58.昭和20年3月 焦土東京

2019年4月25日

 黒磯から東京まではおよそ160キロ。川津さんが列車の切符を手配してくれたので、どうにか列車に乗って大宮にまで来られたものの、そこからは歩きとなってしまった。

 奥州街道を東京に向かって歩いていると、東京からの罹災者りさいしゃだろうか。大八車だいはちぐるまに家財道具を乗せて歩いている家族と何度もすれ違う。

 そのくたびれきった姿を見るたびに早く早くと気がいて、知らず足早になっていた。今ほど、疲れ知らずにできるこの身体がありがたいと思ったことはない。
 すでに通り過ぎた大宮もそうだが、このあたりも空襲にあっているようだ。

 川口を過ぎて荒川あらかわにたどり着くと、川向こうには焦土しょうどと化した東京が広がっていた。
 あまりの惨状に、唖然あぜんとして立ちすくんでしまった。

 黒焦げの瓦礫がれきの山になった家々。背の高いビルもあったと記憶しているけれど、そんな建物はポツンポツンとしか見えない。焼け焦げた匂いが風に乗って運ばれてきた。

 橋を渡って東京に入る。頭の中で東京の地図をイメージしておかないと、現在地がどこかわからなくなりそうだ。

 道路脇には電信柱がぽつんぽつんと立っていて、その外側では、生き残った人々が瓦礫の中でバラック小屋を作り、ぼうっと空をながめていたり力なく動き回っていた。

 タンパク質が焼けた独特の嫌な臭い。……人の身体の焼ける、顔を背けたくなるようなにおいが立ちこめている。大気中に細かい灰が混じっているようで、遠くがかすんでみえる。のどがひりついて辛い。目がチカチカする。
 街道の先を見るも、どこまでいっても同じような光景が広がっているようだ。

 不意に後ろから、
「タマミさん。タマミさんじゃないか!」
と声をかけられた。
 振り向くと、見知らぬおばあさんが私を見ている。「――あ」といったおばあさんは、悔しそうな表情をして、
「すみません。よく似ていたので……」
と頭を下げた。
「いいえ。お気になさらず。見つかるといいですね」
と声をかけて別れたが、探しながらさまよい歩くその姿が哀れでやるせない。

 それでも自分にはやるべきことがある。直子さんや子供たちの元へ行かねば。
 そう思いなおして、みんながいるであろう本郷区に向かって歩きはじめた。

 とある広場に差し掛かった時、目に入った光景に思わず吐きそうになる。
「うっ……」

 そこには炭と化した遺体がまとめられていた。
 叫んでいたかのように口を開け、真っ黒になった手が虚空をつかんでいる。一部は既に骨になっている遺体も……。
 そしてそんな遺体置き場の中で、おそらく肉親を探しているんだろうか、ほとんど見分けもつかないだろうに、ご婦人が誰かを探している。

 東京は、瓦礫と焼死体の街になっていた。

 これが人のすることだろうか?
 残酷な、悪魔の所業によって炭となった人々。暖かい暮らしが続いていたであろう街が……。

 道ばたで、別のご婦人が子供の遺体を抱えて泣き崩れていた。


 通りを歩いて行くと、やがて空襲から免れた建物の数が増えてきた。
 直子さんや子供たちが住んでいただろう本郷区は、町自体が残っているところもあるようだ。もちろん空襲によって廃墟となっているところもあるけれど、通ってきた道と異なり、少し落ちついているようにも見える。
 もしかしたら、もっと前の空襲の傷跡なのかもしれない。

 ……よかった。これなら直子さんや子供たちも無事かも。

 不謹慎かもしれないけれど、そう思う。

 火災を免れた家の前にいるご婦人に声をかける。
「あのう。栃木の松守村から来た春香と申します。このあたりで中村直子さんっていう20代半ばの女性が住んでいるかと思うのですが、ご存じありませんでしょうか?」
「はあ、中村さんですか――」

 幸いにしてそのご婦人は中村さんを知っていた。近所だったそうだ。が、今どこにいるのかを聞いて私は目の前が真っ暗になった。

 今月4日の空襲で実家の建物が焼けてしまい、一時的に南にある神田区の空き家に移っていたらしい。けれど、そこは先日の大空襲で一面焼け野原になったところだという。

 早足で南の方へ、皇居の方へと急ぐと、途中から画面が切り替わるように、瓦礫の街となっていった。

 まさか、まさか、まさか。

 焦る気持ちのままに見かける人の顔を確認しながら進む。
 違う。この人も違う。この人も。違う。違う。違う。違う――。

 さまよい歩いているうちに、時間の感覚が無くなっていく。違う。違う。この人も直子さんじゃない。一体どこにいるの?

