧を描き、一気に百本の矢と分裂して相手の後衛陣を襲う。ガーディアン役の男子生徒が盾を上に構えて矢を防いでいる。

 その間にボールはチータと剣を交える。剣と剣がぶつかり合う音が響く。

「――。クレイランス。」相手の詠唱が先に終わり、私とチータの足下から先が丸くなった土槍が延びてくる。

素早く宙返りをして後ろに待避し、逆に土精霊ノームに助力を願う。「お願い。拘束して。」

 どうやらチータも後ろに飛びすさって土槍を避けたようで、ボールと距離が開いている。ボールがチータに打ちかかろうと踏み込んだ時、その足がずぼっと地面に潜り込み、そのまま下半身が埋まった。素早くチータが剣をボールの首筋に添えた。

 あまりのことにボールの目が白黒している。その時、アメリの詠唱が終わった。

「――。氷雨。」

 上空に浮かんだ数え切れない氷の塊が、一気に相手に襲いかかる。慌ててガーディアンが再び魔法使いを護って盾を上に向けた。

 チャンス。私は矢に火と風属性をまとわせて、横っ腹をさらしている相手の二人に放つ。矢は狙い違わずガーディアンの腹部に命中した。矢に込められた魔力がイメージ通りの効果を引き起こす。

ドゴオォォン。

 盛大な爆発を起こしてガーディアンは魔法使いの女子を巻き込んで吹っ飛んでいき、そのまま地面に崩れ落ちた。

「……差し詰め、エクスプロージョン・アローってところね。」

 私が呟いた時に試合終了のアナウンスが流れた。

11第6章 さらわれた少女と不思議な横丁

 団体戦には全体で88チームが参加し、決勝にいたるまでは6回の試合を勝ち抜く必要がある。

 この競技場にはいくつかの大部屋の控え室があり、それぞれに生徒たちが分かれて待機をしている。ここの控え室には22組のチームが待機している。今、私たちがいるのもその控え室の一つだ。控え室には競技場に面して窓が設えてあり、中から試合を見ることができる。

 ほとんどの生徒が窓から試合を見て、応援したり批判したりしている。喧騒のなかで私は端に座って瞑想していた。

「カレンよ。エストリアの王立学園にゆくのじゃ。世界樹様のお告げによれば、我らの求めるものはそこで見つかる。」

 星降る夜の世界樹の枝の上で巫女のオババ様が私に告げた。「そして、そなたが将来結婚する相手との出会いがあるようじゃぞ。よかったのう。」

「はい。……えっ?」

 私たちハイエルフの儀式を司り世界樹の巫女であられるオババ様。伝えてくれる世界樹のお告げは私たちの取るべき道を教えてくださる。……でも個人が将来結婚する相手まで伝えてくださるってことは今までになかったわよね。

 いぶかしげに首をかしげる私に、いくつもの齢を重ねたにもかかわらず未だに美しい少女の姿のオババ様が笑いかける。

「お主が不思議に思うのはわかる。じゃがな。それだけにその出会いは重要なことなのじゃろう。」

 そういってオババ様は星空を見上げた。つられて星空を見上げる私にオババ様の声が聞こえた。「神々と世界樹の祝福があらんことを。」

――――。

「8組のアメリチームは準備をしなさい。」

 思考の海に潜っていた私を男性の声が呼び起こした。

「カレン様。いよいよですよ。」

とチータが言った。

「ええ。そうね。相手は6組だったわね。」

 チームリーダーのアメリが鼻息もあらく拳を握っている。

「ふん!たかだか6組の奴らに負けるわけにはいかないわ。カレンにチータも、さっさと終わらせますわよ。」

「くすっ。そうね。アメリ。」

 私はアメリとチータとでチームを組んでいる。最初はチータと2人で出場するつもりだったけど、1組のスリートップとの模擬戦で負けたのが悔しかったのだろう。アメリが同じチームになって団体戦に出場することになった。

 目標は前回の雪辱をはらすこと。都合がいいことに順調にいけば決勝戦で対戦することになる。私の愛するジュン様を貶めたのです。たとえジュン様との関係が掟によるものとはいえ、あの方と仲間からは濃厚な精霊の気配がします。明らかに里のオババ様の予言はジュン様のことでしょう。ですから、あの方を貶めた者に負けることは絶対に許されません。

 出場口に向かって廊下を歩く私たちだったが、途中で1組の例の人たちが待ち構えていた。わざわざご苦労なことだ。私たちが横を通り過ぎるときに、これ見よがしに鼻を鳴らす。

