14.小学校6年生 修学旅行4

01第一章 時を超えて

 翌日の午前は国会議事堂の見学をし、その後、東京タワーへと向かった。

 当然、この頃はスカイツリーもないし、そもそも地上波デジタル放送も始まっていない。修学旅行の行き先が東京だという小学校では、定番の訪問地だ。

 バスに揺られながらビル街を眺めていると、合間から見えていた東京タワーが段々と大きくなってきた。
 坂をぐんと上って交差点を曲がると、目の前に赤い鉄骨の大きな姿が見えてくる。

「うわぁ。おっきい!」

 みんなのテンションもどんどん上がっている。地方の人々にとって東京のシンボルだからなぁ。横に座っている春香も目をキラキラとさせていた。
 俺はといえば、正直にいえば大人になってから東京タワーに行く機会はなかったので、とても懐かしい。

 律子先生が、
「東京タワーについたら、最初はみんなで展望台に上るわよ。それから班別行動になるからね。集合場所はこのバスだから、忘れないように」
と言い、みんなも素直に返事をした。

 バスがタワーの足下の駐車場へと入っていく。

 順番に下りて、旗を持った律子先生の後についていき、正面のエレベーターに並んだ。エレベーターガールの女性が順番に生徒たちを案内している。

 大展望台に到着してエレベーターを降りて正面の展望ガラスの方へと行く。

 東京の町並みが、ずっとずっと向こうまで続いているのがよくわかる。

 記憶に残っているチベットへ行く前の街並みと、目の前の街並みでは違うところが思いの外あって不思議な気持ちになる。いわば、未来から来ているようなもんだからね。

「すごいねぇ。東京って。ずっと向こうまでビルが続いているよ」

 隣で春香がつぶやいた。その向こうの優子が指を指している。

「ね。あれって富士山?」

 俺は目をこらしてずっと先を見ると、関東山地の向こうに富士山が頭を出していた。ほう。珍しいな。この時期のこの時間帯で見れるなんて。

「そうだよ。ラッキーだったわね」

 俺たちの後ろから、カメラを手にした律子先生が声をかけてきた。

「そうだ。先生。僕たちの班の写真撮ってよ」

 班長の啓介がそういうと、先生が「オッケー」とカメラを構えた。

 俺と春香を中心に、啓介と宏、優子と和美が並んでピースをする。

「どう?先生。富士山はいりそう?」

 啓介がそうきいたが、ファインダーをのぞいていた先生は、

「う~ん。ちょっと難しいかもよ。でもまあ撮ってみるね。……はい。チーズ!」

 そういって3枚ほど写真を撮ってくれた。

 まあ、無理だろうなぁ。逆光気味だし、それほどはっきり富士山が見えるわけじゃないからなぁ。

 内心でそう思ったが、「写ってるといいね」というみんなの声を聞くと何も言えない。

 先生はカメラを肩にかけた。

「ま、写ってたらラッキーぐらいの気持ちでね。あはは」

 そう。まだデジカメは開発されていないから、フィルムを現像するまで確認できないのだ。

 律子先生は、

「じゃあ、もう班別行動になっているから、集合時間に遅れないでね」

 そういって他の子たちの写真を撮りに行った。

 俺たちは大展望台をぐるっと回ると、早めにエレベーターで地上に戻り蝋人形館へと向かった。

 ……正直、ここは不気味だった印象しかないから気が進まないが。

 入場料を払って中に入る。

 妙にリアルな人形たちが並んでいて気味が悪い。

 マリリン・モンローにマドンナ。ビートルズにジミヘン。ブルース・リーやデーモン閣下……。

「「「きゃっ」」」

 急に女子が声を上げた。春香が俺にしがみつく。

「どうした?」

 そう思いつつ正面を見るとドラキュラの人形が笑っていた。

「お、おい」

 戸惑ったような声が後ろからしたので振り向いたら、優子が啓介に、和美が宏にしがみついていた。

 よっぽど怖かったんだろう。二人とも。

「いや。離さないで!」「ね。今だけ!」

 優子と和美はそういって、それぞれ啓介と宏の手を握り必死の形相で絶対離さないつもりのようだ。春香に至っては完全に腕を搦めている。

 啓介と宏は、こういう事態は初めてのようで赤くなって照れている。俺は、普段では見られないその様子を眺めつつ、内心で面白いことになってきたかもと思っていた。

 その後、中世の拷問のコーナーでは春香たちは目をつぶったまま通り過ぎた。

 この蝋人形館もいずれ閉館し、確か新しいアトラクションになったはずだ。だいぶ先の話だけどね。

 ……みんなが来たいというから蝋人形館に来たんだが、これって子供にとってトラウマになったりしないのかな?

 こうして蝋人形館を出た俺たちは、2階のお土産コーナーに行った。そこでは既に他の子たちも殺到していて、結構な混雑をしていた。

 蝋人形館もそうだけど、どうにもここは昭和の香りがする。昭和チックといってもいい。

 何が児童や学生の琴線を引くのかよくわからないようなお土産が並んでいる。まあ、定番では「東京タワー」とか「東京タワーに行ってきました」と書かれたお菓子が無難だろうね。

 男子連中は日本刀のおもちゃの所で釘付けになっている。いちおう、班別行動なのでバラバラに移動はできないので、女子は隣の店のふさふさの白い毛玉のようなキーホルダーを触っていた。

 俺は、別に興味を引くものもないので、ぼんやりとガラスケースの中にあるブリキのオモチャや提灯を見たり、春香と一緒にキーホルダーを見ていた。

 そこを丁度、律子先生がやってきた。

「あっ。駄目だよ。こういう大きいのは。今度、家族できた時に買って貰いなさい」

 日本刀を選んでいた男子たちにそういうと、男子連中はしぶしぶ日本刀を戻していた。まあ、修学旅行とはいえ学校行事だからね。

 結局、みんなはお菓子を買ったようだ。……だけど、行く先々でお土産買っていくつもりなのか?

 疑問に思いつつ、俺が買ったのはジュースを2本だ。1本はバスに戻った時に春香にあげたが、鎌倉以外でお土産を買わない俺は、みんなの目にどのように映っているのだろうか。

 時間になり、点呼を終えてバスが発進する。

 2日目は浅草寺、国技館へと寄り、どこかの合宿施設のような所で一泊となった。

 思わぬ相談を受けたのは、その宿泊所でだった。

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