 その時だった。
「春香、先生?」

 呼びかけられた声に顔を上げると、そこには大森鈴子ちゃんがたたずんでいた。
「鈴子ちゃん! よかった! よかった! 生きていたのね」
 駆け寄って抱きしめる。生きている。生きているよ。よかった。

 髪が煤臭すすくさいけれど、肌ががさついているけれど、それでも鈴子ちゃんは生きている。

「ちょ、ちょっと、先生……」
という鈴子ちゃんの肩をつかんだまま、身体を離し、
「ね。みんなは? 直子さんは? 無事なんでしょ? どこにいるのかわかる?」
と聞く。

 お願い。教えてちょうだい。心配で会いに来たのよ。

 言いつのる私の前で、鈴子ちゃんは顔を曇らせた。「ああ。はい……」
 嫌な予感がじわじわと心に湧き上がる。

「直子先生は亡くなりました」

 ――え。

「家はそこだったんですが……」

 鈴子ちゃんが指さしたところには、崩れ落ち、さらに焼け焦げて炭と化した家屋の残骸ざんがいがあるばかり。「ご遺体は……、そこに」
 鈴子ちゃんの言葉がまるで現実味のない音として聞こえる。手足の感覚が薄くなり、貧血にでもなったように意識が遠のきそうになった。

 よろめきながら鈴子ちゃんが教えてくれた一画に歩み寄ると、そこには30人ほどのご遺体が並んでいた。
 男性、男性、女性、男性、男性、女性、子供、子供――。そして、その中に変わり果てた姿の直子さんが横たわっていた。

 顔の半分は焼けただれ、手足は炭となっている。ところどころの皮膚ひふが融けて、その下の筋肉組織や白いなにかが――。
「直子さん!」
 彼女の遺体を目にした途端、私は膝から崩れ落ちた。

「春香先生!」
 あわてて鈴子ちゃんが私の背中を支えてくれる。

 ついこの前まで笑っていたのに。
 ついこの前まで一緒にいたのに。

 どこかに良い人がいないかなっていっていた直子さんの顔が思い浮かぶ。
「なぜ。なんでなの……」
 意味のない問いかけがつぶやきのように口から漏れる。手が震える。灰まじりのちりを握りながら、涙がこぼれてきた。ああ……。
 堪えきれずに、そのまま地面に頭を打ち付ける。

「春香先生……」
 背中を鈴子ちゃんがさすってくれる。その手のぬくもりを感じながらも、私は泣き続けた。

 ――どれくらいの時間が経ったのだろう。

 顔を上げ、涙をふく。またすぐに視界がにじんでくるけれど、改めて直子さんの顔を見る。
 苦しんだ様子はない。おそらく窒息ちっそくして意識が薄れ、そのまま亡くなったんだろう。そして、その後で火に焼かれたのか。

 そこへ2台のトラックがやって来た。近くで停まると、兵士が降りてきて次々に遺体を乗せていく。生きていた人々が、まるで物のように無造作に投げ込まれていく。
 思わず「どこへ?」とうかがうと、近くにある駒込こまごめの六義園という公園に合葬するのだそうだ。
 遺体を引き取る事もできず、トラックに積み込まれていく直子さんの遺体を前に、ただ黙祷もくとうするほかなかった。

 走り去っていくトラックを見送り、隣で同じように黙祷していた鈴子ちゃんに、
「他のみんなは?」
「香代子ちゃんと、石田くんはご両親が亡くなりました。笠井くんや他の子は……、まだ行方不明で」
「そう」

