アーサーが目を覚ますと、そこは季節廻る塔の広間でした。
長いすにすわっていて、となりではエリザベスが眠っています。
そっと肩を揺すると、「ううん」と言いながら目を覚ましました。
その時、
「どうやら起きたようですね。」
と、遠い昔に聞いた、とてもうれしい声が聞こえます。
2人が顔を上げると、そこには冬の女王が2人をニコニコしながら見つめていました。その後ろから、春の女王、夏の女王、秋の女王もやってきます。

立ち上がった2人は冬の女王をじっと見つめました。エリザベスがどこか夢の中にいるように、
「お母さん?」
とつぶやくと、冬の女王はうなづいて、
「そうですよ。……アーサー。エリザベス。大きくなりましたね。」
と2人を抱きしめました。
アーサーとエリザベスの目から涙がこぼれました。
「お母さん。お母さんお母さんお母さん!」
何度も何度も母を呼び、強く抱きしめるエリザベス。そして、ただじいっと涙を流しているアーサー。
そこへ下から、
「おいおい。……私を忘れてもらっては困るよ。」
と声がします。
冬の女王が「あらあら、あなたったら。」とクスッと笑いながら少しはなれました。
その足元からは、あのキツネのチャールズが現れました。
女王がチャールズを抱き上げて、2人にほほえみかけます。
「まだわからない? お父さんよ。」
「「えっ?」」
2人は驚きました。
その様子を見てキツネのチャールズが、
「ははは。まあこの姿だからね。」
と笑います。
そこへ他の女王たちも割りこんできました。
春の女王が、
「よくぞやり通してくれたわ。紡ぎ手のお2人さん。これでようやく春にすることができるわ」
とうれしそうにいいます。
どうやら女王たちから託された指輪は、すでにそれぞれの女王の指にはめられているようです。たった一つ、……冬の女王の指輪をのぞいて。
夏の女王が、
「いつまでもこうしていたいのはわかるけど。そろそろ時間なのよ。」
と残念そうに言います。
アーサーが「え?」と言うと、秋の女王が2人の後ろを指さしました。
ふり返った2人が見たのは、広間の壁にある大きな鏡でした。そこにはあの公園のベンチが写りこんでいます。
キツネ姿のチャールズが2人の前に回り、
「本当は2人とずっといっしょにいたい。……けれども、お前たちにはお前たちの生きるべき世界がある。戻らなきゃいけないんだよ。」
と言いました。悲しげな表情になるアーサーとエリザベスでしたが、冬の女王が後ろから2人の肩を抱きよせました。
そして、その耳もとで、
「大丈夫よ。私たちはいつも貴方たちの心の中にいる。ずっと見守っているわ。」
とやさしく語りかけます。
いつの間にか、2人は再び涙を流しています。その涙を冬の女王ヴァージニアがぬぐい、2人を鏡の前に連れて行きました。
鏡の前で並んだ2人がふり返ります。
ヴァージニアが、春の女王たちが、2人に手をふります。
チャールズが、
「悲しむことはない。……いつでも物語の中で出会える。夢と希望を胸に行きなさい。」
と言いました。
うなづいた2人は、手をつないで鏡の中へと歩いて行きました。