「ただいま~。おかえり~」
一人でそんなことを言いながら、コハルが王都にあるホームに入っていく。
結局、私のことはよくわからないってことで、魔王はキョウコが倒したことになった。
そのため、キョウコはロンド大陸のあちこちの国で、お祝いのパレードをすることになり、大変そうだった。
そのパレードにはエドワードたちも参加することになっているので、ヒロユキとコハルは先に王都に戻ることにしたのだ。
ちなみに魔大陸ダッコルトで、キョウコたちと、アスタロトを新たな王とする魔族たちと協定が結ばれ、これ以上の戦いはしないことになっている。
まあ、残された魔族ももともとはダッコルトの住民なわけで、これからは貿易や文化の交流が始まるだろう。
ロンド大陸の上層部は嫌がるかもしれないけど、互いのことをよく知り合えば、きっと平和な関係を築いていくことができるでしょうね。
――――
今日は、懐かしの錬金術師マリーの家で帰ってきた報告をしてきたところ。
おばあさんは泣いてうれしがって、ヒロユキとコハルを抱きしめ、なかなか離してくれなかった。
とまあ、久しぶりのホームに戻ってきて、最初にすることは大掃除。
ゴホゴホと埃に咳をしながら、二人で手分けして掃除をする。
私は埃が嫌なので、屋根の上でのんびりひなたぼっこをしている。
温かい光を浴びながら、そろそろ向こうの世界にも戻りたいなぁと考えている。
幸いにして異世界召喚の魔方陣の解読もすでに済ませているし、おそらく自分一人で向こうの世界に戻ることはできると思う。
でも、いきなりいなくなったら驚くでしょうしねぇ。
ちなみにキョウコは落ち着いたら、地球とかいう世界に戻るかどうか考えると言っていた。
あの子の場合、お城の魔方陣が地球に固定されているから、戻ることはできるらしい。行き来はできないけれどね。
家の中から聞こえる掃除の音を聞きながら、私はそっと目を閉じた。ふわぁぁぁ。おやすみなさい。
――――
「おい! ユッコ! 帰ってきたんなら、帰ってきたっていえよな!」
ふふふ。銀狼のフェンが怒っている。
ごめんごめん。いっつもふらっと出歩いているから、言うのを忘れていたわ。
「ったくよ。心配かけさせんじゃねえっての」
あら? 私の心配なんて必要ないのにね。
「それは、そうだけどよ。……でも心配なのは心配なんだって」
そう。ごめんね。今度はちゃんと言ってから出かけるし、戻ってきたらお土産を持って行くわね。
「お、おう。わかりゃあいいんだ。わかりゃあよ」
そうだ! そういえば、アンタのところ、そろそろ子供産まれるんだったよね。
「……もう生まれたぜ? 三日前だ」
やったじゃん! 三日前か。……よし、今から見に行こう!
「お、おい。ちょっと待てよ」
や~だよ! 待たないよ! 名前は?
「名前か? そ、そのよ。ユッコにつけて貰おうって思ってさ」
えっ。私がつけていいの?
「お。おうよ。嫁とも話しついてんだ。これも親孝行って奴だ」
ぷっ。くすくす。親孝行? 気にしなくてもいいのに。
「うっさい。笑うなよな。こっちは真剣だっつうのによ」
ああ、ごめんごめん。
――――
―――
――
「ユッコ! 掃除終わったよ!」
軒下からコハルが呼ぶ声で、私は目を覚ました。
変な夢を見たせいか、妙に寂しい。
……そうね。今度、やっぱり戻ろう。
――――
それから一ヶ月が経った。
ワイバーンの襲撃を受けた王都の復興も、順調に進んでいて、人々の暮らしも元に戻りつつある。
今日、ようやくエドワードたちが帰ってきた。
さっそく帰還のお祝いのパーティーをすることにしたら、なぜか勇者パーティーの人たちもやってきた。
王都での祝勝パレードは明後日の予定らしいが、こんなところにいて良いのかしら?
みんなで楽しく飲み食いし、騒いでいる。
私はころ合いを見て、そっと裏口から外に出て、星の輝く夜空を見上げた。
すると、キョウコが裏口から出てきて、私のとなりに座った。
「ねえ。ありがとうね。お陰で無事に魔王を退治することができたわ」
そういってキョウコが私の背中を撫でる。
しばらく沈黙がつづき、キョウコが意を決したように、
「……私ね。あと一週間位したら、地球に戻ることにしたわ」
と告白した。
「向こうにはお父さんもお母さんもいるし、友達も。学校もあるしね」
うんうん。気持ちはわかるわ。私だって似たようなものだもん。
キョウコは体育座りになった。
「こっちにもお友達はできたんだよ。それが寂しいけど。やっぱりこっちは私の世界じゃないから……」
キョウコは私を見下ろし、
「だから、他の人がいないところでお礼が言いたかったんだ。ありがとうね」
ふふふ。この子も良い子よね。
私はそっと、お守りがわりに尻尾の毛を抜いて、キョウコの髪に紛れ込ませた。
あの毛が、きっと地球に戻っても、キョウコを守ってくれるわ。そう願いをこめて。
それに、いつか地球へも遊びに行ってもいいわね。
私とキョウコはそのまましばらく寄りそって、星空を見上げていた。
――――
空には突き抜けるような青空が広がっている。
吹き抜ける風が気持ちいい。
丘の上の大きな木の下に敷物をひいて、コハルが、離れたところで訓練しているエドワードとヒロユキの姿をのんびりとながめている。
……実はここ。コハルの夢のなか。
私はのんびり座っているコハルの正面に座る。
「ユッコ? どうしたの?」
コハルの膝の上に前足を乗せて、
「あのね。コハル。私ね。こっちの世界も好きだけど。元いた世界も好きなの。……だから、――――してもいい?」
コハルは突然しゃべりだした私を見てびっくりするけど、
「――――しても、か。……ふふふ。ユッコったら何でもありだよね。うん。わかった。いない間は寂しいけど我慢する」
といって、私の体を持ち上げてぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。コハル」
「ううん。いいのよ。もとは私が召喚しちゃったんだし。……それにユッコがいたお陰で平和になったものね」
そういうコハルの首元に鼻先を埋めると、コハルはスリスリと私にほおずりをしてきた。
「ユッコってお日様の匂いがするよね。ふふふ。大好きよ」
「私もよ。コハル。大好き」