24.聖剣の間
二人に遅れて私が部屋に入ると、後ろで扉が勝手に閉まった。
最後の部屋は、今までの岩をくりぬいた洞窟風ではなく、厳かな神殿のような白い大理石の部屋だった。
先に入った二人は部屋の中央に鎮座している一本の剣に目が釘付けになっている。その剣は鞘に入っているけれど、淡い光を放っている。
あれが女神の言っていた聖剣ね。
見たところ装飾がないシンプルな剣のよう。確かに不思議な力の波動を感じる。……前に感じた波動の正体は聖剣だったみたい。
ヒロユキが、
「なあ、あれってこのダンジョンのお宝だよな?」
とコハルに確かめる。コハルも聖剣に心を奪われたように、
「うん。そうだよ。たぶん」
と言った。
ヒロユキがおそるおそる聖剣に近づき、そっと手を伸ばす。
その時、ヒロユキの手が何かに弾かれた。
どこからともなく、男性か女性かわからない声が聞こえてくる。
「試練を乗り越えしものよ。我は聖剣フラガラッハなり」
へぇ。意思のある聖武器なわけね。
私はそれを聞きながら、のんきに考えていたが、ヒロユキとコハルがものすごく驚いている。
「も、もしかして剣がしゃべっているのか?」
そういうヒロユキに、聖剣フラガラッハは、
「是なり。されど汝ら二人は、我をふるうに未だ力およばざる。……願わくば、我を使いこなしうる勇者のもとへ」
そうか。この剣は聖剣。魔を打ち払う希望の武器だものね。たしかに、魔族と戦うあの勇者の女の子が使うべきでしょうね。
二人とも同じことを思ったようで、コハルがヒロユキに、
「ねえ。キョウコお姉ちゃんに届けてあげようよ」
と言うと、ヒロユキもうなづいて、聖剣に、
「間違いなく、キョウコお姉ちゃんのところまで連れて行くよ」
と語りかけた。
「ならば、そなたらにも力を与えよう」
聖剣はそういうとまぶしく光った。……うん。聖剣が言うように、二人の身体能力が上がったみたい。
その光が収まり、ヒロユキが再び手を伸ばす。今度は弾かれずに捧げるように両手で持ち上げた。
「……すごいな」
コハルもヒロユキのとなりに立って、剣を見ている。
「ねえ。ヒロユキ。抜いてみて」
コハルに言われてヒロユキが、「ああ」とうなづいた。
おそるおそる柄に手をそえて、そっと引き抜――けなかった。
「え?」
いぶかしげな声をあげるヒロユキに、コハルが、
「どうしたの?」
「抜けないんだ。この剣」
ヒロユキが何とか剣を抜こうと力を込めるが、どうやらビクともしないようだ。
「資格無き者に我は抜けぬ」
再び聖剣の声がした。
……まあ、そうね。まだまだ力不足だもんね。
私はそう思いながら、妙にかしこまる二人を見ていた。
――――
二人は他にこの部屋に何かないか見て回ったが、残念ながら何も見つけられなかったようだ。
私は、二人が落ち着いたころを見計らって近よると、そのまま二人を導くように、奥の壁に向かった。
そこには、地上への転移魔方陣が描かれているから。
コハルが後ろをついてきながら、
「あ。それってもしかして……」
とつぶやく。
「地上への転移魔方陣だな」
ヒロユキがそういうと、二人は次第に駆け足になっていく。
ふふふ。これでようやく帰れるもんね。
魔方陣の手前でコハルが、
「でもこれって、どうやればいいのかな?」
としゃがんだ。
すると聖剣が、
「魔方陣の上に乗るがいい。我が起動しよう」
と言った。
私が起動しても良かったけど、まあ、ここは任せようか。
二人と並んで私も魔方陣の上に立つと、自然と魔方陣が光り始め、ぶううぅぅんという音がし始めた。
コハルが片手で私を抱き上げ、もう片方の手でヒロユキと手をつなぐ。
ヒロユキが笑った。
「よし。帰ろう!」
私たちは光に包まれて転移した。