 行方不明、か……。それにご両親を。ならば香代子ちゃんと石田和則くんと合流するのが先決か。

「お願い。香代子ちゃんと和則くんの家に案内してちょうだい」
 鈴子ちゃんは「はい」とうなずいた。

 彼女に連れられて歩いて行くも、道路の左右には街の残骸ばかりが広がっている。
 柱だった木材が炭となり、汚れたお釜、割れた茶碗が転がって。どの家にも、それぞれの家族の暮らしがあったことだろうに。

 多くの子供たちは疎開して無事だったかもしれない。けれど、夫がいて、妻がいて、そして、中学生以上の男の子や女の子、はたまた小さな子供がいて、ちゃぶ台を囲んでいた暮らしがここにはあったんだ。戦時下で貧しい暮らしだったろうけれど、確かにここには家族がいたんだ。

 たった一夜で瓦礫となった家。その残骸ざんがいが広がった街。

 恐ろしいサイレンがなるなか、空からは敵機のエンジン音、そして焼夷弾の投下される音に、次々に火が立ち上るゴオッという音。
 一面が火の海となりチリチリとした熱気の中を、炎の赤に照らされながらも必死で逃げただろう人々。少しでも安全な場所へ、川へと。行き止まりで逃げ惑う人もいたかもしれない。
 この焼け焦げた町並みの上に重なるように、そのような光景が幻視される。

 いくつもの暮らしがわずか一夜にして壊れてしまった。積み上げてきた幸せが一瞬にして無くなってしまった。

 怒り、なげき、むなしさ……。さまざまな感情が心のなかで渦巻いて、自分で自分がわからなくなる。
 かえって自分の中がからっぽになってしまったような、そんな気持ちのままで私は鈴子ちゃんの後を追った。

――――
――
 宮田香代子ちゃんは家だっただろう廃墟はいきょの中で、呆然としながら座り込んでいた。
「春香先生……」
 足元に気をつけながらそばに行き、そっと抱きしめる。「よくがんばったわね」

 彼女の背中をさすり、少し離れて真っ正面から表情をうかがう。
 すすだらけの顔に、疲労が濃い。もう涙はれはててしまったのだろうか。しっかりものの彼女だけれど、今は生きる気力すらも抜け落ちた人形のように見える。

 ここに来る前に和則くんの家に行ったが、そこでは黙々と焼け焦げた木材をひっくり返し、使える家財道具を集めている和則くんがいた。
 むすっとした表情で作業を続ける彼に、私は1つの提案をした。同じことを彼女にも伝えようと思う。

「香代子ちゃん。清玄寺に行こう」

 ここにいても、孤児になってしまった香代子ちゃんは生き抜いていくことはできないよ。もし頼りになる親戚がいるなら、清玄寺から手紙を書けばいい。親戚も頼りにできなければ、そのまま清玄寺の子になればいい。

 けれど、香代子ちゃんはうなずいてはくれなかった。
「私の家はここなんです」
 そういう彼女の目尻に一粒の涙が浮かぶ。
 優しく親指でぬぐい取って、
「わかるよ。でもね。あなたには生きつづけて欲しいの。ここでは……」

 洗脳するみたいで卑怯ひきょうかもしれない。でも許して欲しい。
 そう思いつつ、言葉に神力を乗せて改めて言う。
「だから、今は思い出の品を持って、私と一緒に清玄寺に戻ろう。……私があなたのお母さん代わりになってあげるから」

「春香っ、先生っ」
 見る見るうちに彼女の目から涙がこぼれてくる。ぎゅっと抱きしめて、彼女の頭を胸もとに抱きかかえた。小さい子をあやすように、そっと背中をぽんぽんと叩く。

 心配そうにこちらを見ている鈴子ちゃんに黙ってうなずく。しばらくそのままの姿勢で、彼女が泣き止むのを待ち、他の子も探してくるから、その間に持っていく品々を集めて鈴子ちゃんのところに行くように伝えた。

 鈴子ちゃんの家族も、家を失ってバラック暮らしで、そのうち遠方の親戚のところに引っ越しするかもしれないという。私も長居はできない。残念だけれど、行方不明の子を探せるのは今日だけだ。

