3 ギルマスの日記 

 ギルマスの部屋で見つけた日記。
 最初のページにフェンリルさんの名前が書いてあるのを見つけ、続いてページをめくる。

 驚いたことに、時期はわからないけれど、フェンリルさんもこの世界に転移してきていたよらしい。
 同じくサービスが終了するまでログインしていたはずだけれど、転移の時期には相当にズレがあるようだ。

 その日記によると、今からどれくらい前かわからないけれど、フェンリルさんは天界門の前に転移していたらしい。最初は俺と同じくとまどったらしいけれど、ひとまずファストシティを目指して移動を開始したそうだ。
 そして既に廃墟になっていたファストシティを発見し、他のギルメンがここにやって来た時のために日記帳を残したらしい。

 フェンリルさんは元の世界に帰るための道を探していたようで、日記帳の最後には再び天界に向かうことが書かれていた。

 ――この世界での自分たちの体は、ゲームのアバターを同じ。スキルは早めに確認して慣れておく必要があるけれど、アイテムボックスも、魔法もゲームの時と同じように使える。システムも同じだけど、転職は各都市の教会にある転職の間の宝玉を使うことになる。
 ただし、ここで死んだときには復活はできないだろうと思う。復活アイテムなら効果があるかも知れないけれど、実験するわけにはいかないしね。

 この日記帳は、メンバーが来た時のために残しておく。それから、ギルド共有のアイテムボックスは、誰でもメニューからアクセスできるようにギルドステータスボードを設定しておくから、貸し出し用の装備品などは適宜使ってくれて構わない。

 これから元の世界に帰る方法を探しに天界に行こうと思う。もし天界から戻ってきていなかったら、そのまま元の世界に帰ったか、天界を探索中だと思って欲しい。大丈夫。デウスだって単独で倒せていたから。
 それじゃあ、後はよろしくね。――

「後はよろしくね……か」
 いかにもフェンリルさんらしい言葉だ。
「天界か。そっかぁ」
 ゲームと同じ難易度だとしたら、自分にはまだ早い。もっと強くならないと。

 同じギルドのメンバーとはいえ、リアルの事情はわからなかったが、日記によると、フェンリルさんは両親がすでに亡くなっているそうで、唯一の家族として妹さんが1人いるそうだ。元の世界に戻る。その方法をなんとしても探そうとしているのは、その妹さんのためらしかった。
 対する自分は……。
 両親は健在だし兄妹もいる。だが不思議と、そこまで元の世界に帰りたいという気持ちはない。それよりも、せっかくデルモントとしてゲームの世界に来たんだから、しばらくは楽しんで冒険などしてみたいと思っている。

「そういえばギルド武器があるんだっけ」
 自分のステータスボードからギルドボードへとアクセスし、どんなアイテムがあるのかを確認しよう。

 貸し出し用の装備品、通称ギルド武器。
 本来は自分の武器は自分で集めるけれど、転職することが多いこのゲームでは、近接戦闘職から遠距離戦闘職や魔法職へと転職することも頻繁ひんぱんで、装備できる武具がガラッと変更してしまうこともザラだ。
 そのため、不要になった装備品などを共有の武器として、ギルドのアイテムボックスへと入れたりしていたのだ。
 後はみんなで協力して素材を集めて作った、強力な武器なんかも入れていたはず。

 今の自分が装備できるのは剣か刀。見知らぬ世界に来たのだ。できるだけ良い武器に変えておきたい。
 そう思いながらスクロールさせていくと、目に止まった武器があった。

 竜皇剣と月読の刀。
 いずれもゲーム内最上位クラスの武器で、竜皇剣は天界エリアの素材が必要な上に課金しないといけない光属性の剣。月読の刀はそれよりも一歩劣る装備だけれど、攻略最前線プレイヤーでも使われていた剣で、冥界エリアの素材が必要となる無課金最上位の剣だ。
 剣と刀では感覚がまったく違うが、2本の剣を駆使して攻撃する双剣士系列のジョブであるクロスナイトならば問題なく装備できる。

 ちなみに竜皇剣には連撃時1.3倍という攻撃特性があって、初撃が100ダメージだとすると、10連撃めで1060、20連撃めで1万4000を超えるダメージを与えるという理不尽な攻撃力となる。
 これに対して、月読の刀は別枠で無属性追撃80%付きで、これまた強力な性能を持っている。

 ギルド武器の一覧から、神狼爪甲というナックル系の最上位武器がグレーアウトしているので、これはフェンリルさんが持って行ったのだろう。
 そういえばフレンドリストの確認をしていなかった。フェンリルさんの表示は――。グレーアウトしている。ということは無事に元の世界に帰ることができたのか。あるいは……、そんなわけはないか。
 きっと帰ることができたのか、まだ帰還方法を探しているのだろう。

 同時に、フレンドリストでは白文字になっている人を見つけることができなかった。ということは、同じギルド仲間は当然いないし、他のギルドや野良のフレンドもいないということだ。この世界に1人……、それはやはり寂しい。
 しかし、メンバーがいないのであれば、この2本を借りていくことにしようと思う。

 もっとも、この世界のクロスナイトの評価がわからないから、しばらくは月読の刀だけを腰に下げて竜皇剣はアイテムボックスに仕舞っておくことにし、普通の剣士を装った方がよいだろう。

 ――さて気持ちを切り替えていこう。
 フェンリルさんの日記のお陰で、とりあえず今の状況がだいたいわかった。
〝スキルには早めに確認して慣れておく必要がある〟
 そのとおりだ。ゲームシステムのアシストがないのだし、ゲームではなくリアルに命のやり取りをすることになるのだから。

 というわけで、早速、月読の太刀を抜き放つ。基本的な横薙ぎのモーション。
 重さや握りの感覚など、ゲーム時代との違いを確かめる。そのまま2、3度、型をなぞるように素振りをしてみたが、元々がリアル志向のゲームであったせいか、ほとんど同じようだ。あとは実際にモンスターと対峙した時でよいだろう。

 ふと思ったんだが、慣れるまでは、むしろこの世界を現実世界と考えずにゲームだと思い込んで行動する方が安全なのではないだろうか。その方が、モンスターと対峙した時も動揺することなく戦うことができるような気がする。

 考察はそこまでとして、少し周辺の探索をもう少し進めることにしよう。