6.先導者vsスケルトンキング

 あれからスクリーンで先導者パーティーの動向を見続けていたリオネルとエリザ。
 本当のコアルームに通じる隠された入り口の近くを通りがかったときは緊張したが、彼らはその入り口に気がつくことなく通り過ぎた。
 どうやら他の冒険者と同じく、販売されている既存の地図にしたがって、一直線に旧ダンジョンボス・ルームに向かっているようだ。ひとまず2人は胸をなで下ろした。

 やがて彼らは危なげなく魔物を倒しながら、とうとう表向きの最下層である旧ボスルームに到達した。

 そこにいるのはスケルトンキングである。今さらだがダンジョンのボスと支配者マスターとは違う。ボスはダンジョンコアが生み出したコアの守護者であり、マスターはコアの所有者である。ボスの種類はコアの操作でも設定できるが、リオネルはいじらなかった。というのも、エリザの身体を復活させるためにコアを利用しているだけであり、ダンジョンの防衛には興味が無いからだ。
 用事さえ済めば、さっさと所有権を放棄して立ち去り、より安全なところに潜伏する。ゆえに下手に設定をいじって目立つようなことは避けるのが正解なのだ。

 スクリーンにボスルームが映し出されている。扉から入ってきたアナスタシア一行に退治するはスケルトンキングと10体の部下だ。
〝行くぞっ〟

 アナスタシアの号令で魔法使いの老人の頭上に魔法陣が浮かび上がり、幾つもの火弾が放たれた。
 しかしその火弾はすぐにスケルトンキングが張った闇の聖域の効果により威力が減衰。さしてダメージを与えられていない。けれども目的はスケルトンキングたちの足止めだったようで、気がつくと先導者たちの布陣は完了していた。
 アナスタシアを中心に前衛3、そして魔法使いの老人と神官らしき女性とレンジャーらしき男。

「この神官は、僕らに浄化魔法を放ってきた人だね」
「そうね。……ああ、やっぱりこの人たちは強いみたいよ」

 エリザの解析眼にはその強さがはっきりと見えていた。「このセレスって人だけで、私と同じくらい魔力がある」
 けれどリオネルはアンさせるように微笑んで言う。

「実際の強さは、そういうスペックだけでは測れないさ。今までの戦ってきた経験も見定めないといけない」
「そっか。私たちも魔物やこのボスたちとは何度も戦って訓練したけど、騎士とか冒険者たちとは戦ったことがない」
「そう。だから、いくら僕がこの先導者の倍以上の魔力を持っているからといって、少しも油断はできないんだ」

 リオネルには油断できない理由がもう1つあった。口には出さないが、それはエリザを守らねばならないということである。

 画面の中では、スケルトンキングの周囲を素早く移動しながら、次々に飛び込んでは切りかかっているアナスタシアの姿があった。ほかの2人の剣士は、部下のスケルトンナイトと戦っている。
 金髪の1人は、まるで舞を踊っているかのように攻撃をかわしながら、的確にスケルトンナイトのコアに攻撃を加えており、すでに2体のナイトを倒している。
 もう1人のブラウンの髪の大柄な剣士は、大楯を構えて動かず、スケルトンナイトの攻撃を受け止めて微塵も揺るがない。スケルトンナイトの何体かが、その剣士の横を通り抜けようとした途端に後陣の魔法使いから火炎魔法が、神官からは浄化魔法の光が飛んできて、あっという間にその身体を崩れ落ちさせた。

「連繋がとれている。これは僕ら2人だと厳しいな……」

 そうリオネルは判断した。理由は明確だ。ただでさえ、こちらは2人、向こうは6人と人数差があるわけで、単純に手数が足りないのだ。
 もし戦うのならばとにかく魔法を連発して、相手の後陣の魔力切れを狙ってから前衛と対峙しなければならない。

「それよりもこの先導者よ。強すぎるわ」

 エリザが指摘するように、画面の中ではすでにスケルトンキングの両腕が無くなっていて、かろうじて闇魔法で対抗しているが、いつ倒されてもおかしくはない状態だ。

 再生力が高いスケルトンキングである。腕が切り落とされても、すぐに元の位置に接着して戦いを継続するはずが、何故か消え去っている。足元に落ちているのではない。消え去っているのだ。
 秘密はアナスタシアの剣にあった。聖別された破邪の剣。その攻撃を受けたスケルトンキングの腕は塵となってしまっていた。