 作業を始めた香代子ちゃんを残し、私は鈴子ちゃんとも別れて1人、残りの子供たちを探す事にした。


 ひたすら歩き続けた私は、本郷区だけでなく、浅草、墨田川沿いを南下して上野あたりまで歩き続けた。
 けれど誰も見つけられないままに夕暮れ時が近づいてくる。

 疲れた。
 夕焼け色の空の下に、焦土となった町並みが広がる光景。
 なんて凄まじい光景だろうか。非日常の、あたかも世界の終わりであるかのような世界が広がっている。

 ふと立ち尽くす私の手を誰かが引っ張った。
 振り返ると、そこには小さな女の子がいる。年は4歳くらいだろうか。
「ママ?」

 ――。とっさに言葉が出てこなかった。

 しゃがみ込んで、女の子の頭を撫でてあげる。
「ママとはぐれちゃったの? お父さんは?」
「わかんない」
「そう。お家はどこ?」「あっち」

 女の子に手を引かれるままに、私はその子の家に向かったが、そこにあったのはやはり崩れ落ちた焼け跡だった。

 私が女の子といると、近所のおじさんだろうか。私たちを見ると、妙にニコニコと笑顔になって話しかけてきた。

「よう。菜々子ちゃん。ちょっとお家にいっていな。ちょっとこの人と話があるから」
 すると女の子はコクンとずいて、焼け跡の中に入っていく。

 おじさんは、私を見て真剣な表情になる。
「あの子の家族はみんな死んじまった。遺体もどこかに持って行かれてわかんないんだ。……あんたが誰かは聞かないが、このまま帰った方がいいよ」

 そう。あの子も孤児になってしまったのね。

 私は首を横に振った。
「それなら、私があの子を連れて行きます。だから、もしあの子の親戚が訪ねてきたら、栃木県松守村の清玄寺に――」
と行き先を伝える。
 おじさんは一言、「わかった」とだけ言うと、手を振って離れていった。

 お寺と聞いて安心したのかわからない。けれど、やはり心配はしていたんだろう。
「菜々子ちゃん。お邪魔します」

 私は女の子の家のあった廃墟に足を踏み入れた。思い出の品。持っていくものを探そう。そして、なにより菜々子ちゃんに一緒に行こうと説得しないといけない。

 ひとりぼっちになってしまった女の子。まだ幼いのに……。
 涙が出てきそうになるけれど、それでも彼女は生きているんだ。

「私、春香。……ね。おばちゃんのところに来ないかな?」

 この幼い身体に降りかかった残酷な運命を思うと、辛くなる。すべての孤児を救うことはできないけれど、この子を放っておくことは私にはできなかった。
 まだ状況がよくわかっていないのだろう。無邪気で澄んだ瞳が私を見つめていた。


 リュックを身体の前に移し、背中には菜々子ちゃんをおんぶして本郷区に戻るが、ようやくたどり着いた頃にはもう夜になっていた。
 鈴子ちゃんの家、とはいっても、崩れた建物の木材をどうにか組んで作り上げたバラック小屋だけれど、その前の道路に和則くんと香代子ちゃん、鈴子ちゃんの3人がたたずんでいた。

「おまたせ」
 無言でこっちを見る3人に、
「駄目だった。他の人は見つからなかったよ」
と告げるが、痛ましそうな表情を浮かべたのは鈴子ちゃんだけだった。2人はそれどころじゃないんだろう。

 幸いに鈴子ちゃんの隣の家は誰もいないということなので、そこの焼け跡で今日は野宿させてもらうことにした。鈴子ちゃんのご両親は生き残りをまだ探しているということで、戻っていないらしい。

 私の背中で眠ってしまった菜々子ちゃんを、そっと地面に降ろして香代子ちゃんに見ていてもらう。
 和則くんと2人で木材をどけて、腰を下ろせるスペースを作る。幸いに木材の下に座布団を2つ見つけたので、その上に菜々子ちゃんを乗せた。
 幸いに鈴子ちゃんの家では水道が生きているということだったので、それぞれの水筒に水を補給すると同時に、凹んではいるけれど拾ったヤカンに水を入れてもらった。

 まだ3月上旬ということもあり、夜は冷える。
 作ったスペースの中央で火をおこし、その周りに、和則くんと香代子ちゃんと私、そして、帰りを待つ鈴子ちゃんとで円座になって座り込む。