「ふん。せいぜい足掻くと良いさ。冒険者風情の剣が俺たちに届くといいな。」

 学年トップのレオナルドの言葉に、アメリがすかさず言い返す。「じゃあ見ているといいわ。あなたたちは私たちが倒す。楽しみに待ってなさい。」

 レオナルドの後ろに立っていた同じ1組のエルザとアメリアが小馬鹿にしたように笑みを浮かべる。

「まったく身の程を知らない人たちね。」

 私たちは無言でその横を通り過ぎて出定口に向かう。「ふん。無視していられるのも今のうちよ。」

 いらだったエルザの声を背に競技場に出て行った。まっていなさい。ジュン様を見下した貴方たちの方にこそ身の程を知らせてあげるわ。

 廊下から競技場に出るとまぶしい日の光で目がくらむ。

 慣れてきたところで反対側の出定口を見ると対戦相手が出てきた。

 男子生徒3人組。しかも武器からして3人とも魔法剣士という特攻タイプのチーム。こちらはチータが魔法剣士、私が軽戦士、アメリが魔法使いタイプだから相性は最悪に近いわ。

「私が中級魔法を唱える間、二人で抑えられるかしら?」

アメリが尋ねた。「わかったわ。チータ。やるわよ。」

「はい。カレン様。……がんばります。」

 中央で距離を置いて対峙する。こっちが女子3人だとわかると見下したのであろう。男子の顔がニヤニヤしている。

 その時、司会の声が聞こえた。

「それでは双方準備してください。」

 私たちは全体的に下がる。前衛はチータ、そのすぐ後ろに私、さらに後ろがアメリだ。相手は3人が横並びになっている。……開始直後に突っ込んでくるつもりとは随分と見え透いた作戦ね。

 私は腰のナイフを確認してから弓矢を下に向けて構えた。目の前ではチータが模擬剣を構えている。

「試合開始!」

 司会の声と共に相手が走り込んでくる。私は土精霊ノームと風精霊シルフにお願いして砂嵐を発生してもらう。「お願い。砂嵐を起こして。」

 短い詠唱句でたちまちに渦巻く風が砂を巻き上げてチータと男子生徒を巻き込み、一瞬のうちに視界が閉ざされる。

 すぐさまチータが飛びだして風の属性剣を振るうと、何条ものカマイタチとなって砂嵐の中に飛んでいった。

 私も少し下がると弓矢をつがえて風の属性を帯びさせた矢を連射する。

 目の前の砂嵐の中から「ぐっ」とうめく声が聞こえるが、一人の男子生徒が飛びだしてきた。

 男子生徒の剣とチータの剣が切り結ぶ。私は後続が来ないように矢を射続ける。が、2人めが出てきたのでナイフを構えて走り寄る。

 刃は潰されているとはいえ模擬剣にナイフで対抗はできない。私はナイフに冷気をまとわせて氷で刃を伸ばした。

 キンっ。斬りかかってくる剣を受け流し、斬りつける。右に左に受け流していると、もう一人の男子生徒が砂嵐から出てきた。

 その時、完成しそうなアメリの詠唱が聞こえてきた。

「――――風よ。炎を具して吹き荒れろ。ファイヤーストーム。」

 ……あのう。アメリさん。もちろん威力は調整してあるでしょうけど、それって私たちも危険ですよね。

 慌ててチータと共に後ろに下がると、男子生徒たちも慌てて散開しようとしているのが目に入った。後ろに下がりながら、再び弓をつがえて矢を放つ。男子たちは矢を弾こうとして足が止まる。

 とうとう男子生徒を範囲内に納めた火炎旋風が巻き起こった。その瞬間。

「そこまで!」

 とのアナウンスと共に強制的に火炎旋風が消滅した。生徒レベルの魔法を強制的にキャンセルできるのもこの競技場の魔導技術の一つだ。

 今まさに火炎旋風に巻き込まれかけた男子生徒が惚けたように地面に座っていた。

「8組のアメリチームの勝ち。」

 再びのアナウンス共に救護班の先生方が相手チームと私たちの方へとやってきて、出場口に戻りながら怪我の有無を確認した。もちろん、私たちは怪我らしい怪我はしていない。

「おいおい。危険な魔法をぶっ放したな。」

 私たちの状態を確認した白衣を着た年配の先生が額の汗をぬぐう。「まあ連携としては良かったが、相手にも大事ないようで安心したわい。」

 私とチータがアメリをジトッと見る。「アメリ。今のは私たちも危険だったわよね。」

ところがアメリはしれっとして言い放った。

「あなたとチータなら直ぐに待避できるから大丈夫なのはわかってたのよ。」

「まあそうだけど。せめて水か土の魔法にしてよ。」

「う~。苦手なのよ、それ。でも次からカレンの言うとおりに水か土魔法にするわ。」

 むくれたアメリだったが、初戦を勝利で飾ることができたのだった。

 ……まってなさいよ。トップスリー。