「エリザ。あの剣をよく解析しておいてくれ」
「わかったわ」

 ただ、こうして戦っているのを見ているとよくわかる。やはり一番は戦わないことだ。もちろん、自分たちの訓練は続けるけども。
 キングが倒され、スケルトンナイトたちも次々に倒されていくのを見て、リオネルはそう結論づけた。

 問題はこれからだ。彼らがボスを倒した後にどういう行動をとるのか、だ。

〝ここにもいない……か〟

 先導者の言葉に応えたのは魔法使いの老人だった。
〝そりゃそうだろ。まさかボスって事はあるまい。ダンジョンマスターの可能性はあるがの〟
〝わかっている。――みんな、準備はどうだ?〟

 問いかける先導者だったが、ほかのメンバーたちにほとんど疲労もないようで、このまま奥へと進むようだ。

 魔法使いの老人が注意を促した。
〝よいな。わかっているとは思うが、コアには触れてはならん。破壊することも領主とギルドから禁止されておる〟
 金髪の剣士がうなずいた。
〝俺たちの目的はアンデッドキャスター。コアには近寄らない。これでいいだろ?〟
〝そうじゃ。触ればマスターとして登録される。破壊すれば、ここ一帯の産業が崩壊する。どっちにしろ大問題じゃ。アナもよいな〟

 念押しする老人に、先導者もうなずいた。
〝わかってる。ルド爺。心配するな〟
 そういって一人きびすを返して扉に向かって歩いて行った。その背中を見て老人がつぶやいた。
〝お主が一番心配なんじゃがな〟

 その会話を聞いていたリオネルは、しかし緊張を緩めない。あの扉の向こうはかつてのコアルーム。今はダミーコアを置いているが、あの先導者も魔眼持ちだ。それもどこまでの性能かわからないけれど、解析の魔眼と見られる。
 念のため、表面から発せられる魔力波のパターンも、魔力圧も、本物のコアと一致させて作りだしてある。うまく誤魔化せるだろうか……。

 一方の画面の中では、先導者たちが扉を前にして慎重に準備をしている様子が映っている。彼らにとっては、中でリオネルたちと遭遇することを想定して、戦闘準備をしているのだ。

 仲間たちを見回した先導者が、慎重に扉を開けた。だが罠や襲撃があるわけでもなく、彼らは当然のように中に入っていった。

 スクリーンをコアルームに切り替える。彼らは内部をざっと見回して誰もいないのを確認するや、まっすぐコアの近く2メートルにまで接近してコアを何気なく見上げた。

 そんな彼らの映像を、リオネルは緊張しながら見つめていた。

 だが、アナスタシアは興味なさそうにダミーコアから目をそらし、〝まだ抜け道があるかもしれない。周囲を探るぞ〟と仲間たちに指示をした。
〝やれやれ……〟と呟きながら、彼のパーティーメンバーが散っていく。アナスタシア自身もダミーコアを無視して、一番奥の壁の方へと向かった。

 それを見ていてリオネルはゆっくりと息を吐いた。
 まだ警戒を緩められないが、どうやら見破られなかったようだ。とすると、今度はリオネルの持つ解析系統の魔眼が何の魔眼なのかが気になってくる。
 その疑問をエリザが解決してくれた。
「リオネル。彼の魔眼は魔力視の魔眼のようよ」
「魔力視?」
「ええ。魔力の量、魔力の流れを見破る魔眼なんだけれど、副次的に生物の持つ生命の波動オーラのようなものが見えるみたい」
「なるほど」
 とすると、自分たちが普通の人間とは違うオーラを纏っているのはバレたと言うことだ。それでアンデッドモンスターと判断したと。

「エリザにもそれが見える?」
「見ようと思えば見えるわよ。私の魔眼の方がずっと上位みたいだし」
「なら今度、手伝ってくれ。人間と同じ波動に偽装する魔道具を作ろう」
「そうね。その方が安全だと思うわ」

 彼らとの遭遇は危険ではあったが、却ってよかったのかもしれない。スクリーンの中で、遂に諦めて撤退していく彼らを見ながら、リオネルはそう思った。