 リュックからおにぎり包みを取り出して、みんなに分ける。1つ足りなかったけれど、私の分は無いということにして、気にしないで食べてもらった。

 昨日まで曇りだった空が、今日はきれいに晴れ渡っている。キラキラと輝く星空が、廃墟の街の上に広がっている。
 パチパチと木材が燃える音が静かに聞こえた。

 空襲の時の様子。どんな風に逃げ延びたのかなどは、怖くてとても聞けなかった。それに辛い記憶を呼び覚ますことになるだろうから。
 この子たちが自分から話す気になるまでは、そっとしておこうと思う。

 その代わり、
「これからのことだけれど――」

 明日の朝、近くの役場で『罹災りさい証明書』を取り、そのまま清玄寺に出発すること。
 歩いて荒川を渡り、大宮から列車に乗る予定であること。そして、当面は清玄寺で疎開学童と一緒に暮らすこと。けれど、親戚のところへ行くならそれも良し。もし行き先がどこもなければ清玄寺でそのまま暮らしなさいと。願うのならば、私と夏樹の子供になりなさいと。

「春香先生。ご主人がいないのにそんな約束して……」
という香代子ちゃんだけれど、私は微笑んだ。
「大丈夫。夏樹はわかってくれるから」
と答える。やれやれと思うくらいはあるかもしれない。でも、夏樹だって同じことを考えるはず。かつて香織ちゃんや身売りされそうになった女の子たちを引き受けた夏樹だもん。

 ただし、永遠の時を生きる私たちと、この子らでは時の流れが違う。かつて碧霞へきかの前から去ったように、いつかはこの子たちの前から去らねばならない。
 もっともそれは未来のこと。

 私の申し出に、和則くんは首を横に振った。
「春香先生には悪いけど、僕は……」
「もちろん今すぐに決めなくていいよ」
 今はそれよりも、明日を生きることのほうが大事だから。それに、どっちにしろ清玄寺にいる間はちゃんと面倒を見るつもり。

「僕は許せない。家をこんなにして。父さんと母さんも死んだ。米英のせいか。それとも政府のせいか。わかんない。何もわかんないけど許せない。いったい誰が悪いんだ? なんで僕はこんな目にっているんだ?」
「和則くん……」

 たき火に照らされた彼の顔が歪んでいる。

「くそっ。――泣くもんか! 絶対に泣くもんか!」

 そう叫んだ彼の目尻から、一粒の涙がこぼれた。

 かける言葉がみつからない。なんて言ってあげればいいのか……。
 そう思った時、寝ていた菜々子ちゃんが目を覚まして、泣き始めた。

 すぐに駆け寄っていって、抱きかかえてあげる。
「よしよし。大丈夫よ。大丈夫。大丈夫だからね。私はここにいるから。ね」

 あやしながらも、和則くんと香代子ちゃんを横目で見る。じっと炎を見ながら我慢している2人。まだ6年生の幼さにもかかわらず、大人にならざるを得ない2人。その心には消すことのできない傷がついている。

 焼け跡で身を寄せ合うようにして過ごしている私たち。菜々子ちゃんを抱っこしながら、その頭上で煌めく星を見上げた。

 まるで亡くなった人々が、空から私たちを見守っているかのように美しく星が輝いている。
 ……ああ、願わくば、この子らを。行く末を。未来を。どうか見守り下さい。そして、この心の傷を癒やしていけますように。

 いつしか菜々子ちゃんが泣き止んで、私の腕の中でうつらうつらとし始めた。どうやら鈴子ちゃんのご両親も帰ってきたようだ。
 気にしながらも自分の家に帰っていく鈴子ちゃん。残された2人はただじっとたき火を見ている。

 まだすぐには無理かもしれないね。
 それでもいつか家族になれるように、この子らの心に寄り添っていきたいと思う。

 長い長い息を吐き出す。瞼の裏に夏樹の顔を思い描く。私を包み込むように、そっとあの温かい目で見つめる、あの顔を。

 ねえ、夏樹。私、がんばっているよ。
 この地獄のような廃墟の中で、今も子供たちとがんばっているよ。

 こんな時、あなたがいてくれたらなぁ。……早く会いたいよ。