「春香、どうしたの?」
受話器の向こうから優子がきいてきた。
「あのね。優子。ちょっと聞いてくれる?」「う、うん。いいけど」
床に座り壁により掛かっていた春香は、手にした受話器を強く握った。
「今日ね……。なっくんに告白されちゃった」
昼を思い出して頬がだらしなく緩んでいるのが自分でもわかる。
「やったじゃん!春香。あのヘタレもよくやった!」
優子が受話器の向こうで大喜びで飛び跳ねている様子が思い浮かぶようだ。
「おめでとう。これで晴れて恋人になったのね。……ねえねえ。どこで?どういう風だった?」
すごい勢いで受話器越しに優子が聞いてくる様子がおかしくて、思わず笑い声が漏れてしまう。
「ふふふ。気になる?どうしようかな?私となっくんだけの大切な思い出だし」
「こらぁ!教えなさいよ!……まったく、春香ったら普段はみんなと同じで明るいのに、夏樹君のこととなるとデレッデレになるよね」
それは仕方ないよ。だって、こんなにも大好きなんだもん。
「えへへ。それはねぇ、わかるでしょ?」
笑ってごまかすと、優子も向こうで笑っているのがわかる。
「んもう!……で、どうだったのよ?」
「え~!やっぱり言わなきゃダメ?仕方ないなあ」
「ほらほら。棒読みで全然仕方ないって感じじゃないよ。……ぐへへ。そろそろ白状したらどうだい?」
芝居がかった口調で、告白の様子を聞こうとする優子。私は、クスッと笑ってから深呼吸を一つついた。
「いい?誰にも言わないでよ。今朝、学校に着いたときに――――――」
そして、今日の出来事を優子に話した。
「はあ~。うらやますぃ!それに親の前で会う約束なんて大胆!やるなぁ。夏樹君。見直したぞ。……これも幼なじみだからできることなのかねぇ」
すべてを聞き終わった優子がしみじみと言った。え~!そこってしみじみと言うところ?
でもでも!満たされた気持ちになっている私がいるのよね。はあぁぁ。幸せ。
「それでキスは?」
優子の言葉に、私は、
「え?き、キス。う~んとね。いい感じのところでお腹が鳴っちゃってねぇ……。まだかな」
「ぷっ。はははは。お腹が鳴った。くくく」
受話器から笑いを堪え切れていない優子の声が聞こえる。だってさ。仕方ないじゃん。二人ともお腹すいてたんだから。
「こらぁ。笑わない!ちょうどお昼だったのよ。だから二人ともお腹鳴ってさ」
「しかも二人ともって!く、私を笑い殺すつもり?くくくく」
「もうー!」
私が怒っていると、優子も落ち着いてきたみたい。でも、
「それにしても、春香と夏樹君って本当に仲良しよねぇ。お腹がなるところまで一緒だなんてねぇ」
「そ、そうよ。相性ぴったりなの。私となっくんは」
「はいはい。ごちそうさま」
く、何か悔しいわ。仕返ししちゃる……。
「それに、優子はどうなの?ほら、啓介君とは。ファーストキスの報告はまだ?」
「うっ。そ、それは……。まあ、ほらさ。春休みにデートしてさ。その時に……」
「えーっ!キイテマセンヨ!」
私が棒読みで抗議すると、優子は、
「うっさいわね。いいじゃん」
と開き直った。と、どちらともなく「ふふふ……」と笑い出したのでした。
「ああ。おかしかった。本当によかったわね。中学生になったんだし、今度、ダブルデート、いや和美のところも入れてトリプルデートしよっか?」
優子の提案に、私は、
「あ、それ楽しそう。……でも、とりあえず二人っきりでデートしてからね」
と答えた。
「よろしい!では。初デートの報告をお待ちしているでございまするよ!」
それからも優子とおしゃべりしながら、私は幸せをかみしめていた。
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